空想毒舌おとこ姫。

遊虎りん

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中学編。

なくしたもの 3

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折角のカレーのチキンが味を感じられず、豚肉とか牛肉とか食材として使われてもし苦手であって、食べても今のこの状態ではどんな肉でも同じように感じられる。何の肉をカレーに使っていても、湊斗は気にしないで食べる。
食べることは生きることで義務でしかない。大好物のカレーも淡々とした気持ちで機械的に口元にスプーンを運んで食べる。
手を休まず動かすのはただ目の前にある用意してくれたカレーを残さず食べて皿を空にするのが目的だった。

それは、洋介に『家畜』と言われた時から。湊斗は心から食事を楽しめなくなった。
様々な洋介、父親が向けた鋭く無情なナイフのような言葉は時間を経ても湊斗の心を傷つけている。
柔らかな部分に突き刺さって、鈍く痛む。

テレビは変わらず、物騒なニュースを流している。『殺害された遺体が発見されました』『小学校の教諭が売春』『地震の影響で、犠牲者が…』等々。
淡々としたニュースキャスターの声が告げる。
毎日が1秒1秒、様々な所で誰がが泣いている。そしてそれを見て喜んでいる。誰かが、助かり誰かが死んでいる。

(……普通、って何だろう)

先程自分が言った言葉が分からなくなる。安全でなに不自由なく暮らしているのが普通なのだろうか。

(……この世の中は、痛いことが当たり前にあるのが普通だ。人々がにこにこ微笑んで平和に暮らす、なんて傷付ける事を喜べる人間には無理。人に優しくしないと、優しくされないと気付いていない不幸気取りがたくさんいる。うんざりすることしかなくて、生まれたことを恨んでる。父さんに憎まれている僕は、親不孝者だ。死んだら輪廻転生の理から外れるのに違いない)

思考が纏まらない。次々と洪水のように溢れて、目眩すら感じる。苦しいのに止まらない。

腹が満たされたのに心が栄養不足で、冷たい。
明日の『動物園』に行くのが憂鬱になる。
ハリスと勇治といるのが、楽しいし安心する。なくしたくない場所になりつつあった。
それは、湊斗にとって不安にさせる。なくなったら、悲しい。いっそ、今のうち離れた方がいいのかもしれない。
これ以上深い傷を負ったらもう…。

「…ご馳走さまでした」

何とか最後のカレーを飲み込んだ。何の味もしない。湊斗は使った食器を流し台に運んだ。直ぐに自分の皿を洗うと部屋へと向かった。
背中に佑の視線を感じるけど、振り向かなかった。どんな顔をしたらいいかわからない。
話せることは何もない。軽い冗談でさえきつい。

家で父親と一緒の空間でカレーを食べるだけで心が疲弊した。家にいると自分を否定してばかりする。追い込まれて、一番理解してくれるはずの家族が遠くて悲しい。誰も悪くない。悪くない。

心配しないで、僕のことなんかほっといて。感情を爆発させる気力もなかった。ただ、机に向かって勉強を再開させた。



「……塩尾、おはよう」

待ち合わせの場所。結局断りの連絡をせず、湊斗は約束を守るために待ち合わせの公園に来ていた。
約束の10分前に到着しぼんやりとベンチに座っていると上から声が聞こえた。勇治の声だ。

「おはよう、初めて挨拶してくれた」

湊斗は瞬きして勇治の顔をじっと見つめた。

「……?毎日学校で朝、挨拶しているだろ」

きょとん、と勇治は目を丸くして首を傾げる。

「僕は、挨拶してるけど、見川君はいつも黙りだろ。」

「え、あー……してるつもりだった」

勇治は悪い、と謝りばつの悪そうな顔をして後頭部を掻いた。どうやら心のなかで挨拶を返していたらしい。湊斗はエスパーとかではない。それでは聞こえるはずがない。

「挨拶、無視されるくらい嫌われてるのかと思った」

口元を歪めて湊斗は言った。湊斗の目の下には隈が出来ている。顔色も悪くて少し、元気がないように見える。

「……まさか、嫌うわけねぇだろ。見惚れてた。塩尾は俺の心を奪う」

勇治は真っ直ぐ湊斗を見つめて言った。迷いも照れもない声だ。

「ストーップ!何、朝から湊ちゃんを口説いてんだよ、スケベ!」

と、ハリスの声が間に割ってくるが、ハリスの姿はない。変わりにハリスそっくりな女の子がいた。肩までの長さの金髪をツインテールにしている。ふわっとした柔らかな生地のワンピースに身を包み、少し勝ち気な可愛らしく整った顔を反らして勇治を睨み付けていた。

「……誰だよ、七原の妹か何かか?」

「七原だよ!変装してるのだ、まさか性別を偽って動物園に行くとは誰も思うまい」

にやり、とハリスは口元をニヒルっぽく歪めた。声は男だから格好とミスマッチで違和感しかない。

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