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ダメなこと

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僕は、あのブレイブさんと、両想いになった。こんな奇跡があって良いのだろうか、と有頂天だ。
しかも、既に僕達は身体の結びつきもある。一応は結婚している?よね?から当然と言えば当然だけど、僕には奇跡だ。
僕等の結び付きは神儀だってブレイブさんが言ってたから、普通の夫婦と比べても至極真っ当なものだ。
そう、真っ当だと思いたい。こんな出来損ないの僕が、これで真っ当になれる·····よね?
なのに、なのに·······

「·······そ、そんな、これから、ですか?」

僕達は、朝に川で互いに全身を洗い清め、しばらく休んでから、ブレイブさんが狩った立派な猪を捌いて、仲良く二人で料理して食べた。今度はブレイブさんの洞窟から持って来た大きな鍋で煮たんだ。絶妙な塩加減と柔らかく煮込まれた猪肉は、山菜の僅かな苦味がアクセントになって、とてつもなく美味しかった!最高!なんて幸せ!
そうして、美味しい夕食もお腹いっぱい食べ終えて、温かい小屋の中で。
僕はブレイブさんに、緊張しながらも、決死の覚悟で『神儀をしましょう』と誘った。顔は笑うように頑張ったけど、汗はダラダラと背中を流れ落ちていた。
だって神儀だもの、何も悪いことは無い。
神への祈りですし、何より僕達は、あ、愛し合っているのだから·····愛し合ってるよね?

「でもっ、俺っ·······今日は、ちょっと」

「えっ!あっ、具合い悪いんですか?もしかして、朝、無理させましたか?」

ブレイブさんの全身が真っ赤に染まると、釣られて僕も真っ赤に染まる。紅く染まった目元が色っぽくて喉が鳴る。痴態を思い出せば下半身が重くなる。

「いえ、そうじゃ、なくって······アルトさんは何も悪く無いんです。俺が······」

それきりブレイブさんは黙り込んでしまった。俯くブレイブさんの美しい旋毛を見詰めて、僕は、どうしたら良いか分からなかった。何もかもが初めての僕は、こんな時に何と言えば良いかを知らない。
不安に胸の鼓動が嫌な音を立てる。
もう嫌われた?
いつ?僕、何をしたの?
いや、むしろ、好きというのは、あの時の流れだけで、本当は僕のことなんて好きじゃなかった?
グルグル巡る頭の中が爆発しそうになる。

「ぼ、僕のこと、もう嫌い、ですか」

ポロッと涙が溢れた。恥ずかしい。僕は泣き顔を見られないように両腕で顔を隠した。情けなくて、自分が哀れ過ぎた。

「ち、違うんです·····そうじゃなくって····」

「何が違うんですか?僕のことなんて、やっぱり好きじゃなかったんですよ·····ブレイブさんが僕となんて、そんな夢みたいなこと、あり得なかったんです」

グズグズと鼻を啜りながら、ウジウジと愚痴る。分かってる。こんな出来損ないが、そんな上手くいくはずない。でも、どこかでまだ期待していた。きっとブレイブさんは僕のことを憎からず思ってくれているはず。

「·······俺は、その······こんな身体ですから」

「······??はい」

そっと顔を上げてブレイブさんを凝視する。
筋肉が厚くて、それはそれは素晴らしく美しい身体で、うっとりする。今夜も触れられると思えば期待で胸が煩かった。むしろ、一日中、そのことばかり考えていた。僕は変態なんだ。

「·····アルトさん、俺は········」

「はい、何でしょう」

「気持ち悪かったですか?」

「·····は?」

コテン、と首を傾げると、ブレイブさんが顔を腕で覆った。全身が今も真っ赤に染まっていた。

「分かって、いるんですが····その、あ、あんなこと、アルトさんは、嫌なんじゃないかって」

「嫌なんかじゃありません!!むしろ大好物です!!」

僕は涙なんて引っ込んで、グイグイとブレイブさんに詰め寄った。

「こんなに素晴らしい身体のどこが気持ち悪いんですかっ!!格好良くて、最高に興奮しますっ!!今も、あなたに触れたくて触れたくて、何度もブレイブさんの裸を思い出して興奮抑えきれぬ一日を過ごしてたんです!!」

