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第一部
彼女の本心
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目が覚めると、微かに茶葉の香りが鼻孔を擽る。
「普通のお茶、あったんだ」
「あるよ。安物だから味はお湯と大差ないけど」
貴族のものと比べれば確かに安物なのかもしれないが、悠然とカップに口付けるその姿はまさしく優雅そのものだった。
「アーサーと、何を話してたの?」
カップを置き問い掛けて来る。
その声音からは怒気を感じない。どうやら、怒りは収まったみたいだ。
「色々だよ。3人の昔のこととか」
「他には?」
誤魔化すこともできた。けれど、彼女がなぜあれほど明るく振る舞うのか──その理由を、俺は知りたかった。 知りたいと思ってしまった。
だから、つい正直に口を開く。
「なんでフレイはいつも明るく振る舞っているのか、とか」
触れてはいけない場所に触れた気がして、胸がざわつく。 謝ろうと顔を上げると、フレイは怒るでもなく、不快そうでもなく、ただ小さく
「そう」
と呟いた。
「なんでだと、思った?」
「強く見せたいから、だとアーサーは言ってたけど」
勝手に名前を出すことを許せ。だが、きっとこれで好感度は上がりアーサー、お前のやらかしは帳消しになるはずだ。
「全部を聞いたわけじゃないけど、でもフレイは優しいよ。自分と関係ないところまで、責任を感じられるんだから」
俺は勝手に過去を聞いたことに罪悪感を感じ、フォローに回った。
「そんな立派なもんじゃない。ただ、無力で無能で無価値な自分が嫌いなだけ」
悲し気な表情で、そう呟く。
「私は本来悲観的。だから、無理やり前を向こうとした。そっちの方が楽だったから。まあでも、どっちも私には違いないからどちらにしろ嫌いだけど」
その気持ちは痛いほど分かる。王子でありながら頭脳も力もない、何度も革命が起きその度に自分の無能さを嗤った。
「私は村の人達や家族、誰1人助けられない私が嫌い。ロイは、今の自分は好き?」
「好きでも嫌いでもないな」
「そう。羨ましい」
自分が無力だなんてことは分かってるし、好きになったわけでもない。ただ、気にならなくなっただけだ。どうでもよくなっただけだ。
「手段が1つしかないと思ってるから、そんな発想になる」
フレイは眉を顰める。
「例えば、試験で高得点を取りたいとする」
俺は胸を張り、わざとらしく説得力を装ってみせる。
「高い点数を取るには、1人家で勉強する以外にも色んな方法があるだろ。友達に教えて貰ってもいいし、教師に聞いてもいい。過去問を手に入れたり、カンニングしたり」
「カンニングはダメでしょ」
「バレなければいいんだよ。こほんっ、とにかく目的を達成する為の手段は1つじゃない」
俺は息を吐き、言葉をまとめる。
「手段が1つしかないと勘違いしてるから、それで出来なかった時絶望するんだ。目的を達成する為のやり方は無数にある。1つが合わなかったなら、他の方針に転換すればいい。次から次に試してたら、自分が好きかとか嫌いかとかそんなこと考えてる暇なんてなくなるさ」
カッコ付けて言っているが、これは俺も最近気付いたことだ。
物事の解決法には沢山の手立てがある。貴族として、王太子としての品位ある行動からは発生し得ない行動が今の頭には無数に浮かぶ。
そして、そんな行動から解決した事案が確かにある。
フレイの方を見ると、どこか憑き物が落ちたような柔らかい顔をしていた。
それから、しばらく部室に留まった後帰路へと着く。
校門へ続くあぜ道を歩いていると、隣りを歩いているフレイがしばらく閉じていた口をぽつりと開いた。
「ロイの言うこと、確かに一理あると思った。思えた。だから、もし欠片でも何かを叶えられたのなら、たぶん少しだけ自分を許せる、と思う」
「それは良かった」
正直、彼女の台詞が何を指しているのか全く分からない。何に悩んでいるのかも。
