181 / 314
第三章 悪役令嬢は学院生活を送る
181.悪役令嬢の母親は長男と話をする
しおりを挟む
現在、公爵邸の執務室――正確には長男アイザックの執務室ですが、それと公領の家令としてアイザックを補佐しているリンバーレン・デイドリアス子爵がアイザックの側で凛とした雰囲気で立っている。
デイドリアス子爵はハーブスト公爵家の直臣貴族の一人で、王宮にも幾人も役人やメイドを輩出している官吏としては名家といえる家の当主で、旦那様の忠実な配下の一人です。
「母上、お久しぶりですね」
「ええ、昨晩は予定と違いゆっくりと挨拶をしている時間でも無く、バタバタとして申し訳なかったわね」
「いえ、エステリアの事が絡んでいるというのは先触にて知っていたので、問題ありませんよ。いつもの事ではありませんか」
アイザックは父である旦那様によく似た甘いマスクでそう言った。少しだけ、この子は優しすぎるきらいがある。まぁ、悪い事ではないのですが、次期ハーブスト公爵としては少し心配がある――と、いうくらいで、私と旦那様の子なので当然と言っても良いほどに優秀なのは間違い無いのです。
「それにしても、また何か新しい事を始めるのですか? まぁ、我が家が潤う事を考えれば悪いとは言いませんが」
「悪いわね。でも、残念ながら自重する気は無いわ。アイザックには苦労を掛けるかもしれないけれど、貴方なら大丈夫だと信じているわよ」
と、私が言うと彼は小さく苦笑した。
「そう言ってくれるならいいんだけどね。母上、収支報告はキチンと父上にも出しているから、知っているとは思うけれど、今回はそういう理由で来たって感じじゃないよね?」
「――ええ、旦那様と話し合って出来るだけアイザックに任せる方向で私達は見守るだけにするというのは変わらないわ。今回は本来エステリアの商会からの資金を動かすよりも、我が家が出すべきだという案件があったの」
そう、本来は執務室には来る予定は無く、今日はエステリアが齎したアレの解析を進めるつもりだったのだけど、エステリアとリンリィから出た話を実現化する為の下準備をするつもりで、アイザックの執務室へやって来たのだ。
本来は王族からも出資を――とも、思ったのだけど、色々と後で面倒がありそうなので、後から王族からの承認という形を取った方が良いと判断した結果で、まずは我が家が金を出す。と、いう部分が大事だと考えた結果よ。
旦那様とも一応、連絡を取った上で許可を取っている。
「それは一体?」
「高度な専門的学術研究を行う学舎――そうね、『ハーブスト魔術大学園』とでもしましょうか。高学では教えない、応用学や【失われた遺産】の研究、新規魔術の開発や魔導技術に関する学園。高学の上である大学の設立よ」
と、私が言うとアイザックは興味深そうな視線を向け、家令のデイドリアス子爵は不可思議といった視線を向けて来る。
「奥様。宜しいでしょうか」
「ええ、何かしら?」
「現在、南方からの国々との貿易も制限しており、アンダンテール大洞窟も封印。お嬢様が名目上持っておられる商会からの税金が多く入ってはいますが、公領のみの資産で言えば、今後を考えると不安が多い状況で御座います。それに東方諸国に良からぬ動きがみられると報告がありますし、急ぐべき案件とは到底思えないのですが?」
デイドリアス子爵のいう事は最もではあります。しかし、現状、我が家が持つ技術というのはミストリア内でも逸脱している状況になりつつあり、私やエステリアが生み出す技術がある程度ミストリア内に広がらなければ、これ以上の発展は厳しい――と、いうよりも、我が家だけが目立ちすぎる状況というのを避ける為の目くらましとしても必要なのです。
貴族というものは特に嫉妬深い者が多い。より多くを持っている者を見れば、自分も欲しがるのだ。それが簡単に手に入らないとなると、今まで味方でいた者さえも敵になる可能性がある。
そして、私が応用魔術理論を発表してこなかった理由の一つでもある。ただ、王家も重用し始めている魔道具の彼是が既に噂として広まり、一部、冷凍や冷蔵関連の商品など生活を便利にする魔道具も流通し始めている状態だ。
「我が家に近しい家では既に流通上、冷蔵馬車や冷凍馬車が多く出回っているでしょう? 王都でも目ざとい貴族家には空調の魔道具など、手に入れれないか? その技術がどうなっているのか? 話題になって来ております」
「――なるほど。我が領が狙われている。と、いうことですね。しかし、大学などを作ればさらに言われるのでは無いですか?」
「そこはある程度はあるとは思うけれど、そこでそういった魔道具に使われている技術体系を学べるとなれば、多少は緩和されるでしょう?」
「しかし、それも誰彼構わず教えるというのは問題が多いのでは?」
それは当然だ。エステリアとリンリィの話によれば、高学より上の位置づけなので当然、高学を卒業している事が最低条件。そして、入るにも当然、ある程度理解出来ている基礎学力があるということを示す為の試験制度を設ける。
「いいえ、高学卒業者で且つ、大学入試の試験を受けて合格した者のみが入れる学舎にします。そして、大学課程を全て納めた者には魔導学士を与える――と、いうことを考えています」
「かなり大規模な話ですね。なるほど、今から準備しても実際に設立までは数年掛かりそうですね」
「ええ、それに私が持つ知識を教えられる者を育てる時間も必要です。今回はあくまでも私がそういう事を考えている。と、貴方達にも分かって貰えればよいのです。ただし、出資金については即座に検討を始めるように。こちらは他にも方法はあるのですが、我が領の価値を高めつつ、我が領へ簡単に手出しをするなよ? と、いう策でもあるのです」
我が長男と家令の二人は私の言葉に真剣な瞳をこちらに向けて小さく頷くのでした。
デイドリアス子爵はハーブスト公爵家の直臣貴族の一人で、王宮にも幾人も役人やメイドを輩出している官吏としては名家といえる家の当主で、旦那様の忠実な配下の一人です。
「母上、お久しぶりですね」
「ええ、昨晩は予定と違いゆっくりと挨拶をしている時間でも無く、バタバタとして申し訳なかったわね」
「いえ、エステリアの事が絡んでいるというのは先触にて知っていたので、問題ありませんよ。いつもの事ではありませんか」
アイザックは父である旦那様によく似た甘いマスクでそう言った。少しだけ、この子は優しすぎるきらいがある。まぁ、悪い事ではないのですが、次期ハーブスト公爵としては少し心配がある――と、いうくらいで、私と旦那様の子なので当然と言っても良いほどに優秀なのは間違い無いのです。
