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第二部
第28話 憤怒、盗まれた名剣
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――一行は『イトの国』の温泉に浸かり、体を休めていた。
前回の冒険で冷えた体と、疲れた体を癒すためである。
温泉は露天になっており、そこから見上げるクナ火山の噴煙は格別なものだった。
「エリっち、温泉の中で食べ物は禁止だよ」
「フェイはお酒飲んでるじゃん!」
「飲み物はいいの!」
「一口ちょうだい!」
「ダメ! 自分で頼みなよ!」
この二人はどこへ行ってもやかましい。
リノはタオルの下に銃を隠し持ち、頭の上に乗せ、首まで浸かっていた。
ヒナは座禅を組み目を閉じ、滝に打たれつつ何かの修行をしているようだった。
たまにはこうしてのんびりするのも悪くない。一行はそう思っていた。
温泉から上がり、脱衣所で浴衣に着替える女性陣。
突然、男子脱衣所からクロウの叫びが聞こえてきた。
「ああっ! やばい! 盗まれた! 俺の『フルティン』が!!」
(下ネタにしか聞こえないわ……)
フェイはそう思ったが、黙っていた。
浴衣姿で旅館の廊下を駆け抜けるクロウ。
女性陣はその姿に呆れつつも、浴衣で彼の後を追った。
クロウは旅館の玄関の外で左右を見て、何かを探している。
そこへ女性陣がやってきた。
「剣、盗まれたの?」
「ああ……」
「股の下でしっかり持っておけば良かったのに」
「あんな大きい物ぶら下げてられるか!」
「盗んだ人は見たのですか?」
「忍者らしい、旅館の人が洋剣を持った忍者が走って行くのを見たそうだ。」
「忍者か……、目立たぬ恰好をしているから見つけにくいな……」
「それが、全身赤い装束をしていたらしい……」
「忍んでないよね……」
「通常の三倍の速さかもしれないわね」
「そんなに目立つ格好をしているなら、目撃した人も多そうですよね」
「見ろ! あれは!」
ヒナが叫び、指差した。
その方向には全身赤い装束の忍者が、長い物を持ち、屋根の上を走っていた。
((((あれか!))))
四人は思った。目立ちすぎだろ、と。
だが逃げられる訳にはいかない。
クロウは、
「追うぞ!」
と叫んで、彼を追って行った。
戸惑う女性陣。
ヒナは、
「某が情報を集めてくる、クロウを頼む」
そう言って、別な方へ走って行った。
残された三人は、仕方なく、クロウを追った。
道の真ん中で左右を見廻し、忍者を探すクロウ。
そこに三人が追い付いてきた。
「どうしたの? 逃げられた?」
「あの建物の向こう側に飛び降りて行った」
「撒かれたのね。でもあの格好なら誰か見ているはずよ」
「だといいんだが……」
「ヒナさんが情報を集めに行っているそうです」
「そうか、助かるな……」
「一度合流したら? 浴衣で街中歩くわけにもいかないしね」
「そうだな……」
諦めきれないクロウをなだめつつ、四人は旅館へ戻って行った。
旅館の部屋に戻り、ヒナと合流した一行。
ヒナは聞いてきた情報を皆に話した。
「奴はこの国で最近有名になった、忍者の泥棒らしい」
「あの格好じゃ目立つしね……」
「なんでも、彗星のように逃げ足が速いことから、『赤い彗星』という異名で呼ばれているようだ」
「やっぱり通常の三倍速いのかしら?」
「否、精々三割増し程度だそうだ」
「どこに住んでいるかとかの情報は無いのでしょうか?」
「クナ火山の麓の森の中にいるらしいが、詳しくは聞けなかった」
「とりあえず、そこに行ってみるしかないな」
「待て、奴は既に手配されている。冒険者ギルドでクエストを受けられるはずだ」
ヒナの助言に従い、ギルドでクエストを受け、五人はクナ火山の麓の森へ向かった。
クナ火山の麓の森は広くは無いが、同じような木が乱立していて迷い易いようだ。
一行は盗まれた『フルティン』の手がかりを探しに、この森へ来たのだ。
そして、それはすぐに見つかった。
森の入り口に看板が掛けてあり、その看板には、
[忍者商店・レッド ~各種名刀名剣販売します~ この先百米左折]
