空想毒舌おとこ姫。

遊虎りん

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中学編。

きっかけ 6

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『ありがとう   6年4組見川勇治

一人でバスに乗った時。おばあちゃんが両替機に千円札を入れて細かいお金にかえようとしていました。でも、小さい小銭入れに千円札を折って入れていたのでなかなか両替機に入っていきません。
「困ったわねぇ。吸っていかない」
って呟いて何度も入れ直すけど駄目でした。信号機が青になってバスが走り出したので、おばあちゃんが一回諦めて椅子に座りました。僕の財布を開きました。しわしわではないのを確認して、千円札を一枚取り出しました。
「僕のと取り替えますか?」
というと、おばあちゃんが顔をしわしわにして笑いました。
「坊や、ありがとう」
とお礼を言っておばあちゃんは千円を差し出したので交換しました。おばあちゃんがバスを降りるとき
「ありがとうね」
とまたおばあちゃんがお礼を言ってくれました。
ありがとうって言われるとすごく嬉しかったです。
そして、今まで僕はたくさんの迷惑をかけて周りの大人に育ててもらっています。その恩返しが出来るようになれたんだ、と思い少し誇らしい気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになりました。これからも困った人を見かけたら助けてあげて、『ありがとう』の言葉を大切にして立派な大人になれるように頑張ろうと思いました。』

ふあ、と欠伸を洩らしたと同時に緊張した声で作文を読み上げる男の子の声が耳に蘇った。作文コンクールの佳作か何かの、小学校の集会の時の記憶だ。

(…いいこじゃん、見川君)

湊斗は自分のような偽りの打算的の親切ではない、天然の親切少年を見て感動した。下級生に対して面倒見がよいし周りの先生達や大人からも信頼されていた。
羨ましいと思った。勇治の純粋な目に陰をちらつくようになったのは、彼の兄の存在のせいだった。
彼の兄の喧嘩の場面を見たことがある。

『何見てんだよ、クソガキ!ぶっ殺すぞ』

赤く染めた髪。後ろ髪を刈り上げ、左の肩は自らナイフでバツ印のような二本の深い傷をつけていた。憎しみが宿った双眸。返り血で汚れた顔。
ギラギラと荒れ狂う獣のような目をしていた。体の内にある感情を持て余して暴力を放つ。たまたま通り掛かっただけの通行人を威嚇して睨み付ける。手に負えない獣。
あの獣が家に居たのだ。あの獣と勇治は一緒に暮らしていたのだ。

(……あいつと同じ目)

煙草を身体に押し付ける父親と同じ目をしていた。
感情を抑えられない人間の弱さ、狂気。
もしかしたら、勇治は兄に暴力を振るわれていたかもしれない。そう考えると胸が強く掴まれぎゅっと痛んだ。

「ねぇー、グループのリーダー誰やる?じゃんけん?」

ハリスが湊斗と勇治の顔を交互に見つめて首を傾げる。
無言で手を出してじゃんけん勝負が始まる。ぐーがハリスと勇治。チョキを出した湊斗が負けた。

「……まあ、いいけど」

「えー、つまんない。もっと悔しがってよ。おーマイガー!とか」

「リーダーくらいやるよ。そーゆうの慣れてるし」

「はいはいー!俺がリーダーやる!いいでしょ?湊ちゃんはたまにリーダー休みしな」

「…ああ、そうするよ」

あっさり負けを認める湊斗を見て唇を尖らせブーイングをするハリス。淡々と応じる、面倒事を引き受けると言う湊斗。ハリスはそんな湊斗を見ると突然手を挙げてリーダーをかって出た。特に異論はなくリーダーと認める。
二人の会話を無言で勇治が見ていた。

「先生に報告してくる!せーんせ、俺、リーダーやる!」

「七原リーダーやれんのかー?先生とても心配だぞ」

ハリスは何かと担任教師に絡むのが好きだ。煩いのがいなくなり沈黙が生まれる。大して話したくもないが、湊斗は喉がムズムズとした。

「見川君ってさ、僕の事嫌いでしょ」

そんな言葉がぽろり、と口から溢れた。ずっと心の中でもやもやとしていたから。吐き出して楽になろうと無意識のうちに口が動いた。

「…別に」

本人に嫌いでしょ、と聞いて嫌いだ、と答える人間はそういないだろうと湊斗はもう追求するのを止めた。何故こんな馬鹿らしい質問をしたのか、恥ずかしくなる。口を閉ざして自分の席へと向かって歩き出した。背中に視線を感じて、思わず振り向いた。

「……別に、嫌いじゃねぇから」

彼の何だか顔が赤い。低く唸りぽつん、と勇治が言った。ああ、そう。と湊斗は何となくじっとしていられず後頭部に手を添えてかしかしと無駄に軽く掻いて再び歩き出した。

誘ってくれて、ありがとう、そんな勇治の声が聞こえたけど今度は振り返れなかった。
どんな顔をしたらいいか、分からなかったから。



昼休み。湊斗は教室を出る。一人になりたいからだ。朝から夕方まで同じ年の子供が一つの教室に押し込められている、という状況が昔から苦手だった。

(いろいろ、今日は…変だ)

中庭の白いベンチに座りため息を洩らした。他人に心を動かすとか自分らしくない。

(僕の心臓は規則正しく脈打ち、速度をかえることはない。そのうちゆっくり、弱くなって動かなくなる)

目を閉ざして湊斗は自分に言い聞かせた。
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