幼馴染みの騎士様と婚約しました

1‐①

私ことマリアナ・イェラ・クライエスは侯爵家の一人娘で、そのせいか両親や周りの方々からは本当に蝶よ花よと育てられてきました。しかし私はそれではダメだと思うのです。立派な侯爵家の跡取りとして独り立ちしなければ。私は常日頃からそう思っておりました。
そこで、屋敷の広い庭の片隅。木漏れ日と小さな生き物たちが集まる平屋の離れで1人で生活をしています。本当は下町にでも出て平民の暮らしをしてみたかったのですが、両親が許すはずもなく...。渋々了承してくれたのがこの離れでの生活だったのです。

「ふぅ、今日もいいお野菜が育っているわ。今日はポトフにでもしてみようかしら」

離れの隣には私が耕たがやした野菜畑があり、肉魚以外はここで賄まかなっています。今日の収穫を終わり、家に入ると先程はいなかった人物が入ってきていました。

「ロズ、勝手に入って来ないでと言ったでしょう？」

「ん」

いつの間にか入ってきて寝ていた彼を起こすも目を閉じたままで、どうやらまだ眠気が勝っているようでした。金髪の長髪を一つに纏まとめ、腕と足を組んで太陽の光を浴びている様は美しいと表現するのが妥当でしょう。思わず絹のような髪に手を伸ばして一撫ですると、碧眼の瞳がゆっくりと姿を見せ、やがて私の顔をすべて映し出しました。

「マリアナ、おはよう。」

彼は髪をなでていた私の手に頬を擦り寄せ、私に挨拶をしました。

「おはようございます、今日は騎士団の仕事は無いのですか？」

パッと手を離すと少し残念そうな顔をされましたが、それは見ないふりで話題を変えることに。

「今日は午後から、執務室に篭もりっきりになるよ。」

「そうですか…。あ、ロズ」

「ん？」

「私は少し着替えるので、朝ごはんは少し待っていてくださいね」

「う、うん。」

先程の収穫で少し汗をかいてしまった様で、私は着替えて朝食を作りました。

「はい、どうぞ」

「ありがとう。」

他愛のない会話をしながらの朝食はあっという間に過ぎ、彼を仕事に送り出す時間になりました。

「じゃあ、行ってくるよ。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」

どこか気だるそうで寂しそうな雰囲気を漂わせています。なので、本当は隠していた私の秘密を、一つ彼に教えてあげることにしました。

「ロズ、実は私正午頃に騎士団に用事がありますの。」

「なんで」

少し彼の目がキラキラしてきました。いい感じですわ。

「お父様から言伝を預かっていますの。ちょうどお昼時ですし、何か作って差し入れしに行きますわ。」

「...」

無言ですが喜んでいるのか、どことなく先程よりも顔がイキイキしているように見えました。

「行ってらっしゃいませ」

「行ってくる」

家から彼の姿が見えなくなるまで見送り続け、私は昼の差し入れメニューを考えます。

「お昼だからやっぱりサンドウィッチとか…。あ、この間完成した保温鍋で野菜のスープも持っていきましょう！」

早くもメニューが決まった私は早速下準備に取り掛かることにしました。