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第二部
第27話 熱戦、イトの国
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――『イトの国』
一行は船旅を終え、イトの国の港へ降り立った。
この街は和風とアジア風の木造建築が主流であり、リベルタスとは雰囲気が違う。
街は碁盤の目に区切られていて、遠くのほうには木造高層建築物が見える。
街の人もリベルタスとは違い、着流しや着物などが殆どで、異国情緒が感じられる。
五人はとりあえず、クエストの報告をするために、冒険者ギルドへ向かった。
一行は冒険者ギルドで報酬の『水中呼吸の指輪』を貰い、酒場で休憩を取った。
「この街、リベルタスとは全然雰囲気違うな」
「某は慣れているからな、リベルタスの方が異国に感じる」
「ねぇねぇ、このみたらし団子おいしいよ!」
「この国の名物って何かしら?」
「火山とか、温泉だな」
「甘酒追加で頼んで来るね~」
「結構変わった武器も多いですよね」
「そうだな、ここでしか売っていないものも結構あるな」
「おはぎと大福、追加で頼んでくるからね」
「エリっち! うっさい!」
「そんなに食べたら、太ってしまいますよ?」
「はぁい……」
エリーはしょぼんとしてしまう。
「そうだな、ここにも冒険者ギルドがあるから、何個かやってから帰ろうか」
「いいよ~」
「いいですね」
「分かった、だが今日はもう遅い、明日になってから案内しよう」
エリーはそうっと大福に手を伸ばすも、フェイにその手を叩かれ、再びしょぼん状態になってしまう。
五人は食事を取った後、旅館へ泊り、翌日に冒険者ギルドに行く事にした。
――『イトの国・冒険者ギルド』
この国の冒険者ギルドも、基本的には同じシステムである。
違うところは建物の外装と内装、中にいる人々の服装ぐらいだ。
ヒナはここに慣れているので、クエストを一つ受注して、皆の所へ戻った。
「これでどうだろう、『温泉の源泉を調べよ!』というやつだ。どうやら温泉の湧くところに魔物が出て、それを退治する、という内容だ。」
「うん、いいね、早速行こう」
「楽しみですね」
こうして五人は、クエストの場所へと向かった。
温泉の源泉はクナ火山の中腹にあり、山を登らねばならなかった。
一行は、とりあえず麓にある温泉を見てから、その水の流れを辿ることにしたのだ。
そこの温泉からは湯気が大量に出ていて、見るからに高温になっているようだった。
「これは指入れたら火傷しそうだな」
「江戸っ子でも裸足で逃げ出すほどだよね」
「温泉が元に戻ったら、ひと浴びしたいわね」
「ちょっと硫黄臭いですね」
「火山が近いからな。さあ、水を流れを辿って行こう」
五人は水の流れを辿りながら、山を登って行った。
歩いて登ること十数分。温泉の源泉になっている泉を見つけた。
そこは激しく煮立っており、沸騰しつつ、蒸気を出していた。
源泉の周りは何かの生き物の足跡が散乱していて、何者かがよく来ているようだ。
「この足跡、なんだろう?」
「魔物かな? この国なら鬼とか?」
「リベルタスの方じゃ見かけないものね」
「この足跡はどこへ続いているのでしょうか?」
「鬼の足跡に似ているが、それよりも大きいな。何者だろうか?」
「とりあえず足跡を辿ってみよう」
そうクロウが言い、一行はその足跡を追跡して行った。
その足跡の行先は洞窟へと入って行ったようだ。
「洞窟か……、ここに住んでいるのか?」
「罠があるかもしれないから、あたしが先行くよ」
エリーはそう言って、先頭を歩き、罠が無いかを調べつつ進んだ。
足跡は洞窟の奥へと続いていて、それを追いながら慎重に進む。
洞窟の先では道が二手に分かれていて、足跡は右側にだけ続いている。
「やっぱ、足跡がある右側?」
「そうだな、そっちを先に探そう」
五人は右側の洞窟へ足を進める。
右の洞窟を進むと、その先は崖のような穴になっていて、下へと洞窟は続いていた。
「足跡はここで終わりね、この崖を降りたのかしら?」
「そうとしか考えられませんね」
「どうやって降りたのだ……? 空でも飛んだのか?」
崖は切り立っており、その底は見えない。……かなり高いようだ。
「ちょっとここ、調べてみよう」
エリーがそう言って、皆で何かないかと探し始めた。
その時である、崖下から何者かが飛び上がってきたのだ。
「ひぃっ!?」
驚きのあまり尻もちをついてしまうヒナ。
