その恋は、まるで宝石のように輝いて

宝月 蓮

文字の大きさ
3 / 19
宝石のような初恋

宝石の目

しおりを挟む
 この日はザーザーと勢い良く雨が降っていた。
「今日は外で遊べないわね」
 シンシアは窓の外を見て残念そうに呟く。
「この様子だと一日中ずっと雨っぽいし、明日も地面はぬかるんでいて遊びにくいかもね」
 ティモシーは雲の様子を見てそう考えた。
「せっかく体調も良いのに……。裏庭で探検ごっこがしたかったわ。最近裏庭によく来るうさぎさんにも会いたかったのに……」
 ムスッと頬を膨らませるシンシア。
「うさぎはまた天気のいい日に会いに行こう。その代わり今日はさ、一緒に図書室でうさぎの図鑑とか本を読まない?」
 ティモシーはエメラルドの目を優しく細め、シンシアにそう提案する。
 するとシンシアのアメジストの目がパアッと輝く。
「そうね! 実際には会えないけれど図鑑でならうさぎを見ることは出来るわよね! ありがとう、ティム!」
 先程から一変して明るい笑顔になったシンシア。ティモシーはそんな彼女を見て自身も表情を綻ばせる。
「じゃあシンシア、早速図書室に行こうか」
「ええ、そうね。行きましょう、ティム」
 どんよりとした雨雲にザーザーと降る雨。しかしそんな外の様子とは裏腹に、二人は軽い足取りで図書室へ向かった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 ターラント孤児院の図書室には様々な種類の本が勢揃いである。貴族達の寄付や、院長であるスコット・ターラントが子供達の教育や娯楽の為に本を買い集めたのだ。

「シンシア、うさぎが載ってる図鑑あったよ」
 ティモシーは動物図鑑の他に、シンシアが興味ありそうな本を数冊持っていた。
 一方、シンシアはある一冊の本に目を取られていた。そしてゆっくりと手を伸ばす。
「シンシア?」
「ティム……!」
 ティモシーに声を掛けられ、ビクリと薄い肩を震わせた。
「ごめん、シンシア。びっくりさせちゃったね」
 ティモシーは申し訳なさそうに微笑み、肩をすくめた。
「ううん、気にしないで」
 シンシアは首を横に振った。
「何を見てたの? ……宝石図鑑?」
 ティモシーはシンシアの手の先に目を向けた。そこにあったのは宝石図鑑である。
「うん。綺麗だなって思って」
 シンシアは表情を綻ばせた。
「そっか。じゃあそれも一緒に読もう」
 ティモシーはエメラルドの目を優しく細めた。

 他の子供達は別の部屋で絵を描いたり騒いだりしているので、図書室にはシンシアとティモシーしかいない。図書室は外でザーザー降る雨の音と、二人の会話しか聞こえなかった。
 動物図鑑やその他の本を読んでクスクスと笑うシンシアとティモシー。まるで世界に二人が残されたようである。
 そして二人は宝石図鑑を開く。
 ダイヤモンド、ルビー、サファイアなど、様々な宝石が載っている。
「わあ! 綺麗だわ!」
 シンシアはアメジストの目をキラキラと輝かせた。
「そうだね」
 ティモシーはそんなシンシアを見てクスッと笑った。エメラルドの目は楽しそうである。
「あ!」
 シンシアはあるページで手を止める。
「シンシア、どうしたの?」
 ティモシーは不思議そうにシンシアを見る。
 シンシアはじーっとティモシーの目を見つめている。
「……シンシア?」
 あまりにもシンシアが見つめてくるものなので、思わず目を逸らすティモシー。
「この宝石、ティムの目と同じだわ!」
 嬉しそうにアメジストの目をキラキラと輝かせるシンシア。
「え? 僕の目と?」
 ティモシーはシンシアが示している部分に目を向ける。
 そこには鮮やかな緑の宝石が載っていた。エメラルドである。
「エメラルドと僕の目が同じ?」
 きょとんとするティモシー。
「そうよ。エメラルドと同じ緑色! ティムの目、エメラルドみたいで綺麗だわ!」
 キラキラとした無邪気な笑みのシンシア。
 ティモシーの心臓がトクリと跳ねる。ほんの少し体温が上昇したように感じた。
「そっか……。ありがとう、シンシア」
 ティモシーはほんのり頬を赤く染めて微笑んだ。
 そして隣のページに載っている宝石に目を向ける。
(あ……)
 ティモシーが見つけたのは神秘的な紫の宝石ーーアメジストである。
 ティモシーはシンシアの目を見つめ、優しく微笑む。
「シンシアの目はこの宝石だね」
 ティモシーはアメジストを指す。
「私の目はアメジスト?」
 今度はシンシアがきょとんとしていた。
「うん。綺麗な紫だからね」
 ティモシーのエメラルドの目は真っ直ぐシンシアのアメジストの目を見つめていた。
 シンシアはほんのり頬を赤く染め、嬉しそうにアメジストの目を細めた。
「ティムにそう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとう」
 二人はずっとそのページを見ていた。宝石とお互いの目を交互に見ては、嬉しそうに微笑み合っていた。
 ティモシーはエメラルドの目を愛おしげにシンシアに向ける。
(シンシアの目は、いつも輝いていて綺麗だ。それに、シンシアの笑顔はずっと見ていたくなる。シンシアの為なら、先生からの言い付けを破ったりルール違反することなんて怖くない。僕は……シンシアが好きなんだ。この先もずっとシンシアの側にいたい)
 一方、シンシアはアメジストの目を嬉しそうにティモシーに向ける。
(ティムの目、いつも優しくて綺麗だわ。ティムは……体が弱くていつも医務室で一人になっちゃう私に会いに来てくれる。先生から駄目だって言われているのに。バレたら怒られちゃうのに。私の為に……。私は……ティムが好きなんだわ。ずっとティムと一緒にいたい)

 お互い、自身が抱く恋心を自覚した。
 それは宝石のようにキラキラとした初恋だった。
 二人はこの穏やかでキラキラとした時間が、ずっと続くことを祈るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】この胸に抱えたものは

Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。 時系列は前後します 元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。 申し訳ありません🙇‍♀️ どうぞよろしくお願い致します。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

処理中です...