Ωの魔王の溺愛姫。

遊虎りん

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予章 

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美しい花の黄色、赤やピンク。見る者の心を華やかにさせる。
鬱蒼と繁る緑や木々の茶。心を安らかにさせる。
様々な鮮明な色に囲まれ白銀の髪をした少女は瞳を輝かせて心を踊らせていた。

太陽に祝福された晴れの日。
光が満ちた世界。
風は優しく幼さを残すなだらかな膨らみが帯びる頬を撫でていく。それが心地よく少女は日向ぼっこする猫のように目を細めた。
ふわり、と甘い蜜の香り。
柔らかな空気に包まれる、うっとりと少女は微笑んだ。

ぴーちちち、と小鳥が囀ずる声が真上から聞こえて少女は天を仰いだ。
そこには青空が広がっている。
雲一つない晴天。

よし、と呟き少女はぺろりと唇を舐めてクレヨンの箱から青色のクレヨンを選んで持った。
白く小さな手は思いっきり画用紙の白を青色で塗り潰した。
本日のお題は雲ひとつない青空、一色の青だけでは表現出来ない難しい題材だ。
どう表現しよう、と胸をわくわくと高鳴らせる。
不意に空模様をうつした画用紙に少女のものと違うもう一つ影が落ちる。
驚きに丸い瞳を見開いて更に丸くして少女は慌てて振り返るとそこには見知らぬ青年が立っていた。

少女の瞳に髪は光輝く金髪。瞳は空のような青色。透き通る白い肌色がうつる。
体のラインは男性的ながらも神に使える天使のような美しさを持っている。
見る者の心を引き寄せる顔立ちをしている。長身の男。年頃の乙女なら胸をときめかせる要素がこの青年にはたくさんある、が別の意味で少女の心をざわざわと乱していた。
緊張感に顔の筋肉が強ばる。

「こんにちは、可愛いお嬢さん」

優しげな外見に見合う穏やかな大人の男性の声。
にっこりと微笑む様は人々に奇跡を与える正に天使を絵に描いたような表情だ。
少女はそれは慈しむ心からの笑みではない。形だけを取り繕った大人の愛想笑い、だと反射的に悟った。
男の眼光が鋭く少女の姿を捉えている。
それは苛烈な光を宿していた。

「……っ!!」

小鳥が囀ずるような愛らしい声を紡ぐ花びらのような唇を固く閉ざして言葉を発せず警戒心を露にして少女は青年を睨み付けた。
青年の目を眩ませこの場から逃げようと手に持っていた青いクレヨンを投げようと思ったが、これは誕生日に母親から貰った大切なプレゼントだ。
クレヨンは絵を描くもので人へ投げつけるものではない。粗末に扱ったら母親が悲しむだろう。
大好きな母親を悲しませたくはない。
花の香りがする、美しい銀色の髪の母親に涙は似合わない。
母親と同じ銀色の髪を持つ少女は自分の髪の色が何よりも好きだった。

少女は瞬間躊躇った。

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