その飛び上がって来た者は、一本足の姿に両腕が生えている生き物だった。
彼はこちらを無視して、両腕でバランスを取りつつ、洞窟の入り口へ跳ねて行った。
「追うぞ!」
クロウがそう言い、五人はその一本足の姿の者を追って行った。
一本足の姿の者は、洞窟を出て温泉の源泉の方へ向かって行った。
一行も彼に追いつこうと足を速め、ちょうど源泉の辺りで追いつく。
彼は煮立っている温泉の源泉を桶で汲み上げると、こちらを振り返った。
その姿は、一本足に一つ目、両腕は二本ある、そんな生き物だった。
「なんだぁ、おんしら、おいらの邪魔するでねぇ。親方にしかられんぞ?」
そう言って、彼はこちらの頭上を一跳びで飛び越えて、洞窟へと戻って行った。
「なんだあれは?」
「おそらく、『一本だたら』という妖怪だ」
「こっちに攻撃してこなかったね」
「ウチらに敵意は無いみたいね」
「親方というのは、誰でしょうか?」
「わからん……。だが、あの崖の下にいるのは間違いないようだな」
「その親方というのがカギを握っているようだな」
五人は再び洞窟へ入り、一本だたらを追って行った。
一行は崖のあるところで再び一本だたらに追いついた。
崖から飛び降りようとする一本だたらに、クロウが飛びついて捕らえようとする。
だが一本だたらは、クロウにしがみつかれたまま飛び降りてしまった。
「アッーーー!」
「クロ!」
クロウも崖下へ落ちて行ってしまう。
「大丈夫かしら?」
フェイが崖下を覗き込んだ。
するとすぐに、崖下からクロウが飛び上がって来た。
「クロさん!」
「生きてたか!」
四人の頭上を飛び越し、地面に着地したクロウ。
「この下はトランポリンとかそういうのになってて、落ちても平気だった」
「そうなの?」
「見ての通り怪我一つ無い。ここから降りよう」
そう言ってクロウは再び飛び降りた。
皆、半信半疑であったが、ここを落ちるしかなさそうなので、一人ずつ飛び降りた。
確かにクロウの言うように、崖下はクッションのように柔らかかった。
全員が無事に降りた後、洞窟の奥へと向かって行った。
その洞窟は奥へ行くほど気温が上がり、額には汗がにじみ出てきた。
奥の方から、金属を打つ音が聞こえてくる……。
そこにいるのが親方なのだろうか。
洞窟を抜けると広い空間になっていて、先程の一本だたらと一つ目の巨人がいた。
一つ目の巨人は刀を打っていて、火床には業火が燃え上がり、部屋を熱している。
加熱され真っ赤になった鉄を金床で打っていた一つ目の巨人は、こちらを見て喋る。
「なんだぁ? おんしら、なにしさ来た?」
ヒナが代表して答える。
「温泉の源泉が加熱されすぎてるので、その原因を調べに来のだ」
「ほうだか、だけんど、おいらが刀打ち終わるまで、火床は消せんど」
「何故、今ここで刀を打つのだ?」
「……雪女がよ、悪さしでかすんで、懲らしめちゃろうとな。あやつにゃ並みの刀じゃ効かん。そいで今、刀打っとるんじゃ」
「そうなのか、その雪女を倒したら、ここで刀を打つのは辞めてくれるか?」
「ええじゃろ。おんしらにできんとは思わんがの」
「約束だぞ!」
ヒナは皆と相談する。
「ということだ、雪女を倒せばいいらしい」
「どこにいるんだろ?」
「待ってくれ、今聞く」
ヒナは一本だたらから、雪女の居場所を聞き出した。
「ここから遠くないらしい。なんでも雪女が近くにいると、寒くて寝てられないらしいのだ」
「それで雪女を懲らしめようとしてるのか」
「そういうことだ。我らで倒すしかあるまい」
こうして五人は雪女の居場所へと向かった。
山を少し登ると、雪女が住むといういう洞窟があった。
その洞窟は氷で覆われていて、かなり寒そうである。
一行は警戒しつつ洞窟へ入って行く。
洞窟は凍えるように冷えていたが、あまり深くは無かった。
少し進んだ先に小部屋のようなものがあり、雪女らしき女性がいた。
その彼女の姿は青白い髪に白装束、そして雪のように白い肌をした美しい女だった。
「何奴じゃ? 妾に何用じゃ?」
ヒナが答える。
「一つ目の巨人が、其方がいると寒くて眠れんと言ってる」
「ふむ、勝手よの……。妾はここが気に入っておるのじゃ。他所へ行くのは其方らのほうじゃ」
「聞き分けのないやつだな、斬るぞ……」
ヒナは刀に手をかけた。
「小娘! 百年早ようぞ!」
ヒナが雪女に斬りかかり、戦闘が始まった。
一行は武器を構え、雪女に攻撃を開始した。
「健康分析! 彼女は雪女の『雪子』よ。冷え性に悩んでいるわ」
「みりゃ分かるわ!」
そう話していると、雪女が氷の魔法を飛ばしてくる。
