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高校生編
19 花野井という女【花野井side】(※)
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「……可愛らしい妹さんだね? 高校生? 」
晃の部屋に入ると、学校からの勢いがなくなった晃に、花野井が気遣うように話しかけた。
「ああ……」
「高校はどこ? うちの高校じゃないよね? いたら絶対に話題になるものね」
「……S女」
「S女かぁ……。何かそれっぽいね。制服とか似合いそうだね」
「ああ……」
晃は花野井の言葉がまるで耳に入っていない様子で、空返事だけが返ってくる。
まさか晃にあんな年の近い妹がいるなんて思わなかった花野井は、先程のリビングでの二人の様子が何となく引っ掛り、更に妹の話題を続けた。
「可愛らしい子だったけど、あんまり藤森君には似てないね。雰囲気とかも」
その言葉にピクリと晃の身体が揺れた。
「……血が繋がってないからな」
「え? 」
晃の言葉に花野井が驚いたような声を出した。
晃は隠す様子でもなく、思い出すようにポツリポツリと妹との経緯を話し始めた。
「三年前に親父があいつの母親と再婚して義兄妹になった。当時は俺もあいつも同じ中学校に通っていたから、周りが色々と面倒に騒ぐといけないから、中学校ではあいつの苗字を変えずに、俺と家族になったことも隠していた。あいつが高校に入ってからようやく苗字も変えて、堂々と兄妹を名乗るようになった」
「……そ、うなんだ。思春期真っ只中で、お互い意識し合って大変だったでしょ? 藤森君みたいな格好いいお兄ちゃんが突然出来たら私だったら、絶対漫画みたいな展開期待しちゃう」
冗談めいた花野井の言葉に、晃の脳裏にかつての千夜子の言葉が思い起こされた。
『先輩、私の推しキャラに似てて…』
そう言って本棚から漫画本を取り出して、晃似の『推しキャラ』を必死で晃へと説明する当時の千夜子の姿が晃の脳裏を過り、無意識に晃は自身の口許に笑みを浮かべていた。
その穏やかで優しい笑顔に、花野井は再びドキンと胸が高鳴った。
「やっぱり、お前あいつに少し似てるな……」
晃はポツリと呟くと、少しだけ切なそうに目を細めながら隣の千夜子の部屋に視線を向けた。
「もしかして……、妹さんのことが好きなの? 」
ふと、花野井の口からそんな言葉が突いて出た。
「……は? 」
その言葉に驚いた表情で晃が花野井を振り返った。
「さっきのリビングでの二人を見てて、何か普通じゃない感じがしたっていうか、お互い意識し合ってるような印象を受けたというか……」
(何より妹さん、私の存在にショックを受けていたような感じだったし……)
そう思うと花野井は先程のリビングでの千夜子の様子を思い出し、一人納得した。
そして花野井の中で千夜子に対する激しい嫉妬の感情が生まれてきた。
(ずるいなぁ……。あんなに可愛らしくて、藤森君と一緒の家に住んでて、おまけに藤森君から好意を持たれているなんて……)
花野井は自分が晃にとって千夜子の身代わりに過ぎないことを瞬時に理解した。
(二人の間に何があったかのかは分からないけど、私は完全に妹さんに対する当て馬だったわけね)
それはそうだろう、と花野井はストンと朝からの晃の態度が負に落ちた。
(きっと妹さんと恋愛がらみで何かを拗らせて、やけになって私に手を出したのね)
『やっぱり、お前あいつに少し似てるな』
花野井は先程、晃が無意識に漏らした言葉を反芻していた。
(妹に手が出せないから、妹に何処かしら似ている所があった私を妹の代わりにしようとしたのね……)
晃の考えていることが手に取るように分かり、花野井は自嘲気味にふっと笑いを溢した。
(そりゃそうよね。そんなことでもなければ藤森君のような素敵な人が、私なんかを相手にする筈ないもの……)
でも、身代わりでもいい。当て馬でもいいと花野井は思った。それで晃が自分を必要としてくれるのなら。
