空想毒舌おとこ姫。

遊虎りん

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中学編。

きっかけ 5

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人と一緒にいるのが煩わしいからだ。
それに泊まりだと大浴場で男子生徒がぎゅうぎゅう詰めでいも洗い状態の中、身体を洗って風呂に入らないといけない。
服を脱いで裸になる、ということは日々追加される背中の醜い煙草の火傷の痕を人前に晒すことになる。それは避けたかった。

(あいつに僕が虐待されているの誰にも知られたくない…あいつの為じゃなくて自分のためだ)

この傷を隠すのは親が子供に対する暴力は罰せられる事実があるからだ。
他人の目に触れられないよう、誰にも知られないようにするのは、ただ面倒臭いだけ。
別に父親を庇おうとしているわけじゃない。
もやもやと胸の中が重たい煙草の煙がたまっている。
明け方まで嗅いでいたから学校の教室の中も煙たくて目がしみるような感覚が残る。
だから、そのせいだ。水滴が自分の意思とは無関係にして瞳に滲んでくるのは。

「俺、湊ちゃんと一緒がいいんでお断りさせていただきマス!」

明るく軽いノリで『一緒のグループになろう』のお誘いを断る声が聞こえて湊斗は目の下を指で擦って賑やかな声の方に顔を向けた。

「ね、湊ちゃん。俺とグループ作ろう!いいでしょ?」

湊斗と目と目が合うとハリスは手を合わせて馴染みのお願いポーズをする。
お願い、されるといいよ、と条件反射で答えてしまう。勉強を教えるうちに師弟の情でもわいたのか、はたまた、犬のようになついて来るハリスを馬鹿可愛いと思うようになったのか。

(塩尾家は犬属性に好かれる血筋なのかも)

鈴原佑の顔が浮かぶ。父親の洋介の高校時代からの後輩で、洋介のついでに何かと湊斗を気に掛けてくれる気さくなお兄さんだ。
体格が良く肩幅が広い男前な兄貴肌。子供が好きで面倒見がよい、そんな佑は洋介を主人に忠実な大型犬のように慕っている。
父親の洋介は犬属性な佑に好かれていた。その犬属性に好かれるような遺伝子が受け継がれているのかもしれない、と思った。

『あーあー、先輩ったらみな子さんにデレデレなのなぁ。椎茸食ってるし。俺が作った弁当のやつは絶対喰わなかったのに、妬けるわ』

幼い頃、頻繁に遊びに来ていた。佑と遊び疲れうとうとしている湊斗に添い寝して寝かしつけていた。洋介が仕事に出たみな子が作り置きしていた大の苦手なハズの椎茸入りの煮物を食べている姿を見て、佑はちくしょうと独り言を拗ねた声で呟いて湊斗をぎゅーっと抱き締めた。驚いて湊斗の眠気はぶっ飛んだ。両親がいつも頭をよしよし、と撫でてくれるようにしようか、と一瞬思ったが、何もせずたぬき寝入りするのが正解だと思い直す。しばらく佑の抱き枕になってあげたのを思い出した。

「いいの?やったー!」

湊斗が頷くのを見ると万歳をして跳び跳ねて大袈裟に喜ぶ。その様はハリスは大型犬ではなく、小型犬だ。

最低人数は3人だから、残りはあと、一人。
グループが着々と出来ている。
教室を見回すとぽつん、と誰にも声を掛けられず座っている姿があった。勇治だ。

「よー、勇治。一緒のグループなろう!」

ハリスがちょいちょいと手招きして声を掛ける。声を掛けられ勇治はこちらに顔を向けた。動く気配がない。ハリスは湊斗の手を掴んでそちらへと歩き寄った。
湊斗は手を繋ぐ、それは幼稚園以来の事だ。ちらり、とハリスを見るが自然体。無意識のうちにやっている。特に意味はないのだろう。涙で瞳が濡れた後だからか、その手の柔らかな感触が心地よい。

「…女子かよ」

手を繋いで近寄る二人を見て勇治はぼそり、と低い声で呟いた。じーと湊斗とハリスの絡み合っている指に視線を向けている。
湊斗とハリスは、同じくらいの背丈でクラスでも小柄な分類にあたる。二人揃っているとそこら辺の女子より可愛らしい、アイドルユニットみたいと密かに見る者の目の保養になっていた。

「あー?これ、羨ましい?だったら仲良し3人グループになってお手繋ごうよ。湊ちゃんをまん中にしてさ」

緩い笑みを浮かべてハリスは勇治を誘う。

(無理だろ。僕は彼に嫌われているし)

挨拶も返したくない相手とは同じグループになるのは苦痛だろう。勇治が口を開いて断るのを待った。

「一緒のグループになってもいいが、…面倒臭い事になるかも、だぜ」

断られるとばかりに思っていたので誘いを受け入れるのは意外だった。
勇治はハリスをしっかりと見て、返事をしている。湊斗が挨拶をしても勇治は無視しているのに。
む、とする。何だか物凄く面白くない。

「…今も既に面倒臭い。男ならyesかNOの簡潔な返事をしろよ」

気がつけば机を叩いて湊斗は詰め寄っていた。

「湊ちゃん、それ超極論!」

ハリスがケラケラと声を出して呑気な顔をして横で笑っている。

「七原君、うるさい。で、返事は?」

ぴし、湊斗はハリスにも牙を剥く。おお、怖いっとハリスは態とらしく肩を竦め己の身体を抱いた。

「イエ、ス」

勇治は驚いた表情を浮かべ返事をした。
それが初めて湊斗の言葉に返した勇治の言葉であった。

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