五人はそれぞれその魔法を躱し、攻撃に移る。
クロウが『フルティン』で斬りかかるも、すぐに凍らされて硬くなってしまった。
ヒナの斬撃が彼女を斬るも、彼女は雪で出来ているのか、手ごたえが無い。
リノの銃撃も雪女の体を貫くも、効果は無いようだ。
エリーの背後からの奇襲も同じであった。
「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」
フェイが元テニス選手を呼び出した。
炎の精霊の熱さに雪女はたじろぐも、氷魔法を飛ばしてくる。
炎の精霊は雪女の氷魔法をすべてラケットで撃ち落とした。
その隙にヒナの激しい突きが雪女の体を貫く。
「なんだと!?」
だが、ヒナの刀は雪女の体の中で凍り付き、ついに折れてしまった。
ヒナは折れた刀を抜き、一度引いて距離を取る。
五人と雪女の間に手詰まり感が出てきて、お互いを睨みつつ、次の手を考える。
この沈黙を破ったのはリノだった。
「ヒナさん、これを!」
リノは鞄から何かを取り出し、ヒナに投げ渡した。
ヒナはそれを受け取る。
「これは……、『タバスコ』か!」
ヒナはタバスコの底を折れた刀に突き刺し、フタを開ける。
その状態で雪女の口めがけて神速の突きを放つ。
雪女はその突きを寸での所で躱すも、数滴、口の中に入ってしまったようだ
「ぐあぁぁぁっ! 辛いぃぃぃっ! 服にシミがぁぁぁっ!」
雪女の舌が赤く染まり苦しみだした上に、白装束に赤い点がついてしまい嘆き叫ぶ。
その時クロウは、炎の精霊の尻にフルティンを押し付け、剣を熱していた。
その熱くなったフルティンを、雪女に叩きつける。
「ぐおぉっ! 熱いっ! 溶ける! 体が!」
雪女はそう叫ぶと、体の一部が溶け始め、人の姿を保てなくなってくる。
最後にヒナが、雪女の口の中にタバスコの刺さった刀を突っ込み、トドメを刺した。
「厄介な敵だったな……」
「フェイが炎魔法使えればね~」
「熱いのは精霊だけで充分なのよ」
「カバンにタバスコが入ってて、良かったです」
「何故そんな物を……。だが助かった、礼を言う。」
五人は雪女を溶かし、一つ目の巨人の所へ戻って行った。
一つ目の巨人の部屋の火床は、すでに消えていた。
「おんしら、雪女を倒したんか。おいらが打った刀、用済みじゃの。おんしらにくれてやる。持ってけ」
そう言って一つ目の巨人は、ヒナに刀を渡した。
刀は刀身だけであったが、乱刃が炎のように美しく、名刀のような気品があった。
「これは美しい刀だな……、名をなんという?」
「おんしのすきにせい、おいらはもう寝る。じゃあの」
そう言って、一つ目巨人は横になり、いびきをかいて眠り始めた。
「親方ぁ~……、一度眠っちまうと数年は起きん。おいらは……」
一本だたらは悲しそうに嘆き始めた。
だが、彼らにできる事は何も無さそうだった……。
ヒナが一つ目巨人から貰った刀を見つめて呟いた。
「この刀は、『雪食一眼』と名付けよう」
こうして温泉の源泉の問題を解決した五人は、イトの街へと戻った。
一行はクエストを達成し、報酬を受け取った。
そして、ヒナは『雪食一眼』の柄や鞘を新しく作り、自分の愛刀とした。
この刀は炎属性の太刀で、Sランク相当の名刀であった。
こうして冒険を終えた五人は、街の旅館で休息を取り、次に備えるのであった。
一行は船旅を終え、イトの国の港へ降り立った。
この街は和風とアジア風の木造建築が主流であり、リベルタスとは雰囲気が違う。
街は碁盤の目に区切られていて、遠くのほうには木造高層建築物が見える。
街の人もリベルタスとは違い、着流しや着物などが殆どで、異国情緒が感じられる。
五人はとりあえず、クエストの報告をするために、冒険者ギルドへ向かった。
一行は冒険者ギルドで報酬の『水中呼吸の指輪』を貰い、酒場で休憩を取った。
「この街、リベルタスとは全然雰囲気違うな」
「某は慣れているからな、リベルタスの方が異国に感じる」
「ねぇねぇ、このみたらし団子おいしいよ!」
「この国の名物って何かしら?」
「火山とか、温泉だな」
「甘酒追加で頼んで来るね~」
「結構変わった武器も多いですよね」
「そうだな、ここでしか売っていないものも結構あるな」
「おはぎと大福、追加で頼んでくるからね」
「エリっち! うっさい!」
「そんなに食べたら、太ってしまいますよ?」
「はぁい……」
エリーはしょぼんとしてしまう。
「そうだな、ここにも冒険者ギルドがあるから、何個かやってから帰ろうか」
「いいよ~」
「いいですね」
