クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮

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充実した毎日

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 午後の講義もあっという間に終わった。この日の晩はヌムール城でクリスティーヌの歓迎会を兼ねた晩餐会が開催される。そこにはベアトリスとリーゼロッテも参加していた。主役のクリスティーヌは皆に軽く挨拶をした後、ベアトリスとリーゼロッテと薬学の議論をしていた。
 その様子を見てユーグはクスッと笑う。ユーグの隣にいたマリアンヌも、微笑みながらクリスティーヌを見ていた。
「クリスティーヌ様、とても楽しそうですわね、お兄様」
「そうだね、マリアンヌ」
 その時、クリスティーヌはマリアンヌに声をかける。
「マリアンヌ様、ベアトリス様とリーゼロッテ様がお話ししたいそうでございますよ」
「え……? わたくしとでございますか? わたくしは薬学の知識はございませんし、その……」
 マリアンヌは自信なさげに俯く。
「マリアンヌ様、わたくしは今薬学の話をしようとはしておりませんわ。それに、マリアンヌ様、はっきりお答えください。わたくし、はっきりしないことが嫌いでございますの」
 ベアトリスは少し強めの口調になっていた。マリアンヌは萎縮してしまう。
「ベアトリス様、もう少し口調を柔らかくしてくださいませ」
 リーゼロッテは眉を八の字にして微笑んだ。
「マリアンヌ様、ベアトリス様は貴女が嫌いなわけではございませんわ」
 クリスティーヌはマリアンヌを慰める。
 ベアトリスは少し気まずそうな表情で口を開く。
「クリスティーヌ様が仰った通り、わたくしはマリアンヌ様が嫌いではございません。ただ、はっきりしないことが嫌いで、つい強い口調になってしまいますの。貴女に嫌な思いをさせてしまったことをお詫びしますわ」
 嫌々謝っている様子ではなく、真剣さが窺える。
 すると、ずっと様子を見ていたユーグが口を開く。
「マリアンヌ、ベアトリス嬢と君の性格は正反対だ。だけど、私はベアトリス嬢なら君も仲良くなれると思っている。ベアトリス嬢はとは違う」
 穏やかな笑みのユーグ。こわばっていたマリアンヌだったが、次第に表情を和らげる。
「ベアトリス様、わたくしは是非貴女とお話ししたいと存じます」
 するとベアトリスもホッと肩をなで下ろす。
「ええ、よろしくお願いしますわ。マリアンヌ様」
 こうして、マリアンヌも交えてクリスティーヌ達は談笑した。主にそれぞれの国の歴史や文化のことだ。マリアンヌは先程のおどおどした様子とは打って変わって饒舌になっている。クリスティーヌは自国と他国の違いについてエメラルドの目をキラキラと輝かせながら聞いていた。





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 それから、クリスティーヌは薬学の講義を受ける毎日が始まった。座学で基礎を固めたら、研究所で実験をする。
「アーンストート先生、先日の実験でございますが、あちらの薬品を使用した方が合成中間体を経ずに直接目標化合物が出来て効率が良いかと存じます」
「良い着眼点ですね、クリスティーヌ様。ですが、それだと合成時間が長くなってしまうのですよ」
「左様でございましたか。では、どのようにしたら効率よく合成出来るか考えてみます。それと、先程合成した化合物は鎮痛剤に使用する薬に含まれるものと似ております。応用したら鎮痛剤として使用可能かもしれません」
「その通りです。後はこの官能基を取り除けば鎮痛剤として使用出来ます。流石ですね、クリスティーヌ様」
「お褒めのお言葉、光栄でございます」
 講師を務めるリシェとも議論を交わしている。もちろん、他の講師や共に学んでいるベアトリスやリーゼロッテやその他の生徒達ともだ。疑問点や躓いた点があれば、クリスティーヌは次回までに完璧に理解出来るようにしていた。
 そんなある日。
「クリスティーヌ嬢、今時間あるかな?」
「ええ、ユーグ様。休憩中でございますので大丈夫ですわ」
 ユーグが研究所までやって来たのだ。
「よかった。クリスティーヌ嬢、君は白衣も似合っているね」
 ユーグは白衣姿のクリスティーヌを見て微笑んだ。
「ありがとうございます。白衣は薬品がかかっても良いので、心置きなく実験が出来ますわ」
 クリスティーヌはクスッと笑った。活き活きとした様子だ。白衣にはしっかりと薬品汚れが付着していた。
「うん、クリスティーヌ嬢の努力の跡がしっかりと見えるよ」
 ユーグは汚れた白衣を見て楽しそうに笑った。
「それでユーグ様、わざわざ研究所までいらしてどういったご用件でしょうか?」
「あ、そうそう、忘れるところだった。さっきゴーシャから手紙が届いたんだ」
「まあ、ゴーシャ様から。お元気そうでございました?」
「うん。そう書いてあるよ。ほら」
 ユーグはクリスティーヌにゲオルギーからの手紙を見せた。しかし、クリスティーヌは怪訝そうな表情をする。
「ユーグ様、こちらアシルス語でございますね。お恥ずかしながら、わたくしには読めませんわ」
「おっと、クリスティーヌ嬢宛のはこっちだった」
 ユーグは悪戯っぽく笑い、クリスティーヌ宛の手紙を渡す。
「クリスティーヌ嬢もヌムール領こっちにいるって伝えておいたら、君の分もここに届いたんだよ」
「ありがとうございます」
 クリスティーヌはゲオルギーからの手紙を受け取った。こちらはナルフェック語で書いてある。
わたくしも、他の国の言葉を知りたいですわ」
 クリスティーヌがポツリと呟くと、ユーグの表情が輝く。まるでその言葉を待っていたかのように。
「アシルス語なら、私が教えよう」
「よろしいのですか?」
 クリスティーヌの表情も輝いた。
「ああ、もちろん。今晩から教えるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。今晩が楽しみでございますわ。学んで知識を吸収するのはとても楽しいですわ」
 クリスティーヌはウキウキしていた。
 こうして、クリスティーヌは薬学だけでなく、アシルス語の勉強も始めた。更にはベアトリスやリーゼロッテからネンガルド語とガーメニー語も教わり始めた。
 クリスティーヌは多忙だが充実した日々を送っていた。





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 ヌムール城、キトリーの執務室にて。
「全く、来る頻度が高すぎやしないか?」
 ヌムール家当主のキトリーは、届いた手紙を見て苦笑した。封筒には金色に縁取られた紫の薔薇の紋章が付いている。王家の紋章だ。
「休暇を取ったものの、まず最初にヌムール領ここに来るとはね。医学や薬学の研究が気になるのも分かるけどさ。しかも夫同伴って。まあらしいか」
 キトリーはフッと笑った。
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