そう思い直し、瞬時に吹っ切れた花野井はベッドに腰を降ろしていた晃にそっと近付いた。
「……ねえ、藤森君。私、妹さんの代わりになってもいいよ? 」
「え? 」
花野井の言葉に晃の瞳が動揺で揺れた。
「今日、私と寝るために家に連れてきたんでしょ? 妹さんを抱けないから、代わりに私を抱こうとしたんでしょ? 私はそれでも構わないから」
そう言って花野井が晃の身体につつ、と手を滑らした。
「――!? 」
妙に手慣れた様子の花野井に、晃が再び驚いたような表情で彼女を見つめた。
「花野井……お前? 」
真面目そうな学級委員長の大胆な行動に晃が戸惑いの声を上げる。花野井は熱を帯びた表情で狼狽える晃を楽しそうに見つめた。
「ふふ。私、藤森君が思ってる程真面目で堅物な女じゃないよ? 私なんかに手を出そうとする程溜まってるんでしょ? いいよ。しても」
ドクン――
「う、ぁ……」
花野井の恍惚とした表情と手慣れた手付きに晃の中のトラウマが突然甦ってきた。
ザザ――
晃の視界がぶれる。
一瞬晃は目を閉じたが、再び開くと目の前の花野井の顔が二番目の母親の顔と重なった。
「 ――止めろ!! 」
「きゃっ!? 」
ドンッ!! と晃は花野井を咄嗟に突き飛ばした。
突き飛ばされた反動で花野井の身体が、ベッドの下にドサリと落下する。
「イタタタ……。ちょっと藤森君、酷いじゃない……」
花野井は身体を起こすと、落ちた時にぶつけた頭をさすりながら、晃へと非難の言葉を浴びせた。
しかし、晃の真っ青になった顔を見て、花野井は続く言葉を失った。
晃は真っ青な顔をしながら、軽蔑するような視線で花野井を睨み付けていた。
その晃のあまりにも憎悪の籠った瞳に、花野井はビクリと身体を強張らせた。
「ふ、藤森君……? あの……? 」
「出ていけ……」
声を掛けた花野井の言葉をぶったぎるように、晃が怒りに満ちた低い声でぼそりと呟いた。
「あ、……」
あまりの冷たい声に花野井は言葉を出せないまま、ただ目の前の、自分を酷く冷たく睨み付ける晃を呆然と見つめていた。
「聞こえなかったのか? 今すぐ出ていけ」
「ひっ……! 」
花野井は自分に向けられた晃の拒絶の言葉にショックを受けながら、眼鏡の下の瞳にじわりと涙を浮かべると、そのまま鞄を持って晃の部屋から飛び出した。
階段を降りリビングに来ると、ドンと肩に花野井は衝撃を受けた。
「あ、……ご、ごめんなさい」
ぶつかった先には浴室から出てきた妹の姿があった。
花野井の中でゆらりと醜い嫉妬の炎が揺らめいた。
花野井の様子に何があったのかと心配し、狼狽える千夜子に対し、花野井はギリッと奥歯を噛み締めた。
そして、最初と打ってかわって眼鏡の奥から憎しみに満ちた鋭い視線を千夜子へと向けた。
「え? 」
突然、自分を睨み付ける花野井に理解が追い付かず、戸惑う千夜子に花野井はボソリと告げた。
「いいわね、あなた。何でも持っていて。私と正反対……」
そう言うと、花野井は千夜子の身体にわざともう一度ドンとぶつかるように通り過ぎると、藤森家から出て行った。
「一体、何のこと……? 」
その場に残された千夜子は訳が分からず、晃の部屋と花野井が消えた先を交互に見ていた。
* * *
プルルル――
藤森家を飛び出した花野井は、鞄からスマホを取り出すと、むしゃくしゃする気持ちを抑えることが出来ずに、ある人物へと電話を掛けていた。
(――こんな早い時間じゃ無理かしら……)
イライラする気持ちで電話の着信音を聞いていると、ようやく相手が電話に出た。
『はい――』
花野井は相手が電話に出たことでホッと安堵の息を吐いた。
「こんな時間にごめんね? 急なんだけど、これから会えるかな? 」
花野井はそう尋ねると、相手が了承したことを受け、ピッと通話を終了した。
着信の切れたスマホを花野井は無表情のまま暫く眺めていたが、気持ちを切り替えると、やがて目的地まで足を進めた。
◇
「や、ぁん……」
ギシリ、と大きめのベッドが軋む音がラブホの一室で響いた。
「こんな午前中から志穂ちゃんが声掛けてくれるなんて、嬉しいなぁ。しかも、制服だし」
