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第二章 悪役令嬢は暗躍する

71.悪役令嬢はお父様と話をする

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 アリエル達との二次会という名の密談を終えて、待たせていた公爵家の馬車で家に戻った。

 家に着くとお父様とお母様が出迎えてくれて、よく頑張ったと褒めて貰った。気恥ずかしさはあったけれど、嬉しさが込み上げてきて思わず泣いてしまった。

 しばらく、お母様に抱き付いてガン泣きしてしまったワケだけど、落ち着いてきたところでお父様が私の頭を撫でて言った。

「着替えが終わったら、私の執務室で少しこれからの話をしよう」
「はい、お父様」

 と、お父様と約束をして私は部屋に戻り、エルーサに着替えさせて貰い、少しだけ休憩をしてお父様の執務室へ向かった。

 因みにハーブスト公爵邸には執務室が複数あり、基本的にお父様が使う執務室。お母様が使う執務室。お父様、お母様が共用で使う執務室があり、他にも様々な場面で使用する執務室が分けられているらしい。アイザックお兄様用の執務室も用意されているらしいけど、現在は領地運営を任されているので王都の公爵邸にある部屋は当分使われる事は無いと思われる。頑張れ、お兄様。

 そして、廊下を進み、お父様の執務室の前に来る。扉の前には公爵家の騎士団にも所属している護衛が二人、扉を守っている。そして、私の姿を確認すると騎士の敬礼を行い、扉を三回叩く。

 その返答が扉を二回叩く音で返ってくる。すると、騎士はさらに三度、扉を叩くと、扉が開けられる。セキュリティーの為に彼らは扉を叩く回数と叩く調子によって暗号を設けているらしく、このやり取りは何度見ても面白いのだが、非効率だと思ってしまう。因みにセキュリティー用の個人認識をする魔道具自体は結構前に作ったのだけど、我が家でまだ一部の場所にしか取り入れられていない。

 理由は複数登録が必要だったり、登録し直しだったりを考えると、あまりにも単純な術式構築だと簡単に解除される可能性を見つけてしまったからで、ここらの魔術回路はまだ研究中なのだ。

「お待たせしました、お父様」
「ああ、エステリア。待っていたよ、そこにお掛け」
「はい」

 私はお父様に促されてソファに腰掛ける。テーブルを挟んでお父様も席に着き、小さく「さて」と、呟いた。

「エステリアはどうありたいと願っているか、聞かせて貰ってもいいかな?」
「はい?」

 私は思わず、素っ頓狂な声を出してしまう。もっと核心的な話をするのかと思ったのだけど、私がどうありたい――か? とりあえず、断罪回避です。とは答えれない。けれど、ひとつ思っている事はある。

「私の願いは美味しい食べ物と気の良い仲間と魔術の研究が出来る環境です。あ、家族みんなで幸せに暮らせれれば、いう事はありません」

 これは本心だけど、結構難しい事も分かっている。お父様は優しく微笑む。

「私もそうだ。家族皆の幸せを願わぬ日は無い。アイザック、ディラン、エステリアと三人は私の宝物だ。当然、公爵という大きな重しを持っているから、出来る事と出来ない事は普通の余人と比べて違うという事も分かっている。だからこそ、キチンとエステリアの気持ちを聞いておきたかったんだ」

 聞いたうえで、絶対無理って言われたらショックで倒れる人もいるんじゃないですか? そんな事を思いつつ私は小さく頷いた。

「そんなお優しいお父様だからこそ、お母様は王族を捨ててまで選んだのですね」
「うーん、そこはどうなんだろうね。ほら、そもそも公爵家は王家のスペアでもあるわけで……まぁ、そういうのを抜きにしても彼女が私を選んでくれて、本当に嬉しかったよ。エステリアにもそういう相手と結婚して欲しかった……と、私は婚約については反対の立場を貫いたのだけどね」
「お父様は最後まで反対していたのですね」

 そう言うと、お父様は優しいお顔で「当たり前だ」と身を乗り出して勢いよく言った。いつものクールな雰囲気のお父様からすると随分と柔らかい感じに私は思わず笑ってしまう。

「本当にすまないな、エステリアに面倒な事を押し付けてしまった形になって」
「いいえ、お父様。契約の事はご理解していると思います。私、絶対に条件達成をすると以前にも言いましたよね?」
「まぁ、確かにそうだね。私も分かっているから色々と協力をしているわけだし」

 そうだ、この計画はお父様、お母様含め多くの人達がいてこそ成り立つ者なのだ、私達、子供だけで達成する事は不可能だと、私は初めから考えている。まぁ、財力という点ではある程度、個人で賄える部分もあるけど、それはまた別の話だ。

「それにしても、首尾はどうだい?」
「グラファス侯爵家の兄妹を引き込めそうです。妹のルアーナは私の騎士になりたいと言っております。とりあえず、小学、高学の間は傍に置いておくのがいいかと思っています」
「なるほど、それは手配しよう――と、いうことは兄のマルコはクリフト殿下の側近にとでも言ったのかい?」
「はい、そちらもお父様に手配を頼みたいと思っております。ファルリオ君からも情報が上がってくるとは思っていますが、上手くいけばマルコ君から視点の違う情報が齎される可能性もあります」
「上手にやるんだよ。後、危険な時は第一に逃げる事、分かってるよね?」

 同年代だと私より強い相手は存在しませんよ、お父様。ま、油断は禁物だとは思っていますが、現状だと対抗出来るのはアリエルくらいで、いい勝負した上で油断さえしなければウィンディ――な感じだよね。

「小学の間はまだ王都の屋敷から通うの貴族では一般的だから、出来るだけ状況を小学の間に整えるのが望ましい」
「はい、可能な限りは……」

 確かに小学までに派閥的な均衡は作っておきたいけど、高学に入ると学園都市での寮生活が待っている。ま、これは貴族や有力商家、優秀な子供を一か所にまとめる事で人質という意味合いも強い。ただし、王家の子供も同じ場所で生活する事を考えると元々の仕組みも形骸化している部分もあるだろう。

「そう言えば、お父様。聞きたい事があるんですが」
「なんだい?」

 お父様は私の瞳を興味深そうに見つめて微笑んだ。
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