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大海の朱い一滴
④
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「そうだ、船に乗りましょうよ!」
ふと思いついて、司馬さんに声をかける。
「この先のほうで、水中が見られる観光船が出てるんです。
船底がガラス張りになってて、魚とか岩場とか見えるんですよ。結構面白いんです!」
説明しながら、俺は司馬さんの腕を引いた。
俺の馴れ馴れしい態度にも、だんだん慣れてきたのか、司馬さんは抵抗せずについてくる。
乗り場には、休日ということもあって家族連れやカップルばかりだった。
「……本当に乗るのか?場違いじゃないか?」
不安げに俺を見つめてくる司馬さん。
「大丈夫ですよ。誰も俺らのことなんて気にしてませんって」
本当はちょっと浮いてる自覚もあるけど、それは言わないでおく。
ぐずられる前に乗船手続きを済ませて、船に乗り込んだ。
スポットに着くまでは船内で待機することにした。
デッキに出てもよかったが、子供が多くて賑やかだったので避けた。
人の少ない船内でベンチに座ると、司馬さんは落ち着かなさそうに辺りを見回していた。
「……やっぱり、場違いじゃないか?
男2人でこんなところに来るなんて、周りにどう見られてるか……」
その声は、少しだけ震えていた。
「俺、実はあんまり海って好きじゃないんですよ」
唐突にそう言うと、司馬さんが怪訝そうにこちらを見た。
ちょっとだけ笑いそうになる。
「広すぎて、なんか無力感を感じるっていうか。
俺なんて何しても意味ないなーって、時々思うんですよね。
でも、司馬さんってたぶん、色々考えすぎちゃうタイプじゃないですか。だから今日は、そんな広い海を見て気が抜けるといいなって思って、誘ったんです。
周り、見てくださいよ。誰も俺たちのことなんて見てないですよ」
――実際には少し見られてる気もするけど、たぶんそれはどのカップルや家族にも言えることだ。
やがて船が減速し、目的のスポットに到着した。
船内に人が増え、子供たちが俺たちの目の前まで押し寄せてくる。
でも、誰もが窓の外に夢中だった。
「ほら、見てください司馬さん!魚の群れですよ!
よくぶつからずに泳げますよね、あんな狭いとこで」
水中は少し濁っていたけど、それでも魚が目の前を横切ると興奮してしまう。
ちらっと司馬さんを見ると、真剣な顔で窓の外を見つめていた。
「……これは、なんて魚だろう」
「うーん、俺、基本食べる専門なんで。捌かれてない魚はよく分かんないです」
その言葉に、司馬さんが少しだけ笑った。
帰りはデッキに出て、外の景色を眺めることにした。
カモメの餌が売っていたので、せっかくだからと2人で購入してあげてみる。
餌に釣られて近づいてきたカモメに、司馬さんがちょっとびくっとして後ずさる。
つい面白くて、その瞬間を写真に撮ってしまった。
その後はぶらりと散策して、日が傾く前に帰ることにした。
帰りの車の中で、「今日はどうでしたか?」と聞こうか迷った。
けれど、あえて聞かないことにした。
きっとこの人は気を遣って、「楽しかった」と答えてくれるだろう。
でも、楽しくても、つまらなくても関係ない。
これは俺が勝手に踏み込んだ勝負だ。
この人のプライベートに、無理やり入り込もうとしてるのは俺なんだから。
だから、言葉を求めるのはやめた。
何も言わず、淡々と車を走らせる。
――けれど、司馬さんの家が近づいた頃。
「今日は……思ったより、楽しかった」
ぽつりと、司馬さんが呟いた。
視線は前を向いたまま。こちらを見ようとはしない。
それでも俺は、その言葉がすごく嬉しかった。
今日1日で、何かが変わるなんて思っていない。
それでも、長い司馬さんの人生に対して、小さな変化を起こせていたらいいなと思う。
ふと思いついて、司馬さんに声をかける。
「この先のほうで、水中が見られる観光船が出てるんです。
船底がガラス張りになってて、魚とか岩場とか見えるんですよ。結構面白いんです!」
説明しながら、俺は司馬さんの腕を引いた。
俺の馴れ馴れしい態度にも、だんだん慣れてきたのか、司馬さんは抵抗せずについてくる。
乗り場には、休日ということもあって家族連れやカップルばかりだった。
「……本当に乗るのか?場違いじゃないか?」
不安げに俺を見つめてくる司馬さん。
「大丈夫ですよ。誰も俺らのことなんて気にしてませんって」
本当はちょっと浮いてる自覚もあるけど、それは言わないでおく。
ぐずられる前に乗船手続きを済ませて、船に乗り込んだ。
スポットに着くまでは船内で待機することにした。
デッキに出てもよかったが、子供が多くて賑やかだったので避けた。
人の少ない船内でベンチに座ると、司馬さんは落ち着かなさそうに辺りを見回していた。
「……やっぱり、場違いじゃないか?
男2人でこんなところに来るなんて、周りにどう見られてるか……」
その声は、少しだけ震えていた。
「俺、実はあんまり海って好きじゃないんですよ」
唐突にそう言うと、司馬さんが怪訝そうにこちらを見た。
ちょっとだけ笑いそうになる。
「広すぎて、なんか無力感を感じるっていうか。
俺なんて何しても意味ないなーって、時々思うんですよね。
でも、司馬さんってたぶん、色々考えすぎちゃうタイプじゃないですか。だから今日は、そんな広い海を見て気が抜けるといいなって思って、誘ったんです。
周り、見てくださいよ。誰も俺たちのことなんて見てないですよ」
――実際には少し見られてる気もするけど、たぶんそれはどのカップルや家族にも言えることだ。
やがて船が減速し、目的のスポットに到着した。
船内に人が増え、子供たちが俺たちの目の前まで押し寄せてくる。
でも、誰もが窓の外に夢中だった。
「ほら、見てください司馬さん!魚の群れですよ!
よくぶつからずに泳げますよね、あんな狭いとこで」
水中は少し濁っていたけど、それでも魚が目の前を横切ると興奮してしまう。
ちらっと司馬さんを見ると、真剣な顔で窓の外を見つめていた。
「……これは、なんて魚だろう」
「うーん、俺、基本食べる専門なんで。捌かれてない魚はよく分かんないです」
その言葉に、司馬さんが少しだけ笑った。
帰りはデッキに出て、外の景色を眺めることにした。
カモメの餌が売っていたので、せっかくだからと2人で購入してあげてみる。
餌に釣られて近づいてきたカモメに、司馬さんがちょっとびくっとして後ずさる。
つい面白くて、その瞬間を写真に撮ってしまった。
その後はぶらりと散策して、日が傾く前に帰ることにした。
帰りの車の中で、「今日はどうでしたか?」と聞こうか迷った。
けれど、あえて聞かないことにした。
きっとこの人は気を遣って、「楽しかった」と答えてくれるだろう。
でも、楽しくても、つまらなくても関係ない。
これは俺が勝手に踏み込んだ勝負だ。
この人のプライベートに、無理やり入り込もうとしてるのは俺なんだから。
だから、言葉を求めるのはやめた。
何も言わず、淡々と車を走らせる。
――けれど、司馬さんの家が近づいた頃。
「今日は……思ったより、楽しかった」
ぽつりと、司馬さんが呟いた。
視線は前を向いたまま。こちらを見ようとはしない。
それでも俺は、その言葉がすごく嬉しかった。
今日1日で、何かが変わるなんて思っていない。
それでも、長い司馬さんの人生に対して、小さな変化を起こせていたらいいなと思う。
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