あなたの瞳に映る花火 〜異世界恋愛短編集〜

宝月 蓮

文字の大きさ
35 / 54
婚約破棄されたそばかす令嬢、そばかすがある天使のような貴公子から求婚される

前編

しおりを挟む
 ガーメニー王国の王宮では、夜会が開かれていた。

「マクダレーナ嬢、そばかすがある君は美しいこの俺に相応ふさわしくない。俺に相応しい相手はこのオティーリエ嬢だ。彼女の美貌、そしてそばかすのない美しい肌。君とは大違いだ。だからこの婚約は破棄だ」
 グレト侯爵令嬢マクダレーナは婚約者のハッツフェルト伯爵家三男カスパーから一方的にそう言われた。
 マクダレーナを馬鹿にした態度である。
 カスパーの隣にいるビロン侯爵令嬢オティーリエもマクダレーナを馬鹿にしたように鼻で笑っていた。

 マクダレーナはダークブロンドの長い髪にペリドットのような緑の目。そして、鼻から頬にかけて少し濃いそばかすがある。

「そんな……では、グレト侯爵家は……」
 マクダレーナは真っ青になる。

 グレト侯爵家は領地で土砂災害が起こり、その被害で困窮していた。そこで、ガーメニー王国内でも有数の資産家であるハッツフェルト伯爵家からの支援により再建する予定だった。
 その条件がマクダレーナとカスパーの婚約である。
 マグダレーナはグレト侯爵家の一人娘なので、カスパーが婿入りするのだ。

「一応、賠償金じゃないけれど、手切れ金としてグレト侯爵家が再建可能なくらいの金額はあげる。だけどそもそも、グレト侯爵領で災害が起こるのが悪いんだろう」
「本当にそうよね。マクダレーナ様に問題があるから災害が起こったのではなくて?」
 災害はどうしようもないことであるのにも関わらず、まるでマクダレーナやグレト侯爵家が悪いと言うかのような態度のカスパーとオティーリア。
 マクダレーナは言い返そうとするが、上手く言葉が出て来なかった。
「じゃあそういうことだから」
 最初から最後まで馬鹿にした態度で、カスパーはオティーリアと共にマクダレーナの元を去って行った。

 一人残されたマクダレーナは人気ひとけのないバルコニーに出て涙を流す。
(どうして……? どうしてあんな風に言われないといけないの? グレト侯爵家も、わたくしも、何も悪いことはしていないのに、どうしてわたくし達が悪いみたいに言われないといけないの?)
 マクダレーナはカスパーに対して好意を抱いていたわけではない、しかし、一方的にああ言われてただ悔しかったのだ。
(どうして、どうしてわたくしは何も言い返せないの?)
 マクダレーナは何より、その場で言い返せなかった自分が嫌いだった。
「ご令嬢、これをどうぞ」
 突如声をかけられ、マクダレーナは驚いて肩をぴくりと震わせた。

 一見すると女性に間違われそうな程の美貌を持つ令息が、マクダレーナにハンカチを差し出していた。
 ストロベリーブロンドの髪に、アンバーの目で、鼻から頬周りには薄いそばかすがある令息だ。
 月明かりに照らされて、彼はまるで天使のようである。

(綺麗な人……)
 まさか人がいるとは思わなかったことに驚いたと同時に、マクダレーナは思わず彼に見惚れていた。
「大丈夫ですか?」
「……あ、失礼しました」
 マクダレーナはハッとし、彼から差し出されたハンカチを受け取り急いで涙を拭いた。
「いえ、こちらこそ、礼をらずに申し訳ないです。改めて、リートベルク伯爵家次男、ヨハネス・コンラート・フォン・リートベルクと申します」
「まあ……! 貴方が、リートベルク伯爵家のヨハネス様……!」
 マクダレーナはヨハネスの名前を聞いたことがあった。

 そもそも、ガーメニー王国の社交界において、リートベルク伯爵家の人間は有名だった。
 社交界の白百合と言われる程の美貌を持つ長女リーゼロッテ。
 その美貌から、琥珀の貴公子の二つ名を持つ長男ディートリヒ。
 太陽のような笑みと機知に富んだ会話で周囲を明るくし、社交界の太陽と言われる次女エマ。
 そして男性であるにも関わらず可憐な美貌で、琥珀の天使という二つ名を持つ次男ヨハネス。