「······はぁ」

唾を飛ばしながらも思いの丈をぶつけると、今度はブレイブさんの涙が引っ込んだ。

「ブレイブさんこそっ!ほんとは、僕のことなんて、出来損ないだと思っているのでしょ?役立たずだし、見た目もこんなだし、あなたには釣り合わないから」

言いたくないのに、ついつい自虐的になってしまう。こんなこと言って嫌われたく無いのに!!

「アルトさんは、綺麗です。美しいです。俺は貴方を一目見た時から、恋に落ちました」

ブレイブさんが、僕の手に、その厚い掌をそっと重ねて握った。それだけで、胸がトクントクン煩い。

「きっ綺麗だなんてっ!言われたこと、無いです······」

「俺もです。格好良いなんて言われたこと無いです······貴方だけです、アルトさん」

二人の視線が恐る恐る交わる。恥ずかしくて逸しそうになるけど、どちらも決死の覚悟で視線を合わせる。

「好きです、ブレイブさん」

「俺も愛してます、アルトさん」

ゆっくりと瞼を降ろし、顔が近付いていく。どうやって息をすれば良いのか分からないけれど、完全に目を閉じて良いのか分からないけれど、少しだけカサついた唇と接吻した。柔らかい。
ほんの少し瞼を挙げて盗み見る。
ブレイブさんの顔が近くにあって、長い睫毛が影を落としている。息が上手く出来なくて、ずっと息を止めていたら、頭がクラクラしてきた。
そろそろ限界、という頃に、ブレイブさんの身体が離れた。ホッとしてブレイブさんを見上げると、そこに彼は居なかった。
ん?と辺りを見渡せば、彼は床に寝ていた。

「??ブレイブさん?」

返事は無い。

「え?何?ブレイブさんっ!!」

思わず肩を掴んで大きく揺する。
ハッとしてブレイブさんが目を開けた。
肩で大きく息をして、少し落ち着くのを待つ。

「ハアっ、ハアっ·····失礼しました。息が出来なくて······そのまま気が遠くなって倒れたようです。すみません」

「ぼっ、僕も、限界でしたっ!!無理させてごめんなさい!」

「いえっ、俺も不慣れで、ごめんなさい」

「僕の方こそ、やり方が分からなくて」

二人で、散々謝り合った。
謝り過ぎて、何となく笑ってしまった。
そうしたら、二人とも笑い出した。

「ふふっ、なんか、おかしいですね」

「ははっ、何を謝ってるのか分からなくなってきました」

ふふふ、ははは、と明るい笑い声。
ブレイブさんの初めて見る笑顔は、本当に格好良くて僕は嬉しくて嬉しくて顔を真っ赤にして笑った。
部屋の中は暖かくて、心も身体も暖かさに包まれて、穏やかな時間が流れていた。

「ブレイブさんが婚儀の相手で、僕は幸せです」

「俺もアルトさんと結婚出来て、もう死んでも良い」

「いや、死んじゃダメですって」

思わずブレイブさんにツッコむと、ブレイブさんが一旦ポカンとしてから、クシャッと笑い泣きのような顔になった。何をしても格好良い。

「·····貴方だけです」

「何がですか?」

ブレイブさんは答えず、僕をそっと抱き締めて来た。僕も抱き締め返す。
耳元で、ハアっと深い吐息が聞こえる。

「俺なんかの身体で、その·····良ければ、神儀、お願いします」

「は、はいっ!!喜んでぇっ!!」

僕は部屋の隅に置いたままの神儀の道具をイソイソと掻き集めた。
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