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桔梗の章
見えない不安
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小さい頃は気付いてはいなかった
自分の視界が人より狭い事
暗くなると見えなくなることも
人と違うなんて考えてもなかった
物心ついて、あまりにも自分の見えているものが
人より狭い範囲な事に気付いて
自分が目が良くないのだと自覚でき、
私は普通の人とは違うんだと感じるようになっていた
両親はもちろん気付いていた。
だけど、貧しい家に生まれ子供の異常に気付いても
医者にかかり治すだけの余裕はなかった。
幸いにも、目が悪い以外は健康そのものだった私は、
昼間は見えていると言う事もあり
一度も医者にかかることはなく、そのまま育てられた。
私は生まれた時から、人より劣っているのだと
ずいぶん長い間その劣等感と共に生きてきた
だけど、だからこそそれに負けたくはなかった
目が悪い、だからなんだというのだ。
それ以外はなんでも出来る
私は、私のチカラで生きたかった
本当は母が死ぬ前から、ずっと、街に出て働いて
家族の為に頑張りたかった
自分が、劣ってなどいないのだと
普通に暮らせるんだと証明したかった
そんなことに躍起になるくらい
目が悪いという劣等感が私を支配していた。
だから、団子屋に雇って貰えて
普通に仕事が出来るようになったのは本当に嬉しかった。
父が体を悪くして働けなくなり、
私の稼ぎ頼みになってからは
益々頑張らなければ!と言う思いと
頼られているという、誇りを持てた
だから少しくらい辛くても、全然平気だった
ずっとこのまま、やっていけるんだと、そう思っていたのに
それが終わる、その日は訪れた
だんだんと、見える範囲が狭くなり
実際、昼に団子を運ぶ仕事も少しづつ困難になってきた
見えない訳ではないが、いちいち運ぶものを
かなり目に近づけないと安全に運べなくなっていた
急激なその変化に、団子屋の主人も驚き
医者にかかる事を勧めたが
父も働いてない今、そんな資金はない
そのまま仕事を続けていたが、そのうち
「運び方のおかしな売り子がいる」と
人に噂されても、可哀想だから、と
主人が私にはもう団子を運ばなくていい、と告げた
私の事を考えてのような体裁を取っているが
世間体なんだと言う事は分かっていた
私は、何も出来なかった…
彼がやってきても、もう…
表に出る事は出来ないんだと思うと
心が掴まれたように苦しかった
私に与えられたのは、人から見えない場所で、
ひたすら団子の生地をこね、成形していく仕事
それすらも、普通の人より時間がかかる
最初は寛容だった主人も、段々と
私に対するイライラを、隠さなくなった
しばらくして、主人は、私の代わりに
別の売り子を雇った
昼も夜も働ける元気な女の子だった
『ヨモギ団子は今日はあるかい?』
彼のあの優しい、よく通る声が聞こえた
彼が来たのだと、私は居ても立っても居られなくなり
会う事は叶わなくても、少しでも姿を見たいと、
水を汲みに出る口実で外にでた。
彼のあの、美しい佇まいがぼんやり目にうつり、
もっとよく見たいと、近づいたその刹那
新しい売り子の彼女が、彼に話しかける姿が見えた…
どうしようもない、モヤモヤした気持ちになった…
劣等感に苛まれる
今の私は彼から見えない場所で、
光の入らない屋根の下で
空を見上げる彼を見る事も叶わず
団子の生地をこねるしか出来ないのだ…
持ち場に戻っても、そのやるせない気持ちが
心を支配して、苦しくなる
締め付けられるみたいに、息が上手く出来なくて
私は団子の生地を地面に落としてしまった…
『悪いがもう、お前を雇う事は出来ないよ』
…そうして、私は首を切られた
いや、本当は、ずっと前から
なんとか口実をつけて、私を解雇したかったんだろう
新しい働き手がいるならば、使えない盲いた女を
わざわざ雇い続ける必要などどこにもないのだから…
まだ日の暮れない通りを帰る道すがら
私の目からは涙が止めどなく溢れた
見えない癖に、こうして涙だけは、
他人と同じ様に流れるなんて、皮肉なものだ
この先どうしたらいいかなんてまるでわからなかった。
だけど、なんとかしなくちゃいけない
家に帰ると、父は寝ており弟や妹が、
私の帰りを今か今かと待っていた
私が稼がないとダメなんだ…だけど、
もう…それも難しいかもと思うと、心が折れそうだった
弟達を寝かせた後、私は父に、
仕事が出来なくなった事を話した。
そして、時間はかかるかもしれないけど
新しい仕事を探す事も話した。
父はあからさまに困った顔をした。
その間は大変になるかもしれないけど
絶対なんとかするから、信じて欲しいと ただ、そう告げた。
その日から私は昼間出歩き、仕事を探し始めた。
より狭くなった視界で、私は前より多く、道でつまづいた。
でも、今はあの時の様に助けてくれる人なんていない
自分の力で生きるんだ。それしかないから…
本当は助けて欲しかったのかもしれない
だけど、言える人はいない…
毎日探しても、仕事は見つからなかった
あの時団子屋の仕事が見つかったのは
奇跡に近かったのかも知れない
あの頃より数倍見えなくなった目では
昼間でも出来る事が限られてしまう
父は困り果て、兄弟達はお腹が空いたと泣いた
もう、私にはどうにも出来ないのかと
途方に暮れた時、
私の目の前に、1人の初老の男が立っていた。
『お前さん、団子屋の桔梗かい?』
見も知らぬ人に尋ねられ、一瞬驚いたが
団子屋の昔の客かと、私は素直に答えていた。
『私は桔梗だけど、もう、団子屋にはいないよ。
おじさん、なんか用かい』
『私は、清永屋に仕えるものだ。旦那様に
お前さんを探せと言われてね』
清永屋… !
壊れかけた心に、灯りがともる様なそんな瞬間だった。
『…なんで私を?』
『さあ、わからんが、とにかく一緒にきてくれんか』
男に促されるまま、私は歩き出した
自分の視界が人より狭い事
暗くなると見えなくなることも
人と違うなんて考えてもなかった
物心ついて、あまりにも自分の見えているものが
人より狭い範囲な事に気付いて
自分が目が良くないのだと自覚でき、
私は普通の人とは違うんだと感じるようになっていた
両親はもちろん気付いていた。
だけど、貧しい家に生まれ子供の異常に気付いても
医者にかかり治すだけの余裕はなかった。
幸いにも、目が悪い以外は健康そのものだった私は、
昼間は見えていると言う事もあり
一度も医者にかかることはなく、そのまま育てられた。
私は生まれた時から、人より劣っているのだと
ずいぶん長い間その劣等感と共に生きてきた
だけど、だからこそそれに負けたくはなかった
目が悪い、だからなんだというのだ。
それ以外はなんでも出来る
私は、私のチカラで生きたかった
本当は母が死ぬ前から、ずっと、街に出て働いて
家族の為に頑張りたかった
自分が、劣ってなどいないのだと
普通に暮らせるんだと証明したかった
そんなことに躍起になるくらい
目が悪いという劣等感が私を支配していた。
だから、団子屋に雇って貰えて
普通に仕事が出来るようになったのは本当に嬉しかった。
父が体を悪くして働けなくなり、
私の稼ぎ頼みになってからは
益々頑張らなければ!と言う思いと
頼られているという、誇りを持てた
だから少しくらい辛くても、全然平気だった
ずっとこのまま、やっていけるんだと、そう思っていたのに
それが終わる、その日は訪れた
だんだんと、見える範囲が狭くなり
実際、昼に団子を運ぶ仕事も少しづつ困難になってきた
見えない訳ではないが、いちいち運ぶものを
かなり目に近づけないと安全に運べなくなっていた
急激なその変化に、団子屋の主人も驚き
医者にかかる事を勧めたが
父も働いてない今、そんな資金はない
