生まれ変わっても、魂は安らげない。

遊虎りん

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予章

生け贄の前日。

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鈴虫が盛んにないている。

一日中忙しく働いて疲労感が身体にたまっていて休息を求めうとうとと眠りへと導かれる。
このゆったりとした眠りに落ちてゆく瞬間だけが唯一心安らかになれる。
ぼんやりとした意識の中で、虫の音に耳を傾け子守唄代わりに聴いていた。
漸く寝床につけたが、少し寝たらいつものように誰よりも早く起きて朝食の準備に取り掛からないといけない。
そして、明日は夕方、山に登る。

(おねぇちゃん、元気にしてるかなぁ)

貧しい家に生まれた。両親は健在で兄弟は姉と兄と弟がいた。
畑仕事で食い繋いでおり男手は貴重で大切にされていた。不作が続き、口減らしに姉と一緒に人買いに米1俵と引き換えに身を売られた。繋いでいた手を引き離され、心配そうにこちらを振り向く姉の顔が目に焼き付いて忘れられない。ふとした瞬間、思い出しては離れ離れになった姉の身を案じる。

休む暇なく朝から晩まで働かされている。

手や足を止めると怠け者!と叱咤され、ぶたれた。
いつしか、笑うことを忘れ能面のような無表情になった。失敗をする事がなくなりぶたれることはなくなったが、時折、胸の中が痛んだ。気分が晴れることはなくいつも曇り今にも雨が降りそうな淀んでいた。

今もその痛みに心身が苛み、なかなか意識が眠りに落ちず安らかな時間が苦痛へと代わり始めていた。

ぬるり、と何かが肌に這う感触がした。嫌悪感はないが擽ったい。睫毛を震わせ重い目蓋を開けた。
粗末な擦りきれた衣の合わせ目から白い蛇が姿を現した。ちろり、と赤い舌を出している。

「お前、どこから来たの?」

円らな赤い目を見て頬笑む。自然と笑みが溢れた。
蛇は怖くない。怖いのは頬をぶつご主人様だ。

もちろん、蛇から返事がない。そして、返事を期待してはいなかった。

「……蛇さん、聞いて。日照りが続いて、雨が降らない。神様に生け贄を捧げて雨を降らせて貰うって。あたしが、生け贄になる…明日、あたし死ぬの」

不思議と死ぬのは怖くない。
また、か。と思う。

「あと、何回死ねばいいのかなぁ」

やっぱり、また一人ぼっちで死ぬ。

隈が出来て窪んでいる目が疲れている。
うとうとと目を再び閉ざした。
死んでは生まれ、不幸になり、また死んでいく。

ずっと、ずっと、終わらない。

それはずっと前の自分が決めたことだから仕方がないのだ。
死を悟ると罪を思い出して、死を受け入れられた。

(おねぇちゃんに会いたいなぁ)

柔らかい手で頭を撫でてくれた姉の優しさを思い出して漸く眠りに落ちた。

次に目が覚めたら、死ぬ運命が待っているのに微笑んで眠った。

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