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◆不変を希望でした
なんとかチーズの消費を増やしたいヨサックさん。
そこまですることはないだろうと現状維持の村長。
ならばと、ここでお互いの意見を交えて提案してみましょう。
「村長は生産の手間を増やしてまで、チーズを拡販するつもりはないという考えなの?」
「まあな、今のままでも十分だと思う」
「でも、このままじゃなにも変わらないよ。それでもいいの?」
「ああ、私はそれで十分だ」
「そうなんだ。でもさ、村長は長生きしたとして、あと三十年くらい? それとも、もう少しかな?」
「なんだ? 随分と失礼な物言いだな」
「村長はさ、自分の生きている間に変化がなくてもいいと思っているんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「で、それをヨサックさんにも倣って欲しいと」
「まあ、そういうことになるかな」
「ねえ、ヨサックさんはまだ三十歳にはなってないよね?」
「俺か? まあ、そうだな。まだ先の話だ」
「なら、短くても六十年はなにも変わらない生活を強いられることになるけど、それでも我慢できるの?」
「それは嫌だな」
「でも、村長が言うのはそういうことだよ」
俺が要約してヨサックさんに伝えると村長が少し慌てる。
「待て! それは話が飛躍しすぎだろうが!」
「なにも違わないでしょ」
「いや、年月が経てば、この村にも人は増えるだろうが。それに人が増えれば、この村にもなにか変化があるだろう。違うか?」
「それはおかしくない?」
「なにがだ?」
俺の素朴な疑問に村長が反応する。
「だってさ、生産量を増やさないってことはさ、収入が増えないってことでしょ」
「まあな。今のままで十分だろ」
「でもさ、子供が増えれば必要なお金も増えるよ。その分はどこから出るの?」
「それは……なんとかやりくりしてだな」
「でも、限度があるでしょ? そんなんで人が増えると思う? それに外から人を入れないと色々とバランスが崩れるよ。でも、なにも変化がない、産業も発展させる気もないなんて言われたら人は来ないよね?」
「……」
俺が畳み掛けるように矛盾とも言える点を挙げていくと村長が黙り込む。
「村長はさ、残りの自分の人生よりも残される若い人達のことを考えてあげなよ」
「うるさい! なんで私がお前みたいな子供に説教されないといけないんだ! ヨサックもなんとか言ってやれ! この村のことはこの村の人間で考えてやっていくとな」
「でも、村長。ケインの言うことも考えてくれよ。俺もハンナと一緒にこの村で子供を育てて行きたいとは思っていたけど、俺の孫の世代まで今と変わらない生活を強いるのは違うと思う」
「ヨサック、今までそれでやってきたじゃないか。なにが不満なんだ?」
「俺は……俺が作ったチーズをうまいと喜んで食べてくれる人を増やしたい! それはいけないことなのか、村長」
「まあ、今のままじゃそれが出来ないのも難しいのも分かってはいる。だが、それは際限がないことだと思うがな」
ヨサックさんが思っていることを村長に訴えるが、村長には通じていないようなので、またでしゃばってみる。
「そんなことはないでしょ」
「また、お前か……」
「ヨサックさんがチーズの作り方を誰かに教えれば、この村の外でもほぼ同じ物が食べられるじゃないですか。そうなれば、ヨサックさんの願いは間接的ではあるけれど世界中に広がよね?」
「ケインじゃったな。お前の言うことは至極まともだ。だが、それに夢を見て失敗した場合の責任は誰が取る? 私は村長という責任がある。だから、その話には乗れない」
「それって、単なる責任逃れでしょ? 要は自分が村長の間になにも面倒ごとが起きて欲しくない。自分が死ぬまで平穏でいたいっていうことだよね」
「それのなにが悪い! それで今までうまくいってるんだから放っといてくれ!」
「責任を取りたくないなら、さっさと次の人に任せてしまえばいいじゃない」
「そんな奴はいない! それに私の息子はまだ幼いんだ」
「なに? 村長って、その家の人がなるものなの?」
「そうだ。だから、他の家の者に、この責任ある立場を任せる訳にはいかないんだ」
まあ、世襲制なんてよくある話だと思うけど、ここで選挙なんて持ち込んだらグダグダになるのは目に見えている。なら、引き抜くしかないよね。
「へ~ならさ、ヨサックさんはうちに来ない?」
「ケイン、お前はまたそういうことを……」
「ガンツさん。いいでしょ? 別に今までと同じことをするだけなんだし」