そのまま仕事を続けていたが、そのうち
「運び方のおかしな売り子がいる」と
人に噂されても、可哀想だから、と
主人が私にはもう団子を運ばなくていい、と告げた
私の事を考えてのような体裁を取っているが
世間体なんだと言う事は分かっていた
私は、何も出来なかった…
彼がやってきても、もう…
表に出る事は出来ないんだと思うと
心が掴まれたように苦しかった
私に与えられたのは、人から見えない場所で、
ひたすら団子の生地をこね、成形していく仕事
それすらも、普通の人より時間がかかる
最初は寛容だった主人も、段々と
私に対するイライラを、隠さなくなった
しばらくして、主人は、私の代わりに
別の売り子を雇った
昼も夜も働ける元気な女の子だった
『ヨモギ団子は今日はあるかい?』
彼のあの優しい、よく通る声が聞こえた
彼が来たのだと、私は居ても立っても居られなくなり
会う事は叶わなくても、少しでも姿を見たいと、
水を汲みに出る口実で外にでた。
彼のあの、美しい佇まいがぼんやり目にうつり、
もっとよく見たいと、近づいたその刹那
新しい売り子の彼女が、彼に話しかける姿が見えた…
どうしようもない、モヤモヤした気持ちになった…
劣等感に苛まれる
今の私は彼から見えない場所で、
光の入らない屋根の下で
空を見上げる彼を見る事も叶わず
団子の生地をこねるしか出来ないのだ…
持ち場に戻っても、そのやるせない気持ちが
心を支配して、苦しくなる
締め付けられるみたいに、息が上手く出来なくて
私は団子の生地を地面に落としてしまった…
『悪いがもう、お前を雇う事は出来ないよ』
…そうして、私は首を切られた
いや、本当は、ずっと前から
なんとか口実をつけて、私を解雇したかったんだろう
新しい働き手がいるならば、使えない盲いた女を
わざわざ雇い続ける必要などどこにもないのだから…
まだ日の暮れない通りを帰る道すがら
私の目からは涙が止めどなく溢れた
見えない癖に、こうして涙だけは、
他人と同じ様に流れるなんて、皮肉なものだ
この先どうしたらいいかなんてまるでわからなかった。
だけど、なんとかしなくちゃいけない
家に帰ると、父は寝ており弟や妹が、
私の帰りを今か今かと待っていた
私が稼がないとダメなんだ…だけど、
もう…それも難しいかもと思うと、心が折れそうだった
弟達を寝かせた後、私は父に、
仕事が出来なくなった事を話した。
そして、時間はかかるかもしれないけど
新しい仕事を探す事も話した。
父はあからさまに困った顔をした。
その間は大変になるかもしれないけど
絶対なんとかするから、信じて欲しいと ただ、そう告げた。
その日から私は昼間出歩き、仕事を探し始めた。
より狭くなった視界で、私は前より多く、道でつまづいた。
でも、今はあの時の様に助けてくれる人なんていない
自分の力で生きるんだ。それしかないから…
本当は助けて欲しかったのかもしれない
だけど、言える人はいない…
毎日探しても、仕事は見つからなかった
あの時団子屋の仕事が見つかったのは
奇跡に近かったのかも知れない
あの頃より数倍見えなくなった目では
昼間でも出来る事が限られてしまう
父は困り果て、兄弟達はお腹が空いたと泣いた
もう、私にはどうにも出来ないのかと
途方に暮れた時、
私の目の前に、1人の初老の男が立っていた。
『お前さん、団子屋の桔梗かい?』
見も知らぬ人に尋ねられ、一瞬驚いたが
団子屋の昔の客かと、私は素直に答えていた。
『私は桔梗だけど、もう、団子屋にはいないよ。
おじさん、なんか用かい』
『私は、清永屋に仕えるものだ。旦那様に
お前さんを探せと言われてね』
清永屋… !
壊れかけた心に、灯りがともる様なそんな瞬間だった。
『…なんで私を?』
『さあ、わからんが、とにかく一緒にきてくれんか』
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