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もののけ執事とお座敷少女12
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『神様』や『もののけ』がいるところで作られた角煮。そんなものを食べられるなんて、実はすごいことなんじゃないだろうか。カレーにゴロゴロと載った角煮を見て、しみじみとそんなことを思ってしまう。
『あの世のものを食べたら現世には戻れない』という、『よもつへぐい』なんて物騒な言葉も一瞬脳裏を過るけれど……あれは黄泉の世界の話だものね。ここは常世で、夜音さんも黄泉の国の住人ではない。
「ありがとうございます、夜音さん。いただきます」
夜音さんにお礼を言ってから、角煮と野菜のカレーを口にする。
するとほろりと、甘くて柔らかな角煮が口の中で解けた。そしてスパイシーなカレーの風味がふわりと香る。
「んっ……」
美味しい。少し辛めに作られたカレーと、角煮の甘さがとてもよく合う! パプリカとブロッコリーはカレーと別で煮たものらしく、野菜の歯ごたえがしっかりと残ったままだ。そのシャキシャキ感がたまらない。
カレーのルウの味もスパイスがかなり効いていて本格的だ。もしかして、市販のものではないのかな。
「夜音さん、すごく美味しいです! このルウって手作りですか?」
「カレー粉自体は市販のものです。それにいくつかスパイスなどを加えています」
「こんなに本格的な味に仕上がるんですね。本当に美味しいなぁ……」
もちもちとした雑穀米を噛みしめながら、思わずうっとりとしてしまう。
そんな私を見て、夜音さんはふっと息を漏らすように笑った。
「芽衣様は食べている時が一番元気ですね」
「だ、だめですかね」
『意地汚い』ように見えたのだろうか。いや、実際に意地汚いのだけれど。
「いいえ、いいことです。食にしろ、遊びにしろ。それから喜びを得られるのは良いことです。心の風通しが良くなりますからね」
「心の風通し……?」
「大事なことですよ。ここに澱が溜まると……」
夜音さんはそう言うと、自分の心臓のあたりを指でトン差す。私も思わず、自分の胸を見てしまった。
「悪い『もの』が寄ってきます。貴女に惹かれる『もののけ』は本当に多いのです。悪いものを引き寄せないように、心の健康はいつでも保っていてください」
夜音さんに視線を戻すと、紅い唇がきゅっと笑みの形を刻んでいる。夜音さんの笑みは美しいものなのに……私にはなぜか恐ろしげに見えた。
赤い瞳が煌めいて、ベルベットのような光沢の尻尾がふわりと揺れる。
――ああ、『人』じゃないからか。
改めて、そんな当たり前のことを思ってしまった。
夜音さんにすら、こんなふうに感じる瞬間があるのだ。
悪い『もののけ』に出会ってしまったら……私は正気を保てるのだろうか。
背筋を少し震わせてから、私はコクリと頷いた。すると夜音さんは「重畳、重畳」と柔らかな口調で言ってから頷いた。
「このあたりには温泉も多いですし、落ち着いたら行ってみるのもいいかもしれませんね。ああいうものを、芽衣様が好まれるのでしたら……ですが」
「温泉、大好きです」
「そうですか。貴女の心に良いものをたくさん見つけてください。それが貴女の身を守ることにも繋がる」
私の心に良いものか。
それを探すという行為は……とても楽しそうだ。
だってここは温泉郷なのだ。行って楽しい場所や美味しいものは、きっとたくさんあるだろう。
『あの世のものを食べたら現世には戻れない』という、『よもつへぐい』なんて物騒な言葉も一瞬脳裏を過るけれど……あれは黄泉の世界の話だものね。ここは常世で、夜音さんも黄泉の国の住人ではない。
「ありがとうございます、夜音さん。いただきます」
夜音さんにお礼を言ってから、角煮と野菜のカレーを口にする。
するとほろりと、甘くて柔らかな角煮が口の中で解けた。そしてスパイシーなカレーの風味がふわりと香る。
「んっ……」
美味しい。少し辛めに作られたカレーと、角煮の甘さがとてもよく合う! パプリカとブロッコリーはカレーと別で煮たものらしく、野菜の歯ごたえがしっかりと残ったままだ。そのシャキシャキ感がたまらない。
カレーのルウの味もスパイスがかなり効いていて本格的だ。もしかして、市販のものではないのかな。
「夜音さん、すごく美味しいです! このルウって手作りですか?」
「カレー粉自体は市販のものです。それにいくつかスパイスなどを加えています」
「こんなに本格的な味に仕上がるんですね。本当に美味しいなぁ……」
もちもちとした雑穀米を噛みしめながら、思わずうっとりとしてしまう。
そんな私を見て、夜音さんはふっと息を漏らすように笑った。
「芽衣様は食べている時が一番元気ですね」
「だ、だめですかね」
『意地汚い』ように見えたのだろうか。いや、実際に意地汚いのだけれど。
「いいえ、いいことです。食にしろ、遊びにしろ。それから喜びを得られるのは良いことです。心の風通しが良くなりますからね」
「心の風通し……?」
「大事なことですよ。ここに澱が溜まると……」
夜音さんはそう言うと、自分の心臓のあたりを指でトン差す。私も思わず、自分の胸を見てしまった。
「悪い『もの』が寄ってきます。貴女に惹かれる『もののけ』は本当に多いのです。悪いものを引き寄せないように、心の健康はいつでも保っていてください」
夜音さんに視線を戻すと、紅い唇がきゅっと笑みの形を刻んでいる。夜音さんの笑みは美しいものなのに……私にはなぜか恐ろしげに見えた。
赤い瞳が煌めいて、ベルベットのような光沢の尻尾がふわりと揺れる。
――ああ、『人』じゃないからか。
改めて、そんな当たり前のことを思ってしまった。
夜音さんにすら、こんなふうに感じる瞬間があるのだ。
悪い『もののけ』に出会ってしまったら……私は正気を保てるのだろうか。
背筋を少し震わせてから、私はコクリと頷いた。すると夜音さんは「重畳、重畳」と柔らかな口調で言ってから頷いた。
「このあたりには温泉も多いですし、落ち着いたら行ってみるのもいいかもしれませんね。ああいうものを、芽衣様が好まれるのでしたら……ですが」
「温泉、大好きです」
「そうですか。貴女の心に良いものをたくさん見つけてください。それが貴女の身を守ることにも繋がる」
私の心に良いものか。
それを探すという行為は……とても楽しそうだ。
だってここは温泉郷なのだ。行って楽しい場所や美味しいものは、きっとたくさんあるだろう。
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