【R18】根暗な私と、愛が重すぎる彼

夕日(夕日凪)

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番外編

君と一緒に2(誠也視点)

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「いらっしゃ……あれ、誠也か」

 店に入ると声をかけてきたのは、どう見ても二十代にしか見えない美女だった。
 彼女は母の妹なんだが……母と年はそんなに変わらないはずなんだけどな。美魔女ってヤツなんだろうか。叔母は独身で現在アパレル仕事に邁進中だ。

「叔母さん、こんにちは。今日はちゃんと客だから」
「あーよかった。いつもみたいに茶だけたかりに来たのかと思ったわ」
「叔母さん!?」

 叔母を見て美咲ちゃんは目を白黒とさせる。最初はみんなそんな反応をするんだよねぇ。

「そ、叔母の佳代さん。叔母さん、こちらは美咲ちゃん。僕の可愛い彼女」
「せいちゃ! いや、その。はじめまして!」

 美咲ちゃんはなにか言いたげな顔をしたけれど、挨拶を優先させて叔母にぺこりと頭を下げた。そんな美咲ちゃんを見て叔母はにやりと笑う。

「この子が噂の。誠也がずーっとストーカーしてた子かぁ」
「ふふ、ストーカーされてました」

 叔母の言葉に、美咲ちゃんも苦笑いをしながら同調する。
 ……ストーカーだなんて、納得いかないんだけど。いや、言われても仕方ないのかな。
 少し憮然とした顔をしていると、美咲ちゃんがきゅっと僕の手を握ってきた。

「……今はもう、そう思ってないから」

 そして僕にそっと囁いた。
 はい、可愛い。今すぐ帰って抱きたい。

「それで? 今日はなにを買いに?」
「祖父ちゃんちに呼ばれたから、僕と美咲ちゃんの服を適当に見繕って」
「あ~あっちの家か。そりゃ大変だわ」

 叔母の『大変』という言葉に美咲ちゃんがびくりと身を竦めた。僕は大丈夫だよと安心させるように、先ほど握られた手をぎゅっと握る。そんな僕たちの姿を、叔母がなんだかにやにやしながら見ているけれど。美咲ちゃんと仲がいいのを見せつけられるのは、僕的にはまったく問題がない。

「じゃあ、そうだなぁ。この子は……胸が大きいし、結構胸元はざっくり見せちゃおうか」
「胸をですか!? それにこれ、なんだかぴったりして……」

 胸元がVネックになったカットソーを当てられながら、美咲ちゃんが上ずった声を出す。

「ぴったりしてた方がいいんだよ~。これだけ胸が大きいとぶかっとしたのを着ちゃうとちょっと太めに見えちゃうからね」

 現在美咲ちゃんが着ているのは、まさにAラインのふんわりとしたカットソーと、これもまた体のラインを隠すようにボリュームのあるロングスカートという『太め』に見えるものだ。僕は美咲ちゃんの体のラインを誰にも見せたくないから、これで別に不満はないんだけどな。

「そ、そうなんですね」
「そう、スカートももっとすっきり見えるものを選ぶね。あとは靴と……バッグも合うのが必要だね」
「えっ、えっ」

 叔母の勢いに美咲ちゃんはぐいぐいと押されてしまう。
 ここまで押されないと美咲ちゃんは『こんなに用意してもらえない』と断るだろうから、叔母さんが相手くらいでちょうどよかったな。

「ブラのサイズが合ってないから、買った方がいいと思うよ。誠也、ちゃんと買ってあげなよ」
「うん、じゃあここで服を買ったら次はランジェリーショップだね」
「ええ!? あの、そんなにしてもらっても私可愛くならないから……!」
「なる!」

 いつものように自分を否定する美咲ちゃんの肩に、叔母はパン! と勢いよく両手を置いた。服を見ていたカップルがびくりとこちらに目を向ける。そのあと女の方がなんだか僕をじっと見ているけれど、羽虫みたいな視線なんかどうでもいい。

「女の子はみんな綺麗になれるの。自信を持ちなさい。というか美容室も連れて行った方がいいわね。田島さんのとこ予約しとくわ。三日後でいい?」
「ああ、いいね。田島さんなら間違いないし」

 田島さんは女性カリスマ美容師だ。女の人だし、美咲ちゃんを安心して任せられる。……男だったら即座に断ってる。

「えええ!?」

 叔母さんの勢いは本当にすごい。僕が口を挟む隙間なんて一ミリもなく、美咲ちゃんの祖父ちゃんちへ行くための身支度は進められた。

「誠ちゃん……これ、買ってもらいすぎだと思う」

 すべての買い物を済ませた帰り道。美咲ちゃんが思い切り眉を下げながら僕を見上げた。
 僕は手に持った紙袋に目を落とす。そんなに買ったかなぁ? 恋人になるまでの長い期間のことを考えると、むしろまだまだ買い足りないと思うんだけど。
 恋人になる前もいろいろ美咲ちゃんに買おうとしてたんだけど、真っ青になって断られてたんだよねぇ。

「そんなことないよ?」

 僕は笑うと首を傾げてみせる。すると美咲ちゃんは泣きそうな表情になった。

「だって、服も何着もあるし! 靴も三足も……それに、下着もいっぱいで。バッグまで! け、化粧品も!」
「僕は可愛い美咲ちゃんに、いろいろできて満足」
「可愛くないよ! 試着だって……服に着られてたと思うし」
「そんなことない。世界一可愛かった」

 本当に似合っていたと思うんだけど。自己評価の低い君は、ふだんと違う格好をした自分の時点で上手く直視できないのだろう。叔母も太鼓判を押してたのにな。

「もう。私、なにもしてあげられないのに」

 大きな目が潤んで僕を見つめる。君は……こうやって隣を並んで歩いてくれるだけで僕がどれだけ嬉しいかを、まだわかってないんだなぁ。

「じゃあ帰ったら、えっちなことを頑張ってもらおうかなぁ」

 いつもの美咲ちゃんなら顔を真っ赤にして『バカ!』と怒るだろう。そして僕が笑っていつものとおりの雰囲気で家に帰るのだ。
 そう……思っていたんだけど。
 美咲ちゃんが顔を真っ赤にするところまではいつもと同じだった。

「……いいよ。誠ちゃんが喜ぶなら」

 その言葉を聞いて、僕の顔まで真っ赤になった。
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