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第3章~エリカンテ王国~
脱出
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エバンたちが外で待機しているころ、レギナたちは順調に城の外へと進んでいた。とは言っても、レギナが幽閉されていた場所は城の最上階かつ入り口からは最深部だったため、一番の修羅場を乗り越えたとはいっても道中は気が抜けなかった。
「何やら慌ただしい動きをしていますね。」
兵士の動きをじっと見るモーリアにレギナは呟いた。確かに、先程までほとんど持ち場を離れずにいた兵士たちの動きがざわめき始める。
(もしやもうバレたのか?)
モーリアは物陰から兵士の会話を盗み聞いた。
「聞いたか?どうやらとうとう青の奴らを片付けるらしいぞ。」
「らいいな。だけど、今戦っても勝算はあるのか?」
「それなんだが、クラード様がついにあの術を完成させたんだと。」
モーリアには思い当たる節があった。
(まさか・・・!?)
レギアは何の話をしているかは理解できなかったが、モーリアの見せる動揺と、兵士たちの重々しい会話からただ事ではないことだけは分かった。
会話する兵士の奥の階段からコツンコツンとブーツの音が鳴り響いてきた。
「これはアドラム様・・・!」
兵士たちが会話を止めて、頭を下げてる。
(アドラム?なぜこんなところに?)
モーリアは普段彼がこの時間には自室にいることを知っている。だからこそ、この時間帯にこれを決行したともいえる。
「お勤めご苦労。ここ最近忙しくて少し眠れなくてね。それで気晴らしに夜風にでも当たろうかと。」
相変わらず口調は優しいものだった。兵士たちも顔を見合わせて道を開ける。
(こちらにくるか・・・。)
モーリアは無言でレギナに手で後ろに下がるように指示する。ゆっくりゆっくりとアドラムの足跡がこちらに近づいてくる。
レギナはバレないように強く目をつむり祈っていた。自分の心臓の音がここまで大きく、そしてうるさいと生まれて初めて思ったほどに。モーリアも息を殺し、アドラムが去るのを見届ける。
一時は大きくなった足跡も再び遠くに消えていき、モーリアは胸をなでおろす。アドラムが行ったであろう外に続く扉の方を見るとアドラムが足を止めてその扉の取っ手に手をかけていた。
(よし、彼が行ったらこの場をすぐに出よう。)
アドラムに注意を払いつつ、レギナに手で合図を送る。
「あ、そうそう。」
アドラムはくるりと兵士の方を振り返る。すっかり気を緩めていた兵士たちはそれに驚き返事をする。
「は、はっ!何でありましょうか!?」
若干声を上ずらせている兵士たちを面白く見るように細めていたアドラムの目が大きく開き、優しい声が途端に低く重い声色に変わった。
「そこの二人をもとの場所に戻しておいてね。」
=====================================
「えっ・・・!?」
アドラムの急な発言に対し、兵士たちは何のことか分からないといった様子でアドラムの指す物陰を見る。
(しまった―ー!!)
モーリアは物陰からレギナの手を強引に引いて飛び出す。それを見て兵士たちは驚く。
「モーリア様!?これは一体・・・!?」
モーリアはキッとアドラムを睨みつける。それに余裕を見せるようにアドラムは笑う。そして、もうこちらのものと言わんばかりに外に消えていった。
モーリアは兵士の問いに答えることなく、下の階に続く扉を開け破る。呆気にとられ混乱していた兵士だったが、それを見てとうとうモーリアに裏切りを認識する。
「モーリアだ!!モーリアが裏切った!!」
モーリアとレギナの階段を下る背後から、兵士が叫ぶ声がした。下の階にもそれは響いていたようで、階段を下った先の広間にいる兵士たちがモーリアたちを見る。
当初は状況を飲み込めずに、走り抜けるモーリアたちに手が出せなかった兵士たちも、それを目の当たりにしてようやり理解した。
「待て!裏切者!!」
モーリアたちの行く手を阻むように扉の前に兵士たちが数名立ちはだかる。モーリアは器用に走りながら空いている片手で腰に差している細剣を抜き、兵士には刃を向ける。
兵士たちは知っていた。女性でなおかつ片手で剣を構えるモーリアが自分たちの攻撃を受け止める術を持たないことを。そのため、容赦なくモーリアの頭上から、そして横から斬撃を繰り出す。
「――っ!!」
モーリアのマントの先を兵士の剣がかすめる。これに手ごたえを感じた兵士だったが、この判断は誤りであった。思わず力み大振りになったその隙をモーリアが見逃すはずがなかった。
「ぐっ、うっ―ー!」
一瞬でモーリアは三人の兵士の利き腕を切りつけた。兵士たちは痛みに顔をゆがめ、剣をその手から落とす。
「レギナ様!!」
モーリアの鋭い眼光は迷うことなく一直線に脱出口を捉える。食い止めようと奥から現れる兵士もモーリアの流れるような動きに翻弄され、崩れ落ちていく。
「――モーリアさん!!」
レギナが頭上を見上げてモーリアの名を呼ぶ。それに反応しモーリアが顔を上にあげると広間の上の階から弓矢を構える兵士たちがこちらを狙っていた。
「何やら慌ただしい動きをしていますね。」
兵士の動きをじっと見るモーリアにレギナは呟いた。確かに、先程までほとんど持ち場を離れずにいた兵士たちの動きがざわめき始める。
(もしやもうバレたのか?)
