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3.友達
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この日の授業が全て終わり、皆それぞれ寮に帰る準備や街へ出かける準備などをしている。
「マリナ、この後予定はあるか?」
アルがマリナの元へやってきた。
「いいえ、ないわ」
マリナはきょとんとしながら答える。
「ならば図書館で課題のことについて一緒に調べないか?」
「ええ。レポートの提出は二週間後だし、ちょうどいいかもしれないわね」
マリナはアルの提案に賛成した。
授業で出された課題のレポートはペアの相手と協力して二週間後に提出が求められているのだ。
帰る準備を終えたマリナはアルと一緒に図書室に向かった。
ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ
図書室にて。
マリナは課題レポートと関係ありそうな本を探していた。
既に何冊もの分厚く重そうな本を持っているマリナである。
「結構集めたな。俺が席まで運ぶから」
アルは軽々とマリナが持っていた分厚く重そうな本を全て席まで運ぶ。
「アル、ありがとう」
マリナは表情を綻ばせた。悪意ある噂を流されたり好奇の目に晒されたり周囲から距離を置かれていたので、さりげない優しさが身に染みるのだ。
「アル、魔獣の使役に関してだけど、やっぱり自分と同じ魔力を持つ魔獣の方が使役しやすいのよね?」
マリナは本で確認しながらアルにそう聞いた。するとアルは頷く。
「ああ。自分の魔力と魔獣の魔力が上手く調和するからな。違う魔力を持つ魔獣を使役できないこともないが、やっぱりやりやすいのは自分と同じ魔力の魔獣だな」
「ありがとう、アル。まとめておくわね」
「助かる」
二人は順調に課題を進めていた。
「あ、光の魔力は例外よね。光の魔力を持つ魔獣は発見されていない。その代わり、光の魔力を持つ者は闇の魔力を持つ魔獣を使役できるということかしら」
マリナはふとそれに気づいた。
「その通りだな。まとめておくか」
アルはレポート用紙にサラサラと書いた。
その後もマリナは気になった点や重要だと思う点をとことん調べてまとめていた。
(授業もそうだけど、本からも新しい知識を得ることができて楽しいわ)
マリナの薄紫の目は生き生きと輝いている。
そんなマリナの様子を見たアルは、眼鏡の奥のオレンジの目をフッと優しく細めた。
気付くと日が傾いていた。
図書室の窓から入る夕日はもぎたてのオレンジのようだ。
「結構進んだな」
「そうね。アルのお陰かしら。ありがとう」
今日まとめたレポートを見てマリナは満足そうな表情だ。
「いや、誘ったのは俺だし。こちらこそ、マリナのお陰でかなり助かった部分はある。ありがとう」
フッとアルの口角が上がる。
二人はレポートのために持ってきた本を返却台に乗せる。
「そうだ、マリナ……その……聞いていいか?」
少し言いにくそうな表情のアル。
「……何かしら?」
マリナはきょとんと首を傾げる。
「マリナは……王太子殿下達に何かしたのか? 入寮日に殿下達から色々と言われたみたいだが……」
眼鏡越しのオレンジの目は真実を確かめるかのようである。
「いいえ。何もしていないのよ」
マリナはため息をついて苦笑する。
「やっぱりか。何となく、今までのマリナの態度を見てそうじゃないかと思っていた」
アルの表情はとても優しかった。
マリナの心の中にはじんわりと温かいものがあふれ出す。今まで皆から避けられ、話しかけても無視される状況が続いておりマリナを信じてくれる者がいなかったのだ。だからより一層アルの言葉が身に染みた。
「信じてくれるのね……。ありがとう」
マリナはホッとして、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「アルが信じてくれるだけで……心強いわ」
薄紫の目からは涙が出そうになった。
「俺は新興男爵家の人間で身分的にも下だから、頼りないかもしれない。でも、話なら聞くことはできるからさ」
「身分とかは関係ないわ。どんな人でも、味方でいてくれるのは本当に嬉しいの」
