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明日から本気出します
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「う~ん」
ヤクモは、机の前で腕組みかつ足組みの状態で首をかしげ、右膝の先
の左足をぷらぷらさせながら唸っていた。
「おいおい。腕組みはまだいいが、足はやめとけ。骨盤が歪むぞ」
それに後ろから声を掛けたのは、猫に似たイヅという名の謎生物だ。
本人談では「すねこすりという歴とした妖怪――の亜種だ」と言って
いたこともあるが、その言い回しからして怪しいものである。イヅの
見た目は真っ黒で、ぱっと見ではトゲトゲしている。
「そもそも、お前みたいな間抜けには似合わんポーズだ」
発する言葉も、大体いつも黒くてトゲトゲしている。
「えっとね。インターネットで小説とかを書いて公に投稿することが
できるサイトがあってですね。私、少し前に投稿してみたんです」
トゲトゲ言葉は意にも介さず、ヤクモは考え込む口調で話し出した。
「昔作った痛いポエムをか」
「そ、そんなのないから!? うっ……頭が」
イヅは、近くのこたつ机へとぬるりと登ると、放置されていたノート
パソコンをその謎の小さな手で巧みにタンタンターンと操った。
「ふむふむアルファポリスか。一般公募のシナリオコンテストだな。
……賞金にでも目が眩んだか?」
「そんな、違うとは言い切れませんけど! まあ、はい」
「肯定しかしていないようだが。で、どうだった?」
「全然ダメでした!」
「だろうね」
即答の応酬を行いながら、イヅはパソコン画面の上から下へと素早く
大きな目を動かしてゆく。
「おや、応募要項は一万文字以下となっているのに、お前の投稿では
二万文字を越えているな。安心と信頼の、いつものポカか」
「それは違うよ!」
バッとふりかえったヤクモは、そこは強く否定した。片足のまま向き
を変えたせいで椅子ごとちょっとふらついたが、何とか持ち直す。
「えっと、実はですね。コンテストの結果は、箸にも棒にもかからな
かったわけなんですけど、お一人だけながら丁寧に感想を下さる方が
いらっしゃって……それでリクエストっぽいものにお応えして、もう
ちょっと続けてみたのじゃよとか、そういう感じだったのですよ」
「ほーう。それは怠け者のお前にしては、がんばったな」
「えへへ、でしょう~?」
ヤクモの顔が緩む。
「感動的だな」
「もっと褒めて!」
「だが無意味だ」
「酷い! 私特撮モノって全然詳しくないですけど、ネットで調べて
ファイナル ○タックライドしてやる!」
「10年は、やはり早いな……」
イヅはほんの一瞬遠くの虚空を見つめたが、少し真面目な顔をヤクモ
に向け直した。
「じゃあもっかい聞くか。で、どうだった?」
「ん……楽しかった、です」
ヤクモは、やはり何かを考えた様子でぼんやりと答えた。続けて、少し
ばかり首をかしげて小さく息を吸う。その瞬間、クワっと目と口を開い
たのはイヅのほうである。
「次にお前は"でも"――と言うッ!」
「でも……ハッ! おお~、はい。そうなんです、何か引っかかって」
「美味い料理を少し口にした瞬間、余計に腹が減るようなものだろうな
――もっと多くの人に見てもらいたい、そのためにはどうすれば良いか
って悩んでいるといったところか」
「ッそ、そうです! まさにそれですなう」
「なうは要らない」
「がんばって書いても、たくさんの人に見てもらえなければ、ニーサン
さんの言葉じゃないですけれど無意味には近いのですよね」
「そうだな。じゃあ、書け」
「はいぃ?」
「語尾を上げるな」
イヅはそこでちょっと伸びをしてから、頭の上に「?」が見えるような
ヤクモを横目に牽制しながら、ゆっくり言葉を続ける。
「人気とかお気に入りがいっぱい欲しいなら、まずはたくさん書くのが
一番の近道だろうよ。もちろん筆力はあるに越したことないだろうが、
そこは一旦ノーコメントだ。上手下手よりも、読者にとっては”好みか
どうか”のほうが大事だったりするだろうしな」
「まずはたくさん書く……のですか」
まだ納得していなさそうなヤクモは、少し不満そうに鸚鵡返しをした。
それに対して、はぁ。とイヅは軽くため息をつく。
「どうしても効率的にやりたいなら、俺は大して詳しくないが――この
