転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

宝月 蓮

文字の大きさ
2 / 26

2.ぼっち学園生活

しおりを挟む
 魔法学園入学式。
 マリナは昨日のこともあり少し憂鬱になりながら会場に向かっていた。
 もちろん、エドワード達からああ言われた以上、学園内を迷ったところを助けてもらう最初のイベントは起きないのは分かっていた。他の誰かが都合よくいる可能性も低そうだったので、マリナは昨日荷物の整理を終わらせた後、学園内の地図を頭に叩き込んだのだ。よって、マリナは迷うことなく入学式会場にたどり着いた。
 昨日のこともあり、やはりヒソヒソと噂話をされたり好奇の目に晒されるマリナ。
(せめて学園生活を楽しみたかったのだけれど、それも難しいかもしれないわね)
 マリナは心の中でため息をついた。

 真面目に勉強していたマリナはクラス分け試験で一番上のAクラスになった。マリナは学園で勉強を頑張ろうと思っていたのでこの結果は喜ばしいものである。しかし光の女神アメジストと同じ希少な光の魔力を持つとはいえ昨日のこともあり、マリナはクラスで孤立してしまう。クラスメイト達から遠巻きに見られたり、王太子を誑かそうとした破廉恥な令嬢などと、ヒソヒソと悪意ある噂を流されたりしたのだ。マリナはエドワードやイーリス達より一つ年下なので学年が違うことが唯一の救いではあるが。
(友達を作ることすら許されないだなんて……)
 マリナはため息をついた。
(こうなったら、勉強をとことん頑張ってやるわ。前世でも勉強は嫌いじゃなかったのだから)
 マリナは切り替えて教科書に目を通すのであった。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


 数日後。
 相変わらずマリナには友達ができず一人だった。
 しかし、周囲の様子を見て分かったことがある。
 まず、王太子エドワードの婚約者イーリスのこと。彼女はシャーマナイト伯爵家の令嬢だ。もちろん前世のマリナがプレイした『光の乙女、愛の魔法』には全く登場しない家である。イーリスは優しさ半分でできているらしい痛み止めの薬、手術用で抜糸の必要がない溶ける縫合糸、お湯を入れて三分待てば食べられる麺、手っ取り早くバランスよくエネルギーや栄養補給できるブロック型のショートブレッドなどを開発した才女としてジュエル王国内で有名なのだ。その才能を見込まれて彼女が八歳の時に王太子エドワードの婚約者になったそうだ。おまけに心優しく控えめなので周囲からも慕われているらしい。
(……前世文系だったから縫合糸は分からないけど、優しさ半分の痛み止めやお湯を入れて三分待てば食べられる麺や手っ取り早く栄養補給できるショートブレッドは私も知っているわ。……やっぱり確実にイーリスは転生者ね。本来の悪役令嬢エヴァンジェリンはエドワードと同い年、つまり必然的にイーリスとも同い年になる。ゲームではエヴァンジェリンが十歳の時にエドワードと婚約する予定だったけど、イーリスがその機会を奪ったということね)
 マリナは一人中庭のベンチでお昼のサンドイッチを食べながら苦笑した。
 この中庭はマリナのお気に入りの場所になった。色とりどりの花が咲き誇り、前世テレビや雑誌で見たようなイギリス式の自然を切り取ったような庭園になっている。
 天気がいい日はここでお昼を食べようと決めたマリナであった。

 そして、ゲーム本来の悪役令嬢エヴァンジェリンの情報も手に入れた。どうやら彼女は隣国アステール帝国に留学しているようだ。聞いた話によるとエヴァンジェリンは魔道具に興味があり、魔道具開発技術が進んでいるアステール帝国留学を自ら希望していたようだ。
(ゲームでのエヴァンジェリンは学ぶことや努力があまり好きではなく、怠惰で傲慢な性格だったはずだけど……もしかして、エヴァンジェリンも転生者なのかしら?)
 マリナの中にそんな疑問が生じていた。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


 昼休みが終わり、午後の授業の時間になった。
「では自由にペアを組んでこの課題に取り組んでもらいます」
 教師の言葉にマリナは憂鬱になる。
(自由にペアを組む……ぼっちには辛い時間ね)
 マリナは内心苦笑した。
 周囲はどんどんペアを組んでいるが、マリナに話しかけようとする者は一人もいない。マリナから話しかけてみるも、やはり無視されたりあからさまに避けられる。
「マリナさん、まだペアを作れていないのですか?」
 皆の前で教師にそう聞かれるマリナ。「はい」と頷くことしかできない。
 クラスメイト達はそんなマリナをクスクスと嘲笑う。
(私を見て笑って一体何になるというのかしら?)
 マリナは顔には出さないがクラスメイト達に呆れていた。
「誰かまだペアがいない人はいませんか?」
 教師の問いかけに答える者はいないと思った矢先、控えめだがはっきり「はい」と男子生徒の声が聞こえた。

 無造作長めの茶色の髪、分厚い眼鏡の奥にはぼんやりとしたオレンジの目。無表情でかなり地味な男子生徒である。

「アルさんがいましたか。ではマリナさんはアルさんと組んでください」
 教師から言われてマリナはその男子生徒――アルと組むことになった。
 元々好奇の目で見られているマリナと地味で暗そうなアル。このペアを見て周囲の嘲笑は更に酷くなった。しかし今更気にしてもしょうがない。マリナは切り替えてペアになったアルに向き合う。
「えっと、私はマリナ・ルベライトです。よろしくお願いします」
「新興男爵家のアル・ジョンソンです。こちらこそ、よろしくお願いします」
 地味で少し暗そうな見た目とは裏腹に、アルの声はハキハキとしていた。
 マリナのことを避ける様子は全く感じられない。入寮日から今までずっと好奇の目を向けられ避けられていたマリナにとって、それはとても新鮮だった。
「ではジョンソン男爵令息、この課題を進めていきましょう」
「ええ。それと、アルでいいですよ。敬語も必要ありません」
 無表情だったアルの口元がフッと綻んだ。
(あ……笑った)
 マリナは薄紫の目を丸くした。
「えっと……アル様」
 おずおずとそう呼んでみる。前世でも異性を名前呼びすることがあまりなかったマリナは少しドキドキしてしまった。
「様も必要ありません」
「……アル」
 恐る恐るそう呼ぶと、アルは満足そうな表情をしていた。
「改めて、よろしくお願いします。マリナ嬢」
 アルの低く落ち着いた声に、マリナは少しドキリとした。
「えっと、嬢は必要……ありません。アル……も敬語じゃなくていいわ」
 少し緊張し、敬語とタメ口が混ざるマリナだ。
「分かったよ、マリナ。それじゃあ課題を進めようか」
 こうして、マリナはアルと課題について話すことになった。
(そういえば、『光の乙女、愛の魔法』ではミニゲームがあったわね。確かミニゲームのスコアでこの課題の成績が決まるのだったわ。今回はミニゲームはないから、自分で調べてレポートにまとめたものが成績になるのかしら?)
 マリナは前世の記憶を思い出し、考えていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...