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2.Secound life:and return
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***B
僕は死んだ。
屋上から身を投げてコンクリートに叩きつけられて見るも無残な姿になって死んだはずだ。仕事も家族もお金もなくなり挙句の果てには頼ってきた友人すら見放された。そんな人生に嫌気が差したのだ。
それなのに、もう生きることを止めたのに。
「ベンチの上に寝そべって何してるの?」
なぜ生きている。
それどころかこの可愛げのある幼女はいったい誰だ。僕の知る限り子供はいないし、知り合いにもいなかったはずだ。む、そもそもどうして自分に関係のある幼女だと考えてしまったのだろう。僕は一度人生を諦めたはずだ。
「未練があるってことなのか?」
「みれんってなんのこと?」
「ごめんごめん。君には関係の無い話だよ」と僕は幼女に言い聞かせる。考えすぎてつい口に出てしまった、自分の悪い癖だと分かっているつもりなんだが。
ところで、ここはいったいどこだろうか。中央には噴水、公園外を見渡しても花畑ばかり、そして目の前には幼女……まるで楽園じゃないか。
幼女は僕のお腹の上に乗っかっているようで、見下ろすように僕を見つめていた。黒い髪に2つのお下げ、白いドレスを着飾っていてそれはかわいらしい幼女だった。
「それはそうとようじ……」
しまった。幼女幼女頭の中で言いまくっていたら実際に幼女って言いかけてしまった。
「ん?なに、お兄ちゃん?」
「そういえばお兄ちゃんって誰のことを指してるのかな?見たところ僕以外しか……」
幼女……少女は僕のことを指していた。
「お兄ちゃん」
「なるほどね……って、ええ!!僕がお兄ちゃん?間違いなく?これが!?」
掌で自分の頬や額を確認する。ない。あんだけあったストレスで出来た皺がない。どこにも。それどころか肌はツルツル、額には無駄な油は無い。全身にもあれだけあった倦怠感が、ない。
少女を一度ベンチの端に寄せ、僕は起き上がる。あれだけ痛かった腰が今や微塵もありゃしない。立ち上がり前後左右に腕を振ろうとするが、軽い。自分の体がスポンジにでもなったのかというほど身軽になっている。
「どうしたの?なんか変だよお兄ちゃん、いつもとちょっと違うよ」
奇妙な物体を目にしたと言わんばかりに少女は挙動不審になっている。
「ああ。ごめんごめん。取り乱しちゃったね。ところで僕、今まで何してたんだっけ?」
「っもう、お兄ちゃんったらここにきてすぐに寝ちゃうんだから。今日はミユと一緒に散歩するって約束したじゃん」
この子、ミユって名前なのか。いや初耳だよ。
「そうだったね、ミユ。じゃあどこ行く?」
僕がそう言った途端、ミユ?はさらに挙動不審になった。飼い主じゃない人間がペットに近づいた感じだ、コレ。
「え…………いきなり名前呼びとか、キモ……」
あまりにも容姿に似合わない、刺々しい言葉に僕は唖然とするしかなかった。
***
僕は死んだ。
一度、人生という階段を上るのを止めたはずだった。しかし、それがまた僕には別の階段が用意されていたようだったのだ。
「じゃ……僕はお前って君のことを呼べばいいのかな?」
漂白剤で頭の中を真っ白にされた心地だったが、どうにか気を取り直す。
「少なくとも普段ならそう呼んでいたけどね。自分のことを『僕』って言うのもそうだけど、どうしたの、まさか変なもんでも食べたの?」
「そうじゃないんだけど……」
「なら別人格が入り込んだとか?それなら結果オーライなんだけどなーー」
「いやいやそんな込み入った話じゃないよ。ただちょこっと記憶がないだけ。たぶん寝ぼけているだけだよ」
危ない危ない。もう少しで事実に触れるところだった。というか僕が兄なのか?僕って生涯一人として妹がいたような覚えもなかったんだけど。もちろん、義妹も。
「ふーーん。なら早い話ね。ちょっとおでこ貸して」
そういうと少女ーーミユはベンチの上に立ち、つんのめりになりながら僕の額にミユ自身の額を密着させた。これだけ近いと甘い香りが……しないでもない。
「ちょっとストップ。なんか兄の分際でやましいこと考えていたような気がするから」
あっぶない。あと少しのところで真相が明かされてしまうところだった。この少女いったい何者だろう。