と書かれていた。
「これ……、やっぱりアイツかな?」
「そうかも……、目立ちたがりっぽいしね……」
「手配されてるのにこんなに目立ってどうするのかしら?」
「どうなんでしょう……」
「まだ捕まってないということは、逃げ切れる自信があるのかもしれんな……」
看板の表示に従い、百米進み、左折する。そして進むと、粗末な小屋が見えてきた。
「ここか……」
そう思い、小屋の扉を開ける。中は色々な武器が展示されてあり、店になっていた。
小屋に客が来たのを察知した赤装束の忍者が、天井から降りてきた。
「いらっしゃい、何か欲しいのはあるかい?」
彼はそう言った。
「盗んだ俺の剣を返してもらおうか!」
クロウは怒りを抑えつつ、彼に言い放った。
「あんた、何を言ってるんだい? この店は盗品なんか扱っちゃいないし、置いてもない。冷やかしならとっとと帰るんだな」
「お前……、その赤い忍者装束、見ていたぞ!」
「赤い忍者装束ならどこにでもあるだろ? それだけで因縁つけるのは勘弁してほしいね。客じゃ無いなら帰ってくれ」
「くっ……」
「クロウ、一旦出よう」
ヒナにそう言われ、一行は店の外に出ることにした。
その店から離れ、一行は相談し始めた。
「くそっ! 何なんだあいつは!」
クロウは怒りを抑えきれず、木の幹に蹴りを入れる。
「ま~ま~、そう怒らないで冷静になろうよ」
「あの赤忍者が盗んだ事を認めるか、証拠を見つけるかしないと、堂々巡りだわね」
「そうですね……、どうしたらいいのでしょう?」
「ふむ、奴が捕まらないのはこういう理由だったのか……」
「じゃあどうするの? 盗み返す?」
「盗み返してボコボコにして海に沈めたい!」
「知性のかけらも無いわね~」
「俺の怒りが有頂天に達したんだよ!」
「盗まれた証拠か、剣を見つけないとですね」
「そうだな、奴を尾行してみるとか?」
「う~む、そうするしかないか……」
「二手に分かれようよ、ここを見張る役と、街中を見張る役」
「分かった、こうしよう……」
こうしてエリー、フェイ、リノがここに残り、クロウ、ヒナが街を見張ることにした。
――そしてその夜、小屋を見張る三人……。
夜になると、赤忍者は小屋を出て、どこかへ向かった。
街の方ではないようだが……。
「あたしが赤忍者を追うから、フェイとリノはここをお願い」
「ウチは召喚魔法であの小屋を調べてみるわ」
「私は小屋の周囲を見張りますね」
こうして三人はそれぞれ散った。
赤忍者を追うエリー。
(あいつ足速いな……、三倍ほど早くは無いけど……)
(どこに向かってるんだろ? 街の方向じゃないよね……)
そう思いつつ、赤忍者を追跡していた。
フェイは召喚ミニゴーレムに赤忍者の小屋を調べさせていた。
(クロっちの剣はここにないみたいね……)
(ここにあるのは全部盗品なのかな? 盗品リストでも貰ってくればよかった……)
フェイは手がかりになるものを何も見つけていないようだ。
リノは小屋の周囲を警戒していた。
(おかしいですね、小屋になんの罠も仕掛けられてないなんて)
(中の物を盗まれてもいいのでしょうか?)
(……! あれは……?)
リノは何か見つけたようだ。
ヒナはイトの国の街中で、さらに情報を集めていた。
(おかしい、あの小屋にあるのが盗品ならば、誰かが気づくはずだ……)
(誰も気づかないという事は、あれは盗品ではないのか? 否、そんなはずは……)
(そこの武器屋でも聞いてみるか……)
ヒナは街中で情報を集めているが、今のところ成果はなかった。
クロウは街中の繁華街の茶屋から屋根を見上げ、赤忍者を探していた。
(しかし、どうしたもんかな……。あの剣に目印でもつけておけばよかった)
(赤忍者は街へ来るのかな……? まさか一晩中小屋にいるわけじゃないよな……)
「あなた、何か探しているのね?」
クロウに声をかける女がいた。
「えっ……!? 君は?」
知らない女だった。彼女は巫女の装束を身に纏い、神秘的な雰囲気を持っていた。
「フフッ、あなたの探し物はすぐ見つかるわ。仲間を信用しなさい」
その女はそう言い残し、去って行った。
(誰だ、あれ……?)
