溺愛もふもふ姫、旅に出る。

遊虎りん

文字の大きさ
17 / 45
第二章

☆2

しおりを挟む
「見かけない顔だもんね。僕、ね。 もうすぐお兄ちゃんになるんだよ!妹がうまれるの。かあさんがおなかおっきくなったから僕がお手伝いしてるんだ」

少し誇らしげな顔で少年は言った。

じゃあね、と少年は小さな手を振りパン屋に入っていった。ガラスの窓越しにパン屋の主人と何やら話しているのが分かる。くしゃくしゃと頭を撫でられて笑っている。

(いい兄貴になりそうじゃん、あいつ)

先程の明るく弾んだ少年の声が耳から離れない。
新しい生命を待ち遠しいと楽しみにしている様子が伝わってきた。
無事に赤ん坊が生まれるようにロゼは見知らぬ母親と女の赤ちゃんの誕生を願った。
引き離されないよう、喧嘩しても仲直りできる兄妹になるよう。何だかしんみりとなる。

くん、とロゼの鼻が反応した。

ふわり、と甘い匂いがする。ティアの匂いだ。

「ロゼ!むかえにきたー!おにぎり、たべよお」

エメラルドにシャンプーして貰ってティアの毛並みはいつもより艶帯びていつもよりもボリュームがある。コロコロとしている。物凄く可愛い。この可愛い生き物、いますぐ食べてしまいたい。自分の気持ちを押さえきれずになりロゼはティアをぎゅーっと抱き締めた。

「…俺、おにぎりよりもティアを食べたい。腹のなかに入れて独り占めしたくなる」

「ロゼのはらこわ、れる」

ティアの猫耳がへたん、と伏せられる。ぷるぷると震える。怖がっているのが面白い。
ちゅ、と唇をティアの額に押し付けキスする。

「俺の腹なんかぶっ壊れてもいい」

「…ひじょうじたいになったら、ひをよくとおして、よくかんでたべてください」

「生がいい」

「だ、めです!」

すりすり、もふもふ。腕の中で暴れられるがロゼはティアを離さなかった。むーむーと低く唸るティア。はあ、とティアを思いっきり吸い込むと一旦満足する。

「食いたいとか冗談。おにぎり、食べに行こうぜ」

本気を冗談にする。怖がらせて無邪気に近づいてこなくなったら手に入らなくなる。
ロゼの言葉にあからさまにほっ、と息を吐いて安堵に胸を撫で下ろした。

「おかかと、うめぼし、しゃけも、ある!」

「ティアが作ったのか?」

「エメラルド!ティア、おにぎりむきのてじゃない」

手のひらに肉球。一般的な猫よりは指が発達しているが器用に動かせず人間の手よりは毛深い。おにぎりを握ったら毛だらけになってしまう。

「今度俺がおにぎり、作ってやるよ」

「ほんと?たのし、み!」

無邪気に喜ぶ可愛いティアを見てロゼは双眸を細めた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...