マリナは柔らかな笑みになる。全員が敵ではないと分かったことで、肩の力が抜けたのだ。
「そう……か」
アルは優しく、眼鏡越しのオレンジの目を細めた。
開いていた窓から風が入ったことで、マリナのピンクの長い髪とアルの無造作長めの茶色い髪がなびく。
「それにしても、この国の王太子は自分の発言が周囲にどんな影響を及ぼすのか分かっていないようだな。王太子の発言のせいでマリナがこんなことになっているというのに」
憤りの感情を隠さず露わにするアル。
「ありがとう、アル。でもその発言は不敬罪に取られかねないわよ」
マリナは苦笑する。
「まあ私も色々と言いたいことはあるわ。今の私は王太子殿下達とは初対面なのに」
ため息をつくマリナ。
「ん……?今の……? まるで昔は知り合いだったかのような発言だな」
怪訝そうな表情のアル。
マリナは思いがけず失言してしまったことに気づく。
「それは……」
前世の記憶があり、ここは乙女ゲームの世界であるということなど誰が信じてくれるだろうか。しかし、自分を信じてくれたアルに嘘をつきたくないという気持ちがあるマリナ。
「アル……私、今から物凄く変なこと言うけれど……」
マリナはそう前置きをして本当のことを話し始める。
前世の記憶があること。ここは前世のマリナが夢中になっていた乙女ゲーム『光の乙女、愛の魔法』の世界であること。マリナはヒロインで王太子エドワード達が攻略対象者であること。そしてゲームには登場しないモブだったイーリスも恐らく前世の記憶を持つ転生者であること。全てを話した。
ただ、マリナが乙女ゲームと言ったらアルはしっくりきていない表情をしていたので、読者がどの選択肢を選ぶかで結末が変わる女性向けの物語と表現することにした。
「なるほどな、それで今のマリナだと王太子達とは知り合いではないと」
納得したような表情のアルだ。
その反応にマリナは薄紫の目を丸くする。
「信じてくれるの? こんなおかしな話……」
「マリナが俺に嘘をつく理由がどこにある?」
眼鏡越しのオレンジの目はまっすぐマリナを見ていた。
「……ありがとう、アル」
学園で孤立しかけていたマリナ。しかしアルが信じてくれることで、マリナの心は少し軽くなっだのだ。
「ねえ、もしよければだけど、私と友達になってくれない?」
マリナは恐る恐るといった感じで提案してみる。
するとアルは眼鏡の奥のオレンジの目を大きく見開いていた。
「あ、やっぱり駄目よね。孤立している私と一緒にいたらアルに迷惑がかかるわよね」
マリナは目を伏せて苦笑する。
「いや、俺はもう友達だと思っていたけど」
「え……?」
今度はマリナが薄紫の目を大きく見開く。
「だってここまで色々込み入った話をしただろう。それってもう友達だからだと思ってた」
アルはハハっと笑った。
「それにさ、俺はクラス内でペアを作る時余るような奴だよ。今更迷惑だなんて思わない。むしろ、くだらない噂だったり王太子の発言を間に受けて真偽を確かめない奴らとは仲良くできそうもないからさ」
眼鏡の奥のオレンジの目は、曇り一つなくまっすぐだった。
「アル……ありがとう。一人でも味方がいると、本当に心強いわ」
マリナは心底嬉しそうだった。
「そっか。よかった。じゃあ改めて、よろしく、マリナ」
アルは手を差し出した。
「ええ、こちらこそよろしく。アル」
マリナはアルの手を握った。
その後、二人はテーブルの上のレポート用紙を片付けていた。
「痛……」
アルの指先にスッと切り傷ができ、うっすらと血が滲む。
どうやらレポート用紙で指を切ったようだ。
(あれは絶対に痛いわよね。私も前世でも今世でも紙で指を切ったことがあるわ……)
マリナはその痛みを思い出し、アルに気の毒そうな表情を向ける。
「今治すわ」
アルが切った指先に軽く触れるマリナ。するとその部分が柔らかな光を放つ。
「これで大丈夫よ」
ふふっと笑うマリナ。光の魔力でアルの指の切り傷を治癒したのだ。
光の魔力は闇を祓い、心身の傷を癒す力を有する。
「ありがとう、マリナ。でも希少な光の魔力をこんなことに使っていいのか?」
マリナと傷が消えた指先を交互に見て眼鏡の奥のオレンジの目を見開くアル。
「多分もっと大きなことに使うべきではあるとは思うけど、アルは私にとって学園でできた初めての友達だから特別よ」