クロウは見ず知らずの巫女に声をかけられ、ナンパされてるのかと期待した。
だが、違ったようなので、がっかりしてしまった……。
――時は深夜、日付が変わる頃。
一行は予定通り、小屋の外れの森の中で集まった。情報を整理する為である。
その場には、エリーを除く四人がいた。
「ウチはあの小屋調べたけど、手がかりは無かったわ」
「某も街の中で聞き込みをしたが、何も得られなかった」
「私は小屋の近くの井戸に何か仕掛けがあるのを見ましたが、専門ではないので……」
「俺は……」
その時、エリーが駆けつけてきた。
「ゴメン、遅くなって。途中で赤忍者に撒かれちゃってさ~」
クロウはおもむろに腰の袋から包みを取り出し、地面に投げた。
……その包みからは、おはぎがこぼれ落ち、土の上を転がった。
「おい、どうしたんだ、一体……」
エリーがそう言い終わらないうちに、リノが内股に隠してあった銃を抜き、エリーの肩を撃った。
「痛っ……な……、これは……?」
戸惑うエリー。だが次の瞬間、クロウがエリーの顔面を殴り飛ばした。
彼に殴り飛ばされ、地面を転がるエリー……。
彼女はゆっくりと起き上がると、
「バレていたか……」
エリーの声では無い、別の声で言った。
「エリーはどこだ?」
クロウが静かに言った。
「さあな? 撒いちまったよ」
ヒナが刀を抜き、エリーの前髪を切り落とす。
その頭からかぶり物の髪が落ち、顔の覆面がはがれ始めた。
「知らねぇよ……」
フェイの合図と共に、赤忍者の小屋が爆発、炎上した。
赤忍者は小屋の方を見つめ、
「あんたら、こんな……うぐっ」
再びリノの銃撃が、今度は赤忍者の腿を撃ち抜く。
「いいか、もう一度だけ聞く、エリーはどこだ?」
「地下だ……」
赤忍者は観念したのか、そう呟いた。
四人は赤忍者を縛り上げ、井戸の下の地下へと降りて行った。
地下は小屋と同じくらいの広さの部屋があった。
数々の盗まれた武器が置いてあり、その陰の方にエリーは倒れていた。
リノはエリーを助け起こした。眠っていただけらしい。
「ん……、朝……?」
エリーは寝ぼけていたが、無事なようだ。
「へへっ、もういいだろ?」
赤忍者はそう言い、逃げようとした。
「いや、今までが質問タイム。これからがお仕置きタイムだ」
クロウはそう言うと、赤忍者を部屋の柱に縛り付けた。
そしてエリーに近づき、その安否を自分の目で確認すると、やっと安心したようだ。
次に、盗品の武器の方へ目を向ける……。
……さっき縛り付けた赤忍者がいない。
「『空蝉の術』だ……」
赤忍者はそう言いつつ、リノの背後に立ち、彼女を人質に取ろうとした。
「おっと、動くなよ!」
……三人が赤忍者を憐れむような目で見つめた。
次の瞬間、赤忍者はリノに投げ飛ばされる。
彼は背中から床に落ち、肺の中の空気を一気に吐き出し、悶絶した。
「げぇほっ!」
そこへリノの銃撃が続けて二発、撃ち込まれた。
「ぐぁっ!」
「完全治癒!」
リノの回復魔法が赤忍者の傷を癒した。そのことに驚く赤忍者。
だが、リノはさらに立て続けに四発発砲して、彼の四肢を撃ち抜いたのだった。
「ひいっ……、た、助けてくれ……」
赤忍者はその恐ろしさに、思わず命乞いをしてしまう。
その赤忍者の額に銃を近づけるリノ。
「私の後ろに立たないでもらえますか……」
(撃つ前に言ったほうが……)
クロウはそう思ったが、とても口を挟める雰囲気ではなかった。
それからリノの回復魔法が赤忍者に何回かけられたかは、知らない方がいいだろう……。
その後、一行は冒険者ギルドに報告し、赤忍者と盗品と引き取ってもらった。
クロウは『フルティン』を取り戻し、クエストの報告もこの時に終わらせた。
こうして盗まれた剣は元に戻り、イトの街にも平和が戻った。
五人はこの街でもう一泊することにし、ゆっくり休む事にしたのであった。
前回の冒険で冷えた体と、疲れた体を癒すためである。