花野井の股下で、油切った小太り気味の50代の中年男性が花野井の制服のスカートを捲りながら嬉しそうに呟いた。
「うん、山下さんが来てくれて志穂嬉しかったぁ~♡」
甘えるような声を出しながら、ちらりと花野井が足元の男性に視線を流す。
「うんうん。僕も仕事途中で止めてきちゃったけど、その分こうやって志穂ちゃんとエッチ出来るから今日はとことん可愛がってあげるね」
「や、ん♡ 山下さんのえっちぃ……」
「ああ、志穂ちゃんてば本当にもぅ、可愛いなぁ……」
そう言うと山下と呼ばれる中年男性が花野井の生足をするりと撫で上げた。
「あ、ん……」
それから志穂はしばらくの間、山下から与えられるねちっこい愛撫にその身を委ねた。
事後――
「今回のお小遣いね 」
制服を着ている花野井の横からスッと山下が財布から三万円を差し出した。
「急に呼び出したのにこんなにくれるの? ありがとう山下さん」
そう言って花野井が差し出されたお金を躊躇うことなく受け取った。
「今日は志穂ちゃんの制服姿が拝めたし、いつもは僕の方から呼び出すのに、志穂ちゃんの方から呼んでくれて嬉しかったから……」
照れながら山下が志穂の顔に分厚い唇を寄せた。
志穂はそんな山下の唇をふいと交わすと、
「……ご免なさい。今、口の中に口内炎が出来てて……」
「そ、そうなんだね。早く良くなるといいね」
そう言ってさりげなく山下からのキスを回避した。
最悪な形で終えてしまったものの、今日は初めて晃とキスをした特別な日でもあった。
なんとなく、花野井は晃とのキスの余韻を残しておきたかった。
(あの妹さえ家に居なければ、きっと藤森君と身体の関係も持てただろうに……)
再び花野井の中で、千夜子に対する醜い気持ちが湧いてくる。
そんな中、ふと花野井の脳裏にある考えが浮かんだ。
「……ねえ、山下さん。S女の子紹介してあげようか? 」
「え? S女の子? 志穂ちゃん知り合いいるの? あそこの制服可愛いよねぇ。紹介してくれるなら志穂ちゃんにもお小遣いたっぷりあげるよ♡ 」
目の前で舌舐りして喜ぶ山下を横目に、花野井はその口許にうっすらと笑みを浮かべた。
晃の部屋に入ると、学校からの勢いがなくなった晃に、花野井が気遣うように話しかけた。
「ああ……」
「高校はどこ? うちの高校じゃないよね? いたら絶対に話題になるものね」
「……S女」
「S女かぁ……。何かそれっぽいね。制服とか似合いそうだね」
「ああ……」
晃は花野井の言葉がまるで耳に入っていない様子で、空返事だけが返ってくる。
まさか晃にあんな年の近い妹がいるなんて思わなかった花野井は、先程のリビングでの二人の様子が何となく引っ掛り、更に妹の話題を続けた。
「可愛らしい子だったけど、あんまり藤森君には似てないね。雰囲気とかも」
その言葉にピクリと晃の身体が揺れた。
「……血が繋がってないからな」
「え? 」
晃の言葉に花野井が驚いたような声を出した。
晃は隠す様子でもなく、思い出すようにポツリポツリと妹との経緯を話し始めた。
「三年前に親父があいつの母親と再婚して義兄妹になった。当時は俺もあいつも同じ中学校に通っていたから、周りが色々と面倒に騒ぐといけないから、中学校ではあいつの苗字を変えずに、俺と家族になったことも隠していた。あいつが高校に入ってからようやく苗字も変えて、堂々と兄妹を名乗るようになった」
「……そ、うなんだ。思春期真っ只中で、お互い意識し合って大変だったでしょ? 藤森君みたいな格好いいお兄ちゃんが突然出来たら私だったら、絶対漫画みたいな展開期待しちゃう」
冗談めいた花野井の言葉に、晃の脳裏にかつての千夜子の言葉が思い起こされた。
『先輩、私の推しキャラに似てて…』
そう言って本棚から漫画本を取り出して、晃似の『推しキャラ』を必死で晃へと説明する当時の千夜子の姿が晃の脳裏を過り、無意識に晃は自身の口許に笑みを浮かべていた。
その穏やかで優しい笑顔に、花野井は再びドキンと胸が高鳴った。
「やっぱり、お前あいつに少し似てるな……」
