11 / 36
深夜、遭遇、もののけ執事3
しおりを挟む
「だけど、お祖母ちゃんは。ふつうに生きて、ふつうに亡くなりましたよね?」
「それは『見せかけ』の話ですよ。百合様は今も『あちら』で生きております」
質問に対する夜音さんの答えに、私は零れそうになるくらいに目を瞠った。
祖母が……生きている? 『あちら』ってなんなのだろう。神様の世界があるんだろうか。
ぐるるるるるる……
その時、お腹が大きな音を立てた。慌ててお腹を手で押さえてはみたけれど、後の祭りにもほどがある。
夜音さんは目を丸くした後に、ぷっと大きく吹き出した。
お腹の音を笑われたのは恥ずかしいけれど、そうして笑っていると彼の冷たい表情が緩んで少しホッとする。
「孫姫様。お食事はされたのですか?」
「いいえ……今日はお菓子くらいしか食べてなくて」
今日はバタバタしていたし、ちょっとのつもりがたっぷりと寝てしまった。お菓子は少し食べたとはいえ、私の胃袋はほぼ空っぽである。
「それはいけませんね。材料はありますか?」
「はい、少しだけなら……」
「では、なにか作りましょうか。胃が空っぽだと、人の心はなかなか落ち着きません。軽く夜食を食べた後に、話の続きをしましょうか」
夜音さんはそう言うと立ち上がり、たっぷりとしたボリュームの尻尾を揺らした。
尻尾が六本もあると重くて動きづらそうなものだけれど、彼の動きはとても軽快だ。
「夜食を作る……って。夜音さんがですか?」
「はい、こう見えて執事ですので。私にお任せください」
こう見えて……というかむしろ見たまんまである。
そして執事は使用人たちのまとめ役で、食事はふつうコックが作るんじゃないかな。
そうは思ったけれど、なにも言わないで口をつぐむ。この人の怒りのつぼがどこにあるのかが、まだわからないし。
元彼といた時も……彼の顔色を見てばかりだったな。
そんなことを考えて、私は少し憂鬱な気持ちになってしまった。
『こっちの顔色を見てへらへらしてばかりの辛気臭いお前といるのは、もう嫌なんだよ』
これが……元彼が出て行く間際に言い放った言葉である。
じゃあ、私はどうすれば良かったのだろう。好かれたいと思って、彼に都合がいいようにと行動をしたことはそんなにいけないことだったのだろうか。
浮気相手の女みたいに、猫なで声で好き勝手にワガママを言えば上手くいったのかな。
「孫姫様」
声をかけられたのと同時に、額になにかがぶつかってきた。
……どうやら夜音さんに、デコピンをされたらしい。
顔を上げると真っ赤な瞳と目が合って、私はびくりと身を震わせた。
「百合様から、孫姫様は気が弱いところがあると聞いてはおりましたが……」
夜音さんはそう言うと深いため息をついた。
この妖怪? からも『辛気臭い』だなんだと言われてしまうんだろうか。そんなことを思って身構えていると……
「私に対しては遠慮をしないでください。そちらの方が、意思の疎通が正確にできて助かります」
夜音さんはそう言うと、尻尾を揺らしながら台所へと向かった。
予想外のことを言われて虚を衝かれた私は、あっけに取られながら彼の背中を見送った。
「それは『見せかけ』の話ですよ。百合様は今も『あちら』で生きております」
質問に対する夜音さんの答えに、私は零れそうになるくらいに目を瞠った。
祖母が……生きている? 『あちら』ってなんなのだろう。神様の世界があるんだろうか。
ぐるるるるるる……
その時、お腹が大きな音を立てた。慌ててお腹を手で押さえてはみたけれど、後の祭りにもほどがある。
夜音さんは目を丸くした後に、ぷっと大きく吹き出した。
お腹の音を笑われたのは恥ずかしいけれど、そうして笑っていると彼の冷たい表情が緩んで少しホッとする。
「孫姫様。お食事はされたのですか?」
「いいえ……今日はお菓子くらいしか食べてなくて」
今日はバタバタしていたし、ちょっとのつもりがたっぷりと寝てしまった。お菓子は少し食べたとはいえ、私の胃袋はほぼ空っぽである。
「それはいけませんね。材料はありますか?」
「はい、少しだけなら……」
「では、なにか作りましょうか。胃が空っぽだと、人の心はなかなか落ち着きません。軽く夜食を食べた後に、話の続きをしましょうか」
夜音さんはそう言うと立ち上がり、たっぷりとしたボリュームの尻尾を揺らした。
尻尾が六本もあると重くて動きづらそうなものだけれど、彼の動きはとても軽快だ。
「夜食を作る……って。夜音さんがですか?」
「はい、こう見えて執事ですので。私にお任せください」
こう見えて……というかむしろ見たまんまである。
そして執事は使用人たちのまとめ役で、食事はふつうコックが作るんじゃないかな。
そうは思ったけれど、なにも言わないで口をつぐむ。この人の怒りのつぼがどこにあるのかが、まだわからないし。
元彼といた時も……彼の顔色を見てばかりだったな。
そんなことを考えて、私は少し憂鬱な気持ちになってしまった。
『こっちの顔色を見てへらへらしてばかりの辛気臭いお前といるのは、もう嫌なんだよ』
これが……元彼が出て行く間際に言い放った言葉である。
じゃあ、私はどうすれば良かったのだろう。好かれたいと思って、彼に都合がいいようにと行動をしたことはそんなにいけないことだったのだろうか。
浮気相手の女みたいに、猫なで声で好き勝手にワガママを言えば上手くいったのかな。
「孫姫様」
声をかけられたのと同時に、額になにかがぶつかってきた。
……どうやら夜音さんに、デコピンをされたらしい。
顔を上げると真っ赤な瞳と目が合って、私はびくりと身を震わせた。
「百合様から、孫姫様は気が弱いところがあると聞いてはおりましたが……」
夜音さんはそう言うと深いため息をついた。
この妖怪? からも『辛気臭い』だなんだと言われてしまうんだろうか。そんなことを思って身構えていると……
「私に対しては遠慮をしないでください。そちらの方が、意思の疎通が正確にできて助かります」
夜音さんはそう言うと、尻尾を揺らしながら台所へと向かった。
予想外のことを言われて虚を衝かれた私は、あっけに取られながら彼の背中を見送った。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる