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どちらに転んでも良かったユーフェミアの企み
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ユーフェミアとオリバーが結婚して一週間が経過した。
この日、ポーレット侯爵家の王都の屋敷にユーフェミアの父であるジェームズがやって来た。
ユーフェミアは与えられた私室にジェームズを招き入れ、人払いをした。
「ユーフェミア、オリバー卿との生活はどうだい?」
ジェームズの表情は、娘の身を案じている父親のものである。
「ポーレット侯爵家の方々にはとても良くしていただいておりますし、オリバー様との関係も良好でございますわ。昨日も、夜遅くまで蒸気機関の効率化の議論で盛り上がっておりましたの」
ユーフェミアの表情は非常に楽しそうである。
「そうか。特に不満がないならそれで良い」
ジェームズはホッとしたように微笑んだ。
「それでお父様、今日はどういったご用件でございますの?」
ユーフェミアは意味ありげに口角を上げる。
「オリバー卿とユーフェミアの結婚のこと……これらは君が企んだのか?」
ユーフェミアと同じヘーゼルの目。ジェームズのその目は、まるでユーフェミアの内心を見透かすかのようである。
ユーフェミアは諦めたようにため息をつき、微笑む。
「やはりお父様には敵いませんわね。……ええ、私はライナス様とコレット様に罠を仕掛け、あわよくばこのような結果になって欲しいと望みましたわ」
「やっぱりか。……おかしいと思ったんだ。先日のオリバー卿とユーフェミアの結婚式のドレスやアクセサリー……急にユーフェミアの結婚が決まってから完成するまでにもっと時間がかかるだろうに、こうなることを予期していたかのように準備されていたからね」
「あら、男性であるお父様が女性のドレスやアクセサリーの作成時間についてご存知だなんて意外ですわ」
ユーフェミアはわざとらしく驚いて見せた。
ジェームズは苦笑する。
「それだけではないさ。ライナス卿とコレット嬢についての新聞記事……あの記事には不自然な程、当時それぞれの婚約者だった君とオリバー卿の名前が出て来なかった。……まるで誰かがそう書くようにしたみたいにね」
意味ありげにジェームズはユーフェミアに視線を向ける。
それに対してユーフェミアはふふっと口角を上げた。その表情は、まるで悪戯がバレた子供のようである。
「お父様は何でもお見通しですのね。ええ、新聞社は私が買収しておりましたわ。もしライナス様とコレット様が駆け落ちを実行した場合、そう書くようにと。ああ、買収資金は私が投資で儲けたうちの十分の一程度の額で済んでおりますからご安心ください。ナルフェック王国やドレンダレン王国に投資をしたら資産がみるみるうちに増えますのよ。……まあ今それはどうでも良いですわね」
ユーフェミアは悪戯っぽい表情である。
「全く……ユーフェミア、君って子は……」
ジェームズは軽くため息をつく。
「まあまあ、ソールズベリー伯爵家に損害はないから良いではありませんか。迷惑料としてクラレンス公爵家派閥の方々も紹介していただけることにもなりましたし」
あっけらかんとしているユーフェミア。
「先程私はあわよくばこうなったらと考えていたと申し上げましたが、少しだけ訂正させていただきますわ。正直なところ、どちらに転んでも構いませんでしたの。ライナス様と結婚することになっても、オリバー様と結婚することになっても。希望としてはやはりオリバー様の方ですが、ライナス様をコントロールすることは非常に簡単ですので」
ユーフェミアは余裕ある笑みだ。
ユーフェミアはコンプトン侯爵家のお茶会でシャーリーから婚約者がいる者同士が駆け落ちしてしまうというロマンス小説について聞いた。更に、貴族の醜聞は新聞記事になってしまうという情報も仕入れた。
それを元に、ユーフェミアはライナスやコレットに罠を仕掛けることを思いついたのだ。
そしてどこか幼く夢見がちなコレットにそのロマンス小説のことを教えた。
この時、ユーフェミアの中には二つのシナリオがあった。
コレットとライナスが駆け落ちしなかった場合と駆け落ちした場合だ。
二人が駆け落ちしなかった場合、ユーフェミアは当時の婚約者だったライナスとそのまま結婚するつもりだった。
ロマンス小説に感化されたコレットがライナスと共に駆け落ちしたのなら、ユーフェミアはあらかじめ買収しておいた新聞社にそのことを面白おかしく記事にするよう指示するつもりだった。
そしてユーフェミアはオリバーと結婚する。
ユーフェミアは罠を仕掛けたが、どちらに転んでも構わないと思っていた。
「ユーフェミア……君は性格もケイトに似て欲しかったところだけれど、まさか僕に似るとはね」
ジェームズは困ったように苦笑する。
「仕方ないですわよ。お父様の血が流れているのですもの」
したり顔のユーフェミア。
「本当に恐ろしいよ。くれぐれも誰かの恨みは買うんじゃないぞ」
「ええ、分かっておりますわ。相手に恨みを抱かせる余裕をなくすのは得意ですもの」
自身たっぷりなユーフェミア。
