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枯れ枝
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「ああぁぁぁぁああ!!!」
急に叫び出したブレイブさんに僕は度肝を抜かれた。
野生の獣が集団で襲って来たのかと身構えた。が、どうやら違ったらしい。
何となく、ふんわりとした良い空気が流れていたと思ったのは僕だけだったらしく、ブレイブさんは僕の元から走り去ってしまった。
「待って、ブレイブさん····」
何度も叫んでもブレイブさんは戻って来なかった。
僕は頭にほんのり残るブレイブさんの掌の感触を感じたくて、自分の頭を撫でた。
ポツッと地面に雨粒が落ちた。
違った。僕の涙だった。
「そりゃそうか。ここに来てから僕、何もしてないもんね。ただの穀潰しだ」
それが、よりにもよって新しい家を建てて欲しいような流れになってしまった。そんなつもりは無かったけれど、ブレイブさんには、そう受け取られたのだろう。
どう思ったんだろう。こんな枯れ枝みたいな穀潰しの男が新しい家を欲しがるなんて。迷惑以外の何者でも無いし、呆れられただろう。
二度と、ここへ戻って来ては貰えないかもしれない。
ただでさえ、彼はあんなにも凛々しく格好良い。筋肉も素晴らしくて、リマ村の女性は誰もが彼と結婚したがる筈。きっと狩りも上手いんだろう。料理だって。
今朝の肉も、生きて来た中で一番美味かった。そんな出来過ぎな彼が僕と結婚なんて、男同士なんて尚更嫌に違いない。
それなのに、僕は彼の親切心に付け込んで傍若無人に振る舞ってしまった。
「······最低だな、僕は」
家畜の山羊と仔馬が視界に入る。いっそのこと、自分からここを出て行こうか。
いや、例えこの家畜があっても、僕は一人で生きてなんて行けない。
それなら、やっぱりここで生きて行く方法を考えなければ。まずは、穀潰しから卒業したい。うんうん、と頭を捻って役立てることを考える。
「あ!マハ芋掘りなら僕でも出来る!!」
そう思い付いた僕は、広場の近くをあちこち探してみた。
案外、見つからない。
「無いなぁ、あとは······」
マハ芋は、岩陰なんかの日当たりが悪い場所で良く育つはず。僕は、岩を探して森の中を進んで行った。
どれくらい時間が経ったんだろう。運良く獣にも見つからずに僕は森の中を彷徨い、とうとう大岩を見つけた。
「ここなら、あるかも!」
岩陰に回り草を掻き分ける。
あった。
探していたマハ芋の丸く肉厚な葉っぱが、そこにあった。
「あった!これだ!」
僕は迷い無くその葉から辿り太い茎を引っ張り、根元の地面を掘った。僕にはすごく硬い地面だけど、ブレイブさんは字を書くだけで、あんなに深く掘っていた。あまりの差にどんよりとしてしまう。
「痛っ!」
小石が爪の中に入り込んで痛い。でも、掘らないと。僕にはそれしか出来ないんだから。じんわりと血が滲む手を気付かないふりをして地面を掘り続ける。手近にあった小ぶりの石も使って、とにかく掘る。
「で、出て来た·····」
どれくらい格闘していたか分からないが、とうとうマハ芋を掘り当てた。
それは、思っていたより小さかった。
あんなに長い時間をかけて、こんなに泥だらけになったのに、出て来たのは、ほんの小さな芋が3個。
僕は笑い出したかった。自分の滑稽さに。こんな小さな芋のために、僕の身体も心もズタボロだ。
ふと、誰かの気配を感じた。それに、自分の名を呼ばれた気がして岩陰から出ると、そこには汗を滴らせたブレイブさんが立っていた。神様かと思う程に綺麗だった。
僕は何も考えられなくて、でも勝手に口が動き出した。それは滑稽な自分を誤魔化すように滑らかな口調で。
「あ、ブレイブさん、探したんですよ?」
「急に走り出してどうしました?下痢ですか?」
そんな馬鹿みたいな言葉が口から流れ出す。そんな筈無いのは僕が一番分かってる。でも、そういうことになったら良いなと、どこかで願ってもいた。