でも、折り合いを付けられたであろうというのはその表情から伝わってきた。
「普通のお茶、あったんだ」
「あるよ。安物だから味はお湯と大差ないけど」
貴族のものと比べれば確かに安物なのかもしれないが、悠然とカップに口付けるその姿はまさしく優雅そのものだった。
「アーサーと、何を話してたの?」
カップを置き問い掛けて来る。
その声音からは怒気を感じない。どうやら、怒りは収まったみたいだ。
「色々だよ。3人の昔のこととか」
「他には?」
誤魔化すこともできた。けれど、彼女がなぜあれほど明るく振る舞うのか──その理由を、俺は知りたかった。 知りたいと思ってしまった。
だから、つい正直に口を開く。
「なんでフレイはいつも明るく振る舞っているのか、とか」
触れてはいけない場所に触れた気がして、胸がざわつく。 謝ろうと顔を上げると、フレイは怒るでもなく、不快そうでもなく、ただ小さく
「そう」
と呟いた。
「なんでだと、思った?」
「強く見せたいから、だとアーサーは言ってたけど」
勝手に名前を出すことを許せ。だが、きっとこれで好感度は上がりアーサー、お前のやらかしは帳消しになるはずだ。
「全部を聞いたわけじゃないけど、でもフレイは優しいよ。自分と関係ないところまで、責任を感じられるんだから」
俺は勝手に過去を聞いたことに罪悪感を感じ、フォローに回った。
「そんな立派なもんじゃない。ただ、無力で無能で無価値な自分が嫌いなだけ」
悲し気な表情で、そう呟く。
「私は本来悲観的。だから、無理やり前を向こうとした。そっちの方が楽だったから。まあでも、どっちも私には違いないからどちらにしろ嫌いだけど」
その気持ちは痛いほど分かる。王子でありながら頭脳も力もない、何度も革命が起きその度に自分の無能さを嗤った。
「私は村の人達や家族、誰1人助けられない私が嫌い。ロイは、今の自分は好き?」
「好きでも嫌いでもないな」
「そう。羨ましい」
自分が無力だなんてことは分かってるし、好きになったわけでもない。ただ、気にならなくなっただけだ。どうでもよくなっただけだ。
「手段が1つしかないと思ってるから、そんな発想になる」
フレイは眉を顰める。
「例えば、試験で高得点を取りたいとする」
俺は胸を張り、わざとらしく説得力を装ってみせる。
「高い点数を取るには、1人家で勉強する以外にも色んな方法があるだろ。友達に教えて貰ってもいいし、教師に聞いてもいい。過去問を手に入れたり、カンニングしたり」
「カンニングはダメでしょ」
「バレなければいいんだよ。こほんっ、とにかく目的を達成する為の手段は1つじゃない」
俺は息を吐き、言葉をまとめる。
「手段が1つしかないと勘違いしてるから、それで出来なかった時絶望するんだ。目的を達成する為のやり方は無数にある。1つが合わなかったなら、他の方針に転換すればいい。次から次に試してたら、自分が好きかとか嫌いかとかそんなこと考えてる暇なんてなくなるさ」
カッコ付けて言っているが、これは俺も最近気付いたことだ。
物事の解決法には沢山の手立てがある。貴族として、王太子としての品位ある行動からは発生し得ない行動が今の頭には無数に浮かぶ。
そして、そんな行動から解決した事案が確かにある。
フレイの方を見ると、どこか憑き物が落ちたような柔らかい顔をしていた。
それから、しばらく部室に留まった後帰路へと着く。
校門へ続くあぜ道を歩いていると、隣りを歩いているフレイがしばらく閉じていた口をぽつりと開いた。
「ロイの言うこと、確かに一理あると思った。思えた。だから、もし欠片でも何かを叶えられたのなら、たぶん少しだけ自分を許せる、と思う」
「それは良かった」
正直、彼女の台詞が何を指しているのか全く分からない。何に悩んでいるのかも。
でも、折り合いを付けられたであろうというのはその表情から伝わってきた。
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