【ひとまず完結】異世界の偏屈爺、かく語りき

ゆきむらちひろ

文字の大きさ
9 / 27

09:オリジナリティを欠く

しおりを挟む
筆者:石臼翁


 近頃、若い連中の間で奇妙な病が流行っているように思える。それは「人と同じは、格好が悪い」という、実に厄介な病だ。

 先日も馴染みの武具屋の主人が、やれやれといった顔でこぼしていた。駆け出しの冒険者だという若者が店に来て、こう言い放ったのだそうだ。「皆が使っているような、ありきたりの剣はいらない。俺だけの、特別な一本が欲しい」と。主人が、初心者に最も扱いやすく、実戦で証明された定番のロングソードを勧めると、その若者は鼻で笑い、「そんな量産品は、オリジナリティに欠ける」と吐き捨てて帰っていったという。

 オリジナリティ。独創性、とでも訳せばよいのか。実に結構な響きを持った言葉だ。だが私に言わせれば、これほど扱いを違えやすい言葉もない。

 彼らが言う「オリジナリティ」とは、一体何なのだろうか。他の誰も持っていない奇抜な形の武器を持つことか。誰もやらないような突飛な戦い方をすることか。

 彼らは、ただ「違う」という一点においてのみ価値を見出し、その他すべてを切り捨てているように見える。それはもはや独創性などという高尚なものではなく、ただの子供じみた天邪鬼、意地っ張りに過ぎないのではないか。

 そもそも、世の中に「定番」と呼ばれるものが、なぜ存在するのか。それは、数えきれないほどの先人たちが、血と汗と、時には命を代償にして、「これが最も効率的で、最も安全で、最も信頼できる」という最適解を導き出してくれたからに他ならない。あの武具屋が勧めたロングソードにしてもそうだ。あの長さ、あの重さ、あの重心。そのすべてが、何百年という歳月をかけて、無数の戦いの中で研ぎ澄まされてきた、いわば人類の知恵の結晶なのだ。それを、まだ剣の握り方さえおぼつかないような若造が、「オリジナリティに欠ける」の一言で切り捨ててしまう。これほど傲慢で、愚かなことがあるだろうか。

 彼らは、基本を学ぶという、最も重要で、そして最も地味な過程を軽んじている。まずは、先人たちが築き上げた「型」を徹底的に己の身体に叩き込む。なぜこの形なのか、なぜこの手順なのか、その意味を骨の髄まで理解する。
 その上で、初めて「型破り」という領域に足を踏み入れることができるのだ。型を知らぬ者のそれは、ただの「形無し」だ。この言い回しを聞いたことがある者は多かろう。

 見様見真似で奇抜なことをしたところで、それは付け焼き刃の芸当に過ぎない。いざという時にまったく役に立たないことも、先人たちの散った命の数が証明している。基礎という揺るぎない土台があってこそ、その上に独創性という名の家を建てることができるのだ。その道理が、彼らには分かっていない。

 この奇妙な病は、なにも武具選びに限った話ではない。ダンジョン攻略の戦術にしてもそうだ。ベテランたちが確立した、最も安全で確実な連携というものがある。盾役が敵の攻撃を受け止め、その隙に魔法使いが詠唱を始め、戦士が側面から切り込む。あまりに教科書的で、面白みがない、と彼らは言うのかもしれない。そして、誰もやったことのないような奇策を弄し、結果、仲間を危険に晒す。彼らはそれを「挑戦」と呼ぶのだろうが、私には無謀な「博打」にしか見えない。彼らが守るべきは、己のちっぽけな自尊心か、それとも仲間全員の命か。その天秤さえ、正しく測れないのだ。

 思うに、彼らは「自分は特別だ」と信じたいのだろう。大勢の中に埋もれてしまうことを何よりも恐れている。だから、手っ取り早く「違うこと」をすることで、己の存在を証明しようとする。だが本当の個性というのは、そんな表面的な差異の中に宿るものではない。同じ剣を握っていても、それを振るう者の練度によって、その太刀筋は千差万別に変わる。同じ戦術を用いていても、状況判断の的確さ、仲間との呼吸の合わせ方によって、その成果は天と地ほども開く。個性とは、与えられた道具や定石の中に、いかに己の魂を注ぎ込むか、というその深さにおいてこそ立ち現れてくるものなのだ。

 奇抜な形の剣を振り回し、自己満足に浸っている若者に言いたい。お前がその剣で斬れるのは、せいぜい風くらいのものだろう。一方、お前が馬鹿にしたあの「量産品」の剣は、これまで幾万という兵士の手に握られ、国を守り、家族を守り、そして歴史そのものを斬り拓いてきたのだ。その一本の剣に込められた、先人たちの願いや祈りの重みを、お前は理解しているのか。

 オリジナリティとは、人と違うことを追い求めるあまり、先人たちが積み上げてきた知恵や歴史をないがしろにすることではない。むしろ逆だ。その偉大な遺産を、謙虚に学び、敬意を払い、そしてその上で、自分にしかできない、ほんのわずかな「何か」を上乗せしていくこと。その地道で、果てしない営みこそが、本物の「独創性」を生むのだ。

 こんなことを言ったところで、あの類の若者には「年寄りの説教はオリジナリティに欠ける」とでも言われるのが関の山。だが独創性に富んだ言動などを振り回していては、ダンジョンなどで咄嗟に自分や仲間の命を救えない。守れない。大多数の人間は、経験を積んでそのことに気付いていく。だからこそ「自分は特別だ」と思い込みたいのかもしれない。その蒙が啓かれるのが、ダンジョンでしくじり命を散らす寸前、などということにならなければいいのだが。


 -了-
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

レンタル従魔始めました!

よっしぃ
ファンタジー
「従魔のレンタルはじめました!」 僕の名前はロキュス・エルメリンス。10歳の時に教会で祝福を受け、【テイム】と言うスキルを得ました。 そのまま【テイマー】と言うジョブに。 最初の内はテイムできる魔物・魔獣は1体のみ。 それも比較的無害と言われる小さなスライム(大きなスライムは凶悪過ぎてSランク指定)ぐらいしかテイムできず、レベルの低いうちは、役立たずランキングで常に一桁の常連のジョブです。 そんな僕がどうやって従魔のレンタルを始めたか、ですか? そのうち分かりますよ、そのうち・・・・

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...