温泉は露天になっており、そこから見上げるクナ火山の噴煙は格別なものだった。
「エリっち、温泉の中で食べ物は禁止だよ」
「フェイはお酒飲んでるじゃん!」
「飲み物はいいの!」
「一口ちょうだい!」
「ダメ! 自分で頼みなよ!」
この二人はどこへ行ってもやかましい。
リノはタオルの下に銃を隠し持ち、頭の上に乗せ、首まで浸かっていた。
ヒナは座禅を組み目を閉じ、滝に打たれつつ何かの修行をしているようだった。
たまにはこうしてのんびりするのも悪くない。一行はそう思っていた。
温泉から上がり、脱衣所で浴衣に着替える女性陣。
突然、男子脱衣所からクロウの叫びが聞こえてきた。
「ああっ! やばい! 盗まれた! 俺の『フルティン』が!!」
(下ネタにしか聞こえないわ……)
フェイはそう思ったが、黙っていた。
浴衣姿で旅館の廊下を駆け抜けるクロウ。
女性陣はその姿に呆れつつも、浴衣で彼の後を追った。
クロウは旅館の玄関の外で左右を見て、何かを探している。
そこへ女性陣がやってきた。
「剣、盗まれたの?」
「ああ……」
「股の下でしっかり持っておけば良かったのに」
「あんな大きい物ぶら下げてられるか!」
「盗んだ人は見たのですか?」
「忍者らしい、旅館の人が洋剣を持った忍者が走って行くのを見たそうだ。」
「忍者か……、目立たぬ恰好をしているから見つけにくいな……」
「それが、全身赤い装束をしていたらしい……」
「忍んでないよね……」
「通常の三倍の速さかもしれないわね」
「そんなに目立つ格好をしているなら、目撃した人も多そうですよね」
「見ろ! あれは!」
ヒナが叫び、指差した。
その方向には全身赤い装束の忍者が、長い物を持ち、屋根の上を走っていた。
((((あれか!))))
四人は思った。目立ちすぎだろ、と。
だが逃げられる訳にはいかない。
クロウは、
「追うぞ!」
と叫んで、彼を追って行った。
戸惑う女性陣。
ヒナは、
「某が情報を集めてくる、クロウを頼む」
そう言って、別な方へ走って行った。
残された三人は、仕方なく、クロウを追った。
道の真ん中で左右を見廻し、忍者を探すクロウ。
そこに三人が追い付いてきた。
「どうしたの? 逃げられた?」
「あの建物の向こう側に飛び降りて行った」
「撒かれたのね。でもあの格好なら誰か見ているはずよ」
「だといいんだが……」
「ヒナさんが情報を集めに行っているそうです」
「そうか、助かるな……」
「一度合流したら? 浴衣で街中歩くわけにもいかないしね」
「そうだな……」
諦めきれないクロウをなだめつつ、四人は旅館へ戻って行った。
旅館の部屋に戻り、ヒナと合流した一行。
ヒナは聞いてきた情報を皆に話した。
「奴はこの国で最近有名になった、忍者の泥棒らしい」
「あの格好じゃ目立つしね……」
「なんでも、彗星のように逃げ足が速いことから、『赤い彗星』という異名で呼ばれているようだ」
「やっぱり通常の三倍速いのかしら?」
「否、精々三割増し程度だそうだ」
「どこに住んでいるかとかの情報は無いのでしょうか?」
「クナ火山の麓の森の中にいるらしいが、詳しくは聞けなかった」
「とりあえず、そこに行ってみるしかないな」
「待て、奴は既に手配されている。冒険者ギルドでクエストを受けられるはずだ」
ヒナの助言に従い、ギルドでクエストを受け、五人はクナ火山の麓の森へ向かった。
クナ火山の麓の森は広くは無いが、同じような木が乱立していて迷い易いようだ。
一行は盗まれた『フルティン』の手がかりを探しに、この森へ来たのだ。
そして、それはすぐに見つかった。
森の入り口に看板が掛けてあり、その看板には、
[忍者商店・レッド ~各種名刀名剣販売します~ この先百米左折]
と書かれていた。
「これ……、やっぱりアイツかな?」
「そうかも……、目立ちたがりっぽいしね……」
「手配されてるのにこんなに目立ってどうするのかしら?」
「どうなんでしょう……」