晃はポツリと呟くと、少しだけ切なそうに目を細めながら隣の千夜子の部屋に視線を向けた。
「もしかして……、妹さんのことが好きなの? 」
ふと、花野井の口からそんな言葉が突いて出た。
「……は? 」
その言葉に驚いた表情で晃が花野井を振り返った。
「さっきのリビングでの二人を見てて、何か普通じゃない感じがしたっていうか、お互い意識し合ってるような印象を受けたというか……」
(何より妹さん、私の存在にショックを受けていたような感じだったし……)
そう思うと花野井は先程のリビングでの千夜子の様子を思い出し、一人納得した。
そして花野井の中で千夜子に対する激しい嫉妬の感情が生まれてきた。
(ずるいなぁ……。あんなに可愛らしくて、藤森君と一緒の家に住んでて、おまけに藤森君から好意を持たれているなんて……)
花野井は自分が晃にとって千夜子の身代わりに過ぎないことを瞬時に理解した。
(二人の間に何があったかのかは分からないけど、私は完全に妹さんに対する当て馬だったわけね)
それはそうだろう、と花野井はストンと朝からの晃の態度が負に落ちた。
(きっと妹さんと恋愛がらみで何かを拗らせて、やけになって私に手を出したのね)
『やっぱり、お前あいつに少し似てるな』
花野井は先程、晃が無意識に漏らした言葉を反芻していた。
(妹に手が出せないから、妹に何処かしら似ている所があった私を妹の代わりにしようとしたのね……)
晃の考えていることが手に取るように分かり、花野井は自嘲気味にふっと笑いを溢した。
(そりゃそうよね。そんなことでもなければ藤森君のような素敵な人が、私なんかを相手にする筈ないもの……)
でも、身代わりでもいい。当て馬でもいいと花野井は思った。それで晃が自分を必要としてくれるのなら。
そう思い直し、瞬時に吹っ切れた花野井はベッドに腰を降ろしていた晃にそっと近付いた。
「……ねえ、藤森君。私、妹さんの代わりになってもいいよ? 」
「え? 」
花野井の言葉に晃の瞳が動揺で揺れた。
「今日、私と寝るために家に連れてきたんでしょ? 妹さんを抱けないから、代わりに私を抱こうとしたんでしょ? 私はそれでも構わないから」
そう言って花野井が晃の身体につつ、と手を滑らした。
「――!? 」
妙に手慣れた様子の花野井に、晃が再び驚いたような表情で彼女を見つめた。
「花野井……お前? 」
真面目そうな学級委員長の大胆な行動に晃が戸惑いの声を上げる。花野井は熱を帯びた表情で狼狽える晃を楽しそうに見つめた。
「ふふ。私、藤森君が思ってる程真面目で堅物な女じゃないよ? 私なんかに手を出そうとする程溜まってるんでしょ? いいよ。しても」
ドクン――
「う、ぁ……」
花野井の恍惚とした表情と手慣れた手付きに晃の中のトラウマが突然甦ってきた。
ザザ――
晃の視界がぶれる。
一瞬晃は目を閉じたが、再び開くと目の前の花野井の顔が二番目の母親の顔と重なった。
「 ――止めろ!! 」
「きゃっ!? 」
ドンッ!! と晃は花野井を咄嗟に突き飛ばした。
突き飛ばされた反動で花野井の身体が、ベッドの下にドサリと落下する。
「イタタタ……。ちょっと藤森君、酷いじゃない……」
花野井は身体を起こすと、落ちた時にぶつけた頭をさすりながら、晃へと非難の言葉を浴びせた。
しかし、晃の真っ青になった顔を見て、花野井は続く言葉を失った。
晃は真っ青な顔をしながら、軽蔑するような視線で花野井を睨み付けていた。
その晃のあまりにも憎悪の籠った瞳に、花野井はビクリと身体を強張らせた。
「ふ、藤森君……? あの……? 」
「出ていけ……」
声を掛けた花野井の言葉をぶったぎるように、晃が怒りに満ちた低い声でぼそりと呟いた。
「あ、……」
あまりの冷たい声に花野井は言葉を出せないまま、ただ目の前の、自分を酷く冷たく睨み付ける晃を呆然と見つめていた。
「聞こえなかったのか? 今すぐ出ていけ」
「ひっ……! 」
花野井は自分に向けられた晃の拒絶の言葉にショックを受けながら、眼鏡の下の瞳にじわりと涙を浮かべると、そのまま鞄を持って晃の部屋から飛び出した。