「あ、申し遅れました。わたくしは、グレト侯爵家長女、マクダレーナ・ヘルマ・フォン・グレトでございます」
 マクダレーナは名乗っていないことに気付き、慌てて自己紹介をする。
「あの、ハンカチ、ありがとうございました」
「もしよろしければ、グレト嬢の涙の訳をお聞かせ願えますか? 無理にとは言いませんが、話せば少しスッキリしますよ」
 マクダレーナがヨハネスにハンカチを返すと、ヨハネスからそう言われた。
「そう……ですわね」
 マクダレーナはゆっくりと先程の出来事を話し始める。
わたくし、そばかすがあることを理由に婚約破棄されましたの。そばかすがある人間は婚約者として相応しくないと」
「何て失礼な理由ですね。僕にだってそばかすはあるし、僕の姉上達や兄上にもそばかすがあります。そばかすがある人に対する侮辱だ。それに、その話を聞いたらきっと姉上達の夫が黙っていないでしょう」
 ヨハネスがそう憤ってくれることで、マクダレーナの気持ちは少し軽くなった。

 ちなみに、ヨハネスの姉であるリーゼロッテとエマは既に他家へ嫁いでいる。

「だけど、わたくしが一番悔しかったことは、グレト侯爵家を馬鹿にされて何も言い返せなかったことです。弱い自分が……悔しい」
 マクダレーナはカスパー達から言われたことを思い出し、唇を噛み締める。
「そうでしたか。それは悔しかったですね。グレト嬢が言い返せなかったのは、きっと防衛本能が働いたのでしょうね。自分を守る為に。それは、弱いということではないと思います」
 ヨハネスの優しげなアンバーの目に、ドキリとするマクダレーナ。
 そのアンバーの目は、どこかで見たことがあるような気がした。
「弱くは……ない……」
 不思議と、マクダレーナは心が軽くなった。
「グレト嬢、せっかくですし、僕と踊りませんか?」
 ヨハネスはマクダレーナにそっと手を差し出した。
 そこにいるのは、まるで月の光に照らされた天使。
「……はい、リートベルク卿」
 マクダレーナは少しドキドキしながらヨハネスの手を取った。

 バルコニーで、月の光に照らされながらダンスをする二人。
 ヨハネスのリードに身を任せ、マクダレーナは舞った。
(落ち込んでいたのが嘘みたいね。だけど、わたくしはもう十八歳。次の婚約者が現れるとは限らないわ。グレト侯爵家は従弟いとこに継いでもらって、わたくしは修道院に入ろうかしら?)
 マグダレーナはこのヨハネスとのダンスを最後の思い出に、俗世間から離れようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【完結】旦那様、契約妻の私は放っておいてくださいませ

青空一夏
恋愛
※愛犬家おすすめ! こちらは以前書いたもののリメイク版です。「続きを書いて」と、希望する声があったので、いっそのこと最初から書き直すことにしました。アルファポリスの規約により旧作は非公開にします。  私はエルナン男爵家の長女のアイビーです。両親は人が良いだけで友人の保証人になって大借金を背負うお人好しです。今回もお父様は親友の保証人になってしまい大借金をつくりました。どうしたら良いもにかと悩んでいると、格上貴族が訪ねてきて私に契約を持ちかけるのでした。いわゆる契約妻というお仕事のお話でした。お金の為ですもの。私、頑張りますね!    これはお金が大好きで、綺麗な男性が苦手なヒロインが契約妻の仕事を引き受ける物語です。  ありがちなストーリーのコメディーです。    ※作者独自の異世界恋愛物語。  ※コメディです。  ※途中でタグの変更・追加の可能性あり。  ※最終話に子犬が登場します。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

(完)お姉様、婚約者を取り替えて?ーあんなガリガリの幽霊みたいな男は嫌です(全10話)

青空一夏
恋愛
妹は人のものが常に羨ましく盗りたいタイプ。今回は婚約者で理由は、 「私の婚約者は幽霊みたいに青ざめた顔のガリガリのゾンビみたい! あんな人は嫌よ! いくら領地経営の手腕があって大金持ちでも絶対にいや!」 だそうだ。 一方、私の婚約者は大金持ちではないが、なかなかの美男子だった。 「あのガリガリゾンビよりお姉様の婚約者のほうが私にぴったりよ! 美男美女は大昔から皆に祝福されるのよ?」と言う妹。 両親は妹に甘く私に、 「お姉ちゃんなのだから、交換してあげなさい」と言った。 私の婚約者は「可愛い妹のほうが嬉しい」と言った。妹は私より綺麗で可愛い。 私は言われるまま妹の婚約者に嫁いだ。彼には秘密があって…… 魔法ありの世界で魔女様が最初だけ出演します。 ⸜🌻⸝‍姉の夫を羨ましがり、悪巧みをしかけようとする妹の自業自得を描いた物語。とことん、性格の悪い妹に胸くそ注意です。ざまぁ要素ありですが、残酷ではありません。 タグはあとから追加するかもしれません。

処理中です...