「そうだが……」
「ヨサックさんはどうする? もし、俺と一緒に来てくれるなら生活は保証するよ」
「それは衣食住の全てか?」
「そうだね、少なくともヨサックさんが酪農家として一本立ち出来るまでだけどね」
「それはどういう判断なんだ?」
「どういうって、ヨサックさんが自分一人で仕事をこなして、ハンナさんと子供たちを養っていける収益を稼ぐまで……かな」
「ちょっと待ってくれ。ガンツさん、あんたはこの話をどう思う? 正直に言ってほしい。あんたは今までケインと一緒に仕事をしてきたのだろうから、よく分かっているだろ?」
「ワシか。ワシなら、断るな」
「「なんで?」」
「なんじゃヨサックだけでなくケインまで不思議か?」
「そりゃそうだよ。せっかくの提案にケチを付けられたんだもの」
「まあ、よく聞け。ケインはヨサックが収益を上げるまでと言うたろ? その期間はヨサックはどれくらいだと思う?」
「そうだな……早くても十年はかかるんじゃないかな」
「甘いな」
「そうか? じゃあ二十年とか?」
「違う。逆なんじゃよ。ケインが収益を上げるためには無駄なことを削って、魔道具を使って、コストを下げて下げて、気がつけば赤字は解消される様になる。ワシの見積では乳牛さえ揃えば一年はかからないじゃろ」
「「「はあ?」」」
ガンツさんのいうことにヨサックさん、ハンナさん、村長が驚く。
「ガンツというたな。お前は酪農を甘く見過ぎだ!」
「村長、とりあえず落ち着いて。ガンツさん、それは本当か?」
「まあ、本当かどうかと言われてもワシの予想じゃからな」
「そうか。ならあんたが『断る』と言ったのはなんでだ?」
「それか。その理由はな、大したことはないんじゃよ。せっかくケインが収益を出すまで面倒見てくれるというが、その期間が実質一年とか短すぎじゃろ? せめて三年くらいはゆっくりしたいのに」
「要はあんたは、ケインが面倒を見てくれる期間は楽が出来ると言いたいわけだ」
「楽と言うのは言い過ぎじゃが、まあ焦ることもないだろ。だって、そうじゃろ? 全部の面倒を見てくれるのなら、少しくらいダラけるのもありじゃろ」
「いや、それは流石にそこまでは出来ないな」
「なら、やってみるか? ほぼワシの予想通りになるがな」
「ああ、あんたの話は分かった。うん。ケイン、少し考えさせてもらえないか?」
「うん、いいよ。別に急がないし。それに他にも来たい人がいるならまとめて面倒見るよ」
「ま、待て! それではこの村の者が減るだろ!」
「そうかもね」
「そうかもねって、お前は」
確かにヨサックさんの話を聞けば、移りたいという人は増えるだろう。特に若者は。
「でも、変わりたい、変えたいってのにここにずっと居ろってのも苦痛でしょ? 俺はそれに対して助言しているだけなんだけど。あ、もしかして領主とかに難癖つけられるの?」
「まあ、それもあるが……」
「ちなみに誰か聞いてもいい?」
「うちの村の領主は確か『アシロ子爵』だったかな?」
「ふ~ん、アシロ子爵ね。ちょっと待ってね」
携帯電話を取り出しセバス様に掛ける。
また、ヨサックさん達が驚いた顔をしているが、説明すると長くなるので敢えて無視させてもらう。
『プルル……プルル……はい、どうしましたかケイン様』
「セバス様、お久しぶりです。今、王都の北に位置するカイドー村ってところにいるんですけどね、ここの領主のアシロ子爵ってご存知ですか?」
『また、辺鄙なところに。まあそれは後で伺うとして、アシロ子爵ですか……そうですね、確か旦那様とは交流があるお方ですね』
「もし、この村の人を何人か連れて帰ったら、誰か怒られたりします?」
『ああ、そういうことですか。そうなるとなんらかの根回しが必要になるかもしれませんね。まだ、決定ではないのでしょう?』
「はい。まだ相談中というか、相手には条件を提示して検討してもらっています」
『わかりました。では、話が落ち着きましたら、ご連絡いただけますか?』
「はい、わかりました。では、また」
『はい、失礼します』
「終わったよ。デューク様とは知り合いみたいだから、特に問題になることはなさそうだね。でも、丸ごとは難しいから、早い者勝ちになるのかもね」
「早い者勝ちか……」
村長が呟くが、その村長を見ながらヨサックさんに一言だけお願いする。
「あ、言っとくけど、『村長』とか肩書きだけの働かない人はいらないからね。ヨサックさんはその辺のこともちゃんと伝えてね。それと、別に移住じゃなくて通勤と考えてもらってもいいからさ」
「「「通勤?」」」
「ケイン、またか」
