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悪役令嬢はヒロインに負けたくない
悪役令嬢はヒロインに負けたくない・17
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「……んぅ……」
「お嬢様!!」
目を覚ますと心配そうな顔のマクシミリアンと目が合った。
わたくし、どうしたんだっけ……?そうだ、マクシミリアンに……!
マクシミリアンにされたことを思い出して、わたくしは思わず上掛けの中に潜り込み顔を隠してしまった。
――気絶するまでなんて、さすがに酷すぎる。いや、気持ちよかったのよ。
だけど……。
「……わたくし、マクシミリアンに『隠し事』の一つも作ってはいけないの? 人間話したくないことの一つや二つあるでしょう。貴方はそれさえも、許してくれないのかしら」
全てをさらけ出して生きろというのは、さすがに横暴だ。そんなの、わたくしの尊厳がないみたいじゃない。
それにマクシミリアンに前世の話はしたくないの。彼に気が狂ったなんて思われたら、悲しくて死んでしまいそうだから。
上掛けの向こう側でマクシミリアンが動揺する気配がする。彼は今……どんな顔をしているのかしら。
「お嬢様、私は……。貴女が『隠し事』をしていると思いながらも見ないフリをしながら過ごした結果、貴女を失いそうになりました。それはもう嫌なのです……」
消え入りそうな、震える彼の声。――もしかして泣いているの?
「私は……お嬢様がいなくなったら、生きていけない」
……わたくしが家出をしようとしたことは、彼に相当なトラウマを植え付けてしまったのかもしれない。
上掛けから急いで顔を出すと、マクシミリアンの夜色の瞳からポロポロと涙が零れて綺麗な色の褐色の頬を伝っていた。
男の人が泣くのを見るなんて初めてだわ。彼の泣き顔を見ながらそんなことを思ってしまう。
わたくしは彼の頬に手を伸ばすと、そっと涙を掬い取った。
「不安にさせてしまったのね。わたくしは……もういなくならないから」
「……はい、お嬢様」
マクシミリアンに囁くと彼はほっとした笑みを浮かべた。
――だけど、彼との関係には最大の懸念もあるのだ。強制力も、もちろん怖い。だけど強制力が無かったとしても……。
マクシミリアンとわたくしの間には厳然とした身分差が存在する。
乙女ゲームでヒロインとマクシミリアンが結ばれることができたのは、彼とヒロインの身分が近いものだったからだ。
……わたくし、彼を愛人として囲うことになるのかしら。
視線を感じてそちらに目を向けると、マクシミリアンが不安げな顔でこちらを見つめていた。
「ふふ、そんな顔をしないで。わたくし貴方と一生一緒にいたいと思っているのよ。だけど貴方との婚姻は難しいから、どうすればいいのかしらって考えていたの」
「お嬢様……それは……」
「愛人を認めてくれる方と結婚して、貴方を囲うしかないのかしら」
うう、できれば結婚は愛する人としたいんだけどなぁ。
フィリップ王子とご婚約してゲームのルート通りに婚約破棄していただき、身分剥奪の上で国外追放されるって手もあるのかしら。これならマクシミリアンと結婚できる。
でもこれは上手くいかなかったらわたくしは王妃になってしまうのよね。強制力頼みの危険な賭けはしないほうがいいだろう。
いっそマクシミリアンと駆け落ちするという手も……なんて考えていたら。
マクシミリアンの手が伸びて、わたくしは彼の腕の中に閉じ込められてしまった。彼は切なげなため息をつきながら腕に痛いくらいの力を込める。
「お嬢様、あと一年のうちに必ず。シュラット侯爵が納得がいくような爵位を手に入れて参ります。私を信じて頂けませんか?」
マクシミリアンの言葉にわたくしは目を丸くした。
「……そんなことが、可能なの?」
「必ずや成し遂げます。だから……どこにも行かないでください」
母親を失いたくない子供のようにぎゅうぎゅうと必死に抱きついてくる、わたくしよりも大きな彼が愛おしい。
「信じて待ってるわ。絶対よ? だけど……」
父様が納得するくらいの爵位となると、最低でも伯爵位できれば侯爵位……となってしまう。
そんなこと普通なら不可能でしかない。彼はどうやって爵位を得るのかしら。
マクシミリアンのスペックはとても高い。特に魔法に関しては桁違いの能力を持っているけれど、それを利用しても得られるのは子爵位までがいいところだろう。それではわたくしとの婚姻は無理だ。
「……どうやって?」
首をこてん、と傾げたわたくしにマクシミリアンはそっとキスをする。
そして微笑みながら自分の唇に人差し指を当てた。
「お嬢様、私にも『秘密』があるのです」
彼の『秘密』……? ゲームのデータ上ではそんなエピソードはなかったわよね。
むむむ、すごく気になるわ。でも前世の記憶を隠しているわたくしに、それを無理に訊ねることなんてできない。でも気になる……!