ような投稿サイトにも、雑誌と同じように特色があるものだ。マンガで
言えば少年雑誌は熱血モノだったり、少女雑誌は恋愛モノだったりね。
それをまず読んで、それに沿った内容を書けば、短時間で多くの読者を
獲得できるんじゃないかな。でも、書きたいものを書くだけでも、続け
てさえいれば段々と見つけてくれる人は増えると思うぞ」
「やります!」
「即答か。でも割り込むタイミングが惜しいな、どっちだ」
「それは書きたいものを書いて認めてもらえるのが一番ですけど、今の
私のパッションが、命短し恋せよ乙女――とにかく、短絡的に行けって
叫んでいます!」
「本当にそれでいいのか……?」
「だって、読者様をゲットしたいですから! そして――」
ヤクモは、立ち上がった。
「なろうさっ……こほん。アルファポリス作家に、私なる! ドーン」
「お前今、なろう作家って言いかけただろ?」
「てへぺろ☆ だって、どちらだってほぼ同じようなものですよね?」
「てめェぶっ殺されてえのかァ――ッ」「ごっふぁ!?」
ヤクモの胴体に、イヅの体が突き刺さった。腹パンである。
「アルファポリスの良い所を言ってみろ」
完全に倒れこんだヤクモの頭に、肉球が有るのか無いのか分からない手を
ごりっと押し付けながら、イヅは冷たく言い放った。
「ぁぅぅ……ボタンとか分かり易くて更新が楽なのが良いですぅ。あと、
近況ボードとか文字の大きさ三種類とか、使い方によってはとっても便利
そうだと思います。あとは……サイトの色合いも好きです」
「よおーし、首の皮一枚繋がったことにしてやる……まあ、何でもやって
みればいいさ。ただし何でもといっても、ズルい事は絶対に無しだぞ」
「はい! もちろんです」
吐くのも忘れて、ヤクモはぴょーんと飛び上がった。一応こちらは人間の
形をしてはいるのだが、やっぱり謎生物には違いなかった。
(ん。元気なのは、よろしい。まずは何をするんだ?)
イヅは少し好奇心を刺激されたのか、そのヤクモを目で追った。すると、
まるで流れるような一連の動作で、ヤクモはベッドの中へと吸い込まれて
ゆく――これは完璧な、<状態異常:睡眠>の気運だった。
「明日から本気出しますね。おやすみなさーい」
「……」
-続く-
ヤクモは、机の前で腕組みかつ足組みの状態で首をかしげ、右膝の先
の左足をぷらぷらさせながら唸っていた。
「おいおい。腕組みはまだいいが、足はやめとけ。骨盤が歪むぞ」
それに後ろから声を掛けたのは、猫に似たイヅという名の謎生物だ。
本人談では「すねこすりという歴とした妖怪――の亜種だ」と言って
いたこともあるが、その言い回しからして怪しいものである。イヅの
見た目は真っ黒で、ぱっと見ではトゲトゲしている。
「そもそも、お前みたいな間抜けには似合わんポーズだ」
発する言葉も、大体いつも黒くてトゲトゲしている。
「えっとね。インターネットで小説とかを書いて公に投稿することが
できるサイトがあってですね。私、少し前に投稿してみたんです」
トゲトゲ言葉は意にも介さず、ヤクモは考え込む口調で話し出した。
「昔作った痛いポエムをか」
「そ、そんなのないから!? うっ……頭が」
イヅは、近くのこたつ机へとぬるりと登ると、放置されていたノート
パソコンをその謎の小さな手で巧みにタンタンターンと操った。
「ふむふむアルファポリスか。一般公募のシナリオコンテストだな。
……賞金にでも目が眩んだか?」
「そんな、違うとは言い切れませんけど! まあ、はい」
「肯定しかしていないようだが。で、どうだった?」
「全然ダメでした!」
「だろうね」
即答の応酬を行いながら、イヅはパソコン画面の上から下へと素早く
大きな目を動かしてゆく。
「おや、応募要項は一万文字以下となっているのに、お前の投稿では
二万文字を越えているな。安心と信頼の、いつものポカか」
「それは違うよ!」
バッとふりかえったヤクモは、そこは強く否定した。片足のまま向き
を変えたせいで椅子ごとちょっとふらついたが、何とか持ち直す。
「えっと、実はですね。コンテストの結果は、箸にも棒にもかからな
かったわけなんですけど、お一人だけながら丁寧に感想を下さる方が
いらっしゃって……それでリクエストっぽいものにお応えして、もう
ちょっと続けてみたのじゃよとか、そういう感じだったのですよ」
「ほーう。それは怠け者のお前にしては、がんばったな」