けれど、現実はいつだって残酷だ。
ブレイブさんから否定の言葉は出なかった。ただ、言いづらそうにしていたのが、余計に悲しかった。
「もしかして、僕のことが嫌になりました?当然ですよね、僕って役立たずだから······はは」
自分でも嫌な言い方してるのは分かってる。役立たずで卑屈な奴なんて嫌われて当然だ。
そこからは、止まらなかった。自分の卑しさに反吐が出る。けれど、そんな僕をブレイブさんは抱き締めてくれた。
「ごめんなさい、一人にして」
そう優しく優しく包み込んでくれて嬉しさに涙が滲む。ブレイブさんからは汗と野生味溢れる香りがして、なんだか胸がドクドクと煩い。
後ろに巨大な猪が落ちてるけど今は無視しよう。
そうして、僕は抱き締められながら彼の背中に腕を回そうとした時。気付いてしまった。
彼の中心が兆していることを。男同士だから、ブレイブさんは気にしていないのかもしれないが、僕はそこばかりに意識が向いて胸が煩く涙が引っ込んだ。僕は変態なんだろうか。喉が鳴った。
「あの、ちょっとだけ、苦しいです」
もしかして、誰か好きな人のことでも考えていたのだろうか。そう考えれば、今度は僕の薄い胸が酷く軋んだ。
彼は自分で鎮めようとしたが、全く鎮まらない。そんなことを理由にして、半ば強引に逞しい彼の身体に触れた。
こんな森の中で、僕は彼に触れることに夢中になっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アルト、さんっ」
一度、射精してから再び刺激しようとした僕の腕はブレイブさんに捕まった。
流石にこれ以上は許して貰えないらしい。いくらなんでも好きな人の代わりが僕なんて無理があり過ぎた。そりゃそうか、と溜息をつく。
サッと下衣を戻したブレイブさんが僕の腕を引いて立ち上がる。
「小屋へ、戻りましょう」
凄まじい色香を放つブレイブさんが僕を抱き上げた。ヒョイ、と軽々持ち上げられて、慌てて僕はブレイブさんの首に腕を回した。
僕は歩くのが遅いからと、よく兄さん達に抱き上げられていたから慣れていたけど、図々しかったのかもしれない。
「あのっ、重いですよねっ!?自分で歩けます!」
「·······抱かれ慣れてますか?」
「あ、それは、はい」
ギリ、と少しだけ僕を抱く力が強くなった気がしたのは、気の所為か。
ブレイブさんの眉間に縦皺が出来た。
「俺が初めてでは無いんですね」
「??えぇ、それは、まあ。一応この歳まで生きてますので」
こんなに、か細い身体で、この歳まで生きていれば、こうして抱き上げられた数なんて数え切れない。特に父さんも母さんも、兄さんも過保護だったし、僕の足では遅すぎるから。
なんだか、ブレイブさんの背中から圧力を感じて会話はそれきり途絶えた。無言で歩くブレイブさんの速さは尋常ではなく、あっという間に小屋へ到着し、僕は優しく床に寝かされた。
「······では、遠慮しなくて良いですね。神儀を始めましょう」
「あ、神儀?あれって何ですか、ってぇえ?!」
ブレイブさんは衣服を全てガバッと脱ぎ捨てていた。全裸だ。そして、相変わらず天を衝いている。早業過ぎるし目の毒過ぎる。どこに目をやれば良いのか分からない。
「あわわわっ、あのっ、ブレイブさん?」
「·····俺など気持ち悪くて嫌でしょうから、誰か好きな人のことを思っていて下さい。目を閉じていれば、俺の姿も見ずに済みます」
悲しみを湛えた瞳に、その表情に、胸がひしゃげる。そうして、寝そべる僕の頭の横に彼の掌が付かれた。真下から見上げる彼は色香も格好良さも完璧過ぎて、その瞳に宿る炎に心臓がうるさすぎて、僕の胸は既に張り裂けてたと思う。血が出てないのが不思議。僕、死ぬんだ。
どうせ死ぬなら、何でも言ってしまえ。
「ほ、他に好きな人なんて、いませんっ!ぼッ、僕はっ、あなたを見ていたいです!」
思わず、そんな気持ち悪いことを叫んでいた。僕は死を感じて、胸の内を曝け出してしまった。
