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転生王子と婚約披露パーティー5
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「ピナ・ノワルーナ伯爵令嬢」
俺が声をかけると、華奢な背中がびくりと震える。恐る恐る振り向いたピナの表情は盛大な苦笑いを湛えており、顔を滂沱の汗が伝っていた。ピナが持つ盆には客に振る舞うワインが乗せられている。それが彼女の体の震えに合わせて揺れて、びちゃびちゃと盆に零れた。
……秘密を知ってしまったから、消される。
彼女がそんなことを考えているのだろう気配を、ひしひしと感じられた。うん、誤解は早めに解いておかねば。俺のためにも、ピナの精神状態のためにも。
「どどどどどうして私のことをご存知でぇ」
「王宮に勤めるもののことくらい、すぐに調べはつく。少し、話をしようか」
こんな会場で堂々と『ブリッツには、キスの作法を教わっていただけだ』なんて言ったら、確実に根も葉もないアレコレが広がる。どうにか人気のないところに行けないものか。
「……頑張れ、落ちるな、私の首」
大きく体を震わせながらピナがつぶやく。首なんて落とさないから落ち着いて欲しい。婚約披露パーティーという晴れの場で、メイドの首を落とすなんてことするわけないだろう。俺はどんな暴虐王子に見られているのだ。
「首は落とさないから。俺について来てくれないか」
「ひゃぃい!」
「その前に、一つグラスを落として。俺にワインがかかるように」
「ひゃいい!?」
「早く」
ピナがグラスを落とす。それはガシャン! と音を立てて床に落ちる。うまい具合に赤ワインの飛沫が散って、俺のトラウザーズにかかった。
会場の人々の注目がこちらに集まる。俺はわざとらしく、トラウザースの汚れを彼らに見せつけた。
「ふむ、汚れてしまったな」
「ももももも申し訳ありません!」
ピナはすっかり涙目だ。悪いようにはしないから、そんなに怯えないで欲しい。
遠くでティアラ嬢が少し腰を浮かせるのが見える。大丈夫だというように、俺は少し手を振ってみせた。
「ふむ……これくらいであれば履き替えるまでもないか。君、染み抜きはできるか?」
「ひゃ、ひゃい。一応……」
「じゃあ来てくれ。誰か、床の片付けを。皆様、少し失礼する」
メイドを用事もなく連れ出したら、妙な噂になりかねない。俺のでっちあげに涙目になりながらピナは俺について来た。
「あああ、後でメイド長に怒られる。待って、あのトラウザーズうちで弁償できるの? うちは貧乏伯爵家なのに……」
背後でブツブツ言ってるのを聞くと、罪悪感が刺激される。メイド長には叱らないように後で言っておこう。トラウザーズの弁償も当然させるわけがない。そもそもはピナが俺から逃げ回ったからこうなったのだが!
控えの間にピナを連れて行くと、俺はゆっくりと扉を締めた。
「さて、ピナ・ノワルーナ。君の誤解を解かないとな」
「ご、誤解でございますかぁ? な、なんのことでしょう。私、なにも見てないですよぉ」
泳いでいる、目が思い切り泳いでいる。そして心の底から誤解をしている。
「あー、あの日ブリッツとしていたのはだな」
「わわわわ私、男色には偏見はございませんのでぇ」
「そんな事実はない!」
「ひぇっ!」
結局、ピナの誤解を解くのに二十分程度を要した。
……ブリッツ、マジで覚えてろよ。
俺が声をかけると、華奢な背中がびくりと震える。恐る恐る振り向いたピナの表情は盛大な苦笑いを湛えており、顔を滂沱の汗が伝っていた。ピナが持つ盆には客に振る舞うワインが乗せられている。それが彼女の体の震えに合わせて揺れて、びちゃびちゃと盆に零れた。
……秘密を知ってしまったから、消される。
彼女がそんなことを考えているのだろう気配を、ひしひしと感じられた。うん、誤解は早めに解いておかねば。俺のためにも、ピナの精神状態のためにも。
「どどどどどうして私のことをご存知でぇ」
「王宮に勤めるもののことくらい、すぐに調べはつく。少し、話をしようか」
こんな会場で堂々と『ブリッツには、キスの作法を教わっていただけだ』なんて言ったら、確実に根も葉もないアレコレが広がる。どうにか人気のないところに行けないものか。
「……頑張れ、落ちるな、私の首」
大きく体を震わせながらピナがつぶやく。首なんて落とさないから落ち着いて欲しい。婚約披露パーティーという晴れの場で、メイドの首を落とすなんてことするわけないだろう。俺はどんな暴虐王子に見られているのだ。
「首は落とさないから。俺について来てくれないか」
「ひゃぃい!」
「その前に、一つグラスを落として。俺にワインがかかるように」
「ひゃいい!?」
「早く」
ピナがグラスを落とす。それはガシャン! と音を立てて床に落ちる。うまい具合に赤ワインの飛沫が散って、俺のトラウザーズにかかった。
会場の人々の注目がこちらに集まる。俺はわざとらしく、トラウザースの汚れを彼らに見せつけた。
「ふむ、汚れてしまったな」
「ももももも申し訳ありません!」
ピナはすっかり涙目だ。悪いようにはしないから、そんなに怯えないで欲しい。
遠くでティアラ嬢が少し腰を浮かせるのが見える。大丈夫だというように、俺は少し手を振ってみせた。
「ふむ……これくらいであれば履き替えるまでもないか。君、染み抜きはできるか?」
「ひゃ、ひゃい。一応……」
「じゃあ来てくれ。誰か、床の片付けを。皆様、少し失礼する」
メイドを用事もなく連れ出したら、妙な噂になりかねない。俺のでっちあげに涙目になりながらピナは俺について来た。
「あああ、後でメイド長に怒られる。待って、あのトラウザーズうちで弁償できるの? うちは貧乏伯爵家なのに……」
背後でブツブツ言ってるのを聞くと、罪悪感が刺激される。メイド長には叱らないように後で言っておこう。トラウザーズの弁償も当然させるわけがない。そもそもはピナが俺から逃げ回ったからこうなったのだが!
控えの間にピナを連れて行くと、俺はゆっくりと扉を締めた。
「さて、ピナ・ノワルーナ。君の誤解を解かないとな」
「ご、誤解でございますかぁ? な、なんのことでしょう。私、なにも見てないですよぉ」
泳いでいる、目が思い切り泳いでいる。そして心の底から誤解をしている。
「あー、あの日ブリッツとしていたのはだな」
「わわわわ私、男色には偏見はございませんのでぇ」
「そんな事実はない!」
「ひぇっ!」
結局、ピナの誤解を解くのに二十分程度を要した。
……ブリッツ、マジで覚えてろよ。
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