「まだ捕まってないということは、逃げ切れる自信があるのかもしれんな……」
看板の表示に従い、百米進み、左折する。そして進むと、粗末な小屋が見えてきた。
「ここか……」
そう思い、小屋の扉を開ける。中は色々な武器が展示されてあり、店になっていた。
小屋に客が来たのを察知した赤装束の忍者が、天井から降りてきた。
「いらっしゃい、何か欲しいのはあるかい?」
彼はそう言った。
「盗んだ俺の剣を返してもらおうか!」
クロウは怒りを抑えつつ、彼に言い放った。
「あんた、何を言ってるんだい? この店は盗品なんか扱っちゃいないし、置いてもない。冷やかしならとっとと帰るんだな」
「お前……、その赤い忍者装束、見ていたぞ!」
「赤い忍者装束ならどこにでもあるだろ? それだけで因縁つけるのは勘弁してほしいね。客じゃ無いなら帰ってくれ」
「くっ……」
「クロウ、一旦出よう」
ヒナにそう言われ、一行は店の外に出ることにした。
その店から離れ、一行は相談し始めた。
「くそっ! 何なんだあいつは!」
クロウは怒りを抑えきれず、木の幹に蹴りを入れる。
「ま~ま~、そう怒らないで冷静になろうよ」
「あの赤忍者が盗んだ事を認めるか、証拠を見つけるかしないと、堂々巡りだわね」
「そうですね……、どうしたらいいのでしょう?」
「ふむ、奴が捕まらないのはこういう理由だったのか……」
「じゃあどうするの? 盗み返す?」
「盗み返してボコボコにして海に沈めたい!」
「知性のかけらも無いわね~」
「俺の怒りが有頂天に達したんだよ!」
「盗まれた証拠か、剣を見つけないとですね」
「そうだな、奴を尾行してみるとか?」
「う~む、そうするしかないか……」
「二手に分かれようよ、ここを見張る役と、街中を見張る役」
「分かった、こうしよう……」
こうしてエリー、フェイ、リノがここに残り、クロウ、ヒナが街を見張ることにした。
――そしてその夜、小屋を見張る三人……。
夜になると、赤忍者は小屋を出て、どこかへ向かった。
街の方ではないようだが……。
「あたしが赤忍者を追うから、フェイとリノはここをお願い」
「ウチは召喚魔法であの小屋を調べてみるわ」
「私は小屋の周囲を見張りますね」
こうして三人はそれぞれ散った。
赤忍者を追うエリー。
(あいつ足速いな……、三倍ほど早くは無いけど……)
(どこに向かってるんだろ? 街の方向じゃないよね……)
そう思いつつ、赤忍者を追跡していた。
フェイは召喚ミニゴーレムに赤忍者の小屋を調べさせていた。
(クロっちの剣はここにないみたいね……)
(ここにあるのは全部盗品なのかな? 盗品リストでも貰ってくればよかった……)
フェイは手がかりになるものを何も見つけていないようだ。
リノは小屋の周囲を警戒していた。
(おかしいですね、小屋になんの罠も仕掛けられてないなんて)
(中の物を盗まれてもいいのでしょうか?)
(……! あれは……?)
リノは何か見つけたようだ。
ヒナはイトの国の街中で、さらに情報を集めていた。
(おかしい、あの小屋にあるのが盗品ならば、誰かが気づくはずだ……)
(誰も気づかないという事は、あれは盗品ではないのか? 否、そんなはずは……)
(そこの武器屋でも聞いてみるか……)
ヒナは街中で情報を集めているが、今のところ成果はなかった。
クロウは街中の繁華街の茶屋から屋根を見上げ、赤忍者を探していた。
(しかし、どうしたもんかな……。あの剣に目印でもつけておけばよかった)
(赤忍者は街へ来るのかな……? まさか一晩中小屋にいるわけじゃないよな……)
「あなた、何か探しているのね?」
クロウに声をかける女がいた。
「えっ……!? 君は?」
知らない女だった。彼女は巫女の装束を身に纏い、神秘的な雰囲気を持っていた。
「フフッ、あなたの探し物はすぐ見つかるわ。仲間を信用しなさい」
その女はそう言い残し、去って行った。
(誰だ、あれ……?)
