Ωの魔王の溺愛姫。

遊虎りん

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予章 

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「俺の愛しい娘からその穢れた手を離せ、ザイ」

不意に男のモノとも女のモノとも取れる不思議な魅力を持った声が割り込んできた。
と、同時に魂に馴染んだ温かさに包まれて銀色の獣は安堵の涙で丸い瞳を濡らした。
身が張り裂けそうな緊張が瞬時に解かれる。

「お母さん!」

喜びの声を露にして抱きつくと中性的な美しい顔立ちは少女と面差しが似ている青年は柔らかく微笑んだ。
銀色の髪から仄かに少女と同じ花の香りがする。
涙を浮かべる娘の頭を優しく撫でて慈しむ。

「ザイは性格が悪く底意地と根性が腐っている男だ。お前が俺以外のやつと会うのは仕方がないが、最初があれだとは…。さぞかし怖かっただろう、リン。可哀想に」

娘に向ける柔らかな表情とは裏腹にザイを見えないナイフで八つ裂きにしても構わないとばかりに辛辣な容赦の欠片もない言葉を投げつける。

「怖くないけど、あいつ嫌い!」

ふんす、と鼻息荒くリンはザイを指差し力強く言い切った。

「親子で私を嫌っているんですね。ありがとうございます。久しぶりの幼馴染みにリュウ様は相変わらず私に冷たい」

ザイは地面に片膝を付け恭しくリュウへと向けて頭を垂れた。
そして、顔をあげると飄々とした口調で言うと自分に向ける二人の鋭い嫌悪の視線を笑いながら受ける。

人間の形に戻ったリンはリュウにひしっと抱きついた。背中に腕を回して隙間なく密着している。
母親の抱きついている安堵感に満たされていると、初めて見て声を聞いて数分で大嫌いになったザイから意外な事実を告げられて驚いた。
幼馴染み、ということはザイとリュウは知り合い。そして、様つけされるほどの高い身分なのだ。
身分がどうとかリンは興味ないし、どうでもよかった。ただ、ザイと大好きな母親が幼馴染みであることが堪らなく嫌だ。

「お母さんとあいつが幼なじみとかいや!幼なじみやめて!」

初めての我儘。そして、癇癪。それほどリンは自分の意見を通したかった。

「俺もあいつと幼馴染み辞めたい。出来ることなら一生他人がいい。腐れ縁をたちきりたい」

リュウは眉を下げて人生においてザイと幼馴染みであることが唯一の汚点である、という表情で娘の言葉に寄り添った。

「はいはい、生まれてきてすみません。私は悲しくて涙で今夜は枕を濡らしそうです」

ザイは目元に指を添えて泣き真似をする。
それをリュウが冷たい瞳でザイを見る。

「お前にも目から水を流せる機能が備わっていたのか」

「機能とか。私をポンコツの機械かなんかみたいに言わないでくれますか。」
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