「えへへ、でしょう~?」
ヤクモの顔が緩む。
「感動的だな」
「もっと褒めて!」
「だが無意味だ」
「酷い! 私特撮モノって全然詳しくないですけど、ネットで調べて
ファイナル ○タックライドしてやる!」
「10年は、やはり早いな……」
イヅはほんの一瞬遠くの虚空を見つめたが、少し真面目な顔をヤクモ
に向け直した。
「じゃあもっかい聞くか。で、どうだった?」
「ん……楽しかった、です」
ヤクモは、やはり何かを考えた様子でぼんやりと答えた。続けて、少し
ばかり首をかしげて小さく息を吸う。その瞬間、クワっと目と口を開い
たのはイヅのほうである。
「次にお前は"でも"――と言うッ!」
「でも……ハッ! おお~、はい。そうなんです、何か引っかかって」
「美味い料理を少し口にした瞬間、余計に腹が減るようなものだろうな
――もっと多くの人に見てもらいたい、そのためにはどうすれば良いか
って悩んでいるといったところか」
「ッそ、そうです! まさにそれですなう」
「なうは要らない」
「がんばって書いても、たくさんの人に見てもらえなければ、ニーサン
さんの言葉じゃないですけれど無意味には近いのですよね」
「そうだな。じゃあ、書け」
「はいぃ?」
「語尾を上げるな」
イヅはそこでちょっと伸びをしてから、頭の上に「?」が見えるような
ヤクモを横目に牽制しながら、ゆっくり言葉を続ける。
「人気とかお気に入りがいっぱい欲しいなら、まずはたくさん書くのが
一番の近道だろうよ。もちろん筆力はあるに越したことないだろうが、
そこは一旦ノーコメントだ。上手下手よりも、読者にとっては”好みか
どうか”のほうが大事だったりするだろうしな」
「まずはたくさん書く……のですか」
まだ納得していなさそうなヤクモは、少し不満そうに鸚鵡返しをした。
それに対して、はぁ。とイヅは軽くため息をつく。
「どうしても効率的にやりたいなら、俺は大して詳しくないが――この
ような投稿サイトにも、雑誌と同じように特色があるものだ。マンガで
言えば少年雑誌は熱血モノだったり、少女雑誌は恋愛モノだったりね。
それをまず読んで、それに沿った内容を書けば、短時間で多くの読者を
獲得できるんじゃないかな。でも、書きたいものを書くだけでも、続け
てさえいれば段々と見つけてくれる人は増えると思うぞ」
「やります!」
「即答か。でも割り込むタイミングが惜しいな、どっちだ」
「それは書きたいものを書いて認めてもらえるのが一番ですけど、今の
私のパッションが、命短し恋せよ乙女――とにかく、短絡的に行けって
叫んでいます!」
「本当にそれでいいのか……?」
「だって、読者様をゲットしたいですから! そして――」
ヤクモは、立ち上がった。
「なろうさっ……こほん。アルファポリス作家に、私なる! ドーン」
「お前今、なろう作家って言いかけただろ?」
「てへぺろ☆ だって、どちらだってほぼ同じようなものですよね?」
「てめェぶっ殺されてえのかァ――ッ」「ごっふぁ!?」
ヤクモの胴体に、イヅの体が突き刺さった。腹パンである。
「アルファポリスの良い所を言ってみろ」
完全に倒れこんだヤクモの頭に、肉球が有るのか無いのか分からない手を
ごりっと押し付けながら、イヅは冷たく言い放った。
「ぁぅぅ……ボタンとか分かり易くて更新が楽なのが良いですぅ。あと、
近況ボードとか文字の大きさ三種類とか、使い方によってはとっても便利
そうだと思います。あとは……サイトの色合いも好きです」
「よおーし、首の皮一枚繋がったことにしてやる……まあ、何でもやって
みればいいさ。ただし何でもといっても、ズルい事は絶対に無しだぞ」
「はい! もちろんです」
吐くのも忘れて、ヤクモはぴょーんと飛び上がった。一応こちらは人間の
形をしてはいるのだが、やっぱり謎生物には違いなかった。
(ん。元気なのは、よろしい。まずは何をするんだ?)
イヅは少し好奇心を刺激されたのか、そのヤクモを目で追った。すると、
まるで流れるような一連の動作で、ヤクモはベッドの中へと吸い込まれて
ゆく――これは完璧な、<状態異常:睡眠>の気運だった。
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「……」
-続く-
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