出来損ないの下剋上溺愛日記

にじいろ♪

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血の海

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「わぁ、良い天気ですよ、ブレイブさん!」

「ほんとですね、アルトさん。光を浴びたアルトさんが眩しくて、俺は目が潰れても構わないから見続けていたい」

今日も今日とて、ブレイブさんは通常通りだ。早く治療させないと。

「今日は、今度こそルンブレンさんのお宅に行きましょう!」

「······································そうですね」

眉間にシワを寄せてブレイブさんが頷く。恥ずかしいらしい。
僕達はパンとスープの簡単な朝食を食べてから、それぞれに一仕事終えて、昼前には家を出た。新しい家はブレイブさんのお陰ですっかり住心地が良くて仕事も捗る。
お陰で、昼前に一枚、新しい布が完成した。僕は踊り出したい気分だった。

「これも、ルンブレンさんに見せてみたいんです!お金になると良いんですけど」

「アルトさんは、先程からルンブレンさんのことばかり·······俺より、あの男の方が」

ブツブツと暗い表情で呟くブレイブさんの声が良く聞き取れなかった。

「え?なんですか?ブレイブさん?」

「見つけたぞ!!お前!ハッハッハ!!この俺様に見つかるとは、運が悪かったな!なぁ、リオ」

「クックックッ、そうだよな、ミヤ」

「あ、ゴミさん?」

昨日のゴミさんと、隣には同じダボダボした格好の変な髪型の男が立っていた。
前髪が長過ぎて前が見えないんじゃないだろうか。

「なっっ!!!誰がゴミだぁ!!」

顔を真っ赤にしてゴミさんが怒り出した。あれ?名前違った?

「お前がゴミだ。何の用だ、ゴミ」

通りを歩く人達が、クスクスと笑っている。
もっと言ってやれ、と囃し立てる人もいる。

「クソっ!黙れ黙れ黙れ!!そのうち、父さんが悪漢を雇ってお前らを襲わせるんだからな!謝るなら今のうちだぞ!!」

「そうだ、そうだ。ミヤが言うんだから間違い無いぞ」

隣の変な髪型も笑いながら一緒に言うが、なんだか、この男もゴミさんを小馬鹿にしているらしい。
そこへ、小太りの女の人が割り入って来た。

「リオ!何してんだい!店番だろ?!」

「母ちゃん、ごめんて。ミヤがいつも一人じゃ可哀想だからさ」

「町長からの伝言板見たんだろ?あんたはバカじゃないんだから、さっさと帰るよ。出来損ないに、いつまで付き合ってるつもりだい」

小太りの女性は、振り返って僕達にだけ挨拶をした。

「お初にお目にかかります。リオの母のアミラです。小さな花屋を営んでおりますので、ご入用の際は、ぜひお声掛け下さい」

にっこり微笑んで、踵を返して、さっさと変な髪型の男を連れて行った。残ったのは、ゴミさんだけだった。

「父ちゃんは、迎えに来てくれねぇのか」

「見捨てられたなぁ」

そんな野次が飛ぶ。なんだろ、なんだか可哀想だ。

「えっと、ゴミさん?」

「うるさい!うるさい!うるさい!黙れ、お前らなんか、悪漢に襲われてボロボロになって街の外に捨てられれば良いんだ!アルトとかいうお前だって、俺様が拾ってやろうと思ってたのに、もう助けてやらないからな!!」

何の話をしているのか、良くわからない。けれど、とても悲しそうで見ていられ無かった。

「ゴミさん、そんなに悲しまないで」

「悲しんでなんか、無い!クソっお前は生かしてやろうと思ってたのに!!もういい!死んで詫びろ!!」

胸元から大振りのナイフを取り出すと、僕に向けて突き出して来た。遠くで悲鳴が聞こえた。
僕は、目の前の光景が、やたらにゆっくり見えるのに、全く身体が動かなかった。

ドン!!

大きな低い音がした。けれど、僕はどこも痛くない。
目の前には、いつも現れる背中があった。

「きゃあああぁぁぁぁあ!!!」

叫び声が、急に大きく聞こえた。ドクンドクンと胸の音が頭の奥で響く。
息が出来ない。

「ブレイブくん!!!」

人混みを掻き分けて、禿頭が現れた。僕は、それをぼんやりと見ていた。

「医者を!!早く誰か、シュリ先生を!!」

「皆、呼びに行くぞ!!」

「傷口を抑えないと!!」

人混みが、瞬く間に散り散りになって、ブレイブさんの周りを囲んで手当てをしている。
仰向けに石畳の上に寝かされたブレイブさんは目を閉じていた。

僕は、そろりそろり、と近付く。ブレイブさんの腹からナイフが突き出ていた。溢れる血を周りの人々が抑えている。

「ぶ、ブレイブ、さん」

ブレイブさんの向こう側では、あの男が数人の男に取り押さえられて叫んでいる。

「アイツが悪いんだ!!俺様は町長の息子だぞ!!手を離せ!」

僕は呆然と、その光景を見ていた。頭が動かない。けれど、勝手に身体は動いた。
頭と身体がバラバラみたいに。

僕は暴れる男の元へ向かうと、足元に転がっていた小さな石を掴んだ。
拳に握り込むと隠れてしまう程の小ささだ。
それをしっかり握り込んで、足元にある男の頭へ向かって、思い切り拳を振り下ろした。
ゴスっ、と低い音がして、男の顔は石畳にぶつかったらしい。

「死んで詫びろ」

僕は何度も何度も拳を振り下ろした。止める者は居なかった。
石畳に血が流れた。

「アルトくん、ブレイブくんを病院へ搬送するから。君も来なさい」

肩をポンポンと叩かれて振り返ると、ルンブレンさんが悲しそうに僕を呼んだ。
僕は、ハッとした拳の小石を捨てた。僕の拳は血に染まっていた。

白い服のお爺さんと、沢山の人達に付いて、大きな布で運ばれるブレイブさんの手を握って歩いた。あまり揺らさないように、と皆が気をつけて歩いた。あまりに長い時間で、僕は一生歩き続けるように思えた。けれど、実際は振り返れば、地べたに蹲る男が見える位には近かった。

「すまないことをした。アルトくん、この償いは必ずするから」

「ルンブレンさん······」

ルンブレンさんの謝罪にも、僕は何も言えなかった。ブレイブさんの青白い手を握りしめることしか出来なかった。

「では、治療を始める。君は見ているかね?恐ろしいぞ」

「······はい。見ます。僕のせいですから」

ふむ、と頷くと、黙って白い服のお爺さんはカチャカチャと何やら道具を用意し始めた。シャーマンとは違うようだ。でも、治療すると言っている。

「シュリ先生は素晴らしい名医だ。心配するな、必ず良くなるよ」

隣でルンブレンさんが僕の肩を優しく撫でてくれた。
途端に目を閉じていたブレイブさんの血走った瞳が、カッと開いた。

「触るな!!」

「「「えっ」」」

ブレイブさんは、ムクッと起き上がると、腹に刺さったナイフを事も無げに抜いた。
ブシューっと大量の血が流れる。

「なっ、なっ、なにをっ?!お前さんっ」

「こんな傷、一晩寝れば治る。それより、ルンブレンさん。アルトさんの肩に二度も触りましたね」

慌てて傷口に布を当てて血を抑えようとするシュリ先生と、それを物ともせずに僕の方へ歩き出す血走ったブレイブさん。
ヒィッと、後退るルンブレンさん。
僕は、意識を失った。
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