そこまですることはないだろうと現状維持の村長。
ならばと、ここでお互いの意見を交えて提案してみましょう。
「村長は生産の手間を増やしてまで、チーズを拡販するつもりはないという考えなの?」
「まあな、今のままでも十分だと思う」
「でも、このままじゃなにも変わらないよ。それでもいいの?」
「ああ、私はそれで十分だ」
「そうなんだ。でもさ、村長は長生きしたとして、あと三十年くらい? それとも、もう少しかな?」
「なんだ? 随分と失礼な物言いだな」
「村長はさ、自分の生きている間に変化がなくてもいいと思っているんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「で、それをヨサックさんにも倣って欲しいと」
「まあ、そういうことになるかな」
「ねえ、ヨサックさんはまだ三十歳にはなってないよね?」
「俺か? まあ、そうだな。まだ先の話だ」
「なら、短くても六十年はなにも変わらない生活を強いられることになるけど、それでも我慢できるの?」
「それは嫌だな」
「でも、村長が言うのはそういうことだよ」
俺が要約してヨサックさんに伝えると村長が少し慌てる。
「待て! それは話が飛躍しすぎだろうが!」
「なにも違わないでしょ」
「いや、年月が経てば、この村にも人は増えるだろうが。それに人が増えれば、この村にもなにか変化があるだろう。違うか?」
「それはおかしくない?」
「なにがだ?」
俺の素朴な疑問に村長が反応する。
「だってさ、生産量を増やさないってことはさ、収入が増えないってことでしょ」
「まあな。今のままで十分だろ」
「でもさ、子供が増えれば必要なお金も増えるよ。その分はどこから出るの?」
「それは……なんとかやりくりしてだな」
「でも、限度があるでしょ? そんなんで人が増えると思う? それに外から人を入れないと色々とバランスが崩れるよ。でも、なにも変化がない、産業も発展させる気もないなんて言われたら人は来ないよね?」
「……」
俺が畳み掛けるように矛盾とも言える点を挙げていくと村長が黙り込む。
「村長はさ、残りの自分の人生よりも残される若い人達のことを考えてあげなよ」
「うるさい! なんで私がお前みたいな子供に説教されないといけないんだ! ヨサックもなんとか言ってやれ! この村のことはこの村の人間で考えてやっていくとな」
「でも、村長。ケインの言うことも考えてくれよ。俺もハンナと一緒にこの村で子供を育てて行きたいとは思っていたけど、俺の孫の世代まで今と変わらない生活を強いるのは違うと思う」
「ヨサック、今までそれでやってきたじゃないか。なにが不満なんだ?」
「俺は……俺が作ったチーズをうまいと喜んで食べてくれる人を増やしたい! それはいけないことなのか、村長」
「まあ、今のままじゃそれが出来ないのも難しいのも分かってはいる。だが、それは際限がないことだと思うがな」
ヨサックさんが思っていることを村長に訴えるが、村長には通じていないようなので、またでしゃばってみる。
「そんなことはないでしょ」
「また、お前か……」
「ヨサックさんがチーズの作り方を誰かに教えれば、この村の外でもほぼ同じ物が食べられるじゃないですか。そうなれば、ヨサックさんの願いは間接的ではあるけれど世界中に広がよね?」
「ケインじゃったな。お前の言うことは至極まともだ。だが、それに夢を見て失敗した場合の責任は誰が取る? 私は村長という責任がある。だから、その話には乗れない」
「それって、単なる責任逃れでしょ? 要は自分が村長の間になにも面倒ごとが起きて欲しくない。自分が死ぬまで平穏でいたいっていうことだよね」
「それのなにが悪い! それで今までうまくいってるんだから放っといてくれ!」
「責任を取りたくないなら、さっさと次の人に任せてしまえばいいじゃない」
「そんな奴はいない! それに私の息子はまだ幼いんだ」
「なに? 村長って、その家の人がなるものなの?」
「そうだ。だから、他の家の者に、この責任ある立場を任せる訳にはいかないんだ」
まあ、世襲制なんてよくある話だと思うけど、ここで選挙なんて持ち込んだらグダグダになるのは目に見えている。なら、引き抜くしかないよね。
「へ~ならさ、ヨサックさんはうちに来ない?」
「ケイン、お前はまたそういうことを……」
「ガンツさん。いいでしょ? 別に今までと同じことをするだけなんだし」
「そうだが……」
「ヨサックさんはどうする? もし、俺と一緒に来てくれるなら生活は保証するよ」
「それは衣食住の全てか?」
「そうだね、少なくともヨサックさんが酪農家として一本立ち出来るまでだけどね」
