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第3章 世界編
第99話 武術大会(9)
しおりを挟む俺はアートがいることに賭けて扉を開く。
「早かったな」
「あれ?また前の人より先に戻ってきたじゃねぇか」
待機場所にはアシュー師匠とヘルバーさんのみで、アートの姿は見当たらなかった。
「アートは?」
「いや見てねぇぞ?」
「私も見ていないな」
まさかほんとに魔力切れに!?
「第3回戦1試合目、アシュー選手とヘルバー選手は会場へお越しくださいにゃ!」
「えっ!もうかよ!?」
「お前と殺り合うのは久しぶりだな」
明らかな殺意がアシューから漂っている…
「ひっ!?ルイス!助けてくれ!俺はまだ__ぐぇ!」
アシューがヘルバーを背負い上げ、強制的に連れていく。
「決勝で会おう、ルイス」
アシューはヘルバーを背負いながら会場へと向かって行った。
「うわー、いつ見ても恐ろしいな…」
ヘルバーさん、ご愁傷さまです…
「さてと…待っている間暇だし、俺は救護室にでも行こうかな…」
「メリアの容態はどうですか?」
「それが…手足が少し痙攣し始めました…
毒というのは間違いないかと思います…」
メリアの手足は意識を失っているのにも関わらず、ブルブルと小刻みに震えている。
「そうですか…」
「その声はルイス?」
救護室のどこからか、アートの声が聞こえてくる。
「アートか!?どこにいる?」
「僕はここだよ」
俺はカーテンがかかっているベッドに近づき、ゆっくりと覗いた。
「アート…大丈夫か?」
「ああ、僕はただの魔力切れだよ…
ルイスと戦えないの残念だ…」
「うそつけ。俺に勝てないの分かってて前の試合で全部出し切ったんだろ」
「はは、全部お見通しか…」
「てことはだよ?俺また不戦勝!?」
「そうなるだろうね…」
「第3回戦2試合目のお知らせを致しますにゃ!
出場者のアート選手が試合続行不可と判断されたため、無条件でルイス選手の勝利となりますにゃ!」
「おっ、タイミングいい」
「じゃあ俺は戻るよ」
「うん、必ず優勝してね」
「任せろ!」
俺は最後にメリアの顔を見てから、救護室を後にした。
さっきアートには任せろなんて言っちゃったけど相手は恐らく、いや絶対アシュー師匠だろうな…
3年前のあのトラウマが蘇りそうだ…
アシュー師匠と本気で戦うのはなんだかんだ言って初めてかもしれない。
3年前のあれは随分手加減してもらっていたからね。
でも今回は手加減無し…お互い本気だ…
勝てるか分からないが、全力を出し切って勝利を掴むまでだ!
「決勝戦、アシュー選手とルイス選手は会場へお越しくださいにゃ!」
待機場所の前へ着いた時、呼び出しのアナウンスが流れる。
「ルイス、いよいよだな」
待機場所の扉を開け、アシューが出てくる。
「俺は3年前とは違いますからね?
今日はアシュー師匠を倒させてもらいます」
「そうか…期待してるぞ」
アシューの殺気が俺の背筋を撫でる。
まずい本気にさせちゃったかも!?
でも…すごくワクワクしている自分がいる!
それから俺たちは無言のまま会場へ到着し、お互いに向かい合う。
今回の勝負、俺に少しだけ有利な部分がある。
それは俺の能力をアシュー師匠は知らないことだ。
アシュー師匠が知っているのはまだ何も能力がなかった頃の俺。
それとヘルウィー戦で少しだけ見せた魔術。
あの頃の俺に比べれば今は数十倍、もしくは数百倍強くなっているかもしれない。
「それでは決勝戦!アシュー選手対ルイス選手…」
審判がゆっくりと手を挙げる。
「始め!!」
挙げられた手が勢いよく下ろされる。
まずは様子見…
アシュー師匠の出方を観察だ。
「なぁルイス、本気で来いよ?」
「わかってますよ。それに、数年前とかだいぶ変わりましたからね。
油断していると危ないかもしれませんよ」
「言ってくれるな。
ならその実力を見せてもらおうか」
そっちから攻めてこないのであればこっちから攻めるまでだ!
「行きます!【多重詠唱】【ファイアランス】×5!」
【ファイアランス】が同時に5本出現し、一斉にアシューに向かって放たれる。
「ふん!」
【ファイアランス】がアシューに直撃しようとした時、なにかの力によって打ち消される。
「ルイス、私の魔術を忘れたか?
こんな軽い魔術じゃ私に届きすらしないぞ」
「まだ本気は出していないので安心してください」
「一気に魔術を使って魔力は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ」
あいにく2回戦目と3回戦目が棄権になっているから、魔力は有り余っているんだよね。
「それじゃあそろそろ本気出しますよ!」
「お前の本気は楽しみだな」
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