マリナはとびきりの笑顔だった。それだけ学園でできた初めての友達が嬉しいようである。
しかしマリナは気づかなかった。
アルがマリナの笑みに見惚れていたことに。
「マリナ、この後予定はあるか?」
アルがマリナの元へやってきた。
「いいえ、ないわ」
マリナはきょとんとしながら答える。
「ならば図書館で課題のことについて一緒に調べないか?」
「ええ。レポートの提出は二週間後だし、ちょうどいいかもしれないわね」
マリナはアルの提案に賛成した。
授業で出された課題のレポートはペアの相手と協力して二週間後に提出が求められているのだ。
帰る準備を終えたマリナはアルと一緒に図書室に向かった。
ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ
図書室にて。
マリナは課題レポートと関係ありそうな本を探していた。
既に何冊もの分厚く重そうな本を持っているマリナである。
「結構集めたな。俺が席まで運ぶから」
アルは軽々とマリナが持っていた分厚く重そうな本を全て席まで運ぶ。
「アル、ありがとう」
マリナは表情を綻ばせた。悪意ある噂を流されたり好奇の目に晒されたり周囲から距離を置かれていたので、さりげない優しさが身に染みるのだ。
「アル、魔獣の使役に関してだけど、やっぱり自分と同じ魔力を持つ魔獣の方が使役しやすいのよね?」
マリナは本で確認しながらアルにそう聞いた。するとアルは頷く。
「ああ。自分の魔力と魔獣の魔力が上手く調和するからな。違う魔力を持つ魔獣を使役できないこともないが、やっぱりやりやすいのは自分と同じ魔力の魔獣だな」
「ありがとう、アル。まとめておくわね」
「助かる」
二人は順調に課題を進めていた。
「あ、光の魔力は例外よね。光の魔力を持つ魔獣は発見されていない。その代わり、光の魔力を持つ者は闇の魔力を持つ魔獣を使役できるということかしら」
マリナはふとそれに気づいた。
「その通りだな。まとめておくか」
アルはレポート用紙にサラサラと書いた。
その後もマリナは気になった点や重要だと思う点をとことん調べてまとめていた。
(授業もそうだけど、本からも新しい知識を得ることができて楽しいわ)
マリナの薄紫の目は生き生きと輝いている。
そんなマリナの様子を見たアルは、眼鏡の奥のオレンジの目をフッと優しく細めた。
気付くと日が傾いていた。
図書室の窓から入る夕日はもぎたてのオレンジのようだ。
「結構進んだな」
「そうね。アルのお陰かしら。ありがとう」
今日まとめたレポートを見てマリナは満足そうな表情だ。
「いや、誘ったのは俺だし。こちらこそ、マリナのお陰でかなり助かった部分はある。ありがとう」
フッとアルの口角が上がる。
二人はレポートのために持ってきた本を返却台に乗せる。
「そうだ、マリナ……その……聞いていいか?」
少し言いにくそうな表情のアル。
「……何かしら?」
マリナはきょとんと首を傾げる。
「マリナは……王太子殿下達に何かしたのか? 入寮日に殿下達から色々と言われたみたいだが……」
眼鏡越しのオレンジの目は真実を確かめるかのようである。
「いいえ。何もしていないのよ」
マリナはため息をついて苦笑する。
「やっぱりか。何となく、今までのマリナの態度を見てそうじゃないかと思っていた」
アルの表情はとても優しかった。
マリナの心の中にはじんわりと温かいものがあふれ出す。今まで皆から避けられ、話しかけても無視される状況が続いておりマリナを信じてくれる者がいなかったのだ。だからより一層アルの言葉が身に染みた。
「信じてくれるのね……。ありがとう」
マリナはホッとして、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「アルが信じてくれるだけで……心強いわ」
薄紫の目からは涙が出そうになった。
「俺は新興男爵家の人間で身分的にも下だから、頼りないかもしれない。でも、話なら聞くことはできるからさ」
「身分とかは関係ないわ。どんな人でも、味方でいてくれるのは本当に嬉しいの」
マリナは柔らかな笑みになる。全員が敵ではないと分かったことで、肩の力が抜けたのだ。
「そう……か」
アルは優しく、眼鏡越しのオレンジの目を細めた。
開いていた窓から風が入ったことで、マリナのピンクの長い髪とアルの無造作長めの茶色い髪がなびく。