クロウは見ず知らずの巫女に声をかけられ、ナンパされてるのかと期待した。
だが、違ったようなので、がっかりしてしまった……。
――時は深夜、日付が変わる頃。
一行は予定通り、小屋の外れの森の中で集まった。情報を整理する為である。
その場には、エリーを除く四人がいた。
「ウチはあの小屋調べたけど、手がかりは無かったわ」
「某も街の中で聞き込みをしたが、何も得られなかった」
「私は小屋の近くの井戸に何か仕掛けがあるのを見ましたが、専門ではないので……」
「俺は……」
その時、エリーが駆けつけてきた。
「ゴメン、遅くなって。途中で赤忍者に撒かれちゃってさ~」
クロウはおもむろに腰の袋から包みを取り出し、地面に投げた。
……その包みからは、おはぎがこぼれ落ち、土の上を転がった。
「おい、どうしたんだ、一体……」
エリーがそう言い終わらないうちに、リノが内股に隠してあった銃を抜き、エリーの肩を撃った。
「痛っ……な……、これは……?」
戸惑うエリー。だが次の瞬間、クロウがエリーの顔面を殴り飛ばした。
彼に殴り飛ばされ、地面を転がるエリー……。
彼女はゆっくりと起き上がると、
「バレていたか……」
エリーの声では無い、別の声で言った。
「エリーはどこだ?」
クロウが静かに言った。
「さあな? 撒いちまったよ」
ヒナが刀を抜き、エリーの前髪を切り落とす。
その頭からかぶり物の髪が落ち、顔の覆面がはがれ始めた。
「知らねぇよ……」
フェイの合図と共に、赤忍者の小屋が爆発、炎上した。
赤忍者は小屋の方を見つめ、
「あんたら、こんな……うぐっ」
再びリノの銃撃が、今度は赤忍者の腿を撃ち抜く。
「いいか、もう一度だけ聞く、エリーはどこだ?」
「地下だ……」
赤忍者は観念したのか、そう呟いた。
四人は赤忍者を縛り上げ、井戸の下の地下へと降りて行った。
地下は小屋と同じくらいの広さの部屋があった。
数々の盗まれた武器が置いてあり、その陰の方にエリーは倒れていた。
リノはエリーを助け起こした。眠っていただけらしい。
「ん……、朝……?」
エリーは寝ぼけていたが、無事なようだ。
「へへっ、もういいだろ?」
赤忍者はそう言い、逃げようとした。
「いや、今までが質問タイム。これからがお仕置きタイムだ」
クロウはそう言うと、赤忍者を部屋の柱に縛り付けた。
そしてエリーに近づき、その安否を自分の目で確認すると、やっと安心したようだ。
次に、盗品の武器の方へ目を向ける……。
……さっき縛り付けた赤忍者がいない。
「『空蝉の術』だ……」
赤忍者はそう言いつつ、リノの背後に立ち、彼女を人質に取ろうとした。
「おっと、動くなよ!」
……三人が赤忍者を憐れむような目で見つめた。
次の瞬間、赤忍者はリノに投げ飛ばされる。
彼は背中から床に落ち、肺の中の空気を一気に吐き出し、悶絶した。
「げぇほっ!」
そこへリノの銃撃が続けて二発、撃ち込まれた。
「ぐぁっ!」
「完全治癒!」
リノの回復魔法が赤忍者の傷を癒した。そのことに驚く赤忍者。
だが、リノはさらに立て続けに四発発砲して、彼の四肢を撃ち抜いたのだった。
「ひいっ……、た、助けてくれ……」
赤忍者はその恐ろしさに、思わず命乞いをしてしまう。
その赤忍者の額に銃を近づけるリノ。
「私の後ろに立たないでもらえますか……」
(撃つ前に言ったほうが……)
クロウはそう思ったが、とても口を挟める雰囲気ではなかった。
それからリノの回復魔法が赤忍者に何回かけられたかは、知らない方がいいだろう……。
その後、一行は冒険者ギルドに報告し、赤忍者と盗品と引き取ってもらった。
クロウは『フルティン』を取り戻し、クエストの報告もこの時に終わらせた。
こうして盗まれた剣は元に戻り、イトの街にも平和が戻った。
五人はこの街でもう一泊することにし、ゆっくり休む事にしたのであった。
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しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
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