モーリアは物陰から兵士の会話を盗み聞いた。
「聞いたか?どうやらとうとう青の奴らを片付けるらしいぞ。」
「らいいな。だけど、今戦っても勝算はあるのか?」
「それなんだが、クラード様がついにあの術を完成させたんだと。」
モーリアには思い当たる節があった。
(まさか・・・!?)
レギアは何の話をしているかは理解できなかったが、モーリアの見せる動揺と、兵士たちの重々しい会話からただ事ではないことだけは分かった。
会話する兵士の奥の階段からコツンコツンとブーツの音が鳴り響いてきた。
「これはアドラム様・・・!」
兵士たちが会話を止めて、頭を下げてる。
(アドラム?なぜこんなところに?)
モーリアは普段彼がこの時間には自室にいることを知っている。だからこそ、この時間帯にこれを決行したともいえる。
「お勤めご苦労。ここ最近忙しくて少し眠れなくてね。それで気晴らしに夜風にでも当たろうかと。」
相変わらず口調は優しいものだった。兵士たちも顔を見合わせて道を開ける。
(こちらにくるか・・・。)
モーリアは無言でレギナに手で後ろに下がるように指示する。ゆっくりゆっくりとアドラムの足跡がこちらに近づいてくる。
レギナはバレないように強く目をつむり祈っていた。自分の心臓の音がここまで大きく、そしてうるさいと生まれて初めて思ったほどに。モーリアも息を殺し、アドラムが去るのを見届ける。
一時は大きくなった足跡も再び遠くに消えていき、モーリアは胸をなでおろす。アドラムが行ったであろう外に続く扉の方を見るとアドラムが足を止めてその扉の取っ手に手をかけていた。
(よし、彼が行ったらこの場をすぐに出よう。)
アドラムに注意を払いつつ、レギナに手で合図を送る。
「あ、そうそう。」
アドラムはくるりと兵士の方を振り返る。すっかり気を緩めていた兵士たちはそれに驚き返事をする。
「は、はっ!何でありましょうか!?」
若干声を上ずらせている兵士たちを面白く見るように細めていたアドラムの目が大きく開き、優しい声が途端に低く重い声色に変わった。
「そこの二人をもとの場所に戻しておいてね。」
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「えっ・・・!?」
アドラムの急な発言に対し、兵士たちは何のことか分からないといった様子でアドラムの指す物陰を見る。
(しまった―ー!!)
モーリアは物陰からレギナの手を強引に引いて飛び出す。それを見て兵士たちは驚く。
「モーリア様!?これは一体・・・!?」
モーリアはキッとアドラムを睨みつける。それに余裕を見せるようにアドラムは笑う。そして、もうこちらのものと言わんばかりに外に消えていった。
モーリアは兵士の問いに答えることなく、下の階に続く扉を開け破る。呆気にとられ混乱していた兵士だったが、それを見てとうとうモーリアに裏切りを認識する。
「モーリアだ!!モーリアが裏切った!!」
モーリアとレギナの階段を下る背後から、兵士が叫ぶ声がした。下の階にもそれは響いていたようで、階段を下った先の広間にいる兵士たちがモーリアたちを見る。
当初は状況を飲み込めずに、走り抜けるモーリアたちに手が出せなかった兵士たちも、それを目の当たりにしてようやり理解した。
「待て!裏切者!!」
モーリアたちの行く手を阻むように扉の前に兵士たちが数名立ちはだかる。モーリアは器用に走りながら空いている片手で腰に差している細剣を抜き、兵士には刃を向ける。
兵士たちは知っていた。女性でなおかつ片手で剣を構えるモーリアが自分たちの攻撃を受け止める術を持たないことを。そのため、容赦なくモーリアの頭上から、そして横から斬撃を繰り出す。
「――っ!!」
モーリアのマントの先を兵士の剣がかすめる。これに手ごたえを感じた兵士だったが、この判断は誤りであった。思わず力み大振りになったその隙をモーリアが見逃すはずがなかった。
「ぐっ、うっ―ー!」
一瞬でモーリアは三人の兵士の利き腕を切りつけた。兵士たちは痛みに顔をゆがめ、剣をその手から落とす。
「レギナ様!!」
モーリアの鋭い眼光は迷うことなく一直線に脱出口を捉える。食い止めようと奥から現れる兵士もモーリアの流れるような動きに翻弄され、崩れ落ちていく。
「――モーリアさん!!」
レギナが頭上を見上げてモーリアの名を呼ぶ。それに反応しモーリアが顔を上にあげると広間の上の階から弓矢を構える兵士たちがこちらを狙っていた。
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