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日向の夢3 お菓子の家
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「ほら、うちはもうそこだ。ありがとうな、おふたりさん。うちに寄っていらっしゃるかな?」
ふたりの間の微妙な空気に気づかずに、旅人が声をかけてきた。
「ありがとう、おじさん──、お菓子の家?」
旅人の言葉に振り返ったジョシュが興奮した声を上げた。
旅人が示した家は、アーニーズのディスプレイに飾ってあったお菓子の家にそっくりだった。等身大なだけで。
昼間にお菓子の家のディスプレイを見たから、夜に夢を見ているのかもしれない。
お菓子の家に住む旅人なんて、まったく夢は荒唐無稽だ。
「本物のお菓子の家だ! 食べてもいいかなあ?」
「かまわないよ。また代わりの菓子を貼ればいいだけだからな」
興奮した口調のジョシュを、旅人が優しく見つめている。ジョシュは礼を言うと、壁のクッキーをはがして食べ始めた。
──このお菓子の家、子供のころ見た夢に出てきた家に似てるんだ。
昼間にジョシュがそんなことを言っていた。
まさかジョシュもこの夢を見たことがあるんだろうか。日向が考えていると、チョコレートでできた扉が開いた。
そこから出てきた女性の姿に、日向は思わず声を上げる。
「ミセス・ブラウン?」
その女性はアーニーズで、昼間に見た写真でウェディングドレスを着ていた若き日のミセス・ブラウンだった。
それで初めて日向は一緒にいた旅人が、写真で見た彼女の夫だということに気づく。
言われてみれば彼の格好は、軍服を着崩したようにも見えた。
「あなた、お帰りなさい」
「ただいま、ハニー」
旅人とミセス・ブラウンは扉の前で抱き合った。
これが愛し合うふたりだろうか。
ああ、これが夢じゃなかったらなあ、と日向は思う。そうしたら、プーカの羽根を治してやれたのに。
「あら、かわいいお客さんね」
クッキーをかじっているジョシュと日向に目をやったミセス・ブラウンが言った。
「この子たちは荷物を運んでくれてね。お茶でも用意してやってくれないか」
旅人──ミスター・ブラウンか。彼は日向から鞄を取りあげると、日向とジョシュの頭を撫でた。
「いいんですか、ありがとう!」
ジョシュは喜んで扉の中に入っていく。
日向も彼を追いかけて、示された室内のソファに座った。ソファもマシュマロのようにふわふわしていた。
ミセス・ブラウンはキッチンに引っ込み、ミスター・ブラウンがふたりの前に座った。
ジョシュは日向にべったりと体を預けて、甘えるしぐさをしている。
そんな彼の髪を撫でてやりながら、自分たちに向けられた優しそうな眼差しを見て、日向は尋ねた。
「あの、奥さんと遠く離れたところに行くのは怖くなかったですか」
もう会えないかもしれないのに。
だってこの人は軍人だ。
彼は考え込むように指を自分の顎にあてた。
「そうだね。怖くないことはなかったけれど。いつかは遠く離れたところに行くからね」
「あ……」
彼の言っているいつかが、彼が死んだあとのことを指しているとわかって日向は息を止める。
ふたりの話を理解しているのかいないのか、ジョシュが話に入ってきた。
「ぼくたちは塔を目指してるんだけど、おじさんは塔には行かないの?」
「もちろん行くさ。みんな行くんだから。ただ、家でもう少しのんびりしてからな」
「そうだね、ぼくもこのお家でもっとゆっくりしたい」
ちょうどそのときミセス・ブラウンがティーポットを持って戻ってきた。
日向とジョシュはお礼を言う。
「そうだなあ、坊や。うちにいるのは構わないが、きみにはきみの家があると思う」
「ぼくの家? どこにあるんだろ?」
困ったように首をかしげた彼が自分を見てきたので、日向もつられて首をかしげる。
「さあねえ。見つけたらわかるだろう」
ふたりの間の微妙な空気に気づかずに、旅人が声をかけてきた。
「ありがとう、おじさん──、お菓子の家?」
旅人の言葉に振り返ったジョシュが興奮した声を上げた。
旅人が示した家は、アーニーズのディスプレイに飾ってあったお菓子の家にそっくりだった。等身大なだけで。
昼間にお菓子の家のディスプレイを見たから、夜に夢を見ているのかもしれない。
お菓子の家に住む旅人なんて、まったく夢は荒唐無稽だ。
「本物のお菓子の家だ! 食べてもいいかなあ?」
「かまわないよ。また代わりの菓子を貼ればいいだけだからな」
興奮した口調のジョシュを、旅人が優しく見つめている。ジョシュは礼を言うと、壁のクッキーをはがして食べ始めた。
──このお菓子の家、子供のころ見た夢に出てきた家に似てるんだ。
昼間にジョシュがそんなことを言っていた。
まさかジョシュもこの夢を見たことがあるんだろうか。日向が考えていると、チョコレートでできた扉が開いた。
そこから出てきた女性の姿に、日向は思わず声を上げる。
「ミセス・ブラウン?」
その女性はアーニーズで、昼間に見た写真でウェディングドレスを着ていた若き日のミセス・ブラウンだった。
それで初めて日向は一緒にいた旅人が、写真で見た彼女の夫だということに気づく。
言われてみれば彼の格好は、軍服を着崩したようにも見えた。
「あなた、お帰りなさい」
「ただいま、ハニー」
旅人とミセス・ブラウンは扉の前で抱き合った。
これが愛し合うふたりだろうか。
ああ、これが夢じゃなかったらなあ、と日向は思う。そうしたら、プーカの羽根を治してやれたのに。
「あら、かわいいお客さんね」
クッキーをかじっているジョシュと日向に目をやったミセス・ブラウンが言った。
「この子たちは荷物を運んでくれてね。お茶でも用意してやってくれないか」
旅人──ミスター・ブラウンか。彼は日向から鞄を取りあげると、日向とジョシュの頭を撫でた。
「いいんですか、ありがとう!」
ジョシュは喜んで扉の中に入っていく。
日向も彼を追いかけて、示された室内のソファに座った。ソファもマシュマロのようにふわふわしていた。
ミセス・ブラウンはキッチンに引っ込み、ミスター・ブラウンがふたりの前に座った。
ジョシュは日向にべったりと体を預けて、甘えるしぐさをしている。
そんな彼の髪を撫でてやりながら、自分たちに向けられた優しそうな眼差しを見て、日向は尋ねた。
「あの、奥さんと遠く離れたところに行くのは怖くなかったですか」
もう会えないかもしれないのに。
だってこの人は軍人だ。
彼は考え込むように指を自分の顎にあてた。
「そうだね。怖くないことはなかったけれど。いつかは遠く離れたところに行くからね」
「あ……」
彼の言っているいつかが、彼が死んだあとのことを指しているとわかって日向は息を止める。
ふたりの話を理解しているのかいないのか、ジョシュが話に入ってきた。
「ぼくたちは塔を目指してるんだけど、おじさんは塔には行かないの?」
「もちろん行くさ。みんな行くんだから。ただ、家でもう少しのんびりしてからな」
「そうだね、ぼくもこのお家でもっとゆっくりしたい」
ちょうどそのときミセス・ブラウンがティーポットを持って戻ってきた。
日向とジョシュはお礼を言う。
「そうだなあ、坊や。うちにいるのは構わないが、きみにはきみの家があると思う」
「ぼくの家? どこにあるんだろ?」
困ったように首をかしげた彼が自分を見てきたので、日向もつられて首をかしげる。
「さあねえ。見つけたらわかるだろう」
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