【R18】執事と悪役令嬢の色々な世界線

夕日(夕日凪)

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悪役令嬢はヒロインに負けたくない

悪役令嬢はヒロインに負けたくない・3

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「ノエル様。今日初めて話した令嬢の唇を奪おうとするのは、非常識ですわ」

 マクシミリアンの腕から逃れたわたくしは、半眼で睨みつけながらノエル様を非難した。
 ノエル様はおどけたようにシュミナ嬢の後ろに隠れてしまう。
 彼の方がシュミナ嬢より頭1個分身長が大きいものだから完全にはみ出てしまっているんだけど。

「ごめんね、ビアンカ嬢。あまりにビアンカ嬢が可愛かったものだから……」
「見え透いたお世辞も結構です」

 ぴしゃりと言ってため息をつきすっかり冷えてしまった紅茶を啜る。
 ……本気ならともかくヒロイン攻略の片手間で人を口説こうとするのは止めて欲しいものだ。
 こちらは本気で絶賛旦那様候補募集中なのよ。

「お世辞じゃないんだけどなぁ……」
「ビアンカ様、ノエル様も悪気があったわけでは……!」

 ノエル様が口を尖らせて言い、シュミナ嬢は手を前に組んで目をうるりとさせながらわたくしに訴えかけてくる。
 うう……ヒロイン可愛いわね。でも悪気がないからって初めてを唐突に奪われるのは嫌よ。

「悪気がなくとも、冗談でも。……ましてや本気でも。シュラット侯爵家のご令嬢に軽々に手出しをするのは止めて頂きたい」

 背後に控えたマクシミリアンが、黒い空気を纏わりつかせてノエル様を睨みつけた。
 その気迫にシュミナ嬢も息を飲んで黙り込む。

「ねぇ、番犬。そうやっていつも彼女から選択肢を奪うのは楽しい?」
「……私はシュラット侯爵家のご令嬢に妙な虫が付かないように排除しているだけだ。妙な憶測をするな、ノエル・ダウストリア」

 選択肢を……奪う? ノエル様の言っている事が、よくわからない。
 首を傾げてノエル様の方を見ると彼が口を開き。

「――……」

 その声は、何故かこちらに伝わってはこなかった。
 マクシミリアンが風の魔法で音を遮断したんだ……。

「お嬢様、行きましょう」

 マクシミリアンはそう言うと、わたくしの手を引いてカフェテリアから出るように促した。
 ……シュラット侯爵家の邸に居る頃は。
 抱きしめたり、手を引いたり、マクシミリアンはこんな接触なんてしてこなかった。
 わたくしも……意識的に彼と一線を引いていたし。
 だけど学園に来て、マクシミリアンと毎日いつでも一緒に居るようになって。
 距離感が、おかしくなり始めているのかもしれないわね。

「ねぇ、マクシミリアン。手を引かれなくても歩けるわ」

 わたくしがそう言ってもマクシミリアンは手を離してくれず、黙々と歩き続けるから。
 どうしていいのかわからなくて、わたくしは手を引かれるままになりながら下を向いた。
 こういうのは――困るわ。
 日常的に常に一緒に居る好みの男性からの接触が増えるのは、前世今世共に男性との接触が少ないわたくしにとって刺激が強すぎる。
 ……つまりは、接触過多にされると勘違いをしてしまいそうで怖いのだ。
 前世も今世も彼氏がいない喪女の免疫のなさを舐めないで欲しいわ!
 だけど勘違いはしてはいけない。それがきっと、道を踏み外す第一歩だ。
 わたくしは、悪役令嬢になんてなりたくない。平凡な令嬢の人生を歩むのだ。

 マクシミリアンに手を繋がれたまま寮に帰り静かな部屋を見て、学園に側仕えとして来てくれているメイドが休みだったわね、という事にふと気づいた。
 身内に不幸があって休むとの連絡をもらっていたのだったわ。
 億劫だけど自分で普段着に着替えないと……。
 他のご令嬢はともかく前世を覚えているわたくしは着替えくらい一人でできる。
 この世界の服は釦が多いから時間はかかるけれど。

「今日はメイドが休みでしたね。……お嬢様、お手伝いします」

 マクシミリアンが言いながら、制服の前釦に手をかけるものだからわたくしは言葉を失った。
 えっ……マクシミリアンが? 男性の侍従が着替えを手伝うのって……ありだったかしら?
 動揺しているうちにマクシミリアンの奇麗な長い指が釦をどんどん外し、上着をするりと脱がされた。
 すると次は後ろに回り込まれ、ワンピースタイプのスカートの背中に付いている包み釦もどんどん外されていく。
 彼が無表情で事務的に作業するものだから恥ずかしがっている自分の方が間違っているような気がして真っ赤になってされるがままになっていると、すとん、とスカートと下に落とされた。
 そしてブラウスを手早く取り去られてしまう。この手際の良さはなんなの……?
 そして……今わたくしはマクシミリアンの前でコルセットとパニエ、その下のペチコートのみで立っているわけで。

「マクシミリアン、もう一人で大丈夫だから……」
「いいえ、最後までお手伝いします」

 そう言いながらマクシミリアンは器用にコルセットの紐を緩めていく。
 男性の前でどんどん無防備になっていく恥ずかしさで心臓はどくどくと強い鼓動を打っていて、このままでは胸を突き破ってしまいそうだ。
 コルセットともにパニエも取り去られてしまってとうとう薄い生地のペチコートだけでマクシミリアンの前に立つことになり、わたくしは思わずぎゅっと目を瞑った。
 きっと……肌とか、パ……パンツだとか……色々見えてしまっているわ。

「マクシミリアン……もう……」

 背後に彼の気配を感じながら涙目になってしまう。羞恥心で体中が熱を持ち、わたくしは思わず両手で身体をかき抱いた。
 ふと、首筋に吐息がかかった……と思った瞬間に、ちくりと首筋に微かな痛みを感じた。
 ……今のは、なに?
 ぽかんとした顔でマクシミリアンの方を振り返ると妖艶な表情で微笑む彼がいて。
 訳がわからず呆然としたままで、彼の美しい顔を見つめることしかできなかった。

「さ、お風邪を召されてはいけません。お召し物はこちらでいいですか? お嬢様」
「え……ええ……」

 頭が働かないまま普段着用のドレスを着せられ、ふと鏡を見ると。
 首筋に赤い花が、小さく散っていた。
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