「お嬢様の『隠し事』と引き換えでしたら、お話しますが」
わたくしの考えていることなんて彼にはお見通しみたいで。マクシミリアンの悪魔の囁きに、わたくしは息を詰まらせた。
「わたくし、マクシミリアンに気が狂ったと思われたくないの。だからまだ考えさせて」
彼の胸に顔を押し当てながらそう言うと、優しく頭を撫でられる。その心地よさに身を任せていると、マクシミリアンが小さくため息をついた。
「お嬢様。その……先ほどは無理に暴こうとして申し訳ありませんでした」
「――いいの。もう怒ってないわ」
そう答えると彼から安堵したような気配が伝わってくる。
「無理をさせてしまいましたし……喉が痛みますよね。ハーブティーを淹れるので、お待ちくださいお嬢様」
額にキスをして、マクシミリアンが離れようとする。
それが寂しくて思わず彼の服を掴むと、『そんなことをされたら、また触れたくなるでしょう』と真っ赤な顔で言われてわたくしは慌てて手を離した。
……彼と、結婚する未来が本当にくるのかしら。
それは想像すると胸が躍るもので。ハーブティーが来るまでの時間、わたくしは未来へと思いを馳せていた。
「お嬢様!!」
目を覚ますと心配そうな顔のマクシミリアンと目が合った。
わたくし、どうしたんだっけ……?そうだ、マクシミリアンに……!
マクシミリアンにされたことを思い出して、わたくしは思わず上掛けの中に潜り込み顔を隠してしまった。
――気絶するまでなんて、さすがに酷すぎる。いや、気持ちよかったのよ。
だけど……。
「……わたくし、マクシミリアンに『隠し事』の一つも作ってはいけないの? 人間話したくないことの一つや二つあるでしょう。貴方はそれさえも、許してくれないのかしら」
全てをさらけ出して生きろというのは、さすがに横暴だ。そんなの、わたくしの尊厳がないみたいじゃない。
それにマクシミリアンに前世の話はしたくないの。彼に気が狂ったなんて思われたら、悲しくて死んでしまいそうだから。
上掛けの向こう側でマクシミリアンが動揺する気配がする。彼は今……どんな顔をしているのかしら。
「お嬢様、私は……。貴女が『隠し事』をしていると思いながらも見ないフリをしながら過ごした結果、貴女を失いそうになりました。それはもう嫌なのです……」
消え入りそうな、震える彼の声。――もしかして泣いているの?