ブレイブさんが固まった。
その薄緑色の美しい瞳は見開かれたまま動かない。その光景に、僕の胸は裂かれたままで、じくじくと痛んだ。
僕なんかに好かれて嫌だよね····そんな当たり前のことに気付いて泣きたくなる。目の前が霞んでブレイブさんが見えない。
「······迷惑、ですよね」
消え入りそうな声で呟くと、勝手に涙が溢れた。
チュっと、溢れた涙が吸い上げられた。
「·····そんな顔をされたら、勘違いしそうになります······俺なんかの前で、そんな顔はしないで下さい·····我慢が出来なくなる」
「我慢させて、ごめんなさい·····僕なんかが迷惑をかけて、何も役に立てなくて·····ブレイブさんに嫌われたら、もう僕はどうしたら良いか·······」
視線を合わせていられなくて、僕は俯く。俯くと、その、あれが、あれで。そう、アレが僕から丸見えだったりする。
「ゴフッ!!ガハッ」
がっつり見てしまい、思い切り噎せた。ハッとしたブレイブさんが僕を抱え起こして背中を撫でてくれる。
優しい。え、なにこの格好良い人。こんな素敵な人が僕に優しくしたって、何も良いこと無いのに。むしろ、罵られても嬉しいくらいやのに。
だめだろ、これ。
こんな、出会ったばかりなのに。
好きが溢れて止まらない。
「大丈夫ですか?ごめんなさい、驚かせたでしょう······俺の頭がどうかしていたんです。怖い思いをさせて、すみませんでした」
「こっ、恐くは、無い、です」
柔らかく抱き締められた腕の中から彼を見上げる。彼はじっと僕を見詰めている。こんなに近くで見詰め合うなんて初めてだ。彼の透き通った瞳には、やっぱりか細くてダメダメな僕が映っていた。
ブレイブさんの香りをもっと吸い込みたくて、深呼吸を一つしてから話し出す。
「そのっ、僕は、ブレイブさんの香りが······」
パッとブレイブさんが僕から急に離れ、距離を取られた。突然離れた温もりが寂しくて、全身が寒くて、少しだけ温まりかけた心も凍り付いた。
流石にショックだった。
やっぱり僕なんかじゃ無理、それが当然のこと。
僕は出来るだけ明るく笑った。
「アハハっ、嫌われちゃいました?僕、ここを出て行った方が良いです·····よね」
最後の方は未練タラタラで我ながら、みっともない。引き留めて欲しくて堪らないと言ってるようなものだ。
「俺が出て行きます」
はっきりと全裸のブレイブさんが言い切った。
まだ、天を衝いてるけど、その澄んだ瞳に情慾は感じられない。やっぱり僕に向けた気持ちじゃなかったんだ、と落ち込む。
「このままでは、俺は自分を抑えられずにアルトさんに酷いことをしてしまう。だから、俺が出て行きます」
そう宣言すると、ブレイブさんは衣服を身に着け始める。天を衝くモノは、強引に捩じ込まれた。うわぁ、痛そう。
「あ、あの、ブレイブさん」
僕は必死に彼の服の裾を握りしめる。
「ブレイブさんになら、僕は酷いことをされても構わないんです。というより、ブレイブさんは優しいから、僕に酷いことなんてしませんよ。だから、役立たずの僕が出て行きます」
今度は僕がはっきりと宣言した。ブレイブさんが、また固まった。
ペタペタと腕を触っても顔を抓っても一切反応しない。ついつい、唇まで触ってしまった。柔らかかったし、胸がドキドキして心臓が口から出た。うん、出たと思う。
「·······もしかして、これが原因で結婚相手が見つからなかったのかな?うーん、あり得る」
僅かにビクリと身体が動いたが、やはり止まったままだ。
こんなに頻繁に動きが止まってしまう人は初めて見た。これでは、狩りの途中で危険を伴う。
格好良くて優しくて素敵過ぎるブレイブさんに結婚相手が見つからなかった理由は、きっとこれだろう。
と、急にブレイブさんの瞳が動いた。
「········しばらくっ、時間を下さいっ!ブビィッ!!」
「あれ?近くに豚がいる?」
「うっ······ああぁぁぁぁあ!!!」