「んーー。記憶共有してみたけれど、動作があまりうまく働かないみたい。故障かなぁ……」
「記憶共有……?」
僕は堪らず聞き返した。なぜなら人生の中で一度も聞いたことが無かった言葉だったからだ。
まさか言葉通りに記憶を共有することが出来るというのか。もしそれが事実ならば世界的発見だ。
「やっぱ無理だ」
そりゃそうだろう。出来るわけがない。人間が感じた、目にしたことを他人に見せることなんて人類あと何百年進化したところで無理な話だ。
「あとでメンテナンスしてもらおうかな、あ、でもちょっとコストかさむんだよな、アレ」
「……メンテナンスって何を調整するんだっけ?」
「はあ!?それも忘れてるわけ?アンタもメンテした方がいいんじゃないの?」
「メンテって言ったらアレしないでしょ。脳内送受信機、MBT。それすらも忘れてるわけ?」
溜息をつきながら僕を蔑むような目で見つめてくる少女。もう幼女の面影すらない。この子、精神年齢に体格が追いついていないんじゃないか。見た目は10歳ほどにしかみえないのにこの毒舌はやっぱり似合わない。
「もう帰るわよ」
「帰るってどこに?ってか散歩に来たんじゃないの?」
「はああ……」と今度は呻くように溜息を洩らすと僕を一瞥。そしてくるりと背中を僕へ向けて歩き始めてしまった。
噴水を横に過ぎ去り花畑がある方へと歩く姿を追う。
「そっちは花畑しかないんじゃない……」
僕が指摘した時には遅かった。ミユの姿は空間の狭間にでも溶け込むように、まるでワームホームにでも取り込まれてしまうかのように消失したのだ。
この先には花しかないはず。そう思いながら僕もミユの後を追うと。
眼前に広がったのは新宿のような大都市に見えて、それ以上の都市だった。
***A
俺は感情をコントロールされている、エモーショナーの一人だ。そして俺を含めてエモーショナーは感情思念センターと呼ばれる場所で生まれた。白髪に白衣の奴によって生かされた俺たちの役目はただ一つ、感情の動向を探ることだけだった。
そして俺は52233272という感情を植え付けられた。その概念一つだけが過剰反応するように操縦され、設計されたただの人形。
だというのに、俺は人として他人と接するのは、見ているだけでも腹の底で煮えたくるような境地に立たされるのに。
「お前、自分の家がどこにあるのか分からないのか?」
「い……え……?」
街の中央部に位置する公園で男たちに絡まれていた少女を助け、挙げ句の果てには会話までしている。
「言葉は話せるのか……?」
「こと……ば……?」
だが、喋れないのか、それとも喋り方を教わっていないのか分からない。どちらにせよ、話が通じないという現状には変わらない。黒い短髪に黒いドレス、いったいどこから来たものか。
「そうだな。お前どこから来たのか、母親はどこにいるのか分からないのか?」
「わた……しのはは、おや……いる」
「いるのか?ならその人のとこに戻んな、あんまりうろちょろしてっとまたさっきみたいに襲われるぞ」
公園から避けて街の端の方まで歩いてきてしまった。少女は突然立ち止まり俺の方を睨んでくると思いきや、いきなり体を俺に押し付けてきた。
「ねむ…………い」
「おいおい起きろって。母ちゃんが待ってるんだろ、早く帰らないと心配させちまうぞ」
あまり力が入らないように力加減を意識して背中を叩くが、もはや仮眠状態に入ろうとしていた。
「ったく仕方ねえな。今日は無理だが明日には帰らせるぞ」
俺は近くのビジネスホテルを2部屋用意し少女をベッドの上に寝かすことにした。
当然、一夜を感情思念センターの外で過ごすというのは協力関係外、言い換えるなら任務外だ。だが、市民の為、デメリットを社会に与えない限り外での生活は許容範囲内となる。
『今日は臨時に外で一夜を過ごすことにする』
だから、一言奴に、あの白髪眼鏡に告げるだけでいいのだ。
タブレットやらパソコンと呼ばれる古臭い外部出力などを使用せずに記憶を情報として共有させる。つまり声を出さずとも頭の中で言えばそれが情報として奴の脳にインプットされるのだ。
『オーーケィ。なんでかよく分からないけど、まあいいよ。ククッ』
代わりに俺の頭の中に奴の言葉が流し込まれる。聞きたくもない声だ。
そうして一度、少女の部屋に赴きベッドで寝ていることを確認してから、俺は自分の部屋に戻り寝静まったのだった。