「私は……お嬢様がいなくなったら、生きていけない」
……わたくしが家出をしようとしたことは、彼に相当なトラウマを植え付けてしまったのかもしれない。
上掛けから急いで顔を出すと、マクシミリアンの夜色の瞳からポロポロと涙が零れて綺麗な色の褐色の頬を伝っていた。
男の人が泣くのを見るなんて初めてだわ。彼の泣き顔を見ながらそんなことを思ってしまう。
わたくしは彼の頬に手を伸ばすと、そっと涙を掬い取った。
「不安にさせてしまったのね。わたくしは……もういなくならないから」
「……はい、お嬢様」
マクシミリアンに囁くと彼はほっとした笑みを浮かべた。
――だけど、彼との関係には最大の懸念もあるのだ。強制力も、もちろん怖い。だけど強制力が無かったとしても……。
マクシミリアンとわたくしの間には厳然とした身分差が存在する。
乙女ゲームでヒロインとマクシミリアンが結ばれることができたのは、彼とヒロインの身分が近いものだったからだ。
……わたくし、彼を愛人として囲うことになるのかしら。
視線を感じてそちらに目を向けると、マクシミリアンが不安げな顔でこちらを見つめていた。
「ふふ、そんな顔をしないで。わたくし貴方と一生一緒にいたいと思っているのよ。だけど貴方との婚姻は難しいから、どうすればいいのかしらって考えていたの」
「お嬢様……それは……」
「愛人を認めてくれる方と結婚して、貴方を囲うしかないのかしら」
うう、できれば結婚は愛する人としたいんだけどなぁ。
フィリップ王子とご婚約してゲームのルート通りに婚約破棄していただき、身分剥奪の上で国外追放されるって手もあるのかしら。これならマクシミリアンと結婚できる。
でもこれは上手くいかなかったらわたくしは王妃になってしまうのよね。強制力頼みの危険な賭けはしないほうがいいだろう。
いっそマクシミリアンと駆け落ちするという手も……なんて考えていたら。
マクシミリアンの手が伸びて、わたくしは彼の腕の中に閉じ込められてしまった。彼は切なげなため息をつきながら腕に痛いくらいの力を込める。
「お嬢様、あと一年のうちに必ず。シュラット侯爵が納得がいくような爵位を手に入れて参ります。私を信じて頂けませんか?」
マクシミリアンの言葉にわたくしは目を丸くした。
「……そんなことが、可能なの?」
「必ずや成し遂げます。だから……どこにも行かないでください」
母親を失いたくない子供のようにぎゅうぎゅうと必死に抱きついてくる、わたくしよりも大きな彼が愛おしい。
「信じて待ってるわ。絶対よ? だけど……」
父様が納得するくらいの爵位となると、最低でも伯爵位できれば侯爵位……となってしまう。
そんなこと普通なら不可能でしかない。彼はどうやって爵位を得るのかしら。
マクシミリアンのスペックはとても高い。特に魔法に関しては桁違いの能力を持っているけれど、それを利用しても得られるのは子爵位までがいいところだろう。それではわたくしとの婚姻は無理だ。
「……どうやって?」
首をこてん、と傾げたわたくしにマクシミリアンはそっとキスをする。
そして微笑みながら自分の唇に人差し指を当てた。
「お嬢様、私にも『秘密』があるのです」
彼の『秘密』……? ゲームのデータ上ではそんなエピソードはなかったわよね。
むむむ、すごく気になるわ。でも前世の記憶を隠しているわたくしに、それを無理に訊ねることなんてできない。でも気になる……!
「お嬢様の『隠し事』と引き換えでしたら、お話しますが」
わたくしの考えていることなんて彼にはお見通しみたいで。マクシミリアンの悪魔の囁きに、わたくしは息を詰まらせた。
「わたくし、マクシミリアンに気が狂ったと思われたくないの。だからまだ考えさせて」
彼の胸に顔を押し当てながらそう言うと、優しく頭を撫でられる。その心地よさに身を任せていると、マクシミリアンが小さくため息をついた。
「お嬢様。その……先ほどは無理に暴こうとして申し訳ありませんでした」
「――いいの。もう怒ってないわ」
そう答えると彼から安堵したような気配が伝わってくる。
「無理をさせてしまいましたし……喉が痛みますよね。ハーブティーを淹れるので、お待ちくださいお嬢様」
額にキスをして、マクシミリアンが離れようとする。
それが寂しくて思わず彼の服を掴むと、『そんなことをされたら、また触れたくなるでしょう』と真っ赤な顔で言われてわたくしは慌てて手を離した。
……彼と、結婚する未来が本当にくるのかしら。
それは想像すると胸が躍るもので。ハーブティーが来るまでの時間、わたくしは未来へと思いを馳せていた。
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