運命のつがい。

遊虎りん

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第5話

☆1

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俺は人工的に作られた雄の性の道具、である。雄を気持ちよくさせて快楽で麻痺して生き長らえている卑しい雌の俺。

俺は目を閉ざしている。
僕という一人称の時は紛れもない雌。
サリスと名付けられ雌の居場所を与えられた。

雄である俺は生きる意味なんてない。子供を作ることが嫌でならない。

雌と雄の魂を無理矢理一つにくっつけられ、道具のひとつとして作られた異物である。

ジェスという雄の精液を何度も大量に胎内に注がれ、きっと俺の中で命が作られている。気持ちが悪い。

俺は目を閉ざしている。暗く濁った瞳にあの男が気付いたら、俺は消されてしまう。

寝静まってから俺は黒い毛玉の姿になって目を開けて建物の外に出た。

人間の僕、などの姿にはなりたくない。自然と鼻に皺が寄り喉から低い声が洩れる。
媚びた幼い声で鳴くばかりの俺の中の雌が股を疼かせジェスのぺニスを欲しがっている。抱かれたいと泣いている。厄介だ。

雄の味を知ったのならもう、毎日抱かれないと狂いそうになる。俺が消えると完全に僕は雌になってよがりながら子供を産むだろう。
自分に精を注いでくれる雄を好きだと言うだろう。

(俺を殺してくれ。雌に成り下がる前に死にたい)

ただ惨めだ。

道具としてあの時壊れていたならこんな思いをしなくて済んだのに。この屈辱は柳楽を守れなかった罰なのだ。

「にゃう」

雄猫の声。振り向くと発情してギラついた瞳と合った。俺の身体から雌の色香が漂っているらしい。どんな雄も発情させるフェロモンが分泌される。呪われた体質だ。

雄猫は突進して俺の背後に回ってのし掛かろうとする。勃起した雄猫のペニスが押し付けられた。気持ちが悪く俺は暴れて隙をついて逃げる。

暗殺者として訓練されたのだ。そう簡単にやられない。やらせない。

雄の俺の自我はどれくらい持つか分からない。

時々俺は目覚めて、道具である自分を嘆いていた。
たいていは僕で、雄に愛されたいと甘えている。気持ちよいと流される弱い自分。

(助けてくれ…俺は、俺でいたいのに…)

ぐちゃぐちゃと思考がまとまらない。自我はどちらか。俺の存在が間違いなのか。

目の前が真っ暗になる。苦しさに押し潰されそうになった時、首根っこを掴まれた。


「ちび、こんな所に居たのか。随分と探した」

懐かしい声だ。ちびを愛してくれて守ってくれた大きな存在。俺のママだ。

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