「それにしても、この国の王太子は自分の発言が周囲にどんな影響を及ぼすのか分かっていないようだな。王太子の発言のせいでマリナがこんなことになっているというのに」
憤りの感情を隠さず露わにするアル。
「ありがとう、アル。でもその発言は不敬罪に取られかねないわよ」
マリナは苦笑する。
「まあ私も色々と言いたいことはあるわ。今の私は王太子殿下達とは初対面なのに」
ため息をつくマリナ。
「ん……?今の……? まるで昔は知り合いだったかのような発言だな」
怪訝そうな表情のアル。
マリナは思いがけず失言してしまったことに気づく。
「それは……」
前世の記憶があり、ここは乙女ゲームの世界であるということなど誰が信じてくれるだろうか。しかし、自分を信じてくれたアルに嘘をつきたくないという気持ちがあるマリナ。
「アル……私、今から物凄く変なこと言うけれど……」
マリナはそう前置きをして本当のことを話し始める。
前世の記憶があること。ここは前世のマリナが夢中になっていた乙女ゲーム『光の乙女、愛の魔法』の世界であること。マリナはヒロインで王太子エドワード達が攻略対象者であること。そしてゲームには登場しないモブだったイーリスも恐らく前世の記憶を持つ転生者であること。全てを話した。
ただ、マリナが乙女ゲームと言ったらアルはしっくりきていない表情をしていたので、読者がどの選択肢を選ぶかで結末が変わる女性向けの物語と表現することにした。
「なるほどな、それで今のマリナだと王太子達とは知り合いではないと」
納得したような表情のアルだ。
その反応にマリナは薄紫の目を丸くする。
「信じてくれるの? こんなおかしな話……」
「マリナが俺に嘘をつく理由がどこにある?」
眼鏡越しのオレンジの目はまっすぐマリナを見ていた。
「……ありがとう、アル」
学園で孤立しかけていたマリナ。しかしアルが信じてくれることで、マリナの心は少し軽くなっだのだ。
「ねえ、もしよければだけど、私と友達になってくれない?」
マリナは恐る恐るといった感じで提案してみる。
するとアルは眼鏡の奥のオレンジの目を大きく見開いていた。
「あ、やっぱり駄目よね。孤立している私と一緒にいたらアルに迷惑がかかるわよね」
マリナは目を伏せて苦笑する。
「いや、俺はもう友達だと思っていたけど」
「え……?」
今度はマリナが薄紫の目を大きく見開く。
「だってここまで色々込み入った話をしただろう。それってもう友達だからだと思ってた」
アルはハハっと笑った。
「それにさ、俺はクラス内でペアを作る時余るような奴だよ。今更迷惑だなんて思わない。むしろ、くだらない噂だったり王太子の発言を間に受けて真偽を確かめない奴らとは仲良くできそうもないからさ」
眼鏡の奥のオレンジの目は、曇り一つなくまっすぐだった。
「アル……ありがとう。一人でも味方がいると、本当に心強いわ」
マリナは心底嬉しそうだった。
「そっか。よかった。じゃあ改めて、よろしく、マリナ」
アルは手を差し出した。
「ええ、こちらこそよろしく。アル」
マリナはアルの手を握った。
その後、二人はテーブルの上のレポート用紙を片付けていた。
「痛……」
アルの指先にスッと切り傷ができ、うっすらと血が滲む。
どうやらレポート用紙で指を切ったようだ。
(あれは絶対に痛いわよね。私も前世でも今世でも紙で指を切ったことがあるわ……)
マリナはその痛みを思い出し、アルに気の毒そうな表情を向ける。
「今治すわ」
アルが切った指先に軽く触れるマリナ。するとその部分が柔らかな光を放つ。
「これで大丈夫よ」
ふふっと笑うマリナ。光の魔力でアルの指の切り傷を治癒したのだ。
光の魔力は闇を祓い、心身の傷を癒す力を有する。
「ありがとう、マリナ。でも希少な光の魔力をこんなことに使っていいのか?」
マリナと傷が消えた指先を交互に見て眼鏡の奥のオレンジの目を見開くアル。
「多分もっと大きなことに使うべきではあるとは思うけど、アルは私にとって学園でできた初めての友達だから特別よ」
マリナはとびきりの笑顔だった。それだけ学園でできた初めての友達が嬉しいようである。
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