もののけ執事の今日のお夜食

夕日(夕日凪)

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深夜、遭遇、もののけ執事3

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「だけど、お祖母ちゃんは。ふつうに生きて、ふつうに亡くなりましたよね?」
「それは『見せかけ』の話ですよ。百合様は今も『あちら』で生きております」

 質問に対する夜音さんの答えに、私は零れそうになるくらいに目を瞠った。
 祖母が……生きている? 『あちら』ってなんなのだろう。神様の世界があるんだろうか。

 ぐるるるるるる……

 その時、お腹が大きな音を立てた。慌ててお腹を手で押さえてはみたけれど、後の祭りにもほどがある。
 夜音さんは目を丸くした後に、ぷっと大きく吹き出した。
 お腹の音を笑われたのは恥ずかしいけれど、そうして笑っていると彼の冷たい表情が緩んで少しホッとする。

「孫姫様。お食事はされたのですか?」
「いいえ……今日はお菓子くらいしか食べてなくて」

 今日はバタバタしていたし、ちょっとのつもりがたっぷりと寝てしまった。お菓子は少し食べたとはいえ、私の胃袋はほぼ空っぽである。

「それはいけませんね。材料はありますか?」
「はい、少しだけなら……」
「では、なにか作りましょうか。胃が空っぽだと、人の心はなかなか落ち着きません。軽く夜食を食べた後に、話の続きをしましょうか」

 夜音さんはそう言うと立ち上がり、たっぷりとしたボリュームの尻尾を揺らした。
 尻尾が六本もあると重くて動きづらそうなものだけれど、彼の動きはとても軽快だ。

「夜食を作る……って。夜音さんがですか?」
「はい、こう見えて執事ですので。私にお任せください」

 こう見えて……というかむしろ見たまんまである。
 そして執事は使用人たちのまとめ役で、食事はふつうコックが作るんじゃないかな。
 そうは思ったけれど、なにも言わないで口をつぐむ。この人の怒りのつぼがどこにあるのかが、まだわからないし。
 元彼といた時も……彼の顔色を見てばかりだったな。
 そんなことを考えて、私は少し憂鬱な気持ちになってしまった。

『こっちの顔色を見てへらへらしてばかりの辛気臭いお前といるのは、もう嫌なんだよ』

 これが……元彼が出て行く間際に言い放った言葉である。
 じゃあ、私はどうすれば良かったのだろう。好かれたいと思って、彼に都合がいいようにと行動をしたことはそんなにいけないことだったのだろうか。
 浮気相手の女みたいに、猫なで声で好き勝手にワガママを言えば上手くいったのかな。

「孫姫様」

 声をかけられたのと同時に、額になにかがぶつかってきた。
 ……どうやら夜音さんに、デコピンをされたらしい。
 顔を上げると真っ赤な瞳と目が合って、私はびくりと身を震わせた。

「百合様から、孫姫様は気が弱いところがあると聞いてはおりましたが……」

 夜音さんはそう言うと深いため息をついた。
 この妖怪? からも『辛気臭い』だなんだと言われてしまうんだろうか。そんなことを思って身構えていると……

「私に対しては遠慮をしないでください。そちらの方が、意思の疎通が正確にできて助かります」

 夜音さんはそう言うと、尻尾を揺らしながら台所へと向かった。
 予想外のことを言われて虚を衝かれた私は、あっけに取られながら彼の背中を見送った。
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