こんな光景、今朝も見た気がする。
ブレイブさんは、再び走り去ってしまった。
急に叫び出したブレイブさんに僕は度肝を抜かれた。
野生の獣が集団で襲って来たのかと身構えた。が、どうやら違ったらしい。
何となく、ふんわりとした良い空気が流れていたと思ったのは僕だけだったらしく、ブレイブさんは僕の元から走り去ってしまった。
「待って、ブレイブさん····」
何度も叫んでもブレイブさんは戻って来なかった。
僕は頭にほんのり残るブレイブさんの掌の感触を感じたくて、自分の頭を撫でた。
ポツッと地面に雨粒が落ちた。
違った。僕の涙だった。
「そりゃそうか。ここに来てから僕、何もしてないもんね。ただの穀潰しだ」
それが、よりにもよって新しい家を建てて欲しいような流れになってしまった。そんなつもりは無かったけれど、ブレイブさんには、そう受け取られたのだろう。
どう思ったんだろう。こんな枯れ枝みたいな穀潰しの男が新しい家を欲しがるなんて。迷惑以外の何者でも無いし、呆れられただろう。
二度と、ここへ戻って来ては貰えないかもしれない。
ただでさえ、彼はあんなにも凛々しく格好良い。筋肉も素晴らしくて、リマ村の女性は誰もが彼と結婚したがる筈。きっと狩りも上手いんだろう。料理だって。
今朝の肉も、生きて来た中で一番美味かった。そんな出来過ぎな彼が僕と結婚なんて、男同士なんて尚更嫌に違いない。
それなのに、僕は彼の親切心に付け込んで傍若無人に振る舞ってしまった。
「······最低だな、僕は」
家畜の山羊と仔馬が視界に入る。いっそのこと、自分からここを出て行こうか。
いや、例えこの家畜があっても、僕は一人で生きてなんて行けない。
それなら、やっぱりここで生きて行く方法を考えなければ。まずは、穀潰しから卒業したい。うんうん、と頭を捻って役立てることを考える。
「あ!マハ芋掘りなら僕でも出来る!!」
そう思い付いた僕は、広場の近くをあちこち探してみた。
案外、見つからない。
「無いなぁ、あとは······」
マハ芋は、岩陰なんかの日当たりが悪い場所で良く育つはず。僕は、岩を探して森の中を進んで行った。
どれくらい時間が経ったんだろう。運良く獣にも見つからずに僕は森の中を彷徨い、とうとう大岩を見つけた。
「ここなら、あるかも!」
岩陰に回り草を掻き分ける。
あった。
探していたマハ芋の丸く肉厚な葉っぱが、そこにあった。
「あった!これだ!」
僕は迷い無くその葉から辿り太い茎を引っ張り、根元の地面を掘った。僕にはすごく硬い地面だけど、ブレイブさんは字を書くだけで、あんなに深く掘っていた。あまりの差にどんよりとしてしまう。
「痛っ!」
小石が爪の中に入り込んで痛い。でも、掘らないと。僕にはそれしか出来ないんだから。じんわりと血が滲む手を気付かないふりをして地面を掘り続ける。手近にあった小ぶりの石も使って、とにかく掘る。
「で、出て来た·····」
どれくらい格闘していたか分からないが、とうとうマハ芋を掘り当てた。
それは、思っていたより小さかった。
あんなに長い時間をかけて、こんなに泥だらけになったのに、出て来たのは、ほんの小さな芋が3個。
僕は笑い出したかった。自分の滑稽さに。こんな小さな芋のために、僕の身体も心もズタボロだ。
ふと、誰かの気配を感じた。それに、自分の名を呼ばれた気がして岩陰から出ると、そこには汗を滴らせたブレイブさんが立っていた。神様かと思う程に綺麗だった。
僕は何も考えられなくて、でも勝手に口が動き出した。それは滑稽な自分を誤魔化すように滑らかな口調で。
「あ、ブレイブさん、探したんですよ?」
「急に走り出してどうしました?下痢ですか?」
そんな馬鹿みたいな言葉が口から流れ出す。そんな筈無いのは僕が一番分かってる。でも、そういうことになったら良いなと、どこかで願ってもいた。
けれど、現実はいつだって残酷だ。
ブレイブさんから否定の言葉は出なかった。ただ、言いづらそうにしていたのが、余計に悲しかった。
