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第二章 悪役令嬢は暗躍する

82.悪役令嬢の男親達の密会

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「公、私は娘達を使って情報を得るというのは……違うと思うのです。いや、手段としてするなと言っているわけでは無いのです。ただ、危険な勢力争いに子供達を巻き込むのが心苦しいだけなのです」

 そう言ったのはスティーブ・リンガロイ伯爵だ。彼は熊のような見た目だが、心優しい男なのは知っている。当然、彼はそう言うだろうというのも想定済みだ。

「スティーブ。そういう心配より、子供を魔導洞窟ダンジョンに連れて行く方が危険ではないのかね?」
「い、いやぁ、それを言われますとね? 我が共にすれば危険など微塵も無いのですが……」
「君の娘は随分深いところまで狩りに行くらしいね。私としてはそちらの方が危険だと思うよ?」
「しかし、今の派閥争いは裏で色々と動いている奴らのやり口があまりにも陰険じゃありませんか。公だって公の奥方様も幾度も命を狙われているのは私が一番分かっている」

 そういうのは私が彼女と出会う前からあまり変わっていない。常にさらされている危険だ。しかし、娘達は勝手に色々としてくれるが故に守る為には巻き込む方が動きが見えて楽なのだ。この男は何度説明しても分かろうとしない脳筋族だからなぁ。まぁ、彼が色々な場面で護衛に付くと楽なのも事実で私やランパード閣下の護衛といえば彼を招集すると仕事が本当に楽に片付く。

「君の心配は最もだけどね、私としては見えるところで動いてくれる事が重要なのも幾度も話をしているだろう。何かね? 君の例のが告げているのかい?」
「いや、そういうわけじゃないですがね。まぁ、公の姫様や王女殿下は逸脱しているとは思ってますが、それでもら姑息で執念深い事を考えると、やはり心配になりますよ」

 そう言ってスティーブは手に持ったグラスの中身を飲み干し、喉から酒精のこもった息を吐いた。良い酒なのだが水の様に飲むのは止めてくれないかな。そんな事を思っていると黙って酒を楽しんでいたオールバックの真紅の髪に随分と白髪が混じって来た印象のキザ野郎が口を開く。

「なんにしても――彼を止める手立てを考える必要はありますね」
「残念ながら、リブロス卿。我には無理だからな。アレは狡猾だ。尻尾など見せないし、多くの尻尾を持っておるからな、ただの尻尾切りになってしまうのは明白だ」
「当然、そんな事は分かっている。卿の苦手分野だということは知っている。我々の付き合いは長いのだから、改まって言われてもな。ウィングレーとしては先にどこを抑えに掛かるのが正解と思っている?」

 いつもながら、キザっぽい幼馴染の動きにイラつきながら考える。とにかく、情報を広げるところ押さえるところは明確にしておかなければいけない。

「継続して考えねばならない問題は大きく二つ。ひとつは外部勢力、もう一つは例の過激派の件だ。当然、妻達も動いている。我々が表に立つ場合と裏で動く場合の取り決め含め、どこまで根を張るかも」
「西方諸国では随分と教会が力を伸ばしている。ハッキリ言って、調査を始めた頃より比べたら数倍以上の勢いだ。逆に神殿は裏で協力を取りつけれそうだ。帝国側でも色々とあるようだからな」

 幼馴染のキザ野郎はこういった仕事に関しては国内で右に出る物はほぼ居ない。リブロスの奴も縁を結びたいと上手く動いたみたいだ。っつーか、リブロスの息子とキザ野郎の娘は随分と仲が良いという話だな。我が愛娘が、よく分からないが爆ぜろと言っていた。

「とりあえず、これからも派閥争いについてはを牽制出来る状態を保つのと、外的要因を排除するだけである程度は解決する」
「しかし、外的要因といっても、教会とイスパスやブリタスの連中を抑え込むのは今の国府連合じゃ無理だし、元々天帝は動けない。ミストリア内だけでも……とは思うが、貿易などの面でも可能な範囲というのはある程度限られてくるぞ?」
「わかってはいるが、ある程度という状態でもいいんだ。多少貿易などで痛手を喰うかもしれんが、国を荒らされるよりはマシだ」
「交易で一番流入が激しい我々がもっとも痛手を喰うわけだが、致し方ないか……」

 そう言って彼はキザったらしく、グラスに入った酒を煽った。私も同様にグラスに入った酒を呑み干し、新たな瓶を手にする。

「そういえば、我が愛娘から新作を貰ったのを忘れていたよ」

 と、その場にいた全員からの羨望のまなざしが私の手にする酒瓶へ集まるのであった。
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