「分かった、だが今日はもう遅い、明日になってから案内しよう」
エリーはそうっと大福に手を伸ばすも、フェイにその手を叩かれ、再びしょぼん状態になってしまう。
五人は食事を取った後、旅館へ泊り、翌日に冒険者ギルドに行く事にした。
――『イトの国・冒険者ギルド』
この国の冒険者ギルドも、基本的には同じシステムである。
違うところは建物の外装と内装、中にいる人々の服装ぐらいだ。
ヒナはここに慣れているので、クエストを一つ受注して、皆の所へ戻った。
「これでどうだろう、『温泉の源泉を調べよ!』というやつだ。どうやら温泉の湧くところに魔物が出て、それを退治する、という内容だ。」
「うん、いいね、早速行こう」
「楽しみですね」
こうして五人は、クエストの場所へと向かった。
温泉の源泉はクナ火山の中腹にあり、山を登らねばならなかった。
一行は、とりあえず麓にある温泉を見てから、その水の流れを辿ることにしたのだ。
そこの温泉からは湯気が大量に出ていて、見るからに高温になっているようだった。
「これは指入れたら火傷しそうだな」
「江戸っ子でも裸足で逃げ出すほどだよね」
「温泉が元に戻ったら、ひと浴びしたいわね」
「ちょっと硫黄臭いですね」
「火山が近いからな。さあ、水を流れを辿って行こう」
五人は水の流れを辿りながら、山を登って行った。
歩いて登ること十数分。温泉の源泉になっている泉を見つけた。
そこは激しく煮立っており、沸騰しつつ、蒸気を出していた。
源泉の周りは何かの生き物の足跡が散乱していて、何者かがよく来ているようだ。
「この足跡、なんだろう?」
「魔物かな? この国なら鬼とか?」
「リベルタスの方じゃ見かけないものね」
「この足跡はどこへ続いているのでしょうか?」
「鬼の足跡に似ているが、それよりも大きいな。何者だろうか?」
「とりあえず足跡を辿ってみよう」
そうクロウが言い、一行はその足跡を追跡して行った。
その足跡の行先は洞窟へと入って行ったようだ。
「洞窟か……、ここに住んでいるのか?」
「罠があるかもしれないから、あたしが先行くよ」
エリーはそう言って、先頭を歩き、罠が無いかを調べつつ進んだ。
足跡は洞窟の奥へと続いていて、それを追いながら慎重に進む。
洞窟の先では道が二手に分かれていて、足跡は右側にだけ続いている。
「やっぱ、足跡がある右側?」
「そうだな、そっちを先に探そう」
五人は右側の洞窟へ足を進める。
右の洞窟を進むと、その先は崖のような穴になっていて、下へと洞窟は続いていた。
「足跡はここで終わりね、この崖を降りたのかしら?」
「そうとしか考えられませんね」
「どうやって降りたのだ……? 空でも飛んだのか?」
崖は切り立っており、その底は見えない。……かなり高いようだ。
「ちょっとここ、調べてみよう」
エリーがそう言って、皆で何かないかと探し始めた。
その時である、崖下から何者かが飛び上がってきたのだ。
「ひぃっ!?」
驚きのあまり尻もちをついてしまうヒナ。
その飛び上がって来た者は、一本足の姿に両腕が生えている生き物だった。
彼はこちらを無視して、両腕でバランスを取りつつ、洞窟の入り口へ跳ねて行った。
「追うぞ!」
クロウがそう言い、五人はその一本足の姿の者を追って行った。
一本足の姿の者は、洞窟を出て温泉の源泉の方へ向かって行った。
一行も彼に追いつこうと足を速め、ちょうど源泉の辺りで追いつく。
彼は煮立っている温泉の源泉を桶で汲み上げると、こちらを振り返った。
その姿は、一本足に一つ目、両腕は二本ある、そんな生き物だった。
「なんだぁ、おんしら、おいらの邪魔するでねぇ。親方にしかられんぞ?」
そう言って、彼はこちらの頭上を一跳びで飛び越えて、洞窟へと戻って行った。
「なんだあれは?」
「おそらく、『一本だたら』という妖怪だ」
「こっちに攻撃してこなかったね」
「ウチらに敵意は無いみたいね」
「親方というのは、誰でしょうか?」
「わからん……。だが、あの崖の下にいるのは間違いないようだな」
「その親方というのがカギを握っているようだな」
五人は再び洞窟へ入り、一本だたらを追って行った。
一行は崖のあるところで再び一本だたらに追いついた。
崖から飛び降りようとする一本だたらに、クロウが飛びついて捕らえようとする。
だが一本だたらは、クロウにしがみつかれたまま飛び降りてしまった。
「アッーーー!」
「クロ!」
クロウも崖下へ落ちて行ってしまう。
「大丈夫かしら?」
フェイが崖下を覗き込んだ。
するとすぐに、崖下からクロウが飛び上がって来た。