「もしかして、僕のことが嫌になりました?当然ですよね、僕って役立たずだから······はは」
自分でも嫌な言い方してるのは分かってる。役立たずで卑屈な奴なんて嫌われて当然だ。
そこからは、止まらなかった。自分の卑しさに反吐が出る。けれど、そんな僕をブレイブさんは抱き締めてくれた。
「ごめんなさい、一人にして」
そう優しく優しく包み込んでくれて嬉しさに涙が滲む。ブレイブさんからは汗と野生味溢れる香りがして、なんだか胸がドクドクと煩い。
後ろに巨大な猪が落ちてるけど今は無視しよう。
そうして、僕は抱き締められながら彼の背中に腕を回そうとした時。気付いてしまった。
彼の中心が兆していることを。男同士だから、ブレイブさんは気にしていないのかもしれないが、僕はそこばかりに意識が向いて胸が煩く涙が引っ込んだ。僕は変態なんだろうか。喉が鳴った。
「あの、ちょっとだけ、苦しいです」
もしかして、誰か好きな人のことでも考えていたのだろうか。そう考えれば、今度は僕の薄い胸が酷く軋んだ。
彼は自分で鎮めようとしたが、全く鎮まらない。そんなことを理由にして、半ば強引に逞しい彼の身体に触れた。
こんな森の中で、僕は彼に触れることに夢中になっていた。
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「アルト、さんっ」
一度、射精してから再び刺激しようとした僕の腕はブレイブさんに捕まった。
流石にこれ以上は許して貰えないらしい。いくらなんでも好きな人の代わりが僕なんて無理があり過ぎた。そりゃそうか、と溜息をつく。
サッと下衣を戻したブレイブさんが僕の腕を引いて立ち上がる。
「小屋へ、戻りましょう」
凄まじい色香を放つブレイブさんが僕を抱き上げた。ヒョイ、と軽々持ち上げられて、慌てて僕はブレイブさんの首に腕を回した。
僕は歩くのが遅いからと、よく兄さん達に抱き上げられていたから慣れていたけど、図々しかったのかもしれない。
「あのっ、重いですよねっ!?自分で歩けます!」
「·······抱かれ慣れてますか?」
「あ、それは、はい」
ギリ、と少しだけ僕を抱く力が強くなった気がしたのは、気の所為か。
ブレイブさんの眉間に縦皺が出来た。
「俺が初めてでは無いんですね」
「??えぇ、それは、まあ。一応この歳まで生きてますので」
こんなに、か細い身体で、この歳まで生きていれば、こうして抱き上げられた数なんて数え切れない。特に父さんも母さんも、兄さんも過保護だったし、僕の足では遅すぎるから。
なんだか、ブレイブさんの背中から圧力を感じて会話はそれきり途絶えた。無言で歩くブレイブさんの速さは尋常ではなく、あっという間に小屋へ到着し、僕は優しく床に寝かされた。
「······では、遠慮しなくて良いですね。神儀を始めましょう」
「あ、神儀?あれって何ですか、ってぇえ?!」
ブレイブさんは衣服を全てガバッと脱ぎ捨てていた。全裸だ。そして、相変わらず天を衝いている。早業過ぎるし目の毒過ぎる。どこに目をやれば良いのか分からない。
「あわわわっ、あのっ、ブレイブさん?」
「·····俺など気持ち悪くて嫌でしょうから、誰か好きな人のことを思っていて下さい。目を閉じていれば、俺の姿も見ずに済みます」
悲しみを湛えた瞳に、その表情に、胸がひしゃげる。そうして、寝そべる僕の頭の横に彼の掌が付かれた。真下から見上げる彼は色香も格好良さも完璧過ぎて、その瞳に宿る炎に心臓がうるさすぎて、僕の胸は既に張り裂けてたと思う。血が出てないのが不思議。僕、死ぬんだ。
どうせ死ぬなら、何でも言ってしまえ。
「ほ、他に好きな人なんて、いませんっ!ぼッ、僕はっ、あなたを見ていたいです!」
思わず、そんな気持ち悪いことを叫んでいた。僕は死を感じて、胸の内を曝け出してしまった。
ブレイブさんが固まった。
その薄緑色の美しい瞳は見開かれたまま動かない。その光景に、僕の胸は裂かれたままで、じくじくと痛んだ。