「それにしても、また何か新しい事を始めるのですか? まぁ、我が家が潤う事を考えれば悪いとは言いませんが」
「悪いわね。でも、残念ながら自重する気は無いわ。アイザックには苦労を掛けるかもしれないけれど、貴方なら大丈夫だと信じているわよ」
と、私が言うと彼は小さく苦笑した。
「そう言ってくれるならいいんだけどね。母上、収支報告はキチンと父上にも出しているから、知っているとは思うけれど、今回はそういう理由で来たって感じじゃないよね?」
「――ええ、旦那様と話し合って出来るだけアイザックに任せる方向で私達は見守るだけにするというのは変わらないわ。今回は本来エステリアの商会からの資金を動かすよりも、我が家が出すべきだという案件があったの」
そう、本来は執務室には来る予定は無く、今日はエステリアが齎したアレの解析を進めるつもりだったのだけど、エステリアとリンリィから出た話を実現化する為の下準備をするつもりで、アイザックの執務室へやって来たのだ。
本来は王族からも出資を――とも、思ったのだけど、色々と後で面倒がありそうなので、後から王族からの承認という形を取った方が良いと判断した結果で、まずは我が家が金を出す。と、いう部分が大事だと考えた結果よ。
旦那様とも一応、連絡を取った上で許可を取っている。
「それは一体?」
「高度な専門的学術研究を行う学舎――そうね、『ハーブスト魔術大学園』とでもしましょうか。高学では教えない、応用学や【失われた遺産】の研究、新規魔術の開発や魔導技術に関する学園。高学の上である大学の設立よ」
と、私が言うとアイザックは興味深そうな視線を向け、家令のデイドリアス子爵は不可思議といった視線を向けて来る。
「奥様。宜しいでしょうか」
「ええ、何かしら?」
「現在、南方からの国々との貿易も制限しており、アンダンテール大洞窟も封印。お嬢様が名目上持っておられる商会からの税金が多く入ってはいますが、公領のみの資産で言えば、今後を考えると不安が多い状況で御座います。それに東方諸国に良からぬ動きがみられると報告がありますし、急ぐべき案件とは到底思えないのですが?」
デイドリアス子爵のいう事は最もではあります。しかし、現状、我が家が持つ技術というのはミストリア内でも逸脱している状況になりつつあり、私やエステリアが生み出す技術がある程度ミストリア内に広がらなければ、これ以上の発展は厳しい――と、いうよりも、我が家だけが目立ちすぎる状況というのを避ける為の目くらましとしても必要なのです。
貴族というものは特に嫉妬深い者が多い。より多くを持っている者を見れば、自分も欲しがるのだ。それが簡単に手に入らないとなると、今まで味方でいた者さえも敵になる可能性がある。
そして、私が応用魔術理論を発表してこなかった理由の一つでもある。ただ、王家も重用し始めている魔道具の彼是が既に噂として広まり、一部、冷凍や冷蔵関連の商品など生活を便利にする魔道具も流通し始めている状態だ。
「我が家に近しい家では既に流通上、冷蔵馬車や冷凍馬車が多く出回っているでしょう? 王都でも目ざとい貴族家には空調の魔道具など、手に入れれないか? その技術がどうなっているのか? 話題になって来ております」
「――なるほど。我が領が狙われている。と、いうことですね。しかし、大学などを作ればさらに言われるのでは無いですか?」
「そこはある程度はあるとは思うけれど、そこでそういった魔道具に使われている技術体系を学べるとなれば、多少は緩和されるでしょう?」
「しかし、それも誰彼構わず教えるというのは問題が多いのでは?」
それは当然だ。エステリアとリンリィの話によれば、高学より上の位置づけなので当然、高学を卒業している事が最低条件。そして、入るにも当然、ある程度理解出来ている基礎学力があるということを示す為の試験制度を設ける。
「いいえ、高学卒業者で且つ、大学入試の試験を受けて合格した者のみが入れる学舎にします。そして、大学課程を全て納めた者には魔導学士を与える――と、いうことを考えています」
「かなり大規模な話ですね。なるほど、今から準備しても実際に設立までは数年掛かりそうですね」
「ええ、それに私が持つ知識を教えられる者を育てる時間も必要です。今回はあくまでも私がそういう事を考えている。と、貴方達にも分かって貰えればよいのです。ただし、出資金については即座に検討を始めるように。こちらは他にも方法はあるのですが、我が領の価値を高めつつ、我が領へ簡単に手出しをするなよ? と、いう策でもあるのです」
我が長男と家令の二人は私の言葉に真剣な瞳をこちらに向けて小さく頷くのでした。
0
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!
くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました!
イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。
あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!?
長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!?
二人共あの小説のキャラクターじゃん!
そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!!
へっぽこじゃん!?!
しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!?
悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!!
とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。
※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。
それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください!
※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい
※不定期更新なります!
現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる