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番外編
君と一緒に1(誠也視点)
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「誠ちゃんのご実家に? 何度も行ってるじゃない」
『実家に行かない?』と提案すると美咲ちゃんはキョトンとして首を傾げた。うーん、そっちの実家じゃないんだなぁ。
「いや、父の実家……だから祖父ちゃんち。祖父ちゃんが美咲ちゃんを見せろってうるさくって」
僕の祖父はそこそこ大きな会社の社長である。それを知っている美咲ちゃんは、緊張からかごくんと大きく喉を慣らしながら食べていたケーキを飲み込んだ。
ちなみに今は彼女と喫茶店に来ている。美咲ちゃんが喜びそうなケーキがあったからね。可愛い彼女のために、僕は日々スイーツのリサーチも欠かさない。だっていつでも、喜ぶ顔が見たいじゃない。今までたくさん困らせたり、泣かせたりしてしまったし。
はぁ、もふもふとケーキを頬張ってる美咲ちゃんは可愛い。
「……ちょっと怖い」
美咲ちゃんは困ったように眉をハの字にする。
「祖父ちゃんが?」
「私が、認めてもらえるかが」
そう言って眉をさらにハの字にする美咲ちゃんを見て、僕の心は歓喜で満たされた。
僕の身内に、認めて欲しいって思ってくれてるんだ。
嬉しいなぁ、だけど連れて行くのは美咲ちゃんにとってストレスになるかな。
……認めてもらえないってことはないと思うんだよね。
だって祖父は『僕と同じタイプ』だ。野生の嗅覚で祖母を見初めて、強引なやり方でスピード結婚した話は親族内では有名な話である。
最初はいろいろあったみたいだけれど、今ではおしどり夫婦な二人に僕は憧れている。そして美咲ちゃんとも、そうなりたい。
「ねぇ、美咲ちゃん。嫌なら別にいいんだよ」
僕はそう言いながら美咲ちゃんに手を伸ばした。すると小さな手が伸ばされて、きゅっと指が絡められる。少し前までは僕を怖がってばかりだった美咲ちゃんがこうして僕の手を握ってくれるなんて。本当にすごいことだと思う。
僕は思わずにやにやとしながら美咲ちゃんの手を握ったり離したりする。すると美咲ちゃんは少し恥ずかしそうに、そんな僕から目を逸した。
「行く、誠ちゃんのお身内だもん。……でも」
ゆらり、と美咲ちゃんの瞳に昏い色が宿る。
「誠ちゃんは、恥ずかしくない?」
そして小さな声が愛らしい唇から零れた。言葉を発した唇はきゅっと引き結ばれる。
「恥ずかしくない。美咲ちゃんが恥ずかしいことなんて、なにもない。だって世界一可愛いから」
僕は自信を持って断言する。だって美咲ちゃんは世界一可愛い。誰がなんと言おうと、美咲ちゃん自身がなんと言おうとそうなのだ。
「誠ちゃん……」
ほら、恥ずかしそうに丸い体を縮まらせている今の様子だってすごく可愛い。
それを眺めながら思わずへにゃりと笑いかけると、美咲ちゃんの顔が真っ赤になった。
「今からお洋服、買いに行こう? 知り合いの店があるんだ」
「お洋服?」
「うん。祖父ちゃんちに行くと、たぶん高級料亭とかに連れて行かれるから。二人分洋服買おう? もちろん僕の奢りで」
「そ、そんなの悪い!」
「美咲ちゃん。そこのお店、カットソーだけで五桁するよ? 美咲ちゃんに出せる?」
僕の言葉に美咲ちゃんはふるふると首を横に振る。
「美咲ちゃん、高級料亭に行くようなお洋服持ってる?」
重ねて問うと、美咲ちゃんは顔を青くしながらさらに首を横に振った。
まぁ、そうだよねぇ。いつも明らかにしもむらとかのお洋服着てるし。
美咲ちゃんが着ていればファストファッションの服でも可愛いんだけど。今回に関してはじいちゃんの勝手であちらに出向くのに、彼女が『恥をかいた』なんてふうに思わないようにちゃんとしたお洋服で連れて行きたい。単純に僕が可愛い美咲ちゃんを見たい、というのもあるけど。
「でも、悪い……」
「僕のマンション、何部屋あるでしょう? 家賃収入でそれなりに持ってるから、いいの」
「う~。じゃあ、お金以外のことでなにかお礼させて?」
美咲ちゃんの言葉に、僕は目を瞬かせた。
そんなことを僕に言っていいの? えっちなことしかしないよ?
「――誠ちゃん、目が怖い」
美咲ちゃんはそう言うと、目を据わらせて僕を睨んだ。そんな顔も可愛いなぁ。
喫茶店の会計を済ませた僕らは目当てのブティックへと向かった。
その店というのは実は叔母のものである。それを言うと美咲ちゃんが緊張してしまいそうだったから『知り合いの店』なんて言ってしまったけど。
「ふぁ」
店を目の前にした美咲ちゃんが怯えた声を上げる。
たしかにいかにも高級ですって店構えだけれど、取って食われるわけじゃないのにな。
小さくてふかふかな手をそっと引くと、美咲ちゃんは震えながら首を横に振る。大丈夫だよと安心させるように微笑んでみせて、僕はさらに手を引く。すると諦めたように美咲ちゃんは足を動かした。
『実家に行かない?』と提案すると美咲ちゃんはキョトンとして首を傾げた。うーん、そっちの実家じゃないんだなぁ。
「いや、父の実家……だから祖父ちゃんち。祖父ちゃんが美咲ちゃんを見せろってうるさくって」
僕の祖父はそこそこ大きな会社の社長である。それを知っている美咲ちゃんは、緊張からかごくんと大きく喉を慣らしながら食べていたケーキを飲み込んだ。
ちなみに今は彼女と喫茶店に来ている。美咲ちゃんが喜びそうなケーキがあったからね。可愛い彼女のために、僕は日々スイーツのリサーチも欠かさない。だっていつでも、喜ぶ顔が見たいじゃない。今までたくさん困らせたり、泣かせたりしてしまったし。
はぁ、もふもふとケーキを頬張ってる美咲ちゃんは可愛い。
「……ちょっと怖い」
美咲ちゃんは困ったように眉をハの字にする。
「祖父ちゃんが?」
「私が、認めてもらえるかが」
そう言って眉をさらにハの字にする美咲ちゃんを見て、僕の心は歓喜で満たされた。
僕の身内に、認めて欲しいって思ってくれてるんだ。
嬉しいなぁ、だけど連れて行くのは美咲ちゃんにとってストレスになるかな。
……認めてもらえないってことはないと思うんだよね。
だって祖父は『僕と同じタイプ』だ。野生の嗅覚で祖母を見初めて、強引なやり方でスピード結婚した話は親族内では有名な話である。
最初はいろいろあったみたいだけれど、今ではおしどり夫婦な二人に僕は憧れている。そして美咲ちゃんとも、そうなりたい。
「ねぇ、美咲ちゃん。嫌なら別にいいんだよ」
僕はそう言いながら美咲ちゃんに手を伸ばした。すると小さな手が伸ばされて、きゅっと指が絡められる。少し前までは僕を怖がってばかりだった美咲ちゃんがこうして僕の手を握ってくれるなんて。本当にすごいことだと思う。
僕は思わずにやにやとしながら美咲ちゃんの手を握ったり離したりする。すると美咲ちゃんは少し恥ずかしそうに、そんな僕から目を逸した。
「行く、誠ちゃんのお身内だもん。……でも」
ゆらり、と美咲ちゃんの瞳に昏い色が宿る。
「誠ちゃんは、恥ずかしくない?」
そして小さな声が愛らしい唇から零れた。言葉を発した唇はきゅっと引き結ばれる。
「恥ずかしくない。美咲ちゃんが恥ずかしいことなんて、なにもない。だって世界一可愛いから」
僕は自信を持って断言する。だって美咲ちゃんは世界一可愛い。誰がなんと言おうと、美咲ちゃん自身がなんと言おうとそうなのだ。
「誠ちゃん……」
ほら、恥ずかしそうに丸い体を縮まらせている今の様子だってすごく可愛い。
それを眺めながら思わずへにゃりと笑いかけると、美咲ちゃんの顔が真っ赤になった。
「今からお洋服、買いに行こう? 知り合いの店があるんだ」
「お洋服?」
「うん。祖父ちゃんちに行くと、たぶん高級料亭とかに連れて行かれるから。二人分洋服買おう? もちろん僕の奢りで」
「そ、そんなの悪い!」
「美咲ちゃん。そこのお店、カットソーだけで五桁するよ? 美咲ちゃんに出せる?」
僕の言葉に美咲ちゃんはふるふると首を横に振る。
「美咲ちゃん、高級料亭に行くようなお洋服持ってる?」
重ねて問うと、美咲ちゃんは顔を青くしながらさらに首を横に振った。
まぁ、そうだよねぇ。いつも明らかにしもむらとかのお洋服着てるし。
美咲ちゃんが着ていればファストファッションの服でも可愛いんだけど。今回に関してはじいちゃんの勝手であちらに出向くのに、彼女が『恥をかいた』なんてふうに思わないようにちゃんとしたお洋服で連れて行きたい。単純に僕が可愛い美咲ちゃんを見たい、というのもあるけど。
「でも、悪い……」
「僕のマンション、何部屋あるでしょう? 家賃収入でそれなりに持ってるから、いいの」
「う~。じゃあ、お金以外のことでなにかお礼させて?」
美咲ちゃんの言葉に、僕は目を瞬かせた。
そんなことを僕に言っていいの? えっちなことしかしないよ?
「――誠ちゃん、目が怖い」
美咲ちゃんはそう言うと、目を据わらせて僕を睨んだ。そんな顔も可愛いなぁ。
喫茶店の会計を済ませた僕らは目当てのブティックへと向かった。
その店というのは実は叔母のものである。それを言うと美咲ちゃんが緊張してしまいそうだったから『知り合いの店』なんて言ってしまったけど。
「ふぁ」
店を目の前にした美咲ちゃんが怯えた声を上げる。
たしかにいかにも高級ですって店構えだけれど、取って食われるわけじゃないのにな。
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