僕なんかに好かれて嫌だよね····そんな当たり前のことに気付いて泣きたくなる。目の前が霞んでブレイブさんが見えない。
「······迷惑、ですよね」
消え入りそうな声で呟くと、勝手に涙が溢れた。
チュっと、溢れた涙が吸い上げられた。
「·····そんな顔をされたら、勘違いしそうになります······俺なんかの前で、そんな顔はしないで下さい·····我慢が出来なくなる」
「我慢させて、ごめんなさい·····僕なんかが迷惑をかけて、何も役に立てなくて·····ブレイブさんに嫌われたら、もう僕はどうしたら良いか·······」
視線を合わせていられなくて、僕は俯く。俯くと、その、あれが、あれで。そう、アレが僕から丸見えだったりする。
「ゴフッ!!ガハッ」
がっつり見てしまい、思い切り噎せた。ハッとしたブレイブさんが僕を抱え起こして背中を撫でてくれる。
優しい。え、なにこの格好良い人。こんな素敵な人が僕に優しくしたって、何も良いこと無いのに。むしろ、罵られても嬉しいくらいやのに。
だめだろ、これ。
こんな、出会ったばかりなのに。
好きが溢れて止まらない。
「大丈夫ですか?ごめんなさい、驚かせたでしょう······俺の頭がどうかしていたんです。怖い思いをさせて、すみませんでした」
「こっ、恐くは、無い、です」
柔らかく抱き締められた腕の中から彼を見上げる。彼はじっと僕を見詰めている。こんなに近くで見詰め合うなんて初めてだ。彼の透き通った瞳には、やっぱりか細くてダメダメな僕が映っていた。
ブレイブさんの香りをもっと吸い込みたくて、深呼吸を一つしてから話し出す。
「そのっ、僕は、ブレイブさんの香りが······」
パッとブレイブさんが僕から急に離れ、距離を取られた。突然離れた温もりが寂しくて、全身が寒くて、少しだけ温まりかけた心も凍り付いた。
流石にショックだった。
やっぱり僕なんかじゃ無理、それが当然のこと。
僕は出来るだけ明るく笑った。
「アハハっ、嫌われちゃいました?僕、ここを出て行った方が良いです·····よね」
最後の方は未練タラタラで我ながら、みっともない。引き留めて欲しくて堪らないと言ってるようなものだ。
「俺が出て行きます」
はっきりと全裸のブレイブさんが言い切った。
まだ、天を衝いてるけど、その澄んだ瞳に情慾は感じられない。やっぱり僕に向けた気持ちじゃなかったんだ、と落ち込む。
「このままでは、俺は自分を抑えられずにアルトさんに酷いことをしてしまう。だから、俺が出て行きます」
そう宣言すると、ブレイブさんは衣服を身に着け始める。天を衝くモノは、強引に捩じ込まれた。うわぁ、痛そう。
「あ、あの、ブレイブさん」
僕は必死に彼の服の裾を握りしめる。
「ブレイブさんになら、僕は酷いことをされても構わないんです。というより、ブレイブさんは優しいから、僕に酷いことなんてしませんよ。だから、役立たずの僕が出て行きます」
今度は僕がはっきりと宣言した。ブレイブさんが、また固まった。
ペタペタと腕を触っても顔を抓っても一切反応しない。ついつい、唇まで触ってしまった。柔らかかったし、胸がドキドキして心臓が口から出た。うん、出たと思う。
「·······もしかして、これが原因で結婚相手が見つからなかったのかな?うーん、あり得る」
僅かにビクリと身体が動いたが、やはり止まったままだ。
こんなに頻繁に動きが止まってしまう人は初めて見た。これでは、狩りの途中で危険を伴う。
格好良くて優しくて素敵過ぎるブレイブさんに結婚相手が見つからなかった理由は、きっとこれだろう。
と、急にブレイブさんの瞳が動いた。
「········しばらくっ、時間を下さいっ!ブビィッ!!」
「あれ?近くに豚がいる?」
「うっ······ああぁぁぁぁあ!!!」
こんな光景、今朝も見た気がする。
ブレイブさんは、再び走り去ってしまった。
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