ジェームズは困ったようにため息をついた。
ユーフェミアのオリバーへの消極的な恋は、見事に叶えられたのだ。
この日、ポーレット侯爵家の王都の屋敷にユーフェミアの父であるジェームズがやって来た。
ユーフェミアは与えられた私室にジェームズを招き入れ、人払いをした。
「ユーフェミア、オリバー卿との生活はどうだい?」
ジェームズの表情は、娘の身を案じている父親のものである。
「ポーレット侯爵家の方々にはとても良くしていただいておりますし、オリバー様との関係も良好でございますわ。昨日も、夜遅くまで蒸気機関の効率化の議論で盛り上がっておりましたの」
ユーフェミアの表情は非常に楽しそうである。
「そうか。特に不満がないならそれで良い」
ジェームズはホッとしたように微笑んだ。
「それでお父様、今日はどういったご用件でございますの?」
ユーフェミアは意味ありげに口角を上げる。
「オリバー卿とユーフェミアの結婚のこと……これらは君が企んだのか?」
ユーフェミアと同じヘーゼルの目。ジェームズのその目は、まるでユーフェミアの内心を見透かすかのようである。
ユーフェミアは諦めたようにため息をつき、微笑む。
「やはりお父様には敵いませんわね。……ええ、私はライナス様とコレット様に罠を仕掛け、あわよくばこのような結果になって欲しいと望みましたわ」
「やっぱりか。……おかしいと思ったんだ。先日のオリバー卿とユーフェミアの結婚式のドレスやアクセサリー……急にユーフェミアの結婚が決まってから完成するまでにもっと時間がかかるだろうに、こうなることを予期していたかのように準備されていたからね」
「あら、男性であるお父様が女性のドレスやアクセサリーの作成時間についてご存知だなんて意外ですわ」
ユーフェミアはわざとらしく驚いて見せた。
ジェームズは苦笑する。
「それだけではないさ。ライナス卿とコレット嬢についての新聞記事……あの記事には不自然な程、当時それぞれの婚約者だった君とオリバー卿の名前が出て来なかった。……まるで誰かがそう書くようにしたみたいにね」
意味ありげにジェームズはユーフェミアに視線を向ける。
それに対してユーフェミアはふふっと口角を上げた。その表情は、まるで悪戯がバレた子供のようである。
「お父様は何でもお見通しですのね。ええ、新聞社は私が買収しておりましたわ。もしライナス様とコレット様が駆け落ちを実行した場合、そう書くようにと。ああ、買収資金は私が投資で儲けたうちの十分の一程度の額で済んでおりますからご安心ください。ナルフェック王国やドレンダレン王国に投資をしたら資産がみるみるうちに増えますのよ。……まあ今それはどうでも良いですわね」
ユーフェミアは悪戯っぽい表情である。
「全く……ユーフェミア、君って子は……」
ジェームズは軽くため息をつく。
「まあまあ、ソールズベリー伯爵家に損害はないから良いではありませんか。迷惑料としてクラレンス公爵家派閥の方々も紹介していただけることにもなりましたし」
あっけらかんとしているユーフェミア。
「先程私はあわよくばこうなったらと考えていたと申し上げましたが、少しだけ訂正させていただきますわ。正直なところ、どちらに転んでも構いませんでしたの。ライナス様と結婚することになっても、オリバー様と結婚することになっても。希望としてはやはりオリバー様の方ですが、ライナス様をコントロールすることは非常に簡単ですので」
ユーフェミアは余裕ある笑みだ。
ユーフェミアはコンプトン侯爵家のお茶会でシャーリーから婚約者がいる者同士が駆け落ちしてしまうというロマンス小説について聞いた。更に、貴族の醜聞は新聞記事になってしまうという情報も仕入れた。
それを元に、ユーフェミアはライナスやコレットに罠を仕掛けることを思いついたのだ。
そしてどこか幼く夢見がちなコレットにそのロマンス小説のことを教えた。
この時、ユーフェミアの中には二つのシナリオがあった。
コレットとライナスが駆け落ちしなかった場合と駆け落ちした場合だ。
二人が駆け落ちしなかった場合、ユーフェミアは当時の婚約者だったライナスとそのまま結婚するつもりだった。
ロマンス小説に感化されたコレットがライナスと共に駆け落ちしたのなら、ユーフェミアはあらかじめ買収しておいた新聞社にそのことを面白おかしく記事にするよう指示するつもりだった。
そしてユーフェミアはオリバーと結婚する。
ユーフェミアは罠を仕掛けたが、どちらに転んでも構わないと思っていた。
「ユーフェミア……君は性格もケイトに似て欲しかったところだけれど、まさか僕に似るとはね」
ジェームズは困ったように苦笑する。
「仕方ないですわよ。お父様の血が流れているのですもの」
したり顔のユーフェミア。
「本当に恐ろしいよ。くれぐれも誰かの恨みは買うんじゃないぞ」
「ええ、分かっておりますわ。相手に恨みを抱かせる余裕をなくすのは得意ですもの」
自身たっぷりなユーフェミア。
ジェームズは困ったようにため息をついた。
ユーフェミアのオリバーへの消極的な恋は、見事に叶えられたのだ。
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