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深夜、遭遇、もののけ執事2
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「孫姫様は、私のような者たちの存在を百合様に聞いたことはないのですか?」
夜音さんは首を傾げながら、そう訊ねてきた。
「この世には『不思議な者たち』がいるとは時々言われてましたけど……。まさか、夜音さんは幽霊ですか!?」
私は恐怖でつい後ずさろうとしてしまう。しかし夜音さんの白い手袋が嵌められた手で、腕をがっしりと掴まれてしまった。彼は力が強いのか、暴れてみてもびくともしない。
「どう考えても実体がありますよね? 愚鈍ですね、孫姫様は」
怯える私に夜音さんはぴしゃりと言った。言われてみれば、夜音さんの手の感触はしっかりとある。とても幽霊だとは思えない。
……そしてはじめて、人に『愚鈍』だなんて言われてしまったな。『孫姫』なんてよくわからない敬称で私を呼ぶくせに、彼の言葉に敬意は感じられない。
「はは、は……」
しかし気が強くはない私は『愚鈍』と言われてもへらりと笑うしかできなかった。実際に、要領がいい方ではないし。
「少しは言い返しなさい。言われっぱなしでいいんですか」
自分で言葉を投げたくせに、夜音さんはそんなことを言った。なんとも勝手な話である。
「そう言われましても……」
「とにかく……少しお話をしましょうか。百合様のお話です」
「お祖母ちゃんの、話ですか?」
祖母の名前が出たおかげか、話をしているうちに『お化け』的な印象が薄れるせいか。得体の知れない彼への恐怖はほんの少しだけ治まってきた気がする。夜音さんの辛辣な態度への恐怖が、その代わりに増してきた気もするけど。
夜音さんは正座をして居住まいを正した。そして私にも畳に座るようにと仕草で促す。
「逃げずにちゃんと聞いてくださいね」
正直逃げてしまいたかったけれど、私はコクコクと頷いた。逃げた方が、もっと怖い目に合いそうな気がしたからだ。
ふっと一息吐いてから、夜音さんは話をはじめた。
「端的に言ってしまうと、百合様は人間ではありません。宇迦之御魂神の血脈にあたる、豊穣の神のお一人でございます」
「え……」
夜音さんの口から出た言葉の意味が理解できなくて、私は首を傾げた。
そんな私を見て、夜音さんは大げさなくらいのため息をつく。だけど突然『お祖母ちゃんは神様です』なんて言われても、理解が追いつくわけがない。
「それ、どういう冗談なのでしょう?」
「……真面目にお話しているのですが?」
綺麗な一重の目を半眼にして、夜音さんは聞いているこちらの背筋が凍りそうなくらいの剣呑な口調で言った。
うちのお祖母ちゃんが神様……?
だけどお祖母ちゃんはちゃんと年を取って、寿命で死んでいるわけだし。神様だったら、そんなことになるはずない。
そうは思うけれど、夜音さん自身が『不思議な者たち』の存在を体現しているわけで。これ以上の説得力はこの世にないと思う。
……頭がものすごく混乱してきた……!
夜音さんは首を傾げながら、そう訊ねてきた。
「この世には『不思議な者たち』がいるとは時々言われてましたけど……。まさか、夜音さんは幽霊ですか!?」
私は恐怖でつい後ずさろうとしてしまう。しかし夜音さんの白い手袋が嵌められた手で、腕をがっしりと掴まれてしまった。彼は力が強いのか、暴れてみてもびくともしない。
「どう考えても実体がありますよね? 愚鈍ですね、孫姫様は」
怯える私に夜音さんはぴしゃりと言った。言われてみれば、夜音さんの手の感触はしっかりとある。とても幽霊だとは思えない。
……そしてはじめて、人に『愚鈍』だなんて言われてしまったな。『孫姫』なんてよくわからない敬称で私を呼ぶくせに、彼の言葉に敬意は感じられない。
「はは、は……」
しかし気が強くはない私は『愚鈍』と言われてもへらりと笑うしかできなかった。実際に、要領がいい方ではないし。
「少しは言い返しなさい。言われっぱなしでいいんですか」
自分で言葉を投げたくせに、夜音さんはそんなことを言った。なんとも勝手な話である。
「そう言われましても……」
「とにかく……少しお話をしましょうか。百合様のお話です」
「お祖母ちゃんの、話ですか?」
祖母の名前が出たおかげか、話をしているうちに『お化け』的な印象が薄れるせいか。得体の知れない彼への恐怖はほんの少しだけ治まってきた気がする。夜音さんの辛辣な態度への恐怖が、その代わりに増してきた気もするけど。
夜音さんは正座をして居住まいを正した。そして私にも畳に座るようにと仕草で促す。
「逃げずにちゃんと聞いてくださいね」
正直逃げてしまいたかったけれど、私はコクコクと頷いた。逃げた方が、もっと怖い目に合いそうな気がしたからだ。
ふっと一息吐いてから、夜音さんは話をはじめた。
「端的に言ってしまうと、百合様は人間ではありません。宇迦之御魂神の血脈にあたる、豊穣の神のお一人でございます」
「え……」
夜音さんの口から出た言葉の意味が理解できなくて、私は首を傾げた。
そんな私を見て、夜音さんは大げさなくらいのため息をつく。だけど突然『お祖母ちゃんは神様です』なんて言われても、理解が追いつくわけがない。
「それ、どういう冗談なのでしょう?」
「……真面目にお話しているのですが?」
綺麗な一重の目を半眼にして、夜音さんは聞いているこちらの背筋が凍りそうなくらいの剣呑な口調で言った。
うちのお祖母ちゃんが神様……?
だけどお祖母ちゃんはちゃんと年を取って、寿命で死んでいるわけだし。神様だったら、そんなことになるはずない。
そうは思うけれど、夜音さん自身が『不思議な者たち』の存在を体現しているわけで。これ以上の説得力はこの世にないと思う。
……頭がものすごく混乱してきた……!
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