僕は死んだ。
屋上から身を投げてコンクリートに叩きつけられて見るも無残な姿になって死んだはずだ。仕事も家族もお金もなくなり挙句の果てには頼ってきた友人すら見放された。そんな人生に嫌気が差したのだ。
それなのに、もう生きることを止めたのに。
「ベンチの上に寝そべって何してるの?」
なぜ生きている。
それどころかこの可愛げのある幼女はいったい誰だ。僕の知る限り子供はいないし、知り合いにもいなかったはずだ。む、そもそもどうして自分に関係のある幼女だと考えてしまったのだろう。僕は一度人生を諦めたはずだ。
「未練があるってことなのか?」
「みれんってなんのこと?」
「ごめんごめん。君には関係の無い話だよ」と僕は幼女に言い聞かせる。考えすぎてつい口に出てしまった、自分の悪い癖だと分かっているつもりなんだが。
ところで、ここはいったいどこだろうか。中央には噴水、公園外を見渡しても花畑ばかり、そして目の前には幼女……まるで楽園じゃないか。
幼女は僕のお腹の上に乗っかっているようで、見下ろすように僕を見つめていた。黒い髪に2つのお下げ、白いドレスを着飾っていてそれはかわいらしい幼女だった。
「それはそうとようじ……」
しまった。幼女幼女頭の中で言いまくっていたら実際に幼女って言いかけてしまった。
「ん?なに、お兄ちゃん?」
「そういえばお兄ちゃんって誰のことを指してるのかな?見たところ僕以外しか……」
幼女……少女は僕のことを指していた。
「お兄ちゃん」
「なるほどね……って、ええ!!僕がお兄ちゃん?間違いなく?これが!?」
掌で自分の頬や額を確認する。ない。あんだけあったストレスで出来た皺がない。どこにも。それどころか肌はツルツル、額には無駄な油は無い。全身にもあれだけあった倦怠感が、ない。
少女を一度ベンチの端に寄せ、僕は起き上がる。あれだけ痛かった腰が今や微塵もありゃしない。立ち上がり前後左右に腕を振ろうとするが、軽い。自分の体がスポンジにでもなったのかというほど身軽になっている。
「どうしたの?なんか変だよお兄ちゃん、いつもとちょっと違うよ」
奇妙な物体を目にしたと言わんばかりに少女は挙動不審になっている。
「ああ。ごめんごめん。取り乱しちゃったね。ところで僕、今まで何してたんだっけ?」
「っもう、お兄ちゃんったらここにきてすぐに寝ちゃうんだから。今日はミユと一緒に散歩するって約束したじゃん」
この子、ミユって名前なのか。いや初耳だよ。
「そうだったね、ミユ。じゃあどこ行く?」
僕がそう言った途端、ミユ?はさらに挙動不審になった。飼い主じゃない人間がペットに近づいた感じだ、コレ。
「え…………いきなり名前呼びとか、キモ……」
あまりにも容姿に似合わない、刺々しい言葉に僕は唖然とするしかなかった。
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僕は死んだ。
一度、人生という階段を上るのを止めたはずだった。しかし、それがまた僕には別の階段が用意されていたようだったのだ。
「じゃ……僕はお前って君のことを呼べばいいのかな?」
漂白剤で頭の中を真っ白にされた心地だったが、どうにか気を取り直す。
「少なくとも普段ならそう呼んでいたけどね。自分のことを『僕』って言うのもそうだけど、どうしたの、まさか変なもんでも食べたの?」
「そうじゃないんだけど……」
「なら別人格が入り込んだとか?それなら結果オーライなんだけどなーー」
「いやいやそんな込み入った話じゃないよ。ただちょこっと記憶がないだけ。たぶん寝ぼけているだけだよ」
危ない危ない。もう少しで事実に触れるところだった。というか僕が兄なのか?僕って生涯一人として妹がいたような覚えもなかったんだけど。もちろん、義妹も。
「ふーーん。なら早い話ね。ちょっとおでこ貸して」
そういうと少女ーーミユはベンチの上に立ち、つんのめりになりながら僕の額にミユ自身の額を密着させた。これだけ近いと甘い香りが……しないでもない。
「ちょっとストップ。なんか兄の分際でやましいこと考えていたような気がするから」
あっぶない。あと少しのところで真相が明かされてしまうところだった。この少女いったい何者だろう。
「んーー。記憶共有してみたけれど、動作があまりうまく働かないみたい。故障かなぁ……」