「クロさん!」
「生きてたか!」
四人の頭上を飛び越し、地面に着地したクロウ。
「この下はトランポリンとかそういうのになってて、落ちても平気だった」
「そうなの?」
「見ての通り怪我一つ無い。ここから降りよう」
そう言ってクロウは再び飛び降りた。
皆、半信半疑であったが、ここを落ちるしかなさそうなので、一人ずつ飛び降りた。
確かにクロウの言うように、崖下はクッションのように柔らかかった。
全員が無事に降りた後、洞窟の奥へと向かって行った。
その洞窟は奥へ行くほど気温が上がり、額には汗がにじみ出てきた。
奥の方から、金属を打つ音が聞こえてくる……。
そこにいるのが親方なのだろうか。
洞窟を抜けると広い空間になっていて、先程の一本だたらと一つ目の巨人がいた。
一つ目の巨人は刀を打っていて、火床には業火が燃え上がり、部屋を熱している。
加熱され真っ赤になった鉄を金床で打っていた一つ目の巨人は、こちらを見て喋る。
「なんだぁ? おんしら、なにしさ来た?」
ヒナが代表して答える。
「温泉の源泉が加熱されすぎてるので、その原因を調べに来のだ」
「ほうだか、だけんど、おいらが刀打ち終わるまで、火床は消せんど」
「何故、今ここで刀を打つのだ?」
「……雪女がよ、悪さしでかすんで、懲らしめちゃろうとな。あやつにゃ並みの刀じゃ効かん。そいで今、刀打っとるんじゃ」
「そうなのか、その雪女を倒したら、ここで刀を打つのは辞めてくれるか?」
「ええじゃろ。おんしらにできんとは思わんがの」
「約束だぞ!」
ヒナは皆と相談する。
「ということだ、雪女を倒せばいいらしい」
「どこにいるんだろ?」
「待ってくれ、今聞く」
ヒナは一本だたらから、雪女の居場所を聞き出した。
「ここから遠くないらしい。なんでも雪女が近くにいると、寒くて寝てられないらしいのだ」
「それで雪女を懲らしめようとしてるのか」
「そういうことだ。我らで倒すしかあるまい」
こうして五人は雪女の居場所へと向かった。
山を少し登ると、雪女が住むといういう洞窟があった。
その洞窟は氷で覆われていて、かなり寒そうである。
一行は警戒しつつ洞窟へ入って行く。
洞窟は凍えるように冷えていたが、あまり深くは無かった。
少し進んだ先に小部屋のようなものがあり、雪女らしき女性がいた。
その彼女の姿は青白い髪に白装束、そして雪のように白い肌をした美しい女だった。
「何奴じゃ? 妾に何用じゃ?」
ヒナが答える。
「一つ目の巨人が、其方がいると寒くて眠れんと言ってる」
「ふむ、勝手よの……。妾はここが気に入っておるのじゃ。他所へ行くのは其方らのほうじゃ」
「聞き分けのないやつだな、斬るぞ……」
ヒナは刀に手をかけた。
「小娘! 百年早ようぞ!」
ヒナが雪女に斬りかかり、戦闘が始まった。
一行は武器を構え、雪女に攻撃を開始した。
「健康分析! 彼女は雪女の『雪子』よ。冷え性に悩んでいるわ」
「みりゃ分かるわ!」
そう話していると、雪女が氷の魔法を飛ばしてくる。
五人はそれぞれその魔法を躱し、攻撃に移る。
クロウが『フルティン』で斬りかかるも、すぐに凍らされて硬くなってしまった。
ヒナの斬撃が彼女を斬るも、彼女は雪で出来ているのか、手ごたえが無い。
リノの銃撃も雪女の体を貫くも、効果は無いようだ。
エリーの背後からの奇襲も同じであった。
「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」
フェイが元テニス選手を呼び出した。
炎の精霊の熱さに雪女はたじろぐも、氷魔法を飛ばしてくる。
炎の精霊は雪女の氷魔法をすべてラケットで撃ち落とした。
その隙にヒナの激しい突きが雪女の体を貫く。
「なんだと!?」
だが、ヒナの刀は雪女の体の中で凍り付き、ついに折れてしまった。
ヒナは折れた刀を抜き、一度引いて距離を取る。
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この沈黙を破ったのはリノだった。
「ヒナさん、これを!」
リノは鞄から何かを取り出し、ヒナに投げ渡した。
ヒナはそれを受け取る。
「これは……、『タバスコ』か!」
ヒナはタバスコの底を折れた刀に突き刺し、フタを開ける。
その状態で雪女の口めがけて神速の突きを放つ。
雪女はその突きを寸での所で躱すも、数滴、口の中に入ってしまったようだ
「ぐあぁぁぁっ! 辛いぃぃぃっ! 服にシミがぁぁぁっ!」
雪女の舌が赤く染まり苦しみだした上に、白装束に赤い点がついてしまい嘆き叫ぶ。
