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第十章

☆3

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「みなにも、ティアを見せよう」

ティアはあの塔から出てきた。もう隠れる必要はない、また隠れる必要もない。

堂々と胸を張って生きるためにも、親である自分がティアを認めてやることが大切だ。

これから前を向きティアがこれから生きるためにも。偏見や困難が待ち受けている、それは否定できない。だが、棘の道でも、最初はなにも知らずに裸足出歩くだろうが途中から『靴をはこう』、とか、『ジャンプして飛び越えよう』とか、考えて歩けるようになるだろう。

人と違うからといって隠してしまったのは、間違いだった。

(ティアは強い。ここにいる、と声をあげにきたのだから)

己を一番不定する母に立ち向かうとは相当の勇気が必要だ。では、自分も勇気を出して努めを果たさなければいけない。ゼウスは決心した。

そして、ゼウスは吠えた。


ニャオオオーーーーーン!!


国王だけが許される『みんな集合』の雄叫びが国中に響き渡る。


◇◇◇

「あー、こんなところにしまってたのか」

ムルは息子の家に引っ越しをするため家を掃除していた。妻を去年亡くして、男一人自由気ままに暮らしていたが年老いた父を心配し一緒に暮らそうと言ってきたのだ。
孫も生まれて、子守くらい役に立てるかとムルは承諾した。

棚の奥からクラッカーが出てきた。音が大きくきらびやかな紙吹雪が出るデラックスクラッカー。王女誕生を祝うため奮発して買ったものだった。

ムルはクラッカーを手に取る。

その時、


ニャオオオーーーーーン!!


王の声だ。威厳と覚悟に満ちている。

いつもは覇気がないのに、どうしたのか。

(戦争でもおっ始めるんじゃないだろうなぁ)

ムルは顔をしかめて渋面を浮かべる。
そして、家から飛び出して城へと駆け出した。

城の回りにもたくさん人が集まってきた。
人々は不安そうな顔をしている。
顔を見合わせ「なんだろう」と話している。

ざわざわざわ。

その声がぴたり、と止まった。

王が姿を現したのだ。城の二階、王女や王子が誕生すると抱き抱えて知らせるめでたい場所。
ゼウスはマントに王冠、正装の姿である。

「忙しいなか集まってくれてありがとう。感謝する。私は、責任を果たし、そして、これからは私なりの王が負うべき責任を果たすと宣言する」

王は急にどうしたのか。いつもは王妃プリシアの尻に敷かれる情けない男なのに、と、国民たちは王を瞳を真ん丸にして見つめた。


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