「記憶共有……?」
僕は堪らず聞き返した。なぜなら人生の中で一度も聞いたことが無かった言葉だったからだ。
まさか言葉通りに記憶を共有することが出来るというのか。もしそれが事実ならば世界的発見だ。
「やっぱ無理だ」
そりゃそうだろう。出来るわけがない。人間が感じた、目にしたことを他人に見せることなんて人類あと何百年進化したところで無理な話だ。
「あとでメンテナンスしてもらおうかな、あ、でもちょっとコストかさむんだよな、アレ」
「……メンテナンスって何を調整するんだっけ?」
「はあ!?それも忘れてるわけ?アンタもメンテした方がいいんじゃないの?」
「メンテって言ったらアレしないでしょ。脳内送受信機、MBT。それすらも忘れてるわけ?」
溜息をつきながら僕を蔑むような目で見つめてくる少女。もう幼女の面影すらない。この子、精神年齢に体格が追いついていないんじゃないか。見た目は10歳ほどにしかみえないのにこの毒舌はやっぱり似合わない。
「もう帰るわよ」
「帰るってどこに?ってか散歩に来たんじゃないの?」
「はああ……」と今度は呻くように溜息を洩らすと僕を一瞥。そしてくるりと背中を僕へ向けて歩き始めてしまった。
噴水を横に過ぎ去り花畑がある方へと歩く姿を追う。
「そっちは花畑しかないんじゃない……」
僕が指摘した時には遅かった。ミユの姿は空間の狭間にでも溶け込むように、まるでワームホームにでも取り込まれてしまうかのように消失したのだ。
この先には花しかないはず。そう思いながら僕もミユの後を追うと。
眼前に広がったのは新宿のような大都市に見えて、それ以上の都市だった。
***A
俺は感情をコントロールされている、エモーショナーの一人だ。そして俺を含めてエモーショナーは感情思念センターと呼ばれる場所で生まれた。白髪に白衣の奴によって生かされた俺たちの役目はただ一つ、感情の動向を探ることだけだった。
そして俺は52233272という感情を植え付けられた。その概念一つだけが過剰反応するように操縦され、設計されたただの人形。
だというのに、俺は人として他人と接するのは、見ているだけでも腹の底で煮えたくるような境地に立たされるのに。
「お前、自分の家がどこにあるのか分からないのか?」
「い……え……?」
街の中央部に位置する公園で男たちに絡まれていた少女を助け、挙げ句の果てには会話までしている。
「言葉は話せるのか……?」
「こと……ば……?」
だが、喋れないのか、それとも喋り方を教わっていないのか分からない。どちらにせよ、話が通じないという現状には変わらない。黒い短髪に黒いドレス、いったいどこから来たものか。
「そうだな。お前どこから来たのか、母親はどこにいるのか分からないのか?」
「わた……しのはは、おや……いる」
「いるのか?ならその人のとこに戻んな、あんまりうろちょろしてっとまたさっきみたいに襲われるぞ」
公園から避けて街の端の方まで歩いてきてしまった。少女は突然立ち止まり俺の方を睨んでくると思いきや、いきなり体を俺に押し付けてきた。
「ねむ…………い」
「おいおい起きろって。母ちゃんが待ってるんだろ、早く帰らないと心配させちまうぞ」
あまり力が入らないように力加減を意識して背中を叩くが、もはや仮眠状態に入ろうとしていた。
「ったく仕方ねえな。今日は無理だが明日には帰らせるぞ」
俺は近くのビジネスホテルを2部屋用意し少女をベッドの上に寝かすことにした。
当然、一夜を感情思念センターの外で過ごすというのは協力関係外、言い換えるなら任務外だ。だが、市民の為、デメリットを社会に与えない限り外での生活は許容範囲内となる。
『今日は臨時に外で一夜を過ごすことにする』
だから、一言奴に、あの白髪眼鏡に告げるだけでいいのだ。
タブレットやらパソコンと呼ばれる古臭い外部出力などを使用せずに記憶を情報として共有させる。つまり声を出さずとも頭の中で言えばそれが情報として奴の脳にインプットされるのだ。
『オーーケィ。なんでかよく分からないけど、まあいいよ。ククッ』
代わりに俺の頭の中に奴の言葉が流し込まれる。聞きたくもない声だ。
そうして一度、少女の部屋に赴きベッドで寝ていることを確認してから、俺は自分の部屋に戻り寝静まったのだった。
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