「それはどういう判断なんだ?」
「どういうって、ヨサックさんが自分一人で仕事をこなして、ハンナさんと子供たちを養っていける収益を稼ぐまで……かな」
「ちょっと待ってくれ。ガンツさん、あんたはこの話をどう思う? 正直に言ってほしい。あんたは今までケインと一緒に仕事をしてきたのだろうから、よく分かっているだろ?」
「ワシか。ワシなら、断るな」
「「なんで?」」
「なんじゃヨサックだけでなくケインまで不思議か?」
「そりゃそうだよ。せっかくの提案にケチを付けられたんだもの」
「まあ、よく聞け。ケインはヨサックが収益を上げるまでと言うたろ? その期間はヨサックはどれくらいだと思う?」
「そうだな……早くても十年はかかるんじゃないかな」
「甘いな」
「そうか? じゃあ二十年とか?」
「違う。逆なんじゃよ。ケインが収益を上げるためには無駄なことを削って、魔道具を使って、コストを下げて下げて、気がつけば赤字は解消される様になる。ワシの見積では乳牛さえ揃えば一年はかからないじゃろ」
「「「はあ?」」」
ガンツさんのいうことにヨサックさん、ハンナさん、村長が驚く。
「ガンツというたな。お前は酪農を甘く見過ぎだ!」
「村長、とりあえず落ち着いて。ガンツさん、それは本当か?」
「まあ、本当かどうかと言われてもワシの予想じゃからな」
「そうか。ならあんたが『断る』と言ったのはなんでだ?」
「それか。その理由はな、大したことはないんじゃよ。せっかくケインが収益を出すまで面倒見てくれるというが、その期間が実質一年とか短すぎじゃろ? せめて三年くらいはゆっくりしたいのに」
「要はあんたは、ケインが面倒を見てくれる期間は楽が出来ると言いたいわけだ」
「楽と言うのは言い過ぎじゃが、まあ焦ることもないだろ。だって、そうじゃろ? 全部の面倒を見てくれるのなら、少しくらいダラけるのもありじゃろ」
「いや、それは流石にそこまでは出来ないな」
「なら、やってみるか? ほぼワシの予想通りになるがな」
「ああ、あんたの話は分かった。うん。ケイン、少し考えさせてもらえないか?」
「うん、いいよ。別に急がないし。それに他にも来たい人がいるならまとめて面倒見るよ」
「ま、待て! それではこの村の者が減るだろ!」
「そうかもね」
「そうかもねって、お前は」
確かにヨサックさんの話を聞けば、移りたいという人は増えるだろう。特に若者は。
「でも、変わりたい、変えたいってのにここにずっと居ろってのも苦痛でしょ? 俺はそれに対して助言しているだけなんだけど。あ、もしかして領主とかに難癖つけられるの?」
「まあ、それもあるが……」
「ちなみに誰か聞いてもいい?」
「うちの村の領主は確か『アシロ子爵』だったかな?」
「ふ~ん、アシロ子爵ね。ちょっと待ってね」
携帯電話を取り出しセバス様に掛ける。
また、ヨサックさん達が驚いた顔をしているが、説明すると長くなるので敢えて無視させてもらう。
『プルル……プルル……はい、どうしましたかケイン様』
「セバス様、お久しぶりです。今、王都の北に位置するカイドー村ってところにいるんですけどね、ここの領主のアシロ子爵ってご存知ですか?」
『また、辺鄙なところに。まあそれは後で伺うとして、アシロ子爵ですか……そうですね、確か旦那様とは交流があるお方ですね』
「もし、この村の人を何人か連れて帰ったら、誰か怒られたりします?」
『ああ、そういうことですか。そうなるとなんらかの根回しが必要になるかもしれませんね。まだ、決定ではないのでしょう?』
「はい。まだ相談中というか、相手には条件を提示して検討してもらっています」
『わかりました。では、話が落ち着きましたら、ご連絡いただけますか?』
「はい、わかりました。では、また」
『はい、失礼します』
「終わったよ。デューク様とは知り合いみたいだから、特に問題になることはなさそうだね。でも、丸ごとは難しいから、早い者勝ちになるのかもね」
「早い者勝ちか……」
村長が呟くが、その村長を見ながらヨサックさんに一言だけお願いする。
「あ、言っとくけど、『村長』とか肩書きだけの働かない人はいらないからね。ヨサックさんはその辺のこともちゃんと伝えてね。それと、別に移住じゃなくて通勤と考えてもらってもいいからさ」
「「「通勤?」」」
「ケイン、またか」
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しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。