３人play。

40 悪夢②

「なんだ、その目はいい気になりやがって！」

いつもは人形のように従う可愛いミナではない。ジンは顔を真っ赤にして感情のまま頬を強く打った。
白い母の頬がみるみるうちに赤々と腫れ上がるのを呆然としていたは、とユイは我に返る。そして、今まで感じたことがない怒りが腹の底から沸き上がった。

「…クソ親父！お母さんを離せ」

殴られても従順に父親の理不尽な言葉を受けていたユイは母親が暴力を振るわれるの見て、ぷつん、と切れた。
自分の何倍もある巨漢の父親に食って掛かる。突進して腹部に頭突きを食らわせた。

「……ぐっ！クソ餓鬼！！」

意表をつかれ、娘の頭突きを食らいジンがよろめくが大したダメージにならず振り払う。掴んでいたミナを投げ捨て今度はユイの胸ぐらを掴んだ。
身の回りの世話をするしか能がない女に反抗された怒りで顔を真っ赤にして見下ろす父親は鬼のような形相で怖い。
しかし、ユイは目を閉じず睨み返した。
降り下ろされる拳を奥歯を噛み締めて受け立つ。

「父さん、僕お腹すいた。お母さんとお姉ちゃんを痛め付けたらご飯が食べられなくなるよ」

弟のサイルが父親に声をかける。
可愛がっている息子の言葉を聞くとジンが少し気分が落ち着いた。

「……っ、……早く飯の支度をしろ。くそ、酒が抜けちまったぜ飲みなおしてこねぇとな」

ジンは舌打ちしてユイを離した。冷たい床に落とされ身体を強く打ってユイは痛みに顔を歪めて低く唸った。父親が家から出て行く。

「…姉ちゃん、大丈夫？」

サイルがユイに駆け寄ると助け起こしてくれる。

「私は大丈夫。お母さん、…」

ユイの言葉にサイルが頷いてミナの元へといく。ミナは頭を強く打ち気を失っていた。
二人でミナを運ぶと布団の上に横たわせる。
血の気がなく真っ白な顔になっていた。

「…僕がご飯の支度をするから、姉ちゃんは母さんを見てて」

「サイル、…ありがとう」

「僕は何もしていない。…もっと僕が強かったら父さんに暴力なんかふるわせないのに」

「……助けてくれるのはサイルだけだ。すごく救われた、お礼は言わせてよ」

ユイの言葉を聞いてサイルは首を横に振って唇を噛み締めた。

「…母さん、目を覚ましてくれるかな」

医者はこの村にはいない。皆が貧しく、誰も字を読めたり書けたりする者すら一人もいなかった。
頭を強く打った母親は目を覚ますことなく、段々と体温をなくして冷たくなっていった。
死は呆気なく訪れる。悲しみのあまり涙が出てこなかった。

父親は死んだミナを見て鼻を鳴らすと、新しいのを見つけねぇとか、と吐き捨てた。

もう、ユイはぐっと拳を握り締めたがサイルが肩を掴んだので殴りかかることはしなかった。
もし、ユイが父親に殴りかかったら容赦なく殺されていただろう。
父親には、女というものは虫螻以下の存在であった。