ふしだらな薬。

遊虎りん

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美幸side

3.

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宮野、という表札が掛かった門を通り抜けて俺は鍵をポケットから取り出すと玄関のドアを開けた。
嗅ぎ慣れたこの家の匂い。充城の母親がホットケーキをよく焼くのでメイプルシロップの匂いが染み付いているのかほんのりと甘さが鼻先を擽る。初めて食べたホットケーキのふんわりした食感とあたたかく甘い美味しさに感動したのを思い出した。

充城に腹が立っていたが、少しだけ落ち着く。ほんの少しだけだけど。

靴を脱いでスリッパに履き替えてリビングへと向かった。わざと音を立てて歩く。スリッパだからそんなに迫力は出ないけど。

「お帰りなさい。早かったですね」

独自にブレンドしている寝る前の習慣であるハーブティを優雅に飲んでいる充城にじとり、と陰気に湿った視線を向けた。
白いテーブルクロス、薔薇が描かれたお洒落なカップ、それが違和感がなく充城に馴染んでいる。

「……お前の電話のせいで俺は欲求不満。邪魔するな、と言ったよな?」

「聞きました。ですが、私は邪魔しませんとは言ってません」

眉一つ動かさず、アナウンサーのような綺麗な口の動きで清清しいまでにきっぱりと言い切った。
清清しい、と表現したが俺は全然清々しくない。心が曇る。曇天だ。

一旦落ち着いた苛立ちが再び俺の腹の中でじりじりと火が付き始める。

のんびりと優しい料理が上手い母親の鏡のような充城の母親、圭子さんからどうしてこんな無機質かつ無感動かつ無表情な子供が産まれてしまったのだろうか。
何事にも興味がなさそうなロボットのような充城だが、それは見かけだけで中身はどろどろとしていて執拗で陰険で何故か俺に執着を見せる。

「言ってません、じゃねえよ。俺の楽しい『性活』に干渉するな。男前な理想のパパに巡り会えたのに、お前のせいでちんちんもらい損ねただろ!」

細波さんの舌と指の動き、男らしく落ち着いた声、とろけるような愛撫、思い出しただけでうっとりと夢心地になる。40才から60才の男の経験豊富なセックスはハマる。

「それは良かった。夜中、お尻がむずむずして寝れなくて私におねだりしに来ますね」

獲物を目の前にした蛇のような、身体に巻き付かれて身動きが取れなくなるような錯覚を感じる。こいつなら突然怪しげな妖術を使っても、充城だからな、と納得できる。

「っ、絶対しない!おやすみ!」

いーっと牙を剥き出してふん、と顔を背けて俺は自分の部屋へと向かった。


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