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41 悪夢③
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母親の死体は村の男達に村外れにある魔の洞穴へと運ばれた。
その洞穴にムガクという虎によく似た魔物が棲んでいる。その魔物は女の死肉を好んで食う。
村で女が死ぬとムガクに捧げられるのだ。
村には女の墓はない。
骨さえ残らない。
一体丸々食べると知恵があるムガクは、腹を満たしてくれた見返りとして恵みの雨を降らせてくれる。
干からびた畑や川が潤った。
久しぶりの雨に村びとは喜び、ミナを殺したジンを感謝した。
誰一人、ジンを咎めたりしなかった。
狂っている村であるがその村では何一つ可笑しい事ではなかった。
恵みの雨で作物は育ち、村に食べ物を与えた。
村を救った英雄のように村人たちはジンを奉り、若い娘を新しい嫁に、という声が様々な方向からあがった。
ユイとサイル以外ミナの死を悲しまなかった。
ここでは成人した女が死ぬと捧げ物が出来たと喜ぶ。ようやく死んでくれた、といつも辛気臭く顰め面をした男達が笑う。
「……こんな村から出ていきたい。姉ちゃん、ここは可笑しいよ。変だよ」
サイルは畑仕事が終わりユイの洗濯を手伝いにやってきた。冷たい川の水で男兄弟の泥だらけの服を洗うユイの横にサイルが座り顔を曇らせた。
床に身体を強く打ってからユイの身体に不調になり、辛そうな様子に気がついて心配してくれる。
「変?そうかな、…どこも同じだと思う。みんな余裕がなくて生きるに疲れている」
ユイは父親に食って掛かったのを後悔していた。早く母親を庇い自分が父親に殴られていれば、今もミナは生きていたかもしれない。
誰かが犠牲になるのなら、自分が犠牲になった方がいい。
母がいなくなるより、自分がいなくなった方がよっぽどいい。肉体的に辛い事より精神的につらいことの方がしんどい。
「僕、隣の村に行ったことがあるんだ。父さんのお使いで……こことは全然違ったよ。人の表情が違うんだ。笑ってた。女の人が大きな口を開けて笑いながら男を叩いてたんだ」
隣の村の話は夢物語のようだった。女が男を叩いたらここでは、罪となる。
「……私達はここに生まれたから、ここで生きてここで死ぬしかないよ」
「僕はもう少し大きくなったらこの村から出ていくよ。姉ちゃんも一緒に出ていこう。二人ならきっと、大丈夫だよ」
「……二人なら大丈夫?」
「うん!僕が姉ちゃんを守る。強い男になる」
幼いサイルの言葉は希望に満ち溢れていた。男に従い命を削るしかない、何の救いもないユイの生活に光が差し込めた。
ここから、この村から出るという選択肢がなかったユイに道ができた。
母親の死体は村の男達に村外れにある魔の洞穴へと運ばれた。
その洞穴にムガクという虎によく似た魔物が棲んでいる。その魔物は女の死肉を好んで食う。
村で女が死ぬとムガクに捧げられるのだ。
村には女の墓はない。
骨さえ残らない。
一体丸々食べると知恵があるムガクは、腹を満たしてくれた見返りとして恵みの雨を降らせてくれる。
干からびた畑や川が潤った。
久しぶりの雨に村びとは喜び、ミナを殺したジンを感謝した。
誰一人、ジンを咎めたりしなかった。
狂っている村であるがその村では何一つ可笑しい事ではなかった。
恵みの雨で作物は育ち、村に食べ物を与えた。
村を救った英雄のように村人たちはジンを奉り、若い娘を新しい嫁に、という声が様々な方向からあがった。
ユイとサイル以外ミナの死を悲しまなかった。
ここでは成人した女が死ぬと捧げ物が出来たと喜ぶ。ようやく死んでくれた、といつも辛気臭く顰め面をした男達が笑う。
「……こんな村から出ていきたい。姉ちゃん、ここは可笑しいよ。変だよ」
サイルは畑仕事が終わりユイの洗濯を手伝いにやってきた。冷たい川の水で男兄弟の泥だらけの服を洗うユイの横にサイルが座り顔を曇らせた。
床に身体を強く打ってからユイの身体に不調になり、辛そうな様子に気がついて心配してくれる。
「変?そうかな、…どこも同じだと思う。みんな余裕がなくて生きるに疲れている」
ユイは父親に食って掛かったのを後悔していた。早く母親を庇い自分が父親に殴られていれば、今もミナは生きていたかもしれない。
誰かが犠牲になるのなら、自分が犠牲になった方がいい。
母がいなくなるより、自分がいなくなった方がよっぽどいい。肉体的に辛い事より精神的につらいことの方がしんどい。
「僕、隣の村に行ったことがあるんだ。父さんのお使いで……こことは全然違ったよ。人の表情が違うんだ。笑ってた。女の人が大きな口を開けて笑いながら男を叩いてたんだ」
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「……私達はここに生まれたから、ここで生きてここで死ぬしかないよ」
「僕はもう少し大きくなったらこの村から出ていくよ。姉ちゃんも一緒に出ていこう。二人ならきっと、大丈夫だよ」
「……二人なら大丈夫?」
「うん!僕が姉ちゃんを守る。強い男になる」
幼いサイルの言葉は希望に満ち溢れていた。男に従い命を削るしかない、何の救いもないユイの生活に光が差し込めた。
ここから、この村から出るという選択肢がなかったユイに道ができた。
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