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第一章
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「あれは私の玩具です。勝手に壊してはいけませんよ、三久」
物腰は柔らかく優しい印象を与える口調であるが霧蛇の声には有無を言わせない呪力が込められていた。
見えない鎖が言葉を発するのを絡めて止める。
母親に呪いをかける息子。
三久は口を開いて強く激しく文句を言いたがったが、それは許可されない。淑やかに両手をついて三久は頭を垂れる事のみ許される。
冷たい光を湛えた双眸で三久を見やり、興味を失うと霧蛇は指をパチン、と鳴らした。
面会の時間は終わった。息子に会うのも時間を決められ、指を鳴らされると退出しなければならない。
親子らしい事をしたい、しかし、三久は何が親らしく、何が子らしいのか分からない。
(わたくしの、子は意地悪ですわ)
三久は密かに唇を噛むと三久は退室をした。
***
一人っきりになる。何一つ音はしない。静寂に包まれて微かな香の残り香がするだけの色彩がない霧蛇の部屋。
する、と着物が畳に擦られる音がして霧蛇は立ち上がる。母譲りの真っ白な絹のような艶帯びた白髪。腰まで伸びているが頬に掛かったり視界を遮ることはない。自分の身体の一部であっても、己の意識を邪魔することを許してはいなかった。
「お前が見たいものを見せてあげましょう。私はそんなに意地悪な男ではありません」
霧蛇は面白がる色を宿して業と声を出して姿なく空中を漂う夏樹に話しかける。
(俺に言ってるのか?)
「勿論です。しかし、面白いことになっている。私がそこまであれに夢中になるという、事か」
最後の霧蛇の言葉は一人言に近い。
夏樹は霧蛇を苦手なやつと感じた。昔々の自分であるが、しっくり来ない。蛇のような、いや蛇の大妖怪様であるが、陰湿で腹黒そうな男としか思えない。生まれた時代や種族とか、大事だと夏樹は思う。
「お前が死んだら私に戻りますよ。貴方は人間の皮でしかない。中身は陰湿で腹黒い私のままです」
(…っ、やなやつ!)
心の中であかんべーをする夏樹。でも、どうせそれも見えているのだろう。嫌いであることを隠しても無駄であると夏樹は開き直った。
霧蛇は自分に嫌われても1秒も気に止めなかった。何も言葉も発せず表情をかえない。
霧蛇は名前の一部である、霧に自分の身体を変えると、混じりものと言われている玩具の元へと向かった。毎回、音もなく姿を現すと飛び上がって驚くから面白いのだ。
物腰は柔らかく優しい印象を与える口調であるが霧蛇の声には有無を言わせない呪力が込められていた。
見えない鎖が言葉を発するのを絡めて止める。
母親に呪いをかける息子。
三久は口を開いて強く激しく文句を言いたがったが、それは許可されない。淑やかに両手をついて三久は頭を垂れる事のみ許される。
冷たい光を湛えた双眸で三久を見やり、興味を失うと霧蛇は指をパチン、と鳴らした。
面会の時間は終わった。息子に会うのも時間を決められ、指を鳴らされると退出しなければならない。
親子らしい事をしたい、しかし、三久は何が親らしく、何が子らしいのか分からない。
(わたくしの、子は意地悪ですわ)
三久は密かに唇を噛むと三久は退室をした。
***
一人っきりになる。何一つ音はしない。静寂に包まれて微かな香の残り香がするだけの色彩がない霧蛇の部屋。
する、と着物が畳に擦られる音がして霧蛇は立ち上がる。母譲りの真っ白な絹のような艶帯びた白髪。腰まで伸びているが頬に掛かったり視界を遮ることはない。自分の身体の一部であっても、己の意識を邪魔することを許してはいなかった。
「お前が見たいものを見せてあげましょう。私はそんなに意地悪な男ではありません」
霧蛇は面白がる色を宿して業と声を出して姿なく空中を漂う夏樹に話しかける。
(俺に言ってるのか?)
「勿論です。しかし、面白いことになっている。私がそこまであれに夢中になるという、事か」
最後の霧蛇の言葉は一人言に近い。
夏樹は霧蛇を苦手なやつと感じた。昔々の自分であるが、しっくり来ない。蛇のような、いや蛇の大妖怪様であるが、陰湿で腹黒そうな男としか思えない。生まれた時代や種族とか、大事だと夏樹は思う。
「お前が死んだら私に戻りますよ。貴方は人間の皮でしかない。中身は陰湿で腹黒い私のままです」
(…っ、やなやつ!)
心の中であかんべーをする夏樹。でも、どうせそれも見えているのだろう。嫌いであることを隠しても無駄であると夏樹は開き直った。
霧蛇は自分に嫌われても1秒も気に止めなかった。何も言葉も発せず表情をかえない。
霧蛇は名前の一部である、霧に自分の身体を変えると、混じりものと言われている玩具の元へと向かった。毎回、音もなく姿を現すと飛び上がって驚くから面白いのだ。
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