きみと探す妖精物語

楢川えりか

文字の大きさ
9 / 15

日向の夢3 お菓子の家

しおりを挟む
「ほら、うちはもうそこだ。ありがとうな、おふたりさん。うちに寄っていらっしゃるかな?」

 ふたりの間の微妙な空気に気づかずに、旅人が声をかけてきた。

「ありがとう、おじさん──、お菓子の家?」

 旅人の言葉に振り返ったジョシュが興奮した声を上げた。
 旅人が示した家は、アーニーズのディスプレイに飾ってあったお菓子の家にそっくりだった。等身大なだけで。
 昼間にお菓子の家のディスプレイを見たから、夜に夢を見ているのかもしれない。
 お菓子の家に住む旅人なんて、まったく夢は荒唐無稽だ。

「本物のお菓子の家だ! 食べてもいいかなあ?」
「かまわないよ。また代わりの菓子を貼ればいいだけだからな」

 興奮した口調のジョシュを、旅人が優しく見つめている。ジョシュは礼を言うと、壁のクッキーをはがして食べ始めた。

 ──このお菓子の家、子供のころ見た夢に出てきた家に似てるんだ。

 昼間にジョシュがそんなことを言っていた。
 まさかジョシュもこの夢を見たことがあるんだろうか。日向が考えていると、チョコレートでできた扉が開いた。
 そこから出てきた女性の姿に、日向は思わず声を上げる。

「ミセス・ブラウン?」

 その女性はアーニーズで、昼間に見た写真でウェディングドレスを着ていた若き日のミセス・ブラウンだった。
 それで初めて日向は一緒にいた旅人が、写真で見た彼女の夫だということに気づく。
 言われてみれば彼の格好は、軍服を着崩したようにも見えた。

「あなた、お帰りなさい」
「ただいま、ハニー」

 旅人とミセス・ブラウンは扉の前で抱き合った。
 これが愛し合うふたりだろうか。
 ああ、これが夢じゃなかったらなあ、と日向は思う。そうしたら、プーカの羽根を治してやれたのに。

「あら、かわいいお客さんね」

 クッキーをかじっているジョシュと日向に目をやったミセス・ブラウンが言った。

「この子たちは荷物を運んでくれてね。お茶でも用意してやってくれないか」

 旅人──ミスター・ブラウンか。彼は日向から鞄を取りあげると、日向とジョシュの頭を撫でた。

「いいんですか、ありがとう!」

 ジョシュは喜んで扉の中に入っていく。
 日向も彼を追いかけて、示された室内のソファに座った。ソファもマシュマロのようにふわふわしていた。
 ミセス・ブラウンはキッチンに引っ込み、ミスター・ブラウンがふたりの前に座った。
 ジョシュは日向にべったりと体を預けて、甘えるしぐさをしている。
 そんな彼の髪を撫でてやりながら、自分たちに向けられた優しそうな眼差しを見て、日向は尋ねた。

「あの、奥さんと遠く離れたところに行くのは怖くなかったですか」

 もう会えないかもしれないのに。
 だってこの人は軍人だ。
 彼は考え込むように指を自分の顎にあてた。 

「そうだね。怖くないことはなかったけれど。いつかは遠く離れたところに行くからね」
「あ……」

 彼の言っているいつかが、彼が死んだあとのことを指しているとわかって日向は息を止める。
 ふたりの話を理解しているのかいないのか、ジョシュが話に入ってきた。

「ぼくたちは塔を目指してるんだけど、おじさんは塔には行かないの?」
「もちろん行くさ。みんな行くんだから。ただ、家でもう少しのんびりしてからな」
「そうだね、ぼくもこのお家でもっとゆっくりしたい」

 ちょうどそのときミセス・ブラウンがティーポットを持って戻ってきた。
 日向とジョシュはお礼を言う。

「そうだなあ、坊や。うちにいるのは構わないが、きみにはきみの家があると思う」
「ぼくの家? どこにあるんだろ?」

 困ったように首をかしげた彼が自分を見てきたので、日向もつられて首をかしげる。

「さあねえ。見つけたらわかるだろう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

連理の枝と約束~あなたと月の下で

夏目奈緖
BL
真面目青年×妖艶系天使。明治の世。武家の名残を持つ黒崎家は、海運業と機織り工場を営んでいた。16歳の冬、秀悟の前に現れたのは、月から来たと語る美貌の青年・アンリ。機織りに魅せられた彼は黒崎家に住み込み、やがて家族同然の存在となる。しかし、アンリは、この星を観測する軍人であり、故郷には婚約者がいるという。10年の歳月の中で、秀悟は決して口にできぬ想いを募らせていく。やがて訪れる帰還の時。天では比翼の鳥に、地では連理の枝に。月の光の下、二人が選ぶ未来とは。「青い月の天使~あの日の約束の旋律」に少し出てくるカップルです。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

二人暮らし

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 倫(リン)と真希(マサキ)の二人暮らし。親子として暮らす二人のお話です。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

愛と猛毒(仮)

万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。 和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。 「……本当、バカだよな。お前も、俺も」 七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。 その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...