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早朝、遭遇、お座敷少女1
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朝起きてから、布団を押入れに入れる。東京ではフローリング生活だった私には、この動作はとても新鮮だ。
布団はとてもふかふかで、これは夜音さんが手入れをしてくれているのだと思う。押し入れから、布団乾燥機が見つかったし。
「はー、さぶっ」
窓を開けると秋のひやりとした風が舞い込んでくる。少し寒いけれど、私は換気のためにそれをそのままにした。そしてなにか食べようと台所に向かい冷蔵庫を開けると……
「ん?」
中には、調理済みのなにかが乗った皿があったのだ。
皿の上にはメモが乗っていて、それには『孫姫様の朝食です』ということが綺麗な字で書いてあった。
夜食を作る時に、夜音さんがついでに作ってくれたのだろう。
「卵焼きと、サラダだ」
ちらりとコンロを見ると、そこには鍋が置いてある。その蓋を開けると、キャベツのお味噌汁が入っていた。
そして予約炊飯のセットをしていたらしい炊飯器が、ピーッとご飯が炊けた音を立てた。
「お狐様様だ……」
守ってくれる上に、ちゃんとした朝食まで用意してくれるなんて。口が悪いのを差し引いても、夜音さんの存在は感謝すべきありがたいものなのだろう。……たぶん。
コンロに火を付け味噌汁を温めつつ、卵焼きもレンジで温める。
温まったそれらとサラダ、そしてご飯をお盆に乗せて、私は部屋へと向かった。
座卓の上に皿を並べると、日本のよき朝食という風情になる。私はそれを満足げに眺めてしまった。
「そうだ」
昨日買った野沢菜のことをふと思い出し、お土産袋からごそごそと取り出す。そして台所に行き小皿に食べる分だけ乗せてから、部屋へと戻った。
「ん……?」
食卓を見て、違和感に気づいた。なにかが足りない。……一体なにが?
「卵が……二つ減ってる?」
夜音さんが作ってくれた卵焼きは、六切れだったはずなのだ。それが二切れ、綺麗に消失している。
そのことに気づいてしまった私は、その場で体を強張らせた。
まさか、夜音さん以外の『もののけ』が――いる?
そして私が思い浮かべたのは……電車の中の少女のことだった。
『私、先に行ってるね』
彼女が消える前に言われた言葉をふと思い出し、顔から血の気が引いていく。
「まさか、女の子が付いてきたってことは……」
「その、まさかかも」
背後から声が聞こえて、背筋が凍った。肌にはブツブツとはっきりとした鳥肌が立っていく。
聞こえたのは――あの女の子の声だった。
ここには祖母の加護の名残りがあるんじゃないの? それに、夜音さん……守ってくれるって言ったのに。
「夜音さんの嘘つき……!」
思わずそんな恨み言が口から零れた。ついでに涙もぼろぼろと零れた気がするけれど、そんなことを気にする余裕は私にはなかった。
「そんなことを言ったら、あの狐は怒るんじゃないかな? それに私は悪いもののけじゃないよ。そうだったら、この家にそもそも入れていないし」
悪い『もののけ』じゃない? そして夜音さんと面識があるのかな?
恐る恐る振り返ると、予想の通りに電車の中で出会った少女がそこに立っている。
その口元には……卵焼きの食べかすが付いていた。
布団はとてもふかふかで、これは夜音さんが手入れをしてくれているのだと思う。押し入れから、布団乾燥機が見つかったし。
「はー、さぶっ」
窓を開けると秋のひやりとした風が舞い込んでくる。少し寒いけれど、私は換気のためにそれをそのままにした。そしてなにか食べようと台所に向かい冷蔵庫を開けると……
「ん?」
中には、調理済みのなにかが乗った皿があったのだ。
皿の上にはメモが乗っていて、それには『孫姫様の朝食です』ということが綺麗な字で書いてあった。
夜食を作る時に、夜音さんがついでに作ってくれたのだろう。
「卵焼きと、サラダだ」
ちらりとコンロを見ると、そこには鍋が置いてある。その蓋を開けると、キャベツのお味噌汁が入っていた。
そして予約炊飯のセットをしていたらしい炊飯器が、ピーッとご飯が炊けた音を立てた。
「お狐様様だ……」
守ってくれる上に、ちゃんとした朝食まで用意してくれるなんて。口が悪いのを差し引いても、夜音さんの存在は感謝すべきありがたいものなのだろう。……たぶん。
コンロに火を付け味噌汁を温めつつ、卵焼きもレンジで温める。
温まったそれらとサラダ、そしてご飯をお盆に乗せて、私は部屋へと向かった。
座卓の上に皿を並べると、日本のよき朝食という風情になる。私はそれを満足げに眺めてしまった。
「そうだ」
昨日買った野沢菜のことをふと思い出し、お土産袋からごそごそと取り出す。そして台所に行き小皿に食べる分だけ乗せてから、部屋へと戻った。
「ん……?」
食卓を見て、違和感に気づいた。なにかが足りない。……一体なにが?
「卵が……二つ減ってる?」
夜音さんが作ってくれた卵焼きは、六切れだったはずなのだ。それが二切れ、綺麗に消失している。
そのことに気づいてしまった私は、その場で体を強張らせた。
まさか、夜音さん以外の『もののけ』が――いる?
そして私が思い浮かべたのは……電車の中の少女のことだった。
『私、先に行ってるね』
彼女が消える前に言われた言葉をふと思い出し、顔から血の気が引いていく。
「まさか、女の子が付いてきたってことは……」
「その、まさかかも」
背後から声が聞こえて、背筋が凍った。肌にはブツブツとはっきりとした鳥肌が立っていく。
聞こえたのは――あの女の子の声だった。
ここには祖母の加護の名残りがあるんじゃないの? それに、夜音さん……守ってくれるって言ったのに。
「夜音さんの嘘つき……!」
思わずそんな恨み言が口から零れた。ついでに涙もぼろぼろと零れた気がするけれど、そんなことを気にする余裕は私にはなかった。
「そんなことを言ったら、あの狐は怒るんじゃないかな? それに私は悪いもののけじゃないよ。そうだったら、この家にそもそも入れていないし」
悪い『もののけ』じゃない? そして夜音さんと面識があるのかな?
恐る恐る振り返ると、予想の通りに電車の中で出会った少女がそこに立っている。
その口元には……卵焼きの食べかすが付いていた。
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