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宝石のような初恋

宝石の目

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 この日はザーザーと勢い良く雨が降っていた。
「今日は外で遊べないわね」
 シンシアは窓の外を見て残念そうに呟く。
「この様子だと一日中ずっと雨っぽいし、明日も地面はぬかるんでいて遊びにくいかもね」
 ティモシーは雲の様子を見てそう考えた。
「せっかく体調も良いのに……。裏庭で探検ごっこがしたかったわ。最近裏庭によく来るうさぎさんにも会いたかったのに……」
 ムスッと頬を膨らませるシンシア。
「うさぎはまた天気のいい日に会いに行こう。その代わり今日はさ、一緒に図書室でうさぎの図鑑とか本を読まない?」
 ティモシーはエメラルドの目を優しく細め、シンシアにそう提案する。
 するとシンシアのアメジストの目がパアッと輝く。
「そうね! 実際には会えないけれど図鑑でならうさぎを見ることは出来るわよね! ありがとう、ティム!」
 先程から一変して明るい笑顔になったシンシア。ティモシーはそんな彼女を見て自身も表情を綻ばせる。
「じゃあシンシア、早速図書室に行こうか」
「ええ、そうね。行きましょう、ティム」
 どんよりとした雨雲にザーザーと降る雨。しかしそんな外の様子とは裏腹に、二人は軽い足取りで図書室へ向かった。





ーーーーーーーーーーーーーー





 ターラント孤児院の図書室には様々な種類の本が勢揃いである。貴族達の寄付や、院長であるスコット・ターラントが子供達の教育や娯楽の為に本を買い集めたのだ。

「シンシア、うさぎが載ってる図鑑あったよ」
 ティモシーは動物図鑑の他に、シンシアが興味ありそうな本を数冊持っていた。
 一方、シンシアはある一冊の本に目を取られていた。そしてゆっくりと手を伸ばす。
「シンシア?」
「ティム……!」
 ティモシーに声を掛けられ、ビクリと薄い肩を震わせた。
「ごめん、シンシア。びっくりさせちゃったね」
 ティモシーは申し訳なさそうに微笑み、肩をすくめた。
「ううん、気にしないで」
 シンシアは首を横に振った。
「何を見てたの? ……宝石図鑑?」
 ティモシーはシンシアの手の先に目を向けた。そこにあったのは宝石図鑑である。
「うん。綺麗だなって思って」
 シンシアは表情を綻ばせた。
「そっか。じゃあそれも一緒に読もう」
 ティモシーはエメラルドの目を優しく細めた。

 他の子供達は別の部屋で絵を描いたり騒いだりしているので、図書室にはシンシアとティモシーしかいない。図書室は外でザーザー降る雨の音と、二人の会話しか聞こえなかった。
 動物図鑑やその他の本を読んでクスクスと笑うシンシアとティモシー。まるで世界に二人が残されたようである。
 そして二人は宝石図鑑を開く。
 ダイヤモンド、ルビー、サファイアなど、様々な宝石が載っている。
「わあ! 綺麗だわ!」
 シンシアはアメジストの目をキラキラと輝かせた。
「そうだね」
 ティモシーはそんなシンシアを見てクスッと笑った。エメラルドの目は楽しそうである。
「あ!」
 シンシアはあるページで手を止める。
「シンシア、どうしたの?」
 ティモシーは不思議そうにシンシアを見る。
 シンシアはじーっとティモシーの目を見つめている。
「……シンシア?」
 あまりにもシンシアが見つめてくるものなので、思わず目を逸らすティモシー。
「この宝石、ティムの目と同じだわ!」
 嬉しそうにアメジストの目をキラキラと輝かせるシンシア。
「え? 僕の目と?」
 ティモシーはシンシアが示している部分に目を向ける。
 そこには鮮やかな緑の宝石が載っていた。エメラルドである。
「エメラルドと僕の目が同じ?」
 きょとんとするティモシー。
「そうよ。エメラルドと同じ緑色! ティムの目、エメラルドみたいで綺麗だわ!」
 キラキラとした無邪気な笑みのシンシア。
 ティモシーの心臓がトクリと跳ねる。ほんの少し体温が上昇したように感じた。
「そっか……。ありがとう、シンシア」
 ティモシーはほんのり頬を赤く染めて微笑んだ。
 そして隣のページに載っている宝石に目を向ける。
(あ……)
 ティモシーが見つけたのは神秘的な紫の宝石ーーアメジストである。
 ティモシーはシンシアの目を見つめ、優しく微笑む。
「シンシアの目はこの宝石だね」
 ティモシーはアメジストを指す。
「私の目はアメジスト?」
 今度はシンシアがきょとんとしていた。
「うん。綺麗な紫だからね」
 ティモシーのエメラルドの目は真っ直ぐシンシアのアメジストの目を見つめていた。
 シンシアはほんのり頬を赤く染め、嬉しそうにアメジストの目を細めた。
「ティムにそう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとう」
 二人はずっとそのページを見ていた。宝石とお互いの目を交互に見ては、嬉しそうに微笑み合っていた。
 ティモシーはエメラルドの目を愛おしげにシンシアに向ける。
(シンシアの目は、いつも輝いていて綺麗だ。それに、シンシアの笑顔はずっと見ていたくなる。シンシアの為なら、先生からの言い付けを破ったりルール違反することなんて怖くない。僕は……シンシアが好きなんだ。この先もずっとシンシアの側にいたい)
 一方、シンシアはアメジストの目を嬉しそうにティモシーに向ける。
(ティムの目、いつも優しくて綺麗だわ。ティムは……体が弱くていつも医務室で一人になっちゃう私に会いに来てくれる。先生から駄目だって言われているのに。バレたら怒られちゃうのに。私の為に……。私は……ティムが好きなんだわ。ずっとティムと一緒にいたい)

 お互い、自身が抱く恋心を自覚した。
 それは宝石のようにキラキラとした初恋だった。
 二人はこの穏やかでキラキラとした時間が、ずっと続くことを祈るのであった。
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