あの頃の思い出は、いつまでも呪いのように。

gresil

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思い出の崩壊

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 大安吉日。天気は快晴。今日という祝福の日に、心地よい風が吹く。

 病院への通勤は基本的に私服なので、社会人になってもスーツを日常的に着る習慣がない。前にこの姿になったのは、半年前の学術総会の時だろうか。着慣れないスーツに革靴で、どこかぎこちなさを隠し切れないまま結婚式場の門をくぐった。

 今日は以前届いた招待状の送り主。大学の同窓生である正臣の結婚式だった。
 時間に余裕があったので式場内の庭園を散策していると、ベンチ周辺に集まっていた懐かしい顔ぶれを見つける。

「よう! 久しぶりだな!」

 俺が声を掛けると、集まっていた4、5人の視線がこちらに集まった。

「おお! 昴太じゃねえか! 元気してたか!?」

 その中で特に親しかった友人の恭弥が声を返す。

「相変わらずだよ。みんなはこんなところに集まって何してんの?」
「いや、式場内はまだ親族しか入れないみたいだからそれぞれぶらぶらしてたらここに集まってた、みたいな感じ?」
「はあ、なるほどね」

 顔ぶれを見回すと、いつもの仲良しグループで集まったというわけではなく、同窓生同士の顔見知りが集まった、という感じだった。今日の主役である新郎の正臣は割と顔が広いやつだったので、同窓だけでも結構な人数が集まりそうな雰囲気を感じる。

「いやー、しかし正臣が結婚とはね。アイツと昴太だけは絶対結婚しないと思ってたのに」

 茶化すように恭弥が言う。

「いやいや、その絶対結婚しない奴リスト少なすぎるだろ。俺の中では恭弥も入ってるし、あと4人くらい候補がいるんだが?」
「あれ? 前、学会で会った時話さなかったっけ? 俺今同棲して一年になるし」
「はあ!? 聞いてねえぞ、そんな話……」
「いやあ! 悪ぃ! 言ってなかったかもな! まあ、俺もそろそろ招待状送るかもしれないから期待して待ってろよ!」

 そう言って笑いながら恭弥は俺の肩を叩く。
 そうしているうちに、招待された同窓メンバーが一人、また一人と増えていき、いつのまにか10人以上の大所帯になっていた。

 すると庭園の奥から三歳くらいの女の子が元気よく走ってきた。後ろからは母親らしき人物がその子を追いかけている。女の子は俺たちの集団の前で立ち止まった。

「こんちには!」

 ヒマワリのように輝く笑顔で俺たちに挨拶をする。

「もーぉぅ! ゆうちゃん、待ってって言ってるでしょー……」

 遅れてやってきた母親が息を切らしながら女の子の両肩を掴んだ。

「おともらち?」

 女の子が問いかけると、母親は俺たちの方を見た。

「あー! 皆、久しぶり! 元気してたあー!?」

 母親は俺たちの同窓生の一人の加藤さんだった。いや、今は宗村さんと呼ぶべきか。

「おー、結構集まってんじゃん」

 母娘のさらに後ろを悠長に歩きながら、もう一人の同窓生の宗村隆二が手を挙げながら近づいてくる。

「隆二! ちゃんと手つないでって言ったでしょ!」
「ゆうちゃんは俺たちのお友達に早く会いたかったんだよなー」

 そう言いながら女の子の頭をわしゃわしゃ撫でる。
 この宗村夫妻は学生の頃から交際しており、大学卒業と同時に結婚。旧姓加藤さんはその後すぐに妊娠して、未だに定職にはついていない、という話を聞いたことがあった。俺はこの二人に再会するのは卒業後初めてである。

「おー、鷹司じゃん。どう? 病院勤務楽しい?」

 こちらの存在に気付いた宗村は馴れ馴れしく俺の肩に腕を乗せる。

「お陰様で。ライフワークとしては申し分ないよ」
「だよなあ! なんか調剤ってイマイチやりがいに欠けるところがあるんだよなー。やっぱ、俺も病院に就職しなおそうかなー」
「あんまり歳喰うと不利になるから転職するなら今のうちかもな。やる気があるなら求人探して応募してみるのを薦めるよ」

 俺と宗村は学生時代、それほど仲が良かったわけではないが、就職活動で同じ病院を受けたことがある。俺は採用されたが、宗村は病院就職全滅だったようで、仕方なく調剤薬局に就職したらしい。

「来年には二人目産まれるし、今年の求人チャレンジしてみるかなあ」

 宗村が呟くように溢すと全員の視線が集まった。

「え!? 二人目!?」
「加藤ちゃんおめでとう!!」
「もう二人目かー。さすがに早いなあー」
「ねえ、男の子!? 女の子!?」

 そんな様々な声が飛び交い、皆が宗村夫妻を取り囲む。
 そんな祝福ムードが溢れる中、俺はその輪の中に加わることが出来なかった。


 そして結婚式が始まり、披露宴もつつがなく進行していく。相手の新婦はどこで出会ったのか普通のOLだった。披露宴の最中、新郎新婦の周りには人が次々と入れ替わっていく。
 俺たち同窓組も順番で正臣のところへ顔を出したが、ロクに話すことも出来ず、皆で写真を数枚撮っただけで終わってしまった。

 そして舞台は二次会のパーティ会場へ移る。

 乾杯の合図から間もなく、豪華景品が並んだゲーム大会が始まった。ゲームの内容は風船割ゲーム。当たり番号が書いてあるクジの入った風船を割るだけというシンプルなゲームだったが、風船を割る際は道具の使用は禁止。最低でも上半身で割らなければいけなくて、手を使わずに肩より上で割った人はハズレた場合、もう一つ風船を割れるというルールだった。

 五人ずつ壇上に上がり、それぞれ風船を割っていく。肩より上の場合はほとんど顔で割るようなものなので、チャレンジしようともビビり散らす人が続出。風船が割れる度に歓声と笑いが飛び交った。

 そんな盛り上がりを見せる中、俺の心はどこか別の場所にあるようだった。
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