階段を降りリビングに来ると、ドンと肩に花野井は衝撃を受けた。
「あ、……ご、ごめんなさい」
ぶつかった先には浴室から出てきた妹の姿があった。
花野井の中でゆらりと醜い嫉妬の炎が揺らめいた。
花野井の様子に何があったのかと心配し、狼狽える千夜子に対し、花野井はギリッと奥歯を噛み締めた。
そして、最初と打ってかわって眼鏡の奥から憎しみに満ちた鋭い視線を千夜子へと向けた。
「え? 」
突然、自分を睨み付ける花野井に理解が追い付かず、戸惑う千夜子に花野井はボソリと告げた。
「いいわね、あなた。何でも持っていて。私と正反対……」
そう言うと、花野井は千夜子の身体にわざともう一度ドンとぶつかるように通り過ぎると、藤森家から出て行った。
「一体、何のこと……? 」
その場に残された千夜子は訳が分からず、晃の部屋と花野井が消えた先を交互に見ていた。
* * *
プルルル――
藤森家を飛び出した花野井は、鞄からスマホを取り出すと、むしゃくしゃする気持ちを抑えることが出来ずに、ある人物へと電話を掛けていた。
(――こんな早い時間じゃ無理かしら……)
イライラする気持ちで電話の着信音を聞いていると、ようやく相手が電話に出た。
『はい――』
花野井は相手が電話に出たことでホッと安堵の息を吐いた。
「こんな時間にごめんね? 急なんだけど、これから会えるかな? 」
花野井はそう尋ねると、相手が了承したことを受け、ピッと通話を終了した。
着信の切れたスマホを花野井は無表情のまま暫く眺めていたが、気持ちを切り替えると、やがて目的地まで足を進めた。
◇
「や、ぁん……」
ギシリ、と大きめのベッドが軋む音がラブホの一室で響いた。
「こんな午前中から志穂ちゃんが声掛けてくれるなんて、嬉しいなぁ。しかも、制服だし」
花野井の股下で、油切った小太り気味の50代の中年男性が花野井の制服のスカートを捲りながら嬉しそうに呟いた。
「うん、山下さんが来てくれて志穂嬉しかったぁ~♡」
甘えるような声を出しながら、ちらりと花野井が足元の男性に視線を流す。
「うんうん。僕も仕事途中で止めてきちゃったけど、その分こうやって志穂ちゃんとエッチ出来るから今日はとことん可愛がってあげるね」
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「ああ、志穂ちゃんてば本当にもぅ、可愛いなぁ……」
そう言うと山下と呼ばれる中年男性が花野井の生足をするりと撫で上げた。
「あ、ん……」
それから志穂はしばらくの間、山下から与えられるねちっこい愛撫にその身を委ねた。
事後――
「今回のお小遣いね 」
制服を着ている花野井の横からスッと山下が財布から三万円を差し出した。
「急に呼び出したのにこんなにくれるの? ありがとう山下さん」
そう言って花野井が差し出されたお金を躊躇うことなく受け取った。
「今日は志穂ちゃんの制服姿が拝めたし、いつもは僕の方から呼び出すのに、志穂ちゃんの方から呼んでくれて嬉しかったから……」
照れながら山下が志穂の顔に分厚い唇を寄せた。
志穂はそんな山下の唇をふいと交わすと、
「……ご免なさい。今、口の中に口内炎が出来てて……」
「そ、そうなんだね。早く良くなるといいね」
そう言ってさりげなく山下からのキスを回避した。
最悪な形で終えてしまったものの、今日は初めて晃とキスをした特別な日でもあった。
なんとなく、花野井は晃とのキスの余韻を残しておきたかった。
(あの妹さえ家に居なければ、きっと藤森君と身体の関係も持てただろうに……)
再び花野井の中で、千夜子に対する醜い気持ちが湧いてくる。
そんな中、ふと花野井の脳裏にある考えが浮かんだ。
「……ねえ、山下さん。S女の子紹介してあげようか? 」
「え? S女の子? 志穂ちゃん知り合いいるの? あそこの制服可愛いよねぇ。紹介してくれるなら志穂ちゃんにもお小遣いたっぷりあげるよ♡ 」
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