2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい

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第一部

過去バナ

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 何かが氷解したような雰囲気に釣られ、俺はふと気になっていた疑問を告げる。

「貴族が苦手なのに、どうして俺を誘ったんだ?」

「ナタリアがミリアリア様や他の貴族様に目を付けられてるみたいだから、抑止力みたいな感じになれたら、と思って」

 確かに、相手が貴族と知れば対立を避ける連中も少なくないだろうな。

「互いに干渉し過ぎず、ほどほどの距離感でやっていくつもりだったけど」

 フレイはふわっと微笑む。

「これからは仲良くやっていこうね、ロイ」

「そうだな」

 干渉しすぎず、距離感を保ちながらやっていくことも可能だっただろう。にもかかわらず、俺を試すようなことをしたのは本心では仲良くしたかったのか、貴族が根っからの悪人だと信じたかったのか。
 いずれにせよ、仲良くやっていけそうで何よりだ。


 ―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――


 日を跨いで水曜日。
 俺は放課後、部室へと向かう。
 一昨日の陰鬱とした気持ちは消え失せ、むしろ晴れやかな足取りで。

 扉を開き、中を伺うと人影が2人。
 フレイとアーサーだ。
 俺は中央に座している円形の机に移動すると、持ち込んだ菓子を摘む。
 すると、自分のもの以外の手が伸びてきた。
 フレイだ。
 彼女はいくつかあるワッフルの1つを口に頬張せると、至福と言わんばかりの笑顔を浮かべる。

「ロイ、ちょっといい?」

 余韻を味わい終わり、真剣な面持ちに変化したフレイが部屋の隅へと誘う。
 2人で、端へと向かうと申し訳なさそうな顔で袋を手渡してきた。

「これ、泥を付けちゃったお詫び」

 中にはローズマリーを粉塵状にした、薬湯の基が入っている。
 この花は生息地が少なく、それ故貴重品だ。平民が手を出そうとすれば全財産とは言わないまでも、相当に経済的傷を負う。

「別にいいよ、気にしてないし」

 そう言い、突き返す。

 気を遣われたと感じたのか、それとも自身の懐事情を慮られたことが屈辱に感じたのか、フレイは真剣な面持ちで再度袋を指し出す。

「あの時は罪の意識なんて微塵もなかったけど、今はなんかちくっと痛いから。だから、あーしのためにも受け取って」

 ・・・そんな言い方されたら、さすがに受け取るしかないよな。

「分かった。大切に遣わせてもらうよ」

「うん、ぜひそうして!」

 いつもの溌剌とした態度に戻ると、部室中央へと帰っていく。

 それからしばらく、3人で新しい魔道具や予算について話し合った。
 するとフレイが「そうだ、ごめんあーしちょっと用事があるんだった。少しはずすね~」と発し、部屋を出ていく。

 屋内にはアーサーと俺の2人きり。気まずいな。
 フレイは友達とは言えないが、知り合いではある。そのフレイの友達と2人きり、つまり知り合いの友達と2人きりなのだから、当然と言えば当然だが。

 ・・・何か話題を振った方がいいよな。

 隣を向き口を開けかけるが、しかし先に切り出したのはアーサーであった。

「す、すごい、フレイとあんなに仲良くなるなんて」

「仲良く?」

 泥を掛けるのが仲良く?

「うん、仲良いと感じた人しか名前で呼ばないから」

 ・・・確かに、最初は苗字で呼ばれていた。だとすると、名前で呼ばれている直近は少しは心の距離が改善されたのかもしれない。
 本当によかった。

「ふ、フレイは、普段は明るく振る舞ってるけど、本当は人一倍慎重でなかなか心を開かないんだ」

 さすが幼馴染。かなり深くまで理解してるみたいだ。
 俺には本質を把握してくれる人間も、本性を曝け出してくれる人間もいないから少し羨ましい。

「だ、だから、僕とナタリア以外に友達ができたことがすごく嬉しい」
 目元が緩み、頬が綻び本当に嬉しそうな表情で語る。

「それが貴族でもか?」

 穿った質問だったな、と言った瞬間に後悔した。
 フレイもナタリアも貴族を疎ましく思っていた。だったら、2人と親密な彼もそうなんじゃないか。そんな考えがよぎってしまったんだ。
 しかし、

「もちろんだよ」

 と一切の淀みなく答えるアーサー。
 その純粋な瞳を見る限り、とても嘘とは思えない。

「どうして?」

「ぼ、僕は、正直、貴族が苦手。でもそれは、全部ってわけじゃなくて僕や友達に嫌がらせをしてくるような貴族が苦手ってことで。だ、だから、ロ、ロイは苦手じゃない。
 もし、距離を感じたようならそれは人見知り過ぎるってだけで」

 喋りながらどんどんと俯いていく。
 確かに最初見た時は距離を感じたが、ここまで言われてまだ嫌われていると疑うほど擦れてはいない。
 きっと、アーサーは本当に苦手に思ってないのだ。

 それにしても、人見知りだと思ってたけど言う時は言うんだな。
 元々別に低く評価していたつもりはなかったが、見る目が変わった。

 俯いたまま恥ずかしそうにもじもじするアーサーに対し、俺も全うに好意を伝えられ何とも言えず部室には微妙な空気が流れる。
 それを断ち切るように、気になっていることを議題にあげた。

「そういえば、フレイはどっちが素なんだ?明るい方か、冷淡な方」

「う~ん」

 考え込むアーサー。

「た、たぶんどっちも素ではあるんじゃないかな。あの明るい感じはきっと強く見せたいんだよ」

「理想の自分?」

「フレイは、優しいから」

 人間誰しも理想の自分というものはある。
 しかし、彼女は何故理想の自分をそう定義したのだろうか。

「昔のフレイはどんな感じだったんだ?」

「う~ん、く、暗いっていうより冷たいって感じだった、と思う。慣れてくると、口数も増えてくるんだけど」

 思案しつつも懐かしむような感情を醸し出しながら、言葉を続ける。

「え、えっと、僕達の村で昔飢饉が起きたんだ。その時、少なくない被害が出た」

 光景を思い出したのか、口を歪ませる。

「ふ、フレイはそれに責任を感じたんだと思う。飢饉の後、すごく後悔してるような表情をしてたから。だ、誰のせいでもないはずなのに」

自分とは関係ないことだからと、見て見ぬ振りしても許されたはず。それでも、目を背けなかった。

「優しいな、フレイは」

自分が切迫している状況で、それでも誰かを思いやる。それは、誰にでもできることじゃない。

 自分が褒められたわけではないにも関わらず、むず痒そうに照れるアーサー。
 微妙な空気に耐えられなくなったのか、先ほどまでとは反対の情報を言い始める。

「で、でもそんな立派な所ばっかりじゃない。恋愛経験皆無のくせに豊富ぶったままアドバイスするし、割と最近まで詩を読んでたし」

 知己の間柄が羨ましいと思ったが、昔からの知り合いってことは思い出したくない過去も知ってるってことか。
 ・・・やっぱり、要らないかもな。

「それに、つい4年前までおねs」

 すらすらと暴露を続けていた口が止まる。いや、止められた。アーサーは首根っこを掴まれ、苦しそうに宙に浮かんでいた。
 フレイは笑顔を振りまいている。しかし、その上がった口角からは考えられないほど瞳は黒く腕に入っている力はどんどんと増していっていた。
 ・・・怒ってる。

 ばたん。アーサーが倒れる。
 そして、ゆらりと次の標的の元へと向かう。

「ま、待ってくれ、俺はただ聞いてただけだ。罪はかry」

 意識はそこで途切れた。
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