その時クロウは、炎の精霊の尻にフルティンを押し付け、剣を熱していた。
その熱くなったフルティンを、雪女に叩きつける。
「ぐおぉっ! 熱いっ! 溶ける! 体が!」
雪女はそう叫ぶと、体の一部が溶け始め、人の姿を保てなくなってくる。
最後にヒナが、雪女の口の中にタバスコの刺さった刀を突っ込み、トドメを刺した。
「厄介な敵だったな……」
「フェイが炎魔法使えればね~」
「熱いのは精霊だけで充分なのよ」
「カバンにタバスコが入ってて、良かったです」
「何故そんな物を……。だが助かった、礼を言う。」
五人は雪女を溶かし、一つ目の巨人の所へ戻って行った。
一つ目の巨人の部屋の火床は、すでに消えていた。
「おんしら、雪女を倒したんか。おいらが打った刀、用済みじゃの。おんしらにくれてやる。持ってけ」
そう言って一つ目の巨人は、ヒナに刀を渡した。
刀は刀身だけであったが、乱刃が炎のように美しく、名刀のような気品があった。
「これは美しい刀だな……、名をなんという?」
「おんしのすきにせい、おいらはもう寝る。じゃあの」
そう言って、一つ目巨人は横になり、いびきをかいて眠り始めた。
「親方ぁ~……、一度眠っちまうと数年は起きん。おいらは……」
一本だたらは悲しそうに嘆き始めた。
だが、彼らにできる事は何も無さそうだった……。
ヒナが一つ目巨人から貰った刀を見つめて呟いた。
「この刀は、『雪食一眼』と名付けよう」
こうして温泉の源泉の問題を解決した五人は、イトの街へと戻った。
一行はクエストを達成し、報酬を受け取った。
そして、ヒナは『雪食一眼』の柄や鞘を新しく作り、自分の愛刀とした。
この刀は炎属性の太刀で、Sランク相当の名刀であった。
こうして冒険を終えた五人は、街の旅館で休息を取り、次に備えるのであった。
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良かったら読んでください!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
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【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
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勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
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一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
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「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
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かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
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人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
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気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
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ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
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これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
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